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絶望の果ての理想郷  作者: 秌雨
48/48

第48話、迫り来る地上霊

蓬莱城の最上階

一人の地上霊はお茶を飲みながらゴロゴロと寝っ転がっていた。


「ふぅ、そろそろ戻ってきそう、こんなに妖力の消費が激しいだなんて思ってなかったなぁ」


転移術、予め仕掛けておいた転移結界が上手く発動したはいいが、あまりに妖力を消費しすぎてしまったのである。


「あらあら、計画も進めずにぐうたら、随分なご身分ねぇ」

「この声……」


突然声がしたかと思うと上は白、下は赤の巫女服を着た長い金髪の女性が現れた。腰には刀を付けていおり、頭には薄紫色のリボンを付けている。


「君さ、用意してくれた結界、妖力使いすぎなんだけど、調整下手?」

「あの人数を転移させるのに加えて雑兵は残しておくっていう注文をしたのはあなたじゃない、それなりの代償は払ってもらったわ、それにこの城の結界は私が張ってあげたのだから文句じゃなくて感謝して欲しいくらいよ」

「ふーん、で?何しに来たの?」

「敵の動きを調査してきたから報告、天生石を持った猫は竹街にいるわ、見たところ華の剣士に助けを求めたって感じかしらね、そして3本尻尾の猫は松街に、神様に助けを乞いにでも行ったってところね、あなたも休んでないで敵の対策を練った方がいいわよ?」


珍しく協力的だ、この女はどこからともなく現れては他人をからかって帰っていく。迷惑この上ないが、今回は情報をくれたので文句は言えない。


「親切じゃん、僕のこと好きなの?」

「失敗されたら困るもの、あなたは動けないだろうしこっちは暇だからやってあげただけ、後あの程度の妖力でへばってるような雑魚は論外よ」

「あらあら、振られちゃったよ、傷つくな〜、こっちは僕がやっとくからさ、用が終わったならさっさと帰ってくんなーい?」

「はいはい、妖力が回復したらさっさと計画を進めなさい、グズグズしてると計画がご破算よ」


少女はその場で転移結界を開き、消えていった。


「はぁ…鬱陶しいなぁ、さてと、いよいよ本格的に動き始めよう、まず手始めに街の連中に踊ってもらうか?」


地上霊はニヤリと笑った……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「へぇ〜、ここまでの間そんなことあったんだー、でもぷれすたぁって結構遠くね?しかも行くとこ行くとこ事件に巻き込まれてぶっちゃけ疲れるっしょ?」

「まぁそうだにゃ〜、でもこれからもっと遠くに行かなくちゃ行けないにゃ、疲れてるなんて言ってる場合じゃないにゃ」

「あーね、てか最高神のとこって誰も行ったことないのに行けんの?天ちゃんでも行ったことないんじゃね?知らんけど」

「それでも行かなきゃいけないんだにゃ、大切な友達がそこにいるから尚更にゃ」

「へぇー、なんかエモい〜、友情感じちゃうな〜」


松街の神社に来て2日目の朝、にゃ〜と結衣はお茶を飲みながらどうしてここに至ったのかを話していた。

今三大神社の神様が蓬莱城に貼られている結界を突破しようと方法を模索しているらしいのだが、随分と苦戦しているらしい。

それくらいに強力な結界なのだろうか?

