表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望の果ての理想郷  作者: 秌雨
47/48

第47話、忍猫の過去〜後編〜

「五月雨、こんなことで本当に忍になれるのか?」


私は木の枝に足を引っ掛けて逆さまにぶら下がっている。目の前に逆さまになった忍、五月雨を見ながら言う。五月雨は答えた。


「初めは木に登ることから慣れてもらう、木は身を隠すのに一番使えるものだからな」

「いつも登って木の実を食べてた、なんてことないぞ?」

「そうじゃない、忍は音を立てることなく登らなければならない、ガサガサと音を立てるな」


人間と共に暮らし初めて月日は流れ、2ヶ月が経った。

部屋の掃除だの食料調達だのを手伝っていたが私が忍に興味を持ち、五月雨に教えて貰うことになった。


「なるほど、なかなか難しいな」

「隠密行動は忍の基本だ、慣れろ」


訓練を始めてから数時間、桃色の着物を着た人間の娘、桃が姿を現す。


「おーい!そろそろお昼の時間だよ、ご飯にしよ!」


「そういえば腹が減ったな、木乃葉、今日はここまでだ」

「ん、了解」


私達は家へと戻り食事をとり始めた。

食事は米を三角形に固めたもの、おにぎりと言う物だ。

こんな単純なものでも人間よりは遥かに美味い、私は最早、人間との生活に抵抗を示すことなどなくなっていた。


「木乃葉、美味しい?」

「ん」

「ふふふ♪」


桃は私の頭を撫でる。いつも食事時になると桃は「美味しい?」と聞き、それに答えると頭を撫でてくるのだ。

正直恥ずかしいからやめて欲しいが……。


「撫でるな……」

「やだ、かわいいんだもん♪」


こんな様子でいくら言っても撫でてくるので半分諦めている。


「懐かれてるな木乃葉、お前もこの生活に随分慣れたものだ」

「不思議だ、人間と生活なんて考えられなかったが、今はこうして自然に暮らしてる」

「今からでも森に帰ってもいいんだぞ?」


「やだ!木乃葉と離れたくない!」


「桃、大丈夫だ、私はどこにも行かない、それよりも五月雨」


私は五月雨の顔をじっと見て再び口を開く。


「なんだ?」

「師匠と、言わせて欲しい」

「師匠?」

「貴方は私に新しい生き方を教えてくれた、今も忍になりたいと言ったら親身になって教えてくれている、私にとって貴方は師だ、だから……」

「だから?」

「これからもここで暮らさせて欲しい、そして、忍としての生き方を教えて欲しい!」

「人間を食う妖怪がこう言うようになったか……いいだろう、お前を引き取った以上、責任をもって面倒を見よう」

「ありがたい、よろしくお願いします、師匠」


私は五月雨を師として、忍になるための修行をすることとなった。

身を隠す練習やクナイの扱い方、木々を渡る方法など、忍の基本は一通り教わった。厳しい修行だったが、野生で生きている時に比べればなんということは無かった。



数週間後

ある日の昼



「木乃葉、随分と成長したな、着実に忍として生きていく道を踏み出している」

「ありがたいお言葉です師匠」

「これからお前には更なる試練を与える」

