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絶望の果ての理想郷  作者: 秌雨
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第45話、華の剣士

竹街のとある屋敷の中庭、目の前には華の剣士と言われる人間、時雨さんが袴に着替えてある状態で竹刀を2本持っています。


「猫谷さん、これを」


竹刀を1本差し出され、私は受け取ります。

でも私は剣なんて扱えません。


「あなたにはこれから剣術の修行をしてもらいます、天生石の力があるとはいえ、元の体が戦えないのでは意味がありません」

「そうですけど、修行って何をするんですか?私は剣なんて使ったことないし、時間だってあまりないんですよ?」

「ええ、だから早く学んでください、これからあなたには試練を与えます、その試練を達成した時、私の力をあなたに差し上げると約束しましょう」

「し、試練ですか?」

「あなたに与える試練、それは、その竹刀で私の頭又は胴に一撃を入れること、いいですね?」

「え?それだけですか?」


私は耳を疑いました。それだけならまぐれでも行けるかもしれません。


「はい、だからと言って簡単に達成できると思わないことです、機会はいつでもいいですが私は如何なる時も油断しないことを忘れないように、不意打ちなど無駄だと思いなさい、では剣を構えなさい実戦式の稽古を始めます」


私は言われた通り、剣を構えました。それと同時に天生同化を開始しようとしました。


「天生石、お願い!…………あれ?」


しかし、なんの反応がありません、いつもなら力が湧いてくるはずなのに……。私はカーディガンの中にある天生石のネックレスを取り出そうとしますが、天生石が無いことに気が付きました。


「っ!な、無い!天生石が無い!」

「あなたの天生石ならここに」


時雨さんは袴の中から私の天生石付きのネックレスを取り出しました。


「えっ?ちょっと!返してください!」

「いいえ、この修行が終わるまでは私が預かります、あなたは今まで天生石の力を借りて戦っていたに過ぎません、あなたの力を増幅させるためには元々の技術を伸ばす必要がありますので」

「そんなっ!」

「大丈夫です、あなたが試練を達成すれば返しますから、早く取り戻せるといいですね」


そう言って再びネックレスを袴の中にしまいました。

あれがなければ私はただの運動神経がない猫耳の少女です。


「さぁ、来なさい!」


かかってきなさいと言われてもどう攻撃すればいいか分かりません。

とりあえず私は適当に竹刀を振って見ることにしました。

私は時雨さんに向かって走り出しました。


「やあっ!」


そして、竹刀を振ります。当然時雨さんは受止めそのまま押し返しました。その衝撃で私は後ろによろめき、尻もちを付いてしまいました。


「わあっ!?痛っ!」

「…………本当に弱いのですね」

「だから素人だって言ったじゃないですか!」

「なら基礎から学ぶ必要があります、立ちなさい」


私は立ち上がり土埃をはらいました。


「そこで素振りをしなさい、100回です」

「は、はい!」


私は竹刀を振りかぶり、そのまま振り下ろしました。


「やあっ!」


パシンっ!


しかし、時雨さんに突然竹刀で頭を叩かれてしまいました。


「痛っ!何するんですか!」

「脇が甘い!なんですかその弱い振り下ろしは、そんなんじゃ竹さえも斬れません!」

「だから初めてなんですってば!」

「口答えしない!」


バシンっ!


「いたあっ!!!」

「はいやり直し!しっかりとした素振りができるまで何度でも1回からやり直しますからね」

「そんなぁ……」


身体の至る所を竹刀で打たれながら私は素振りを続けました。

少しでも脇が甘かったらやり直し、力強く無かったらやり直し、口答えしたらやり直し……。

とても苦しい特訓ですが何とか100回素振りを終わらせることが出来ました。

終わった瞬間、私は地面に膝と手を着いて息を切らしました。腕や太ももに痣が出来ています。


「はぁ…はぁ………もうだめ、動けない」

「もう限界ですか?仕方がありませんね、休憩にしましょう」


時雨さんは後ろを向いて道具を片付けています。こんな修行やってられない、早く試練を終わらせた方がいい、今なら…!私は何とか立ち上がってゆっくりと近づき、竹刀を振りました。


パシンっ!


