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絶望の果ての理想郷  作者: 秌雨
49/49

第49話、街の危機

「燃えろ!」


「ギャアアアアっ!!!!」


狸の妖怪、妖狸は煙管の煙を吐いて妖術をかけて地上霊を燃やす。


「にゃー!」


「グアアアッ!!!!」


3尾の猫妖怪は、地上霊に尻尾を巻き付けて妖力を込めた爪で切り裂く。

街に突如出た地上霊、にゃー達は襲いかかってくる地上霊を次々と倒していく。しかし倒しても倒しても無限に出現してくる。


「はぁ、はぁ、まだ出て来るにゃ、キリがないにゃ!」

「うむ、しかし倒し続けなければ街の人間が襲われる」

「セフトにゃ〜、みぃにゃ〜は廃墟街に着いたかにゃ〜?」

「分からぬが、支援が来るまで耐えるしかあるまい」

「でも何とかしないとにゃ〜達が持たないにゃ」


「お困りのようじゃのう♪」


声のする方向を向くと、木野花姫が立っていた。

廃墟街からここに、あまりにも危険すぎる。


「木野花姫?何故ここに?ここは危険じゃ、今すぐに廃墟街へ戻れ!」

「そうだにゃ!地上霊が沢山出てきて危ないにゃ」


「ふっふっふっ♪お前たち、どうやら我を見くびっているようじゃの、我は周りに守られているだけのか弱い姫とは違う!」


木野花姫はそう言うと懐から扇子を2枚出して広げた。


「さぁさぁ、地上より這い出てきた悪霊よ、蓬莱の国の姫である我が相手をしてやろう、起きよ『木花咲耶』よ!我らの力、見せてやろうぞ!」

『久々に起こされたかと思えば地上霊狩りなんて、贅沢な神の使い方ね『輝夜』?』

「贅沢に使って何が悪いか木花咲耶よ、我はこの国の姫じゃぞ?」

『ふふふ♪あなたはそういう人間だものね、良いわ、哀れな地上霊をお仕置きしてあげなきゃね♪』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やあああああ!!!!」


私は天生同化で出現させた刀で地上霊を斬ります。

地上霊はそのまま青い粒となって消えました。


竹街を出た私達は廃墟街に向かいますが少し進む度に複数の地上霊が現れて、それを倒して進んでは現れを繰り返しています。

いくら5人いるとはいえ、かなり苦戦しています。


「これじゃあキリがないよ!」

「くそ!なんだよこいつら!」


「いつまで経っても廃墟街にたどり着けない……」

「そろそろ疲れてきたんですけど……」


簡単に倒せる相手ではありますが。何体も出てくると体力が持たなくなります。まだ廃墟街まではかかります。急がなきゃ行けないのに!