「試練ですか?」

「ああ、お前に与える試練は、蓬莱の国を出て旅をすることだ」

「……え?」


私は耳を疑った。

突然蓬莱の国を出ろと言われたのだ。今まで生きてきた中で一番衝撃な試練である。


「何故ですか?私は何か失礼なことをしましたか?」

「いや、追放をしたい訳では無い、主を見つけるのだ」

「主?」

「忍は主を守るべく生まれたもの、おまえの守るべき者を見つけろ」

「ならば、蓬莱の国の中で探せばよいのでは無いですか?」

「いいや、お前には外で旅し、人間と妖怪が如何に絆を深めているかを学んでもらう」

「ふむ、私は構わない、でも桃がなんというか」

「その辺はこっそりと行こう……いま桃は寝て……」


「木乃葉、どこか行っちゃうの?」


昼寝をしているはずの桃が障子に隠れながら言う。

すごく心配そうである。


「桃…!起きていたのか!?」

「厠に行ってたの、そしたら木乃葉お話してるのたまたま聞いちゃった……やだ!木乃葉がどこか行っちゃうなんてやだ!」

「桃……だが仕方がないんだ、木乃葉には色々なことを学んでもらわなければならない」

「やだやだやだ!木乃葉どこにも行かないって言ったもん!」

「いやしかし……困った、こうなるからこっそりと話していたと言うのに……」


珍しく師匠が困惑している。

しかし桃は止まらない。


「木乃葉が行くんだったら私も行く!」

「それはだめだ」

「やだ!行くの!」

「桃、国の外は危ないんだ、怖いところだぞ?」

「私もお外のこと知りたい!木乃葉と一緒に行きたいの!」

「むぅ……木乃葉、お前はどう思う?」


師匠はこちらを向いてこちらに問いかける。きっと私からも「ここにいろ」と言って欲しいのだろう。

私は桃に近づいて言った。


「桃、ちゃんと着いてこれるか?」

「うん、私、木乃葉のこといっぱいお手伝いする!」

「そうか、師匠、桃は私が守ります、桃と共に主を探し、どちらも守り通してみせます、どうか連れていかせて貰えませんか?」


師匠は「はぁっ……」とため息をついた。

そして、


「やれやれ、これは止めても無駄のようだな、いいだろう、桃を頼んだぞ木乃葉」


「はい、師匠」


「早速今日から旅を始めてもらうが、その前にこれをやろう」


そう言って師匠は私に焦げ茶色の布を渡した。

服のようだが……。


「これは?」

「忍服だ、私が小さい時に使っていたお下がりだが、綺麗な状態ではあるぞ」

「ありがとうございます」

「よし、なら桃と共に準備をして出発だ、あえて見送りはしない、朗報を期待しているぞ」

「はい師匠、行ってまいります」


そして私は忍服に着替えて、桃と共に度の準備を完了させて、家を出て蓬莱の国の関所前まで辿り着いた。


「桃、ここから先は私達の知らない世界、覚悟はいい?」

「うん、木乃葉と一緒なら大丈夫」


私達は関所を出た。


ここから先は少し掻い摘む、その後旅に出たはいいものの、自分の主を見つけるというのはそう簡単なことでは無い、行く宛てもなく虱潰しに色々な所を回ってきたがこれといって主は見つからなかった。



