第46話、忍猫の過去〜前編〜
「おまたせしました」
「連れてきたわ〜」
松街の神社でニーナ達は月詠と須佐之男が呼べるという2人を待っていた。
「お、来た!じゃ早速呼んでくれる?」
「了解です」「は〜い♪」
柚子と一華は目を瞑る。しばらくすると。
薄い紫色での髪の短い女性の霊体と黒く髪の長い髭を生やした男性が現れた。紫髪の女性は髪色と同じ着物を身に纏い、黒髪の男性は侍の袴を着ていた。
「緊急の用事とはなんでしょうか?天照、だいたい察していますが」
「うむ、そろそろ呼ばれると思っておったぞ」
「察している通り蓬莱城の結界についてじゃ、あの結界を貼ったのは地上霊じゃ」
「地上霊?ただのこの世界の秩序に反するものがあの強力な結界を?」
「冗談にしては質が低いな天照、小童の方がまだ面白いことを言うぞ?」
「たわけ!冗談など言うものか!そこの三尾の猫がそう言っていたのだ、そうなのだろう?」
そう言うと、月詠と須佐之男は一斉にニーナの方を向く。
「かわいい三尾妖怪よ、その話は本当なのですか?」
「嘘であったら叩き切るぞ?」
「嘘なんかじゃないにゃ!」
ニーナは、ここに至った経緯を月詠と須佐之男に説明した。
説明が終わり、一瞬だけ沈黙が流れた。そして月詠達は口を開く。
「なるほど、事情はわかりました」
「やれやれ、面倒なことになったのぉ」
「だから力を貸して欲しいんだにゃ!このまま放っておけば、あの地上霊が何か悪いことをするかもしれないんだにゃ!」
「お願いします!お姫様の為にも、この国の為にも!」
「城に取り残された人達を見殺しになんてできないっすよ!」
2人の神は顔を見合わせる、その2人をニーナ達は真剣な顔で見つめた。
どこの誰かも知れない者がいきなり神様に手を貸せなどと、無礼なことをしているのは十分承知だ。しかし、2人の神はニーナに笑顔を見せた。
「そうですね、蓬莱の国の人間は私達の宝」
「その宝を守るのは神の務め、よくぞ言った、他所の妖怪達よ」
すると、結衣が2人の神の方に腕を回しながら言う。
「つくちゃん、すさジィやっぱ分かってる〜♪私からもお願い〜、困ってる人達放っておけないよ〜」
柚子と一華も続けて「私達からもお願いします」と言った。
「ふふふ♪結衣達、良い行いですね、褒めてあげます♪」
「結衣達の頼みとなっちゃあ、断れんのぉ〜」
「にししっ♪すさジィもさんきゅー!いえーい♪」
月詠は結衣の頭を撫で、結衣は須佐之男とハイタッチをした。
結衣の行動を見れば見る度信じられない光景である。
何はともあれ、神様達に協力を得ることは出来たようだ。
「ありがとうにゃ♪天照様!」
「うむ、ところで三尾の猫妖怪よ、お主のその尻尾は産まれ持ったものか?」
天照はニーナの尻尾を指さしながら質問した。
「そうだにゃ、自慢の尻尾にゃ」
「ふむ、どうりで他の妖怪よりも妖力が強いわけだ」
「どういうことにゃ?」
ニーナは訳が分からず首を傾げる。天照は続けた。
「自覚が無いようだが、妖怪は尻尾の数が多ければ多いほど強い妖力を持てる、お主は他の妖怪よりも妖力が強い」
「そうなのかにゃ?」
「うむ、しかしその様子だとお主は妖力を扱えていないみたいだな」
「じゃあ、扱えるようになるにはどうしたらいいんだにゃ?」
「我らに任せよ、お主の妖力を引き出してやろう」
天照はそう言うと須佐之男と月詠に指示を出した。
そして須佐之男と月詠はニーナの後ろに立ち、ニーナを中心として三角形になるように囲んだ。
「結衣、柚子、一華、客人を部屋にお連れしなさい」
「おっけー!それじゃ柚子と一華は先にいってお茶と茶菓子用意してて〜」
「わかりました」「は〜い♪」
「そんじゃ、お客さんは着いてきて〜」
「何を始めるの?」
「ニーナの姉貴に何をするっすか!?」
「まぁまぁここは天ちゃん達に任せて、私達はあっちでお茶しようず〜♪」
結衣は2人の背中を押して部屋に入って行った。
「では始めるとしよう」
天照はニーナの胸に手を当てる。月詠、須佐之男は背中に手を当てた。
すると3人の神は何かを呟き始めた。
「「「天より生を与えし力よ、わが霊力と引替えに、この者の力を引き出せ」」」
ニーナは全身に何かが駆け巡るような感覚を覚えた。ドクンドクンと心臓が激しく鼓動している。
(な、なんにゃ!?この感じ.......身体の中から何かが溢れ出てくるにゃ、これがにゃ〜の妖力!)