「弱音を吐いている場合ではありませんよ、戦いは始まったばかりです」


時雨さんは地上霊を斬りながら言います。

流石は華の剣士、全く疲れている素振りをみせません。


「廃墟街の木野花姫は無事かな、心配だよ……」

「急ぎましょう、地上霊も増えている気がします」


私達は再び走り出しました。すると、


「嫌あぁっ!誰か!誰か助けてくださーい!」


3匹の地上霊に追われている車窓さんの格好をした人がこちらに走って来ます。

空飛ぶ列車に乗せてくれた和ちゃんです。


「あれって!」

「地上霊に襲われてる!助けるぞ!」


「お任せ下さい」


時雨さんは地上霊に一瞬で近づき、刀で地上霊を斬り、地上霊は消え去りました。

膝を着いてゼーハーと息を切らす和ちゃんを私達は介護します。


「た、助かりましたぁ……」

「和ちゃん、怪我はない?」

「はい、なんとか、というかなんなんですかあれは!?急に地面から現れたかと思ったら襲って来たんですよ!?」

「私達も突然の事で混乱してるけど、和ちゃん、お願い、列車で廃墟街まで連れてって!」

「それがダメなんです!私の願星、何故か動いてくれないんですよ!」

「どうして?」


木乃葉ちゃんが答えます。


「恐らく地上霊の仕業、城にいるゆうゆうは私達と一緒に行動してた、だから私達の動きがわかってる、湧いてくる地上霊を使って動かせないようにしてるんだろう」

「うぅ、やっぱり歩きで行くしか……早く向かおう!」


和ちゃんを連れて、移動しようとしたその時です。

テレフォブレスレットから通信が来ました。

セフトちゃんからです。私は通信に出ました。


「セフトちゃん?どうしたの?」

『姉……貴……大変っ……す』


何やら様子がおかしい、何故か言葉が途切れ途切れで普通の喋り方ではありません。


「何があったの!?大丈夫!?」

『実の姉貴が……連れ去られ……て』

「みぃちゃんが!?ねぇ、今どこにいるの!?何があったの!?」

『役に立たなくて……すいや……せ……』


セフトちゃんの声が聞こえなくなりました。通信は切れていないのに……。


「セフトちゃん!?セフトちゃん!ねぇ、どうしたの!?返事して!」

『…………』

「そんな……、そんな!嫌っ、セフトちゃん!駄目、返事してよ!ねぇっ!」


私の目からポロポロと涙が出てきます。


「セフト?一体何があったんだ!?」

「嫌!嫌!そんなのやだよ!嫌ァっ!」

「落ち着いて、セフトを探しに行く、鈴殿はそのまま廃墟街に行くんだ」

「うぅぅ……うえぇん……」

「泣くな!まだ死んだと決まってない!リィル、偵察だ、セフトを探すぞ」


「分かった!」


木乃葉ちゃんとリィルちゃんは屋根の上にジャンプしてセフトちゃんを探しに行きました。

おつねちゃんが私の肩に両手を乗せて言いました。


「鈴、廃墟街に行こう、仲間のことならあの2人に任せて、きっと大丈夫だ」

「うぅ……うん」


「猫谷さん、2人を信じましょう、辛い気持ちは分かりますが今はやるべきことがあります」


時雨さんも私を慰めてくれました。

私も涙を拭い、2人を信じながら廃墟街へと向かいました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「役に立たなくて……すいや……せ……」


痛い、痛い、ズキズキと背中が痛む。目が霞む。

俺っちはここで死ぬ……おやっさんの事も姉貴のことも全部忘れてしまう……。

大して戦うことも出来ず、実の姉貴も守ることすら出来ず、知らない街に捨てられて……。


(あぁ……情けないっす……こんな所で……)


『セフトちゃん!?セフトちゃん!ねぇ、どうしたの!?返事して!』


(鈴の姉貴……俺っちは、もうダメっす……)


声に出そうとするがもう声が出ない。

ああそうか、これが天罰ってやつか、そうだ、きっとそうなんだ。悪事を働いた者は、足を洗うことすら許されないんだ。


(おやっさん……鈴の姉貴……ルミっち……すいやせん)


目を閉じる。次にこの世界に産まれたら。もっと強い人間になれるのかな……?