にゃ〜達は方法がわかるまでゆっくりと休んでいろとの事だった。

蓬莱の国に来てからトラブル続きで疲弊していたにゃ〜達にとってはつかの間の休息だった。

思い思いに休んでいると部屋の襖が空いて、柚子が入ってきた。


「結衣、何やらお客さんが来たみたいです」

「誰ー?今取り込み中なんだけど」

「廃墟街の妖怪だそうですよ、ここに三尾の猫とその連れは居ないのかと」


「にゃ〜達の事かにゃ?」


「恐らくそうだと思います、お知り合いならば通しますが......」


「その必要はない、もう入っておるからな」


柚子の後ろから煙管を持った妖狸が顔を見せた。


「ちょ、ちょっと!許可もなく勝手に入らないでください!」

「人間の巫女よ、許せ、緊急の用事じゃ」


「狸尾、どうしたんだにゃー?」

「三尾達、今すぐに廃墟街に戻って欲しい、厄介な事が起きた」

「厄介なことかにゃ?」

「廃墟街に城にいる奴とは別の地上霊が現れた、廃墟街の妖怪が襲われておる、しかも一箇所だけじゃなく、複数の場所に出現しているらしい」

「それは大変にゃ!みぃにゃー、セフトにゃー、早く助けに行くにゃ!」


「うん!行こう!」「了解っす!」


つかの間の休息も一瞬だ。地上霊は城にいるやつだけじゃなかったのか、にゃ〜は急いで準備を始める。


「廃墟街がピンチって感じ?じゃあ結界のことは私達がやっとくから助けに行ってあげなよ」


「ありがとうにゃ、結衣にゃ〜」


「巫女よ、恐らくだがこれは廃墟街だけの問題では無いかもしれないぞ」

「それ私も思ってた、とりま天ちゃん達に報告しとくわー」

「うむ、それがよかろう」


私達は神社を出ようとすると、結衣が「あー、ちょいまち!」と言ってにゃ〜達に小さな赤い布袋を渡してきた。


「これなんにゃ?」

「お守り、参拝者には全員配ってるんだ、うちの神社は『参拝したらズッ友』が流儀なんよ、だから持ってってー」

「ありがとうにゃ、また遊びに来るにゃ」

「うん、バイバイ三ちゃーん♪」

「なんか変な呼び方されてるにゃ......」


にゃ〜達はお守りを受け取り神社を後にした。


松街を走り抜け、梅街を目指す。

しかし、目の前に突然黒いモヤが出現し、それは人の形となった。手には刀を持っており、今にもこちらを襲おうと戦闘体制をとっている。

そして人間とは思えない声でこちらに語り掛けてきた。


「オマエタチガニクイ......オマエラモシネ!」


「なんにゃ!?こいつら!?」

「こやつらが話していた地上霊共じゃ、もう他の街へ現れたか、進行が速すぎる」

「倒して進むしかないにゃ!」


「なんで急に現れたんすか!?」

「このままじゃ街のみんなが!」


「来るぞ!」


地上霊はこちらに攻撃を仕掛けてきた。にゃ〜に刀を振りそれを両手の爪で受け止めて押し返し、相手の体制が崩れた。


「隙ありにゃ!」


にゃ〜の爪が相手にヒットする。しかし感触がない、外れたのか?いや、確かににゃ〜の爪は相手を捉えたはず......。爪が身体をすり抜けたのだ。


(攻撃が当たらない!?これじゃあ倒せないにゃ!)


一度体制を立て直す。地上霊はそこに追撃を仕掛けてきた。また刀を受け止める。もう一度同じことをしても意味が無い、またすり抜けてしまう。にゃ〜はその状態から動けないでいた。