そして、5年の時が過ぎた。


5つだった桃もすっかり成長していた。私と同じように自然と暮らすことにもだいぶ慣れてきた。私達はとある森を拠点とし生活していた。

日が沈み暗くなった森、私は焚き火を着け寝床を準備しているところだった。


「木乃葉、木の実取ってきた!」

「ありがたい、逞しくなったな、桃」

「木乃葉のおかげ、元々私のわがままで着いてきたんだもん、これくらいはできるようにならないとね♪」

「故郷は恋しい?」

「うーん、五月雨さんには会いたいなーって思ってるけど、恋しくはないわ、父様と母様ももういないしね」

「そうか、でも主が見つかるまでは師匠の元へは帰れない」

「もちろん分かってるわ、そんなことより夕飯にしましょ、お腹すいちゃった」

「ん」


私達は丸太に座り、木の実を食べようとした。

その時、辺りの草がガサガサと揺れ始めた。

動物が通ったような音じゃない、人か妖怪だ。私は立ち上がってクナイを構える。


「桃、警戒して、何かいる」

「うん、そこの草だよね?」

「ん、危なくなったらすぐ逃げて」


「うぅぅ……そこに誰かいるのかい?」


うめき声を挙げつつ出てきたのは樫の木で作られた杖を両手で持ち、白のローブを身にまとった二本足で立つ猫だった。顔はやつれ、フラフラで今にも倒れそうだ。


「おお!妖怪と人間がいる、そこのお二人さん、何か…何か食べ物を……」


そう言うと目の前の猫はパタリと倒れてしまった。

すると、桃は猫に駆け寄った。


「助けよう木乃葉、とても困ってる、この子悪い子じゃないみたい」

「桃、木の実を食べさせて」


私達は猫に木の実を食べさせた。相当飢えていたのか集めてきた木の実はあっという間に消えた。


「いや〜助かったよ〜♪危うく飢え死にするところだった」

「無事で何より、しかし何故この森に?」

「僕は旅の者なんだけど川に落ちて食料が流されてしまってねぇ、後数日は持ちそうな食料が全て水の泡だよ、トホホ……」

「災難だったな」

「本当だよ、でも君達に助けられた、自己紹介がまだだったね、私は『リィル』、『べスティア』族の魔道士さ」


リィルと名乗る猫は胸にポンッと手を当てて自己紹介をした。べすてぃあ族?聞いたことも無い種族だ。


「木乃葉、蓬莱の国から来た」

「私は桃、木乃葉と一緒に蓬莱の国からきたの」


私達はお辞儀をした。

リィルと名乗る猫は私達の動作に一瞬首を傾げたが、私達の街の文化だと察し、同じ動作をした。


「君たちにはお礼をしなきゃいけないね、さぁ、何がお望みだい?魔力で何とかなるものなら叶えてあげよう」


「ほんと!?木乃葉!」

「ん、りぃる殿、私達は主になる者を探している、もしよかったら貴方が主になってくれないか?」


「主?僕の従者になってくれるってこと?」

「そうだ、これは師匠からの試練だ」

「生憎自分の召使いは間に合ってるんでねぇ、自分はなれないけど手がかりなら教えてあげれるかもだ」

「それだけでもありがたい、教えて欲しい」

「プレスターの街の近く、小さな森を超えた先にポツンと家がある、そこに3本の尻尾を生やした猫が1匹住んでいるそうだ、会いに行ってみるといい」

「ぷれすたぁか、ここからどれくらいの距離?」

「夜が明けたら案内するよ、それまで君達の話でも聞かせておくれ」


3人で焚き火を囲み、お互いの事を話した。

彼女の言うべスティア族は『ティールナンノーグ』という里にしかいない種族らしい。

そして、桃の本音も聞けた。旅の途中で盗賊や獣に襲われた時は私が守っているが、守られているだけじゃなくて自分も役に立ちたいと思っていたようだ。


「じゃあ君は木乃葉君のように戦えるようになりたい、そういう解釈でいいのだね?」

「うん、私は勝手に着いてきただけだから、木乃葉だけに大変な思いをさせたくない」


「私は気にしてない」


「ううん、私が嫌なの」

「そうか、なら1つ提案がある」

「提案?」

「僕の魔力をあげよう、君が魔法使いになるんだ、魔法なら力がなくとも戦うことは出来る」

「嬉しいけど、どうしてそこまでしてくれるの?」

「お礼だよ、命を助けて貰っただろ?べスティア族は掟として恩を自分の魔力で返すと言う風習がある、道案内だけではその掟は守れないからね」

「そうだったんだ、なら、魔力をちょうだい!」

「うむ、だけどこれを聞いて判断して欲しい、べスティア族の魔力は少々特殊なんだ、人間に分け与えると君は獣人になってしまう、そして少し性格が変わってしまう、それでもいいかね?」


桃はこちらを見てきた、恐らく私はそんな危険なことを許さないと言うと思っているのだろう。

しかし、私は桃が満足するのならそれで構わない、自分の私は目を合わせて頷いた。


「うん、木乃葉の役に立つためなら、受け入れる!」

「あいわかった、じゃあ僕の目の前に立って」


桃はリィルの目の前に立つ。するとリィルは桃の胸に手を当て呟いた。


「パルタジェ・ラ・プヴォワールマジック、スュイーヴル・レス・プリセプテス・べスティア……(魔力を分け与えよう、べスティア族の掟に従って……)」


すると、桃は青白い光に包まれた。あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。光が収まり目を開けると、桃の姿が激変していた。

黒かった髪は桃色に変わり、白い猫の耳と尻尾が生え、和服はヒラヒラとした洋服に変わっていた。右手には短い猫の手が付いた棒を持っていた。


「え!?服が変わってる!あれ?頭になんか付いてる?」

「桃、なのか……?」

「うん、ねぇ木乃葉、私どうなったの?」

「なんというか、猫みたいになった」

「頭についてるの、耳……?てか、尻尾まで生えてるんですけど!?」


「それが君の新しい姿さ、その服とステッキは僕が小さい頃に使ってた物さ、まぁオマケだから不満なら元に戻すけど……」


「桃、流石にその格好は目立ちすぎる、服は元に戻して貰っ……」

「このままでいいわ♪可愛いし!」

「えっ……」


変わったのは見た目だけじゃない、性格もどこかおかしい、こんなにお気楽だっただろうか?