「酷い姿……こんなことあってはならないのに……」


声が聞こえる、すぐ目の前にいるみたいだ。

透き通るような美しい声、霞む目で姿を確認する。

目の前にいるのは人ではなく、一羽の鶴だった。


「まだ息がある、大丈夫、おまえ様を助けます」


鶴がそう言うと、背中に暖かさを感じる。それと共に背中の痛みがどんどん和らいでいき、身体が動いた。


「い、痛くない、動かせるっす」


目の前の鶴は答えた。


「嗚呼、良かった、回復したのですね」

「一体、何をしたっすか!?」

「私の羽根をおまえ様に与えたのです、私の羽根には癒しの効果があるので」

「どうして助けてくれたっすか?見ず知らずの人間っすよ?」

「見ず知らず、ですか……いいえ、直接話したことはなくとも、出会っているはずですよ?」


鶴はそう言うと人間の姿に変えた。

その姿は、廃墟街で暮らしていた唯一の人間、野乃だった。


「あんたは、おつねの近くにいた……」

「野乃、お家で待ってた時、胸がそわそわしたの、だからお姫様に頼んでここに来た、そしたらおまえ様が倒れてた」

「そういうことだったんすか……じゃあ街に姫がいるんすか!?危ないっすよ!」

「大丈夫!お姫様は強いから!」

「ならいいっすけど、あ!どこ行くっすか!?」

「今のことはまだ誰にも言わないでね!」


そう言うと野乃は走って行ってしまった。

俺っちが追いかけようとすると。


「セフト殿!」

「セフト!」


後ろから声がする。振り向くと木乃葉先輩とリィル先輩がこちらに向かってきていた。


「先輩!」


「ぶれすれっとの連絡が切れたから何事かと思ったぞ」

「もう!全然元気じゃない、心配させないでよね!」


さっきまで死にかけていたが、本人は言うなと言われたので適当に誤魔化すことにした。


「すまないっす、あの地上霊に気絶させられて……そんなことよりまずいことになったっす!実の姉貴が連れてかれちまったんす!」


「なんだと!?どこに連れていかれたんだ!?」


「わからないっす……すまないっす!実の姉貴を守れなかったっす、俺っちが弱いばっかりに姉貴が犠牲に……」


俺っちは全力で頭を下げた。許されないことは分かっている。俺っちは二度も仲間を犠牲にしたのだから。


「まだ実殿が殺されたとは限らない、鈴殿達が廃墟街に向かってる、私達も一度戻るぞ」

「地上霊が襲ってきたらあんたは後ろにいなさい」


「了解っす」


俺っち達は廃墟街へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ちっ、使えないなぁ、人間1人殺せないの?」


地上霊は外の様子を見てイライラしています。

どうやら街のみんなが頑張ってるおかげで犠牲は今のところ無いみたいです。私は少しホッとしました。


しかし


「あ、そうだ、君さ三味線持ってたよね?弾いたらどうなんの?」

「い、言わない!」

「は?僕に楯突くなって言ったよね?」

「悪いことする子に私の三味線は使わせない!」

「っ!あー!うざいうざいうざい!!!!」


地上霊はイライラしたまま手を前に出してそのまま拳を握ります。すると私を拘束している黒いモヤが身体全身にまとわりつき、私を強く締め付け始めました。

手足、胴、胸、ところどころに締め付けられ意識が一瞬で飛びそうな痛みが襲います。


「うぅっ、あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」


締め付けが少しだけ緩みました。


「はぁ·····はぁ·····痛い、よ·····」

「ほら、言えよ、これの使い方」

「い、わ、ない·····っ!?あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


またさっきと同じ痛みが襲ってきます。拷問です。きっと言わない限りずっと続くのでしょう、殺さないように、でも苦しみ続けられるように、しかしここで三味線のことを話したら、みんなが傷ついちゃう、それだけは絶対に阻止しなきゃ!


「助けが来ると思ってんの?馬鹿?言えば楽になるんだよ?どうせみんな地上霊になるんだ、今のうちに仲間なんて捨てちゃえばいいじゃん」

「はぁ、はぁ·····そ、そんなの·····だめ·····うっ!あああああ!!!!」

「あははは♪いつまで持つかなぁ?ここで耐えれば状況は良くなると思ってる?その前に君の骨や臓器がぐちゃぐちゃになっちゃうよー?」

「それ……でも……言わない!悪いことに、私の力は貸せない…!」

「じゃあ、死ね!」


「待たれよ、地上霊」


部屋の障子が開き、人が入ってきました。茶色い和服の白ひげを生やした人、正吾さんです。


「あ?あんたこの城の爺さん?なんで入ってこれるのさ?結界張ってあるはずなんだけど?」

「城の外にぽっかり穴が空いておった、たまたま土竜でもおったのかのぉ?」

「その土竜の穴でも通ってきたって?あはは♪冗談が上手いね爺さん、で?なんの用?」

「その子を離してやってくれんかのぉ?あまりにも可哀想じゃ」

「無条件で?」

「いいや、ワシが人質となろう」

「ふーん」


私を拘束していた黒いモヤが消え、私は解放されました。すぐに正吾さんの元へと駆け寄ります。


「まぁ開放されたところでここからは出れないけど、それで?まさかそれだけの為にここに来た訳じゃないよね?」

「まさか、わしはここの城を管理する義務がある、取られた城は取り返さねばならぬ」

「僕と戦うつもり?あっはははははは♪ほんとに人間って馬鹿なんだね、君、僕に敵わないとわかって言ってんの?」

「そうさな、じゃが外の者に任せっきりという訳にも行くまい」

「ふん、老いぼれの爺さんに何ができるのさ?」

「大したことは出来んよ、じゃが足止めぐらいはさせて貰おう」


正吾さんは刀を抜きました。地上霊と戦うつもりなのです。


「猫又さんや、少し離れていなさい」

「正吾さん!無茶だよ!一緒に逃げよう?」

「いずれにせよこの結界からは出れんよ」

「そんな!姫様はそんなこと望んでないよ!」

「それでもこの脅威からは守らねばならぬ、城の家老としてな、わしの後ろに隠れていなさい、そして手出しは無用じゃ」

「…………」


私は言われた通り正吾さんの後ろに隠れました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この男、何を考えてる?