「くぅぅ......!」

「ニーナちゃん!」「ニーナの姉貴!」


「三尾、無闇な攻撃では倒せん、物理的な攻撃は通らないぞ」

「それじゃあどうすればいいんだにゃ......!」

「お前は妖怪だろ?少し考えればわかる」

「今それどころじゃないにゃ、からかってないで分かってるんならさっさとこいつを何とかしろにゃ!」

「......承知」


妖狸はそう言うと煙管を吸って煙を地上霊に向かって吐き出した。地上霊はにゃ〜と共に白い煙に包まれる。

煙臭く咳き込んでしまう。


「ケホッケホッ......!何するんだにゃー!」

「三尾、そいつから離れろ、巻き込まれるぞ」

「にゃっ!?」


にゃ〜は咄嗟に刀を押し返して後ろに下がった。

そして妖狸は煙管を持っている手とは反対の手のひらを前に出してそのまま手を勢いよく握りしめた。


「弾けろ!」


煙に包まれた地上霊は大きな音と共に爆散した。

地面に刀だけが転がっている。


「た、倒したのかにゃ?」

「うむ、こやつらは妖力や呪術を使った攻撃しか通らない、じゃがそれさえ使えばさほど苦戦する相手では無い」

「そうならそうと早く言って欲しいにゃ......」

「言葉よりも実戦で説明した方が良いと思ってな、しかしここに現れたということは、既に他にも......」

「不味いことになったにゃ、鈴にゃ〜の所も!」

「そうさな、じゃがあそこには華の剣士もおる、しかしこの街には地上霊から身を守れる奴がおらん、三尾達よ、急ぎ廃墟街に戻り妖怪にこの街を守るように伝えよ、わしはここに残り地上霊と戦う」

「にゃ〜も手伝うにゃ、妖狸にゃ〜は信用してるけど相手の数が分からないにゃ、みぃにゃー、セフトにゃー、お願いできるかにゃ?」


「うん!待っててね、直ぐに呼んでくるから!」

「ニーナの姉貴、どうかご無事で!」


2人は廃墟街の方へと走って行った。


「よし、何とかなりそうだにゃ」

「三尾よ、民を守りながらの戦いじゃ、厳しいとは思うが増援が来るまでの辛抱じゃ」

「もちろんにゃ、にゃ〜の力見せてやるにゃ!」


梅街のどこかで悲鳴が聞こえた。おそらく地上霊が現れたのだろう。


「行くぞ!」

「にゃー!」


にゃ〜達は悲鳴の方向へと走った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やあーーーっ!!!!」


私は時雨さんに竹刀を振ります。時雨さんはそれを片手に持った竹刀で弾き返します。

私はすかさずに振り続け、どうにか時雨さんに一発入れようとしますが全て防がれてしまいます。


「甘い!」


闇雲に攻撃しているのがバレてしまったのかスキを突かれ、時雨さんに頭を竹刀で当てられてしまいます。


「痛っ!」

「一本、時雨ちゃんの勝ちだべ〜」


竹街に来てから2日目、私は時雨さんに稽古を付けてもらっています。ひたすらに実戦形式で刀の修行を重ねていますが、目標である『時雨さんに一本を取る』は達成出来そうにありません。かれこれ20回ぐらい試合をしていますが歯がたちません、流石に泣きそうです。


「うぅ......時雨さんもう少し手加減してくださいよぉ......これじゃあいつまで経っても終わらないですよ」

「これでも手は抜いています、ですが昨日よりは成長していますよ」

「本当ですか!?」

「はい、押し返した時に転ばなくなりましたね」

「それ、褒めてます......?」


「鈴ちゃん、小さくても成長は成長だべ、見ていても少しずつ確実に上手にはなってるべな」


縁側に座っていたこちらに来て水虎ちゃんは叩かれた頭をなでなでしてくれました。


「そうだ時雨ちゃん、鈴ちゃんの天生石がある状態で戦ってみたらどうだべか?」

「一緒なのでは?猫谷さんの天生石は相手の能力を記憶して使用するもの、しかし私の剣術を記憶していなければ効果は発揮しません、それに一本取るまで返さないという決まりが......」

「まぁまぁ、少しでも成長してるならもしかしたら身体が覚えてるかもしれないべ、それに鈴ちゃんの天生石の戦いをしっかり見てみたいべな」

「ふむ、では水虎さんの意見をそのま採用しましょう、では猫谷さん、これを」


時雨さんは懐にしまっていた天生石を私に返してくれました。私は天生石を首につけます。

水虎さんは「じゃあ頑張るべ!」と言いながら縁側に戻っていきました。よし、これならまだ勝てるかもしれない。


「では猫谷さん、試合です、あなたの天生石の力、見せてもらいましょう、構えなさい」

「はい!天生石、お願い!」


私は天生同化を開始しました。

天生石の力が全身に流れる感覚がします。久々の感覚です。

そして私は竹刀を構えました。


「っ!、猫谷さん、少しお待ちください、その構え...どこで?」

「えっ?」


天生石のおかげで自然に身体が動いてくれるので意識していませんでしたが。私は今まで剣道みたいに竹刀を前に構えていました。しかし天生同化をした構えは竹刀を身体の後ろで隠すように持った状態だったのです。