しかし時雨さんは後ろをむいているのにも関わらず、手で竹刀を受け止めていました。


「う、嘘っ!」

「言ったでしょう?油断はしないと、それにまだ動けるじゃないですか、嘘までつくとは、武士道の風上にもおけませんね、素振りは続行です、続けなさい」

「えっ!?ま、待ってください!こ、これは違うんです、て、手が滑って……!」

「言い訳無用!」


バシンっ!


「いったあぁあい!」


時雨さんは、私の竹刀を奪いそのまま頭を叩きました。不意打ちされた怒りもあってかさっきよりも力が入っていました。

そしてまた、地獄の特訓が始まるのでした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やああっ!」

「ハッ!」


竹街のとある民家で、妖狐と猫又が戦っている。

おつねと木乃葉である。おつねは足と拳を振り、木乃葉はクナイを振り攻撃している。

どちらも攻守共に1歩も譲らずで、いい勝負だった。

2人は今修行をしている。この家の河童に2人で戦えという指示を受けていたのだ。


「いい動きだね木乃葉」

「おつね殿こそ、隙を見せない良い戦いぶりだ」

「もちろんまだ行けるよね?」

「ん、無論だ」

「行くぞ!」


見ての通り2人の実力は互角、戦いの基礎は身に付いているようだ。

その修行をおら、兵主部 水虎は縁側に座ってお茶を飲みながら見ていた。

すると、おらの横に2本の角の生えた黒くて長い髪の少女が座った。


「よぉ水虎、あいつらの調子はどうだ?」

「あ『酒呑』ちゃん、帰ってきてたんか?うん、戦闘の基本はしっかり学んでるべな」

「ふーん、それにしても時雨が他の街のもんを家に招き入れるなんて珍しいね、しかも廃墟街の妖怪と来た、どういう風の吹き回しだい?」


横に座った少女は『酒呑』おらと同じ時雨の古い友達でこの家に住んでる鬼だ。


「確かに珍しいっぺな、それに修行まで付けるなんて、多分よっぽどな理由があるんだべな」

「ま、何にしてもあたいは嬉しいよ、久しぶりに暴れられるんだからな」

「あんまり暴れすぎねぇでくんろ、片付けが大変だべ」


酒呑ちゃんは縁側を降りて、修行をしている2人の元に歩いていく。


「おーいお前ら、修行ならあたいも付き合ってやるよ」


「なっお前は!?」

「もしかして鬼か?」


2人は驚いている。それもそのはず、鬼は蓬莱の国にはほとんどおらず、戦が始まった時に外の山奥に全員引っ越したと言われている妖怪なのだから。

酒呑は蓬莱の国に残ると決めた唯一の鬼である。


「鬼が珍しいかい?まぁそれもそうか、あたいは『酒呑』だ、挨拶はこれぐらいにして早く喧嘩しようぜ?お前ら2人でかかってこいよ!」


「よっぽど自信があるんだな、望むところだ!」

「鬼と戦えるのは光栄だ」


両者とも戦闘態勢に入り、この場に緊張が走った。


「やあああっ!」

「はぁっ!」


おつねと木乃葉は同時に酒呑に全力で攻撃する。酒呑はおつねの拳と木乃葉の苦無を両手で簡単に受け止め押し返した。


「うわあっ!?」

「っ……!?」


押し返された2人は反動で飛ばされるもしっかり着地して体制を整える。酒呑はニヤニヤしている。戦えるのが楽しくて仕方ないのだろう。


「な、なんて力だ…」

「これが鬼の怪力、想像以上だ」


「へへ、久しぶりに暴れられるんだ、楽しませてくれよ?」


「おつね殿、私は後ろから仕掛ける、注意を引いて」

「分かった……はああっ!」


おつねが仕掛けて酒呑に殴り掛かる。酒呑は左手で防いで右手の拳でおつねの顔を殴るが擦れ擦れで避けている。

2人が殴りあっている時に木乃葉は酒呑の後ろに音もなく回り込む、挟み込んで叩く作戦だろう。