目の前に対峙する1人の人間、しかも老いぼれときた。

奴は僕に触れられない。僕には敵わない。


「まさかほんとに死にに来たってこと?馬鹿にも程がない?」

「まぁ戦いで死ねるなら本望じゃのう、姫様を守れるなら後悔はない」

「ふん、なら来なよ、馬鹿にしながら僕が見取ってやるからさ」

「なら、遠慮なく」


次の瞬間、男は目にも止まらぬ速さで僕に近づき、刀を僕の首元で寸止めした。

僕は思わず仰け反ってしまう。


「な、なんだよ……その速さ……!」


ありえない、人間の癖に何だこの俊敏さは。


「ふむ、おかしな反応をする、貴様は地上霊じゃろ?わしの刀なぞ恐るるに足りぬはずじゃが?」


(そ、そうだよ、おかしい、こいつの刃は僕には通用しない、なのになんで?身体が勝手に逃げようとした?)

「ちっ!ただのジジィが!」


僕は呪いの手を出し、奴に襲わせる。

馬鹿め、寸止めなんてするからそんなことになるんだ……。

しかし、男は刀を僕から遠ざけ、黒い手を軽々しく切り裂いた。しかも一瞬で。


「へっ……?」


思わず声を漏らす。ありえない、なんだコイツは、前は普通に洗脳されてたくせに。


「な、なんだよお前……!ただの人間じゃないのかよ……!」

「いいや?ただの老いぼれのジジィじゃよ、じゃが、ただの老いぼれにもできることはある、それだけの話だ」

「ふざけんな……ふざけんなふざけんなふざけんな!」


僕はさっきよりも多くの呪いの手を召喚する。そんな馬鹿なことは無い、こんな奴が僕に敵うはずないんだ、これだけの呪いなら、こいつは捌ききれない。


だが、直ぐにそんな願望は絶望へと変わる。


目の前の人間は全ての呪いの手を斬って見せたのだ。僕はその場に立ち尽くす、足はないがその場に浮いたまま静止している。

頭が真っ白になった。


(嘘……だ……そんなハズない、ただの人間が、僕の呪いを全部斬った!?)


「め、めちゃくちゃだ、おまえ、何者なんだ!」

「何度同じことを言わせるのじゃ」

「そうじゃない!なにか隠してるんだろ!?言えよ!」

「お主、敵に手の内を見せるたわけ者がおるか?これは試合ではない、戦じゃ」

「クソ!思い上がるなジジィ!呪いの手なんていくらでも出せるんだ!」

「だから言っているだろう、手の内を見せるなと」

「何を言って……!?」


一瞬の出来事だった。

人間の姿が消えたかと思ったら今度は後ろに背を向けて立っている。見えなかった、警戒すらさせてくれなかった。

頬に違和感を感じる。そしてズキズキと痛みが走り始めた。


「あぁっ……ああぁぁぁああああっ!!痛い……痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃ!!!!」


そう、僕はこの痛みを知らない、いや、正確に言えば忘れている。

それもそのはず、僕は幽霊なんだから。

刃物で傷つくなんてことありえないんだ。


僕はのたうち回る。とっくに記憶から消えている痛みに耐えきれないまま……。


「なんで、なんでなんでなんで!」

「おおっと失礼、小童とはいえ顔に傷をつけてしまったな」

「クソジジイ!舐めるなよ!」

「ほう?まだやるか?なら次は腕を切り落とす」


口調は穏やかだが目に殺気を感じる。嘘じゃない、僕がこいつに危害を加えれば本気で腕を切り落とされる。傷がズキっと痛んだ。


「く、くそ……!ふざけんな!こんな所で諦められるか!」


僕は城の窓から飛び出した。負けてない、僕はまだ負けてない。人間に恨みのあるやつを僕は1人知っている。そいつさえ利用すれば……!