「わかりません、身体が勝手に動いたんです」

「その構えは隠し手の構えと言って猫谷さんのように剣を後ろに引くことで、攻撃の長さや軌道を隠すことができます、ですが私の刀の流派はそのような構えをしません、そして猫谷さんに教えた覚えも」

「不思議、剣を記憶した覚えは無いけど......」

「誰かから引き継いだという可能性は?」

「どういうことですか?」

「そもそも天生石は外の世界から来た人達が持っているもの、この世界に元からいた者は持っていないものです、しかし例外があります、それは誰かから天生石を受け継いだ者です、私も父から天生石を受け継ぎました」


私は今まで見てきた天生石の力を持つ人を思い浮かべました。キリンヤガの王リズちゃん、アガルータの長リラさん、プレスターのフレキ君、特別な力を持った人はみんなこの世界に元から居た人達です。


「じゃあ、天生石を引き継いだ人が現実世界の人達だった、ということですか?」

「はい、私の父も元は外の世界の人間と聞いています」

「でも私は受け継いだ覚えは.........だとしたらどうして?」

「分かりませんが、とりあえず試合を始めましょう、戦えば何かわかるかもしれません」


私は集中します。

家の庭に風が吹き抜け、冷たい空気を肌に感じます。

静寂の中、わずかな足音が地面を踏みしめる音だけが響きます。

次の瞬間、風が止み、全てが戦いの始まりを告げるかのように張り詰めました。

そして、時雨さんの「来なさい!」という声と同時に私は駆け出しました。


「はああああ!!!!」


声と共に竹刀を振ります。時雨さんは攻撃を受け止めます。天生石の力のおかげでさっきより押しが強くありません。


「なるほど、やはり別の誰かの力を得ていますね、その大振りの攻撃、我武者羅に剣を振っている訳では無い、大太刀の振り方と似ています」


時雨さんは剣を受けているのにも関わらず淡々と説明をしています。

天生石の力を借りても余裕そうな顔をされてしまいます。

そして、時雨さんは私の竹刀を振り払いました。いつもならここで反応が間に合わず頭に一本入れられてしまいますが今回は違う。攻撃が見える!


カンっ!


竹刀のぶつかり合う音、手に走る衝撃、私は時雨さんの攻撃を受け止めたのです。


「この速さを受けましたか、少々危うい受け止め方ではありますが、上出来です……なっ!?」

「こ、このぉ……!」


私はそのままググッと力を入れて、竹刀を押し返します。

今度はこちらからです。私は一気に力を込めて時雨さんの竹刀を払いました。


「やあああっ!!!」


すかさず私は体制を整えて時雨さんの頭に竹刀を振ります。これで一本!かと思いきや、横に避けられてしまいました。


(そ、そんな、避けられた!?完全に隙を突いたはずなのに!)


「危ないところでした、想像以上です、思わず天力を使ってしまいました」

「天力?」

「えぇ、私の特別な力、今のは花びらの用に攻撃を避ける技『桜楽(おうらく)』です」

「もしかして、最初に戦った時に目を瞑って避けていたあれですか?」

「はい、これが無ければ間違いなく頭に一本入っていたでしょう、よろしい、試練を乗り越えたということにします」

「本当ですか!?」


やった!ついに試練を突破したのです。しかし時雨さんは刀を構え始めました。


「えっと、時雨さん?試練は終わったんですよね?」

「そうですね、これはご褒美です、私の全力をあなたに見せてあげます」

「ま、待ってください!そんなの食らったら大怪我ですよ!?」

「安心してください、寸前で止めます、避けれるのであればそうすると良いでしょう、構えなさい」


私は言われた通りに竹刀を構えました。

時雨さんは目を瞑り納刀するかのように竹刀を自らの腰に引き、右手で柄を握ります。抜刀術の構えです。


「華舞散命……」


(来る……!)