そして、木乃葉は飛び出して後ろから苦無を振った。

しかし酒呑はくるりと後ろを向き木乃葉の手首を掴みそのまま再び反転して投げた。


「せいやあっ!」


「なっ……気付かれ……うわああっ!」

「うわあああっ!?」


投げられた木乃葉はおつねにぶつかりながら3mほど飛ばされた。


「2人でボソボソ言い合ってるから何が来ると思ったらそんな程度かよ、見え見えだぜ」


「うぅ……くそ……」

「強すぎる……」


「で?もうへばったのか?弱ぇなぁ」


「くっ!……まだだ!」


木乃葉はすぐに立ち上がり、酒呑に近づいて切り付けようとする。だが、酒呑の下から上へ振り上げた素早い拳が木乃葉の顎に直撃、今度は上に飛ばされて落下した。


「ぐああああああっ!」

「木乃葉!大丈夫か?」


おつねは横たわる木乃葉を揺さぶるが返事がない、気絶してしまったようだ。


「あ〜あ、顎一発で気絶しちまったのかい、弱っちぃな」

「次は私が相手だ!」

「やめだやめだ、ここまでにしようぜ」

「なに!?私はまだ……!」

「怪我してぇのか?その猫みてぇによ、お前らは弱すぎる」

「やってみないとわかんないだろ!勝手なこと言うなよ!」


酒呑は「はぁ…」と溜息をつきながら言った。


「そういう所なんだよ、二人で立ち向かって勝てない相手に何故一人で勝てると思うんだ?無謀なんだよ」

「うるさい!まだ負けたわけじゃ……!」


おつねが言い終わる前に酒呑は素早く近づいて拳をおつねの前に突き出した。風圧でおつねの髪がなびいた。


「はいあたいの勝ち」

「は……速い……!」

「これで分かっただろ?お前はあたいには勝てねぇ」

「くっ……!」

「さてと、水虎、そこの猫を部屋で休ませろ、万全になったらまた稽古付けてやる、次はもっと楽しませろよな」


酒呑は自分の部屋に戻って言った。

オラは言われた通り木乃葉の元へ向かい、持ち上げた。

するとおつねが膝と手を着いて涙を流し始めた。


「う、うぅ……くぅっ……!」

「おつねちゃん?」

「くそ!くそぉ!私は……私はまだ、戦えるのにぃ!」

「気持ちはわかるべ、でも今は休みな」


オラは木乃葉を自分の部屋の布団に寝かせ、台所でお茶を入れて縁側に戻る。

縁側にはおつねが座っていた。その横にお茶を置いてオラも座った。


「お茶が入ったべ、ゆっくり飲みな」

「ありがとう、木乃葉は大丈夫?」

「気絶してるだけだからそのうち元気になるべ、酒呑ちゃんは顔に傷を残すような酷いことはしないっぺな」

「全然歯が立たなかったよ、力が桁違いだ、あれが鬼の怪力なのか?」

「酒呑ちゃんの本気はあんなもんじゃないべ、怒らしたら拳一振りで地面に大穴空くっぺな」


「人間が流した噂を勝手に吹き込むんじゃねぇよ」

「あいたっ!」


いつの間にか帰ってきていた酒呑にゲンコツをされる。


「何もグーで殴らんでもいいでねぇか!馬鹿力なんだから手加減ぐれぇしてくんろ!」

「殴られるようなことする奴が悪ぃんだ、よいしょっと、貰うぜ」


酒呑はおつねの隣に座り、本来オラが飲むはずだったお茶を勝手に飲み始めた。


「ああ!それはオラのお茶だべ!」


「うるせぇなぁ、いつまでも置いといたら冷めちまうだろ、んな事より狐っ子、お前なんで緑豊区からここ来たんだ?」

「え?緑豊区?」

「お前の住んでるとこじゃねぇのかい?」

「あぁ、あそこはもう緑豊区じゃないんだ、廃墟街ってとこでさ、どこもかしこもボロボロだよ」

「やっぱり戦か?」

「うん、勝手なことをする人間が憎くてしょうがなかったよ、でも鈴が気付かせてくれたんだ、悪い人間ばっかりじゃないってね、だから私は人間と仲良くなりたいんだ、お前、人間と仲がいいんだろ?どうやったら人間と分かり合えるのかなってさ」