3人の神はニーナから手を離した。それと同時にさっきの感覚が段々と引いて行った。
「よし、お主の妖力を引き出した、これなら十分に戦えるだろう」
「この妖力は一体何に使えるんだにゃ?」
「妖力には様々な型があるのじゃが、お主のは身体能力上昇型じゃ、戦闘の時に妖力を解放してみよ、お主の目にも止まらぬ速さで動ける」
「ほんとかにゃ!?にゃ〜にこんな力があったなんて.......」
「俊敏さは様々な場面で活躍するだろう、そうさな、『韋駄天』とでも呼べば良い」
「いだてん.......かっこいいにゃ!」
「気に入って貰えたら何よりだ、さて結衣達のいる部屋に行こう、これからどうするべきかを話し合おうじゃないか」
ニーナと3人の神は部屋を移動した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時雨殿の家、私達は皆でちゃぶ台を囲み、飯を食べている。
しかし師匠がいるとは思わなかった。
私の師匠は五月雨という名で、鈴殿の隣にいる人間の忍である。そちらの方に目を向けると師匠がこちらを見る。
「木乃葉、久しぶりだな」
「師匠もお元気そうで」
「忍としての役割は果たしているか?」
「はい、日々修行は欠かさずにしています」
「言わなくてもわかる、お前は真面目だ、『桃』お前の方は?木乃葉に迷惑をかけてないか?」
「元気でやってるわ♪術もしっかり練習してるのよ?」
「相変わらずどじで困ってます」
「ちょっと〜!」
「ははは♪そんなことだろうと思ったよ」
すると鈴殿は首を傾げながら質問した。
「桃?リィルちゃんじゃないの?」
「私の小さい頃の名前なの、昔は私も人間だったんだ」
「昔はって、現実世界から来たなら分かるけど、元からこの世界にいた人もワーハクタクになるの?」
「実はこれには訳がある、少し長いけど聞く?」
「うん、気になる」
「分かった」
私は師匠に拾われ、リィルと共に暮らすようになった過去を明かした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は名も無き猫の妖怪、姿は茶色の短い髪、頭には猫の耳、腰の辺りには尻尾が生えており、黒い和服を身に纏う。
私はこの蓬莱の国の人間を食って生きている。蓬莱の国の妖怪は人間と共存している者もいるが私は共存などする気にはならなかった。
人間はただの獲物、自分の腹を満たす餌でしかない。今日も夜更けに歩いている人間を見つけては襲って殺し、食べていた。
「ひ、ひぃっ!や、やめろぉ!」
「命乞い?無駄、お前は餌なんだ、大人しく食われろ」
「そ、そんな!い、命だけは!」
「生ぬるいこと言うな」
私は一人の男を喰らおうとした時、突然空からクナイが降ってきた。
私は間一髪で避けたが、人間を取り逃した。
「くっ……誰だ!?」
そして、目の前に全身黒い衣を身に纏った人間が立ちはだかった。顔さえも隠している。忍と言うやつだろう。
「人間を襲う妖怪はお前か?」
その問いかけに私は答える。
「そうだ、それがどうした?」
「人間と共存する妖怪が増えている今、何故こんなことをする?」
「ふん、人間と共存など笑わせるな、地位の高いのはいつでも妖怪だ、お前ら人間は大人しく餌になるべきだ」
「人間よりも美味いものは沢山あるぞ、その味が分かれば食う気にもなくなるさ」