僕はそのまま廃墟街へと向かった……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


廃墟街、地上霊を倒しながら私たちは妖狸さんの家に来ていました。

ニーナちゃん達も帰って来ていたようです。



「ふぅ、とりあえずみんな無事みたいだね」

「とりあえず、情報交換するにゃ」

「そうだね、じゃあ私達から」


私とおつねちゃん、時雨さん、和みちゃんは華の剣士こと時雨さんを味方にできたこと、少しだけ修行をしたこと、和ちゃんを助けたことをみんなに報告しました。


「ふむ、そちらが華の剣士か、うちのおつねが世話になったな」

「世話をしたのはうちの河童と鬼ですがね、妖怪と人間が再び手を取り合えるのなら、手を貸しますよ」


「それじゃ、にゃー達の報告にゃ!」


ニーナちゃん、木野花姫様、妖狸さんは松街の神様達の協力を得られたこと、街の地上霊は今廃墟街の妖怪が対処してくれていることを教えてくれました。


「え!?木野花姫様って戦えたんですか!?」

「妾は姫じゃぞ?自分の国も守れなくてどうする?」


「じゃあ最後に俺っち達っすね」


セフトちゃん、木乃葉ちゃん、リィルちゃんはみぃちゃんが連れ去られてしまったことを教えてくれました。


「ちょっと待って!野乃は!?野乃はどこにいるんだ?」


「ここにいるよ!おつね!」


野乃ちゃんはぴょこっと押し入れから出てきました。


「野乃、良かった、隠れてたのか」

「うん!」


これで情報は全てです。

そして、木花咲姫様が口を開きました。


「うむ、それぞれ役割は果たせたようじゃのう、皆ご苦労だった、妾の国の為に協力をしてくれることを感謝するぞ、妖怪と人間が一つになれるのももう少しじゃ」


妖狸さんが続けます。


「しかし、まだ倒さねばならぬ敵がおる、城に立て込んでる地上霊を追い払わなければ、真の平和は掴めぬ、結界の突破方法はまだ松街の神達が練っておる、待つ他にないな」


そして、私が発言しました。


「それまで私達はできることをやろう、街の地上霊をみんなでやっつけなきゃ!廃墟街の妖怪を早く手伝いに行こう!」


皆んなは頷きました。そして準備を始めようとしたその時です。


「もうそんな必要ないよ、地上霊は全部撤退させたし」


聞き覚えのある声、それと同時に襖が開きます。

そこに居たのは、他でもない、今回の事件の犯人、ゆうゆうちゃんでした。

みんな警戒し、戦闘態勢に入りました。


「ゆうゆうちゃん!?どうしてここに!?」

「やだなぁ、みんなして僕に殺意を向けないでよ〜」


「貴様の行いを振り返ったらどうだ?地上霊よ」

「初めて見ましたが小童なんですね、こんなものに城を乗っ取られていたのですか?」


「そこのデカ尻尾狸と細声剣士は黙っててくれなーい?今用があるのは〜」


ゆうゆうちゃんはそう言った瞬間。フッと姿を消します。

妖狸さんは叫びます。


「来るぞ!警戒し……」


途中で声が聞こえなくなりました。そして足を引っ張られる感覚と共に何も見えなるかと思いきや、紫のモヤのかかった空間にお尻から落ちました。不思議と痛みはありません。


「な、何が起きたの!?」

「なんだここ!?」


もう一人私と同じ反応をした人が隣にいます。おつねちゃんでした。


「おつねちゃん!一体何が起きたの?みんなは?」

「わかんない、鈴、怪我はない?」

「私は大丈夫、おつねちゃんは?」

「私も大丈夫、ここはどこだ?」


困惑していると。私たちの目の前にゆうゆうちゃんが現れました。


「はーい、君たちの捕獲成功〜♪」


「ゆうゆうちゃん!これはなんなの!?何をしたの!?」

「ここはどこだ!説明しろ!」


「ここは僕が支配する呪いの空間、って言っても2畳ぐらいの部屋だけどね〜」


「ゆうゆうちゃん、こんなこと辞めて!こんなことをしても、みんな幸せになんてならないんだよ?」


「みんな同じこと言うんだね、もう聞き飽きたんですけどー?」


「ふざけんな!お前のせいで街のみんなが危険な目にあったんだぞ!今すぐ倒してやる!」


おつねちゃんがゆうゆうちゃんに飛びつこうとした瞬間どこからか黒いモヤの手が無数におつねちゃんの身体に巻き付きました。


「な、何!?うわぁっ!?」


そして黒いモヤの手はおつねちゃんをXの字に拘束しました。


「おつねちゃん!きゃあっ!」


私も助けようと駆け寄ろうとした瞬間。同じように黒いモヤの手が身体に巻き付き。手足が引っ張られ同じようにおつねちゃんの隣で拘束されてしまいました。もがいてももがいてもピンッと貼られてるためビクともしません。