酒呑は立ち上がって力こぶを見せながら言った。


「なるほどな、じゃ、今度は俺とお前だけで喧嘩しようぜ、あたいがお前を認めたらあたい流の人間との向き合い方ってのを教えてやるよ」

「やっぱりそうか……鬼は力で他の者を試す、師匠が言ってた、もし会うことがあったら全力でぶつかれって」

「ふーん、いい教育してんじゃねぇか、じゃあさっさとやろうぜ!」

「うん!」


「はぁ、また喧嘩だべか……オラはあの子の面倒でも見てくるべ」


そう言ってオラは縁側から離れた。

あの子とは桃色の髪をした子でリィルという名前らしい、彼女には家事を手伝ってもらっているが、なんというか……あまりにも不器用過ぎるためかおっちょこちょいであるためか、目を離すと不安で仕方がない。


「りぃるちゃん、洗濯はどうだべか?」

「大丈夫大丈夫♪後はもう干すだけだよ〜♪」

「それならよかったべ、じゃあ後はオラがやっておくべ、りぃるちゃんは休んでな」

「やったー!」


りぃるは家の中に戻り、オラも洗濯物を干して家に戻り、再びお茶を入れて居間に戻った。


「ほら、リィルちゃん、お茶だべ」

「ありがとう!家事がこんなに大変だと思わなかったわ、汗かいちゃったわよ」

「そうだべ、家事を甘く見たら行けねぇべ」

「水虎ちゃんってこれ毎日やってるんでしょ、考えられないわよ」

「オラだけじゃねぇべよ、あんたのよ〜く知ってる子も同じことをしてるんだべ」

「木乃葉のこと?確かに木乃葉は家の事をやってくれて……そっか……木乃葉はいつも私の為にやってくれてたんだ……」

「気付いたべか、そういう思いは普段からやってる子と同じ思いをして初めて分かるんだべな、だから木乃葉ちゃんのことを手伝ってあげるんだべ、それがりぃるちゃんができる一番の感謝だからな」

「うん!」


オラはお茶を飲んで一息つきながら話題を変えた。


「リィルちゃん、家事の途中で新しい術は手に入れたべか?」


何故こんな質問をしたかと言うと、元々時雨ちゃんからリィルちゃんに家事をさせるように頼まれていた。

どうやら家事をさせることでリィルちゃんの力を引き出せるとの事だったが、正直その意味が分からなかった。


「そんなの手に入んないよ、洗濯したり料理したりで魔法の練習もしてないし……」

「ふむ、なら外で一緒に試してみるべ!」


オラ達は外に出た。

リィルちゃんは猫の手が着いた謎の棒を持っている。

術を使うための物だろうか?


「さぁりぃるちゃん、さっきの家事を思い出して新しい術を生み出してみるべ!」

「そんな事言われても……あっ!ええいっ!」


リィルちゃんは何か閃いた様子、持っている棒を振りかざした。

すると猫の手の先っぽに光の輪っかが出来る。そして、棒の柄の部分を両手で持ち、それを口に近づけた。すると、


「フーっ!」


それに息を吹き込んだ。

その瞬間、目の前に大きなシャボン玉が出来上がる。人が一人入れる程の大きさだ。


「わあ、でっかいシャボン玉だべ」

「わーい!出来たー!」

「でもこれだけだべか?」


そう言いながらオラは指でシャボン玉をつついた。


「あっ!だめ!」

「え?」


リィルちゃんが止めに入ったが遅かった。オラはシャボン玉が割れる衝撃で吹き飛ばされてしまう。


「うわああああっ!?」


そして後ろの木にぶつかった。しかし、オラは甲羅を背負っているので特に痛くなかった。リィルちゃんはオラの元へと寄り心配そうな顔を浮かべた。


「大丈夫?」

「な、なんだべか!?」

「そのシャボン玉に触れると勢い良く破裂するの」

「凄いべ!どうやって術を発動しただか?」

「さっき洗濯してたでしょ?石鹸で洗ってたら泡がふわふわ〜って出てたの、それを思い出して、ルミエールって言う光の魔法を膨らましてシャボン玉っぽくしたんだ〜!」

「やっぱり時雨ちゃんの目に狂いは無かったべ、ささ、もっともっと見せてみるべ!」


その後もリィルちゃんは思い付いた術を次々と見せてくれた。最初はどうなる事やらと思ったがなんとかこの子の能力を引き出すことが出来たようだ。おつねちゃん達は酒呑ちゃんが面倒を見ているから問題ないだろう。