私は心でそう思い警戒をします。しかし、もうその時には既に遅かったのです。

時雨さんが目をキッと開いた瞬間、姿が消え、気付いた時には自分の首に竹刀が当たるスレスレの位置で止まっていました。私の髪が風圧で靡きます。


「『枯散雛罌粟(こさんひなげし)』……」

「な……に……?今……の?」

「一瞬で相手の懐に入り相手を斬る技です、あなたが警戒する頃には既に斬られています」


私は腰が抜けてその場に崩れるかのように膝を着きました。もう何が何だかわかりません。

すると水虎さんが駆け寄ってきました。


「鈴ちゃん、大丈夫だべか?」

「うん、怪我は無いよ、寸止めしてくれたみたい」

「時雨ちゃん、ちょっと驚かせすぎだべな」


「申し訳ありません、猫谷さんの力を見てつい興奮してしまって、休憩にしましょう」


私達は竹刀を置き、縁側に座ってお茶を飲み始めました。疲れていた分お茶が普段の倍美味しく感じます。

そして雑談の中で時雨さんはこんな質問をしてきます。


「結局猫谷さんの剣の技は誰の力を貰ったのでしょうか?」

「私思い出したんです、キリンヤガの城で王様と戦った時の事を」


キリンヤガでの戦い、私はみんなが倒れた時に天生石が強く反応して力をくれたことを思い出していました。

あの時王様に放った強力な一撃、リズさんの剣を私は持っていたのです。


「きっと、リズさんの戦いを見た後にあの剣を握ったから剣を扱えたんです、隠し手の構えもリズさんの戦い方だと思います」

「外の国の剣技、興味があります、それはそれとして特別な力でしたね」


私達は外へ出て時雨さんは私の首から下げている天生石に触れました。そしてこう呟きました。


「天より生を与える青の神石よ、天の力を石の持ち主に記憶させよ……」


その言葉を聞くと同時に私は天生同化を始めます。

天生石は一瞬青白い光を放ち、直ぐに止みました。力を授かった証です。


「これで良いでしょう」

「この力があれば、みんなを守れる!ありがとうございます!」

「ただし過信はしないことです、あなたの力はあくまで劣化版、せいぜい素人が相手の攻撃を想定して見切れるようになる程度です、鍛錬は怠っては行けませんよ」

「はい!」

「ではそろそろ皆を集めて廃墟街へ行く準備をしましょう、ん?」


突然目の前の竹橋からガサガサと音が聞こえてきます。そして竹林の間からおつねちゃんが出てきました。


「鈴!大変だ!」

「どうしたの?おつねちゃん」

「家の周りに変なやつらが襲ってきた!」

「変なやつら?どういうこと?」

「とにかくこっちに来てくれ!」


「どうやら緊迫した状況のようですね、行きましょう」


「うん!」「了解だべ!」


私達はおつねちゃんについて行きました。

目的の場所へ辿り着くとそこには武器を持った人型の黒いモヤのようなもの3と対峙している酒呑さん、木乃葉ちゃん、リィルちゃんの姿がありました。


「何あれ…?」

「わからない、突然地面から現れたんだ」


「地上霊だべ」


「水虎、知っているのですか?」


「んだ、死んで記憶が無くなるのを拒んだものだべ、あの世から脱出してきたんだべな」


「え!?そんなことできるの!?」


「勘違いしちゃだめだべ鈴ちゃん、目の前の奴らはこの世界の秩序を壊すものだべ」


「オマエラ……シネ……シネ……!」


水虎ちゃんが地上霊と呼ぶ黒いモヤは何やら私達にカタコトで喋りました。