「なにこれ……!動けない……!」

「んっ……くぅ……なんだよ、これ……!」


「あはは♪君達って本当に馬鹿なんだね、僕が支配してる空間で、僕に勝てるとでも思ったのー?」


ゆうゆうちゃんは拘束されて動けないおつねちゃんに近づきます。


「ねぇ、君、人間が憎いんだろ?だったらさ、皆殺しにしちゃおうよ♪そしたら君の恨みも晴れるんだからさ」

「ふざけるな!そんな事しない、もう人間とは手を取り合うって決めたんだ!」

「ふーん、でもさ、手を取り合っても人間が君に酷いことをしないって言い切れるの?人間は嘘をつく生き物だよ?そういうの考えないの?」

「それは………」

「あはは、顔が曇った♪そうだよねぇ、そうだよねぇ♪」


ゆうゆうちゃんは、おつねちゃんの耳元で囁きました。


「簡単に……信じられないよねぇ、酷いこと……されたんだもんねぇ♪」

「や、辞めろ……!」

「正直になりなよ、人間に復讐したいんだよねぇ?」

「そ、そんなこと!」

「嘘だよねぇ、だって君の魂に禍々しい物が混じってるんだもん、幽霊の僕には見え見えなんだよ?」

「くぅ……!」


おつねちゃんの顔がどんどん暗くなっていきます。

私は必死に叫びました。


「だめ!おつねちゃん!その子の言葉に惑わされないで!」


しかし、おつねちゃんの表情は変わりません。

そしてゆうゆうちゃんはおつねちゃんの肩に手を乗せました。更にその手は肩の中にズブズブと入っていきます。


「ヒッ!?な、何を……!?」

「君の望み、叶えてあげるよ♪」

「や、やだ……辞めろ、辞めろ!うわあああああ!!!!」


「おつねちゃん!」


おつねちゃんは必死に逃れようとしますが、抵抗も虚しく、ゆうゆうちゃんに取り憑かれてしまいました。

そして、取り憑かれたおつねちゃんは一瞬気絶したかと思うと、直ぐに目を開きました。そしておつねちゃんは呪いの手から解放されました。そして今度は私に近づいてきます。


「ふふふ♪もうこの身体は僕のもの♪」

「っ……!ゆうゆうちゃん!おつねちゃんから離れて!」

「君は盗られたものを返せと言って大人しく返す強盗を見たことがあるのかい?」

「屁理屈言わないで!その身体で何をするつもりなの?」

「さっき話し聞いてなかったの?」

「みんなを虐殺するなんて、絶対許さない!」

「君の許可なんていらないんだけど?」

「……っ!天生石、お願い!」


私は天生同化を開始しました。しかし、天生石は反応しません。


「あれ……?」

「ぷっ、あはははははは♪だからさ、ここら僕が支配してるんだってさっきも言ったよねぇ?無駄だよ?君のその力は使えない、残念だけど君はしばらくこの空間にいてもらうよ、みんな殺し終わったら解放してあげる」

「そんな……!嫌っ、やめてよ!」

「君の天生石の力は僕にとって脅威だ、先に封じちゃえば、後はどうとでもなる、我ながらあったまいい♪でも君は散々邪魔してきたから、個人的な恨みは晴らさせてしまうよ」


そしてゆうゆうちゃんは私の天生石に手を触れました。


「な、何をするつもり……?」

「この身体に妖力を感じられる、やっぱり読み通りだ、君の中に妖力がある、しかも強い妖力だ、この妖力を天生石の力に変換している、違うかい?」

「…………」

「無言の肯定っと、なら今君の天生石の力は妖力が原動力になる、変換してるってことは戻すことも可能と言うこと、妖力は妖怪以外には適応できない」

「っ!?い、嫌っ……嫌っ……!」


私はおきつね様から妖力を貰った時のことを思い出しました。あの吐き気が止まらない感覚、全身をギチギチと締め付けるようなあの痛み、嫌だ、あの痛みだけはもう二度と味わいたくない。私は全力で暴れようとしますが、呪いの手がそれを許しません。