問題は鈴ちゃんだが……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「えいっ!はぁっ…はぁっ…!」


フラフラになりながらも私は力いっぱいに竹刀を振ります。しかし簡単に避けられ、その度に時雨さんに叩かれてしまいます。


「きゃあっ!?うぅっ……」


私は地面に膝を着いて息を切らします。もう痛くて動けません。


「遅い!そんなことではいつまで経っても私に1本はとれませんよ」

「うぅっ……もう限界です、そろそろ休憩させてくださいよ…お腹も空いてきたし……」

「いいえまだです、空腹に負けるのは集中出来ていない証拠、体力が持たないのは日頃の鍛錬をしていないからです、早く立ちなさい!」

「もう無理ですよぉ……」

「泣き言は聞きません、これはあなたの為の修行です、時間が無いと言ったのはあなたですよ?」


「時雨、もうよさないか、修行とは言え身体を壊しては元も子も無い」


突然、竹林の奥から声が聞こえて来ました。それと同時に時雨さんよりも少し高い背の茶髪のポニーテールで忍者の格好をした人が出てきました。


「『五月雨』姉様、お帰りになられたのですね」

「あぁ、しかし帰ってきてみたらなんだこれは?お客様がボロ雑巾のように扱われているではないか」

「人聞きの悪い言い方をしないでください、この方に修行をつけているだけです」

「いずれにせよもう休ませてやりなさい、見てて痛々しい」


た、助かった……やっと地獄の特訓が終了したのです。

そして忍者の格好の人が私の元へやって来て言いました。


「君は猫谷 鈴か?」

「え?なんで私の名前を?」

「昨日調査のために世話係に変装して城に潜入していてな、君の事は見ていた、調査したところあの地上霊は妖力の使いすぎでしばらく動けないらしい」

「あの城から脱出したんですか!?」

「ああ、地面の中までは結界が貼られていなかったのでな、穴を掘って出てきた」


しれっと言ってますがとんでもないことです。まるでモグラです。時雨さんは反論します。


「いえ、だからこそ今すぐに力を付けるべきなのでは?動けないうちに潰してしまう方が早いと思うのですが」

「まぁそう焦るな、腹が減った、時雨、酒呑と水虎を呼び戻してこい、飯にしよう」

「分かりました」


時雨さんはその場から去りました。

忍者の格好の人は私に手を差し伸べます。


「立て……そうにないな、ならば私が運ぼう」

「いえ、大丈夫です……うっ!いたた……」


立ち上がろうとしますが痛くて力が入りませんでした。


「無理はするな、私の妹がすまなかったな、あやつは加減がわからないやつなんだ恨まないでやってくれ」

「妹?」

「ああ、自己紹介がまだだったな、私は『五月雨』この家に住む忍、時雨の姉だ、まぁ詳しいことは飯の時にでもしよう、よいしょっと、軽いな、ちゃんと食ってるのか?」

「食べてますよぉ……」

「そうか、ならもっと食わないとな」


五月雨と名乗る女の人は、私を部屋まで運んでくれました。


「包帯を取ってくる、そこで大人しくしていなさい」

「いえ、包帯なら自分で……っ!いたたた……」

「無理はするなといっただろ?大人しくしていろ、すぐに取ってくる」


そう言って五月雨さんは部屋に私を置いて出ていきました。

しばらくすると五月雨さんは戻ってきて私の怪我をしたところに包帯を慣れた手つきで巻いてくれました。


「ありがとうございます」

「例はいい、私のお節介だ、飯が出来上がるまで少し話そうじゃないか、改めて時雨の姉、五月雨だ」

「猫谷 鈴です、えっと、五月雨さんは忍者なんですか?」

「ああ、竹街以外の街の情報を仕入れてきている、城の情報もな」

「地上霊は今何をしているんですか?」

「城の人間を無理矢理働かせている、それ意外の動きは今のところなかった」