「興味無い、私はまだ満たされてない、お前も食ってやる!」
私は目の前の忍に襲いかかった。鋭い爪を振り下ろす。
しかし避けられてしまった。大体の人間はこれで動けなくなると言うのに、面倒な獲物だ。
私は後ろに忍の気配を感じ、そのまま振り返って爪を振り上げた。
ザシュッと音がする。爪が当たったのだ。
「ぐわっ!?」
断末魔と共に忍が倒れる。私はゆっくりと近づいた。
「弱いな、一度攻撃を避けた時はやると思ったが所詮はその程度か」
「…………」
「気を失ったか、ならそのまま食うか」
私は忍を食おうと服の襟を掴んだ。するとボンッと白い煙が舞った。
「うわっ!?けほっ!くっ、無駄な抵抗を!」
私はすぐさま煙を払い忍を見た。しかしそこにいたのは忍ではなく、忍の服を着た木材だった。
「何!?ど、どこだ!?」
私は辺りを見回して忍を探す。逃がす訳には……!
「油断したな、妖怪」
「っ!?」
突然後ろから手足を細い糸で絡め取られて引っ張られ、首に何やら針のようなものを刺された。
すぐに反撃に出ようとしたが身体が動かない、そのまま私はうつ伏せで倒れた。
「くっ……なんだ、これは……?」
「痺れ針だ、もうお前は逃げられない」
「くそっ……!人間……なんかに……!」
忍は私を軽々持ち上げて肩に担いだ。身体全身が痺れているため暴れることすら出来ない。
「離せ!何するんだ……!」
「連れて帰る」
「改心させようと言うのか?無駄、お前の住処に帰って動けるようになったら食ってやる!」
「はいはい、何を言おうがお前は動けないんだから静かにしていろ、夜中に騒ぐな」
「お前……くっ!」
そしてそのまま忍に担がれこいつの家へと連れて行かれた。
家に着いた忍は部屋に私を放置し部屋からいなくなった。しかし痺れ針は刺さったままである。
(一体あいつは私をどうするつもりなんだ?くそっ!こんな針さえ無ければ……!)
しばらくすると部屋に黒いおかっぱ頭の人間の少女が入ってきた。手にはお盆を持っている。お盆には茶碗に入った米、食器に乗った魚、椀に入った汁物が置いてある。
「あなたが五月雨さんの言ってた妖怪さん?」
「誰だ……お前は?」
「私は桃、母様と父様がいなくなって五月雨さんにお世話してもらってるの」
桃と言う少女はお盆を私の目の前に置いて言った。
「お腹すいてるでしょ?」
「…………なんのつもりだ?」
「食べさせてやれって五月雨さんが、だから食べさせてあげる」
少女は箸を使って米を1口分掴み、私の口元に持ってくる。
「いらない」
「だめ、ちゃんと食べないと」
「私をなんだと思って言ってるんだ、妖怪だぞ?人間とは馴れ合わな……」
グゥゥゥゥゥ。
腹が鳴ってしまう、今日は何も食べていない。
「ほら、お腹すいてる」
「違う!これは……私の餌は人間だ!お前を食ってや、むぐっ!?」
少女に怒鳴りつけていると箸で掴んだ米を私の口に入れた。
「はい、噛んで♪」
そう笑顔で少女は言う、私は大人しく米を噛んだ。口に米の甘みが広がる。箸を噛みちぎってやろうと思ったが、どうせ動けないので言うことを聞くことにした。
「美味しい?」
「…………ん」
「ふふふ♪いい子いい子♪」
少女は私の頭を撫でた。ただの無力の人間にここまでコケにされ、情けない気持ちでいっぱいだった。