そして、酒呑ちゃん達がこちらに気づいたようです。


「お?お前らも来たのか?見ろよ、面白そうなやつが湧いて出てきたぜ?」


「こんな状況で楽しんでるのはお前くらいだぞ酒呑」

「なんなのよこいつら、気持ち悪いわね!」


黒いモヤの1つが酒呑ちゃんに襲いかかりました。

しかし酒呑ちゃんは避けようとしません。

黒いモヤは持っている刀を酒呑ちゃんに振ります。


「酒呑ちゃん、危ない!」


しかし酒呑ちゃんは刀をスっと避けて黒いモヤの首を掴みます。

ありえません、地上霊は身体が透けているから掴めないはずなのに……。


「え!?どうして!?地上霊に攻撃は当たらないんじゃ……!」


「やっぱりこいつらは地上霊か、なら遠慮は要らねぇなぁ!」


酒呑ちゃんは首を掴んでいる手にグッと力を入れると、黒いモヤは勢いよく燃え上がりました。


「ギャアアアアアアアア……!!!!」

「お前ら覚えておきな、地上霊に直接的は攻撃は効かねぇ、そりゃ幽霊だからな、だが妖力を使った攻撃は別だ、地上霊と喧嘩する時のコツだぜ?」

「アツイ…アツイィィィ!!!!」

「へへ、そうかよ、ならそのまま死にな!」


燃えている地上霊にさらなる力を込めて火はより強く燃え上がります。そして地上霊は直ぐに消滅してしまいました。

それと同時に残り2体の地上霊が酒呑ちゃんに襲いかかります。


「火遁の術!」

「ファイヤーショット!」


「ウギャアアアアアア!!!」「アツイィィィ!!!」


しかし木乃葉ちゃんとリィルちゃんが酒呑ちゃんの前に立ち、それぞれの技で地上霊を燃やしました。

とりあえずは倒しきったようです。


「どうして地上霊が突然……」

「十中八九城にいる地上霊の仕業でしょう」


そして、私達の目の前にボンッと白い煙と共に五月雨さんが現れました。


「全員集まっているな、詳しく事を話したいところだが時間が無い、端的に説明する、街の至る所に地上霊が現れた、どうやら人間や妖怪を見境無しに襲っているらしい」

「そんな!蓬莱の国全部で!?」

「ああ、そのようだ、偵察先で既に梅町、松街、廃墟街にも出現してると聞いている」

「廃墟街まで!?おつねちゃん達、廃墟街に帰ろう!みんなを守らなきゃ!」


「急いで帰るぞ!野乃が心配だ」


「私も同行します、五月雨姉様、水虎、酒呑、竹街をよろしくお願いします」


3人は頷きました。そして五月雨さんは木乃葉ちゃんに向かって「これを持っていけ」と言いながら巻物を投げました。木乃葉ちゃんはそれをキャッチします。


「これは?」

「代々受け継がれてきた巻物だ、試練を乗り越えた褒美として受け取れ、強力な忍術がその巻物に記されている」

「師匠……有難く頂戴致します」

「2人共良く成長したものだ、さあ行け、ここは私達に任せろ」


私とおつねちゃん、木乃葉ちゃん、リィルちゃん、そして時雨さんは竹街を後にしました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


蓬莱城、そこの最上階にはニヤニヤしながら連子窓から街を見下ろす地上霊が1人....。


「ヒヒヒっ♪始まった始まった♪もうこの国は終わりだねぇ、抵抗してるみたいだけど街に出てる地上霊は僕が作ったものだから無限に出てくる、そのうちジリ貧でみんな死んじゃうんだ、そしたらこの国は地上霊だけの国になる、素晴らしいと思わない?実ちゃん?」