「気に入って貰えて何よりだ、ついでにもう1つ君に贈り物をしよう」

「なになに〜?」

「名前だ、この『リィル』という名前を君にあげよう、僕がお礼をした証だと思うといい」

「わーい!木乃葉、今日から私は『リィル』よ、これからはリィルって呼んでね♪」


あまりに事が進みすぎて動揺している。


「お、おい桃、色々と勝手に話を進めるな!」

「桃じゃなくてリィル!」

「………………」


「あちゃー、こりゃだいぶ影響出ちゃってるね」

「リィル、どう言う事だ?」


「早速覚えてくれたのね木乃葉♪」

「お前じゃない!」


「べスティア族の魔力を生身の人間に与えると性格が元のとは別の方向に引っ張られるんだが、この子は如実に出てしまったらしい……」

「性格だけ元に戻せないのか?」

「正直難しい……なんというか、すまない」

「まぁ、桃の願ったことだからな」


「桃じゃなくてリィルよ!この先ずっとこれなんだから、慣れてよね!」

「はぁ……師匠になんて説明すれば……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それでこうなった」

「じゃあ、リィルちゃんはそのべスティア族に名前を貰ったから、名前が変わったってこと?」


「そうそう♪べスティア族のリィル、また会いたいな〜♪」


「師匠、申し訳ない……」

「うむ、姿を見た時は何があったとヒヤヒヤしたが、まぁ桃がそう願ったならいいんじゃないか?元々送り出したのも私だ、無事で戻ってきてくれて何よりだ、自分の主も見つけたようだしな」


木乃葉ちゃんとリィルちゃんは頷きます。

木乃葉ちゃん達の過去を聞けて私も納得が行きました。

でも、もう1つ気になることが……。


「でもニーナちゃんとはどうやって出会ったの?」

「それはまた今度にする、流石に話が長すぎた」

「そっか、ありがとう、話してくれて」

「ん、今度は鈴殿の過去も聞かせて欲しい」

「うん!また今度話すよ」


話しているうちに、外はすっかり暗くなっていました。

食事も終わり、それぞれ寝る支度を始めました。

布団を敷いていると。襖が空き時雨さんが顔を出しました。


「猫谷さん、少しお話があります、よろしいですか?」

「あ、はい!どうぞ!」

「では失礼します」


時雨さんは丁寧に襖を閉めて私の前で正座します。

あまりに美しい動作です。私も思わず正座してしまいました。


「猫谷さんは姿勢を崩して大丈夫ですよ、私のこれは癖のようなものですので」

「はい、ところで話って?」

「今日の修行のことで謝罪を、少しやりすぎました」

「いえ、時間が無いと言ったのは私です」

「何しろ人に剣術など教えた経験が無いもので、姉様に教え方が下手だとこっぴどく叱られました」

「でも、私を強くしてくれようとしたんですよね?確かにキツかったけど、みんなを守るならあれぐらいは乗り越えないと!」

「優しいのですね、他の妖怪に信頼されるのも納得です」


修行の時とは違い、時雨さんは柔らかい表情を見せます。


「話は変わりますが、何故あなたは特別な力が欲しいのですか?」

「特別な力を集めて、行きたいところがあるんです」

「行きたいところ?」

「はい、ニライ様とカナイ様の所です、そこは特別な力を集めないと行けないところなんです」


私がこう言った瞬間、時雨さんは目を丸くしました。


「最高神の住まう所へ……?ここ最近で1番驚いたかもしれません」

「やっぱり、変なこと言ってますよね、誰もたどり着いたことがない所に行こうだなんて……」

「いいえ、そこにはあなたにとってかけがえのない物、あるいは人がいるのでしょう、 例えそこがどんな場所であってもあなたは諦めずに進み続ける、変な事など一言も言っていませんよ」

「でも、辿り着けるか不安でもあります……」

「その諦めない心を持ち続けている限り成し遂げられないことなどありません、それに貴方には素敵な仲間もいるじゃないですか、大丈夫、きっと辿り着けますよ」


ニコッと笑う時雨さん、なんだか私の心は暖かくなりました。不安だった心が少しだけスっとした気分です。


「話は以上です、寝る前なのにごめんなさいね」

「いえ、話したら気持ちが軽くなりました」

「ゆっくりお休みなさい、明日もやり方は変えますが修行は継続します、目的の為、少しづつ強くなりましょう」

「はい、おやすみなさい、時雨さん♪」


時雨さんは「失礼します」と言って部屋を出ました。

きっと、私を励ましてくれたんだ。蓬莱の国の人は優しい人ばかり、だからみんなを守らないと!

その気持ちを抱えつつ、私は布団に入って眠りにつくのでした。

大変お久しぶりです、秌雨です!1年半以上も間が空いてしまい大変申し訳ありませんでした。色々とリアルでの事情が重なってなかなか執筆活動が出来ませんでしたが、ようやく筆を走らせることが出来ました。これからも投稿をしていくつもりなので是非楽しんで行ってください!

では、また次回〜♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