「さ、触るな!お前なんて……お前なんて……むぐっ!?」
「大丈夫だよ、最後まで私が食べさせてあげるから」
言い返そうとすると直ぐに食べ物を口に運ばれてしまう。悔しいことに食べ物が美味い、こんな餌に釣られてしまうことに悔しさと怒りが込み上げてくるが、動けない体では最早受け入れるしか無かった。
そして、食べ物が全てなくなり、少女はまた私の頭を撫でる。
「よく食べました♪」
「触るなと言っただろ!くっそぉ……!」
「美味しかった?お腹いっぱいになった?」
「…………まぁ、腹は満たされた」
「ふふふ♪」
結局全て食べてしまった。目の前の少女は私の頭を撫で続けている。すると、少女は何かに気付く。
「ん?何か付いてるよ?」
針を抜いてくれるのか?と思いきや少女は私の背中に着いている茶色い葉っぱを取った。
恐らくここに連れて来られた時に付いたのだろう。少女は茶色い葉っぱをじぃ〜っと見ている。
「木の葉……木乃葉!」
「?」
「名前、付けてあげる!無いんでしょ?名前」
名前、それは人間が自らのことを呼称する時に使うものらしい、しかしそんなものは私にはいらない、妖怪は妖怪だ。それ以上でも以下でもない。
「黙れ!勝手なことするな、いい加減にしないと……!」
「動けない身体でどうにかできるのか?妖怪、いや、木乃葉だったか?」
いつの間にか入ってきていた忍が言う。
「妖怪、人間を襲うのをやめると言うならその針を抜いてやる」
「ふん、辱めを与えただけで改心するとでも思うのか?」
「飯は美味かったか?」
「っ?…………悪くない」
「人間とどちらが美味い?」
「…………さっきの餌」
「人間を食うのをやめれば毎日食わせてやろう、どうだ?」
「……………………」
こんなことで人間に屈してしまう自分が情けなかったが、正直人間よりも満足できる餌だった。美味いだけじゃない、なにか不思議な感覚がした。あの少女が食べ物を私の口に運ぶ度、何故か安心してしまっていた。
「ん」
「ん?」
「分かったって事だ、人間はもう襲わない」
「よく言った」
忍は私の首に刺さった針を抜いた。すると、身体が動けるようになった。私は身体を起こす。
「妖怪、お前は今日からこの家に住んでもらう、人間を襲わないよう私が監視する」
「襲わないと言ったから襲わないだろ、人間みたいに嘘はつかない」
「どうだかな、人を化かす妖怪もいる」
「さっきの餌をくれれば襲いはしない」
「そうか、五月雨だ」
忍びはそう言って手を伸ばしてきた。私にはよく分からない行動だった。私は首を傾げる。
「ああそうか、手を握れ」
言われた通りに手を握る、そして忍は握られた手を上下に動かした。
「握手だ、近づきの証拠、覚えておくといい、お前の名前は?」
「名前なんてない」
「あるよ!さっき付けてあげたでしょ!」
「………木乃葉」
「木乃葉か、いい名を付けてもらったな」
こうして、2人の人間と1匹の妖怪の暮らしが始まった。
お久しぶりです!半年以上も期間を開けてしまい非常に申し訳ございません!
リアルの方が忙しくて全然投稿出来ませんでしたが、色々と落ち着いてきたのでまたしっかりと投稿していきたいと思います!今後とも見ていただけると嬉しいです。
そして今回は1話がとても長くなってしまうため前編と後編分けさせていただきました。後編もお楽しみに!
では!また次回〜♪




