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番外編1 ハロウィン

ちょっとシリアス展開を混ぜるとすぐ滅入るのです。今回は本編に一切関わらない番外編なのであしからず。



とある日の放課後、それは来週の小テストについて話していた時に起こった。

「トリックオアトリート。」

下校途中、一緒に帰っていた彼女がこんなことを言い出したのだ。

「…突然どうしたんだ?」

「今日はハロウィンだったことを忘れていたわ。やっぱり、女子としては流行に乗っておかないと。」

「君がそんな性格だったとは思わなかったよ。」

そんなことを言っている側から、彼女が私のカバンを小突いてくる。

「あら、お菓子がないの?いたずらするわよ。」

彼女は笑っている。

しかし、いたずらとは一体どんなものなのだろうか。少し気になるところだ。

それ故に非常に残念ではある。

「ふーん、無いみたいね。じゃあ仕方がないけれど…」

「いや、ある。」

「え?あるの?」

彼女が途中で梯子を外されたような顔をしている。

証拠を見せるために私はカバンからグミの袋を取り出した。

「今日、売店で昼食を買ったらおまけでお菓子が付いてきたんだ。なるほど、あれはハロウィンだからか。」

「ああ、そう…。ならありがたく貰っておくわ。」

グミを受け取りながらも、彼女はどこか不満気だ。しかし、貰ったものを捨てる訳にもいかないので、黙々とグミを食べている。私は食べ終わるのをしばらく待っていた。

「ありがとう。美味しかったわ。」

「そうか。それは良かった。」

即座に私は彼女の手を確認した。どうやらグミは残っていないらしい。時が満ちた。

「それじゃあ帰りましょうか。」

そう言って先を進もうとする彼女の手をとった。いきなりの行動に彼女が動揺している。

私の行動を疑問に思っている彼女に対して、私は笑顔で応えた。

「トリックオアトリート。」

「…?」

彼女は首をかしげている。

「おいおい、まさか自分から仕掛けておいて、相手から返されないなんて思ってはいないだろう?」

「え…ああ、そうね。ちょっと待ってて。」

彼女は慌てて、自分のカバンの中身をぶちまけた。そのままお菓子を探す作業に移ったが、特に進展がないままに手を止めてしまった。

「トリックオアトリート。」

一言問いかけてみる。私のその言葉に彼女はビクっと身震いした。

「お菓子はあったかい?」

「…ありません。」

彼女はしゃがみこんだ姿勢のまま答えた。横から見たら彼女が私に土下座しているように見えるだろう。

「トリートが満たされないんじゃあ、トリックせざるを得ないなあ。」

「その役目は私のはずだったのに…」

不満気に何かを呟いているが、そんなことは関係ないのである。

「それで、あなたはわたしにどんないたずらをするのかしら?」

「安心してほしい。もう考えてある。」

そう言って、私は右手に手を差し出した。そして、私の右手に咄嗟に身構える彼女に対し、私は堂々と言い放った。


「さあ、手を繋いでもらおうか。」


「…はい?」

彼女が呆気にとられている。これだけでは簡単すぎたかもしれない。

「ああ、もちろん恋人繋ぎでだ。」

すぐに条件を付け加える。彼女はとうとう堪えたまらず吹き出した。

「あなた、こんなことが私にとっていたずらになると本気で思っているの?」

「いや、こんな機会がないと言い出せなくてね。」

「ふーん、なるほど。」

そう言って、彼女は唐突に私の手を掴んだ。

予期せぬ出来事に、私の顔がほんのりと熱くなる。

「あら、もう秋なのにまだ暑いのかしら?顔が赤くなってるわよ。」

「さあ、夕日のせいじゃないかな。」

そう言って、彼女の顔を見つめた。耳が赤くなっているのが見える。

「そういう君も耳が赤くなっているようだが?」

「…さっき、虫に刺されたのよ。」

そんな話をしながら、私たちは歩を進めた。既に日は陰りを見せ、風が肌寒くなっていったが、右手から伝わる温もりが寒さを忘れさせた。

しばらくは互いに黙々と歩き続けていた。この雰囲気で何かを話すのを無粋に感じたのかもしれないし、単に手の温もりを感じることに集中していたかったのかもしれない。

やがて私たちの歩の歩みは土手の頂上に差し掛かった。真っ先に目に飛び込んできたのはゆったりと、しかし確実に地平線の彼方に沈んでいく太陽であった。日はすぐにでも山向こうへと隠れてしまうだろう。彼の存在は未だ赤みがかかる空が教えてくれるだろうが、それも長く持たず闇に覆われてしまう。

私は矮小な存在である。

そんな気分が私に愚痴をこぼさせた。

「本当ならもっと早くにしておくべきなんだが。どうも言い出せなくてね。」

私の一言に彼女が答えた。

「普通ならそうかもしれないわ。」

やはりじぶんは臆病者である。手を繋ぐことさえもこんな機会がなければ出来なかっただろう。

そんな風に自己嫌悪していると、急に後ろへ手が引かれた。いつのまにか彼女は歩を止めていたようだ。

「今、自分を貶めてたでしょう?」

図星だった。こういった心の機微によく気づく人だ。

「ああ、その通りだ。よく分かったね。」

「分かるわ。」

私の言葉に彼女は笑った。しかし、その笑顔はどこか影を落としたような、自分を貶すような何かだった。

「私もね、同じことを考えていたわ。」

「同じこと?」

「いたずらで手を繋ごうって。」

「なるほど。」

彼女は繋がれた手を少し強く握った。私も手を握り返した。

「ねえ。」

柔らかい彼女の声に応え、私は顔をあげた。目があった彼女の笑顔は慈愛に溢れていた。

「ゆっくり歩きましょう。」

それは優しい声であった。

「焦る必要もない、か…。」

私もまた笑顔で答えた。


今宵は10月31日、月見の少し未来の話。

なんで今更ハロウィンかって?ハロウィンが10月31日までの1週間ってことを知らなかっただけ。(投稿する前に疑問に思って調べました)

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