第43話、人と妖
門番の2人に連れられ、城の中に入った私達、城の人達はとてもざわついていました。それもそのはず、複数の妖怪が突然城の中に入って来たのですから、無理もありません。
私達は客室でしばらく待機していました。
「妖怪は警戒されてるのに、ちゃんとお客さんとして扱ってくれるんだね」
「蓬莱の国の人間はいくら敵であれどもてなしの心は忘れない、だから商店街でも買い物をする妖怪を拒絶したりはしないんだ」
「お団子屋さんにいたおばあちゃん、凄く優しかったよ、この和服もそのおばあちゃんがくれたんだ〜♪」
「そういえばいつの間にか和服に変わっていたな、後でお礼を言わなければな」
「うん!」
しばらくすると城の人に着いてこいと言われ、ある部屋の前まで来ました。
部屋の中から「入れ」と聞こえてたので、私は「失礼します」と言いながら襖を開けました。
中には白ひげを生やしているおじいさんが正座をしていました。
「そこに座りなさい」
おじいさんの目の前に座布団が4人分ありました。
ここの城に来たのは私とニーナちゃんとリィルちゃんと木乃葉ちゃんとゆうゆうちゃん、一つ足りません、すると、声が聞こえてきました。
【大丈夫、僕は幽霊化して相手からは見えないようにしてるから、いないって設定でいいよ〜】
私は心の中で返事をし、座布団にみんなと同時に座りました。そして、おじいさんが口を開きました。
「わしはこの城の家老をしておる『正悟』と申す、以後お見知りおきを」
「私は猫谷 鈴です!それと、ニーナちゃん、リィルちゃん、木乃葉ちゃんです、初めまして」
「うむ、早速じゃが本題に入ろう、話は聞いておる、どうやら本物の姫は商店街にいるそうじゃな?」
「はい!証拠もありますこれです、この櫛、お姫様から貰ったんです」
私は木野花姫の櫛を正悟さんに渡しました。
「……確かに本物だ、ということは今の姫は偽物……なんということだ、本当の妖怪を城に連れ込んでしまったのか……姫は商店街で何をしている?」
「今、妖怪と一緒に演説をしています、廃墟街の妖怪は危険じゃないって、手を取り合うべきなんだって」
「姫はなんて愚かなことを……!妖怪は危険な存在じゃ!滅ぼさなければならん!」
「廃墟街の妖怪は本当に危険じゃないんです!信じてください!」
「余所者の貴様に何がわかる!蓬莱の国の妖怪は人間を恐怖のどん底に突き落としてきた、そんな奴らの言うことが今更信じられるか、排除しなければ、わしら人間は平穏に暮らすことが出来んのだ」
「確かに妖怪は人間に酷いことを過去にしたかもしれない、でも、人間に酷いことをされたって言う妖怪もいるんです、同じ気持ちなんです!お互いの痛みはわかってるはずなのに、どうして争おうとするんですか!」
「黙れ!貴様ら妖怪のせいで、人間が怯えて暮らしているのじゃ!」
「そんなことないわ!さっきからテキトーなこと言わないでよね!」
「そうだにゃ!さっきから勝手なことばっかりだにゃ!」
リィルちゃんが私達の会話に割って入りました。
「なんだ貴様ら!急に割り込んできて!事実を言っているだけだ!」
「嘘っぱちよ!私、商店街のお団子屋さんに聞いたもん、商店街の人間は妖怪と仲が悪くないって、悪いのはお城の人達だけって、あんた達が勝手に人間は妖怪に怯えてるって勘違いしてるだけじゃない!」
「そんなに妖怪が危険な存在だっていうんなら、商店街の人間はとっくに襲われてるはずにゃ!」
「商店街の人間が?いいや、有り得ん!わしは騙されんぞ!」
「全く、相変わらず頑固爺さんじゃのぉ」
私達が揉めていると、襖の向こうから声が聞こえてきました。
そして、襖が開きました。そこには木野花姫を先頭に妖狸さんとおつねちゃん、野々ちゃんががいました。
「姫!?」
「爺や、そやつらの言うことは全て本当の事じゃ、商店街で妖怪と仲良くなりたい旨を皆に伝えたら、賞賛の声が上がっておったぞ、馬鹿なことを言うのはもうやめよ!」
「ぐぬぬ……」
「我が言ってもダメならこやつにも言って貰うかの〜」
姫は妖狸さんに合図を出しました。妖狸さんは前に出てきて一礼しました。