「さて、いい悲鳴、聞かせてね♪」


ゆうゆうちゃんが力を込めると、天生石が紫色に光ります。そして私にあの時の感覚が再び蘇ってきました。


「あ……あぁ……!うっ……!うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」


地獄が始まりました。不快感と体がバラバラになりそうな痛みが全身を駆け巡ります。


「あっはははははは♪いい気味だ、僕の邪魔するからだよ、自分を恨むんだねぇ♪」

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!うぅ……はぁ、はぁ……や……め……ぐっ……あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

「喋れないねぇ?痛いよねぇ?死んじゃいたいぐらいだよねぇ?あはは♪」


このまま数分間、目の前の地上霊に罵られながら痛みに耐え続けました。少しでも気を抜けば意識が飛んでしまいます。


数分後


ゆうゆうちゃんは天生石から手を離しました。そして、手をグッと握ると痛みが引いていきます。しかし、不快感と胸の苦しみだけは変わらず残り続けます。


「うぅ……っ はぁ……はぁ……うっ!く、苦しい……」

「ま、満足したから激痛からは解放してあげるよ、でも君の中の妖力を使って、魂に妖力が染み込むように呪いをかけた、だから君はその苦しみからは一生解放されない、そのまま死ぬこともできず、苦しみ続けるんだね」

「そ……んな……うっ!うぅ……」

「さて、僕はもう行くよ、君の旅はここで終わる、呆気ないね、でも僕もそういう気持ちだったんだよ」


ゆうゆうちゃんはその場から去りました。私は地上霊の背中を見つめることしかできませんでした。そんな、こんな所で終わりなの?誰にも助けて貰えないまま、誰にも見られないまま、貰った妖力に蝕まれ続けて、苦しみ続けるの?諦めるしかないの?そんなの嫌だ!でも、私にはもう、もがく力も残っていません。動こうとすればするほど、胸の苦しみが強くなっていくんです。


(みんな、ごめんね……みんなを守れなかった……)