もしかしたら殺されてたかもしれないと心配だったので城の人達の状況が聞けて少しだけ安心しました。


「じゃあ城の人はまだ無事なんですね!?」

「ああ、だがあいつは人使いが荒いな、あれやれこれやれの連続だったぞ」

「五月雨さんも働いてたんですね……」

「世話係に変装していたのでな、ところで、さっき包帯を取りに行った時、忍びのような妖怪が寝てたな」

「木乃葉ちゃんのことですか?」

「木乃葉……やはりな」

「やはりって、木乃葉ちゃんの事を知ってるんですか?」

「知っているも何も、木乃葉は私の弟子、木乃葉と名付けたのも私だ」

「そうだったんですか!?」


驚きです。確かに木乃葉ちゃんは蓬莱の国が出身だと言ってましたが師匠がいるとは聞いたことがありませんでした。


「まさか蓬莱の国に帰ってきていたとはな、どうだ?あいつはお前に迷惑をかけていないか?」

「迷惑だなんてそんな!むしろ逆です、木乃葉ちゃんには助けて貰ってばっかりで」

「そうか、あいつが他人を助ける側になるとはな……」

「木乃葉ちゃんは昔どんな妖怪だったんですか?」

「あいつは……」


五月雨さんが話始めようとした瞬間、障子が空いて時雨さんが入ってきました。


「五月雨姉様、昼御飯の準備が出来ました、皆揃っています」


「すぐに行こう、すまないな鈴、この話は飯の時にでもしよう、立てるか?」

「はい、少し痛いけど大丈夫です」


私達は食事のため、囲炉裏がある部屋に移動しました。

部屋の戸を開けると。みんなが囲炉裏を囲むようにして座っていました。


「あっ、鈴!包帯だらけじゃないか、大丈夫?」

「大丈夫だよおつねちゃんっておつねちゃんも傷だらけ……」

「私は平気だ、体が丈夫だからな!」


「ほんとだぜ殴っても殴っても立ってきやがる、しぶとさは一流だよ」


あぐらをかいて頬杖を着きながら角の生えた黒髪の人が言いました。


「あなたは?」

「先に名乗るのが礼儀じゃねぇのかい?」

「ご、ごめんなさい!私は猫谷 鈴です、おつねちゃん達と一緒に時雨さんの力を借りに来たんです」

「やりゃできるじゃねぇか、あたいは酒呑、鬼だ」

「お、鬼!?」


鬼と言えば良く昔話に出てくる怖い妖怪です。私も現実世界で小さい時には悪いことをすると鬼に攫われるとお母さんに言われたことがあります。やっぱりいるんですね、この世界には……。


「その状態を見るに、時雨に散々やられたみてぇだなぁ!いじめ過ぎだぜ?時雨」

「人聞きの悪いこと言わないで下さい、修行の結果です」


「おつねちゃん達と喧嘩してたやつが何を言ってるだか……」

「喧嘩はいじめとは違ぇよ、喧嘩はあれだ、挨拶みてぇなもんだ」

「んな物騒な挨拶があるか!」


「そもそも私はいじめてません!」


3人は揉めていますが、とても仲が良さそうです。

人間と妖怪が犬猿の仲だと言われていたのが嘘のようです。


「やめないか、客人の前で恥ずかしい」


そう言いながら五月雨さんが私の後ろから部屋に入りました。すると、黙って座っていた木乃葉ちゃん、そしてリィルちゃんが反応を示しました。


「ね、ねぇ木乃葉、あの人ってもしかして……」

「し、師匠……!」


「久しぶりだな、木乃葉、桃、よく帰ってきたものだ、まぁ詳しいことは飯を食べながらだ、ではいただこうか?」


私達は手を合わせて「いただきます」といい食事を始めました。

大変お待たせ致してしまい申し訳ありません!お久しぶりの更新です。

ドタバタしてて中々書けなかったのですが、やっと落ち着いて来たのでまた頑張って執筆しようと思います。

これからも見ていただけると幸いです!では、また次回〜♪

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