「初めましてじゃな蓬莱城の御家老さんよ、わしは妖狸、廃墟街の中心的存在じゃ、ワシら妖怪はお主達人間に危害を加えるつもりは一切ない、じゃがお主ら人間はワシらを一方的に滅ぼそうとしている、お主らがやっていることの方が危険ではないか?」
「くっ!そ、それは……!」
正悟さんはタジタジになっています。なにか言葉を返そうと必死になっていますが、遂には「わしの負けじゃ」といいながら、膝を着きました。
「どうやら、わしらの目は狂っていたようじゃ……姫の言う通りであった、手を取り合うべきだ」
「や〜っと改心しおったか……大馬鹿者め」
「申し訳ございませぬ、城のものを集めて1度話をさせてくだされ」
「うむ!では爺や、城の者を集めるのじゃ!わしらは少し会議をしてから行くぞ」
「御意、妖怪方は先に上で待っていてください」
そう言われた私達は城の案内係のような人に連れられ、城の最上階へと行きました。襖を開けると、姫が座る所であろうところにみぃちゃんが寂しそうに座っていました。みぃちゃんはすぐにこちらに気付きました。
「みんな!」
「みぃちゃん!」
私はすぐにみぃちゃんの元に駆け寄り、みぃちゃんを抱きしめました。
「無事でよかった、心配したよ」
「ごめんなさい、勝手に街に行ったりして……」
「ううん、私も待たせすぎちゃったよね、大丈夫?怪我とかしてない?」
「うん大丈夫、でもどうしてここにいることがわかったの?」
「本物の姫が教えてくれたんだよ」
そして私のそばに木野花姫達も私達の傍に来ました。
「お主が代わりに連れてこられた妖怪じゃな?ほうほう、本当にそっくりじゃ、鏡を見ているようじゃのう♪」
「あなたがお姫様ですか?本当にそっくり……」
「本当っすね、ドッペルゲンガーみたいっす」
「どっぺるげんがぁ?なんじゃそれは?」
「この世には自分と瓜二つの存在が3人はいるって言う噂っすよ、なんでもドッペルゲンガーを見るのは死の前兆って言われてるっすね」
「「えぇぇぇっ!?」」
セフトちゃんのドッペルゲンガーの説明に2人は同時に声を上げました。セフトちゃん……知らない人に平然と言う言葉じゃないよ……。
「我達、死ぬのか!?」
「そんな怖いこと言わないでよぉ〜!」
「セフトちゃん、怖がらせちゃだめ!大丈夫だよ、ただのそっくりさんなだけだから、世界は広いんだし顔が似てる人なんて1人や2人いるよ」
「すまないっす、噂を聞いたことあったんでつい……」
私がフォローを入れると、2人はほっと胸を撫で下ろしました。
その後しばらく雑談をしていると、正悟さんが大勢の人を部屋に連れてきました。
「姫、連れてきましたぞ」
「うむ、では皆の者座るのじゃ!」
姫が指示をするとさっきまでバラバラだった城の人達は、ビシッと整列し、みんな一斉に正座しました。恐ろしい程にタイミングがピッタリでした。
姫は私達に向かって「お主らも向かい側に座るのじゃ」と言われたので、城の人達の向かい側の座布団に座りました。
「姫、準備が整いましたぞ」
「うむ、お主達、よく集まってくれた!今から蓬莱の国の妖怪と人間のこれからの付き合い方について話し合おうと思う、まずは爺やから意見を聞こう」
「はっ!我々人間は先程皆と話し合った結果、妖怪が住んでいる廃墟街を建て直そうと考えております」
「うむ、妖怪からはどうじゃ?妖狸よ、なにか意見はあるか?」
「そうさな、わしらの住む街を新しくしてくれるのは願ってもない事じゃ、しかしそれよりもまずは妖怪と人間の信用の回復じゃろう、わしらは確かにお互いを認め合おうとはしている、しかし、廃墟街の妖怪はまだ人間に対して信用を持っていない者もいるのじゃ、恐らく商店街以外の人間も信用を持っていない者は少なからずいるはずじゃ、そやつらを納得させるきっかけが必要ではないのか?」
「なるほど、鈴はどうじゃ?」
「えっ!?え〜っと……私は……」
考えがまとまっておらず、私は戸惑ってしまいました。しかもこんな多い人の前で何か話すなんて、緊張してしまいます。
でもニーナちゃん達が励ましてくれました。
「鈴にゃ〜迷う必要は無いにゃ、鈴にゃ〜の言いたいように言えばいいんだにゃ」
「鈴ちゃんの思いを伝えればいいんだよ」
その言葉に背中を押され、私は勇気を振り絞って口を開きました。