私は涙します。苦しい、苦しい、何も出来ない。みんなを守れない、私は弱い、誰も救えない……。

そんな絶望を嫌という程突きつけられる。


しかし


「おまえさま、まだ諦めては行けません」

「……?」


どこからか声がします。そして目の前に現れた人、私よりも背の低いおかっぱ頭の女の子、それは野乃ちゃんでした。


「野乃……ちゃん?どうして……ここに?」

「ここは精神の世界、おまえさまはここに引きずり込まれたのです、そして妖狸おばあ様と協力して野乃もここに来たのです」

「そうなんだ……でもあなたもここに入ってきちゃったら……」

「大丈夫です、出る方法はわかっています、今解放しますね」


野乃ちゃんは呪いの手に指を触れると、一瞬にして崩れさりました。私が倒れ込むと、野乃ちゃんが支えます。


「え?……今の、野乃ちゃんがやったの?」

「はい、野乃は人を癒し人の穢れを祓う能力があります、おまえさまの魂……あぁなんと酷い、今にも黒く染まりそう……」

「ゆうゆうちゃんにやられちゃったの、おつねちゃんも乗っ取られちゃった」

「わかっています、早くここから出ましょう」

「うん」


野乃ちゃんは手を差し伸べてくれました。私が手を握ると、野乃ちゃんから眩い光が放たれました。

眩しさにギュッと目を瞑り、十数秒後に目を開けると。そこは廃墟街の家でした。

畳に仰向けの状態で寝ていました。視界にはニーナちゃんと野乃ちゃんが入っていました。


「鈴にゃ〜!」

「ニーナ……ちゃん?」

「やっと起きたにゃ!大丈夫かにゃ?」

「うん、でも苦しい……」

「妖力が身体を蝕んでるにゃ、野乃にゃー!早く!」


「はい、おまえさま、動かないでくださいね?」


野乃ちゃんはそう言うと私の胸に両手を添えました。すると暖かい光に私の身体は包まれました。

苦しい感覚が少しずつ和らいでいくのを感じます。


「これで大丈夫でしょう、しかしこれは呪いによる蝕みを癒しの力で抑え込んでいるだけ、呪いを断ち切らなければ……」

「苦しくないかにゃ?」


「うん、さっきよりは……ありがとう野乃ちゃん、状況は?」


「鈴にゃー達が倒れた後、突然おつねがにゃー達を襲ってきたんだにゃ、今華の剣士と妖狸にゃーが庭で何とか戦ってくれてるにゃ」

「しかし、あの地上霊はまた、他の地上霊を呼んでいるようです、姫様達が懸命に抑えてくれているようです、街の地上霊をここに集中させたかと」


「待って!じゃあみんな地上霊はこの家に来てるの!?」


「そうみたいだにゃ」


「じゃあ早く加勢しなきゃ!うっ!」


立ち上がろうとした時、気持ち悪さが込み上げてきました。まだ万全の状態ではないようです。


「無理をしてはいけません、身体が持ちませんよ」

「でも、このままじゃみんなが……」


「鈴にゃ〜、今は休むにゃ、何とか呪いを祓う方法をにゃーが見つけるにゃ、その身体じゃ戦えないにゃ」


「うぅ……」


情けない、みんなが一生懸命街を守ろうと戦っているのに、また私は役に立てないまま……。

ニーナちゃんは私の感情を察したのか頭を撫でてくれました。


「大丈夫にゃ、鈴にゃーは役たたずなんかじゃないにゃ、鈴にゃーがここまで頑張ったからみんな協力してくれてるんだにゃ、自信を持つにゃ」

「うん、ありがとうニーナちゃん」

「よし、鈴にゃーは寝ているにゃ、にゃーは松街まで行ってくるにゃ、あそこの神様なら鈴にゃーの呪いを祓ってくれるかもしれないにゃ」


「なら、私にお任せ下さい!」


襖が開き、和ちゃんとセフトちゃんが入ってきました。


「鈴の姉貴!ようやくお目覚めっすか、心配したっすよ〜!」

「セフトちゃん、ありがとう、もう大丈夫だよ」


「お目覚めの所失礼します!松街まで行くのなら、私の列車で行きましょう!」


「え?でも、動かないんじゃ……」


「地上霊がみんなここに来ているのは聴きましたね?なら、私の列車に巣食ってた奴らもこちらに来る、なら私の列車は今は使えるはずです!」


「それなら確かに使えるにゃ!鈴にゃー、行ってくるにゃ、和にゃー、早速出発だにゃ!」

「待って!」


私は和ちゃんと共に行こうとしたニーナちゃんを止めました。そして、私はこう言いました。


「私も連れて行って!」

「鈴にゃー、ダメだにゃ!今は休まないと!」

「お願い!私だけ何もしないのはどうしても嫌なの!それに、私も行けばその場で呪いを祓ってくれるかもしれない、そしたらそのまま私は戦える」

「むむむ……そう言われればそうかもだけど……身体に何かあったら……」


「なら、野乃も行きます、あの乗り物なら癒しの力をかけながら移動できます」


「でも列車がある所までは歩かなきゃ行けないにゃ……」


「ニーナの姉貴!俺っちが運ぶっす!あの地上霊とは戦えないっすけど、鈴の姉貴を運ぶことはできるっす!」


「セフトにゃー!それなら行けるにゃ!それじゃあ、早速出発だにゃ!」


こうして私達は松街へ向かうため、家を出たのでした。

セフトちゃんの背中におんぶされ、まずは和ちゃんの列車へと向かいます。私達が最初に訪れた廃墟街の入口からは危険なので、裏口から目指すことになりました。遠くで地上霊と戦う姫様達と廃墟街の妖怪達が見えます。

私はセフトちゃんの背中でこう心に誓いました。


(今は何も出来ないけど、呪いが消えたら絶対にみんなと一緒に戦うから……それまで待っててね、みんな……)


人間と妖怪、互いに手を取り合う為の戦いは、いよいよ大詰めです。


皆様、お久しぶりです。いやまだ書いてたんかい!ってぐらい間が空きましたがなんとか投稿することができました!

亀ぐらいおっそい更新頻度ですがしっかり書いてます。

さて、いよいよ蓬莱の国編も終わりが近づいてまいりました!ここからどうなっていくのか、お楽しみ!

では、また次回〜♪

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