そう私を呼んだ地上霊はこちらを見てきました。

私は今、地上霊の能力によって捕らえられています。正座の状態で手を後ろに回されて黒いモヤのようなもので両手首が固定され、足にも黒いモヤがまとわりついてそれが重しのようになりその場で足を固定されています。物質じゃないのに鉄のような重さ、全く身動きがとれません。


時は遡り、セフトちゃんと共に廃墟街に助けを求めようと、街を走っていた時のことです。

黒い地上霊が目の前に現れて、私たちを襲ってきました。


「げっ!こんなところにも!」

「セフトちゃん!ここは逃げよう、違うところから廃墟街に!」


そして後ろを向いた瞬間、そこにも地上霊が……。


「そんな!どうしたら!」

「俺っち達じゃ攻撃は当てられない、万事休す……うわああああっ!?」


後ろの隙を突かれ、地上霊が刀を振り、セフトちゃんが斬られてしまい、そのまま倒れます。


「セフトちゃん!そんな、今治す……キャアアアアっ!」


癒しの弦で治そうとした瞬間に私も斬られて気絶してしまいました。


そして目が覚めたらこんな状況に……。


「…………」

「えー?君もだんまり?つまんないんだけど、城の人全員黙ったままだから話し相手が欲しくて連れてきたんだけどなぁ」

「ゆうゆうちゃん、どうしてこんな酷いことするの?」

「気持ち悪いから」

「気持ち悪い?人間と妖怪が手を取りあうんだよ?みんなで仲良く暮らせるんだよ?なのに気持ち悪いってどういうこと?」


地上霊は私のすぐ側まで来て答えました。


「君さ、妖怪と人間がほんとに仲良くなれると思ってんの?種族も見た目も生き方も違う、手を取りあったとしてもどちらかのルールに従わなきゃ行けない、ルールに従う側は幸せなのかい?自分の生き方を押し殺される側は納得するの?無理だよね?それは本当の平和?結局相手を利用することしか考えてないんだよ、お互いね、それって気持ち悪くない?」

「それは……」

「みんな幸福にしたいなら一旦全部滅ぼして作り直さなきゃ、だからみんな殺すんだよ」

「そ、そんなの極端だよ!確かにゆうゆうちゃんの言ってることは正しいよ?でも、争わなくていいならその方がいいんじゃないの?みんな殺さなくても幸せになれる道はあるはずだよ!」

「じゃあ和平を結ぶなんてことしないで、初めから睨み合ってた方が良かったじゃん、君達が余計なことをするからこういうことになったんだ、君たちが悪いんだよ?ま、そうじゃなくてもいずれ滅ぼすつもりだったけどね」


何も言い返せません。

地上霊はまた窓の方を向きました。


「僕は、この国の人間や妖怪を全部地上霊にしたいんだ、そしたら種族も生き方も全て一緒になる、立場の違いで理不尽に殺されることも、くだらない争いが起きることが無くなるんだ、そっちの方が平和だろ?」

「でもっ、あぐっ………!?」


言い返そうとした時、地上霊が振り向いて私の首をガシッと掴みました。


「君、ウザい、僕は君の平和論なんて聞きたくないんだけどー?」

「ううぅ……あぁっ……!」

「命を握られてるってこと自覚してない?君ごときの妖力じゃ束縛の呪いは解けない、死にたくなかったら生意気な口答えしないでくれる?」


地上霊は私の首から手を離しました。

やっと空気が吸えるようになり。私は咳き込みました。


「げほっ!……ゴホッ……うぅぅ」

「さて、これから面白いことになるよ♪君も一緒に見よっか?この街の終わりをね」


(みんなお願い、この子を止めて!)


私は心の中でそう叫ぶのでした。



皆様、お久しぶりです。

ようやく投稿出来ました。なんだかんだで続きは書いてます!これからも頑張って投稿を続けていきますので、是非目を通してみてください。

では、また次回〜♪

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