「私は蓬莱の国の妖怪ではありません、プレスターという街から来たワーハクタクです、その街では人間と妖怪が当たり前に共存しています。キリンヤガの城の街でも最近、妖怪と人間が共存を始めました、それを見てきたからこそ私は思うんです、人間と妖怪は手を取り合うことができるって、一緒に歩んでいくことができるって、だから、今ここでお互いに和解をして一緒に蓬莱の国の未来を明るいものにしていくべきです!」
「うむ!よしわかった、今からわしがこの国の方針を決めるぞ」
木野花姫はそう言って目を瞑って考え始めました。
沈黙がこの部屋に流れます。今から何を言うのか、どうするべきなのか、姫の一言で全て決まるのです。そして、姫は目を開き。口を開きました。
「よし、決めた!これから人間と妖怪は、『人妖同盟』という物を結ぶことをここに宣言しよう!文句の無いものは手を叩くのじゃ」
城の人達は全員満場一致で拍手をしました。そして、私達妖怪も一斉に拍手をしました。
「よし、異論は無いな、では真ん中に盃と酒を用意せよ」
そう言われたお世話係の人達は立ち上がり、作業を開始しました。お世話係により、部屋の真ん中に小さい机と杯2つ、瓢箪1つが置かれました。
「爺や、そして妖狸よ、そこに座れ」
指示通り、正悟さんと妖狸さんは真ん中の机の前に正座し、杯を手にしました。
すると、木野花姫は瓢箪を持ち、それぞれの杯にお酒を入れました。
「では、お互いにその酒を口にせよ、それをもって同盟は結ばれたものとする」
2人は同時に静かに杯のお酒を飲み始めました。辺りは静寂に包まれています。
そして、数秒後、2人はお酒を飲み終え、杯を机に置きました。同盟が可決されたのです。
「今ここに妖怪と人間の人妖同盟がここに結ばれた、蓬莱の国の明日のため、お互いに豊かな生活を送ることをここに誓おう、では、これにて人間と妖怪の対談の義はお開きとさせていただく……」
その言葉と同時に、城の中では大きな拍手に包まれました。そう、ついにやったんです。蓬莱の国の状況を変えることが出来ました。
正悟さんと姫がこちらに来ました。
「猫谷鈴よ、この度は感謝するぞ、お主のおかげで爺やを説得し、蓬莱の国の明日を変えることが出来たのじゃ」
「私も嬉しいです!良かった、これで妖怪と仲良くできますよ!」
「うむ!楽しみじゃ♪」
「外の国から来た者よ、わしからも感謝をさせていただきたい、わしらの目の狂いを正してくれた、貴方がいなければ、わしらは妖怪に戦を仕掛けていた所だろう、これからは妖怪と共存をして行くことを約束しよう」
「きっと分かり合えるって信じていました、正悟さん達が話し合いに応じてくれたからこそ実現できたことです、ありがとうございます!」
「優しいなお主は、そして、姫に似た妖怪、そして姫、この度は本当に申し訳ありませぬ!」
「いいえ、間違いが晴れて良かったです」
「全く、自分の主の顔を見分けられぬとは何事か!」
「面目ありませぬ……」
私達は笑い合いました。これが私の望んでいたことなのです。人間と妖怪が一緒に笑いあって互いに理解し合うこと、でもまだこれは始まりに過ぎません、いずれは街の人達もこういう風になればいいなと思っていました。
その時です。
【あーつまんないつまんないつまんなーい!】
突然ゆうゆうちゃんの声が部屋中に響き渡りました。みんな動揺しています。どうやら全員に聞こえているようです。
「な、なんじゃこの声は!?」
そして、部屋の姫が座っていた場所にゆうゆうちゃんが姿を現しました。不機嫌そうです。
「ゆうゆうちゃん!」
「鈴、知り合いか?」
「うん、ねぇゆうゆうちゃん!やったよ!妖怪と人間を仲良くさせられたよ!」
「それがつまんないって言ってんのー!」
「えっ……?」
耳を疑いました。どういうことなんでしょうか……。
「余計なことしてくれたよね〜、せっかくいい感じに面白くなりそうだったのにさ〜」
「どういうこと?」
「だ〜か〜ら〜!こ〜んな妖怪と人間の馴れ合いなんて要らないの!争って、争って、争い続けて、いずれはどっちも滅んでいくのが面白いのにさ」
「どうして……どうしてそんなこというの!?」
「人間もほーんとに単純だよね〜、たかが余所者に聞く耳を貸しちゃってさ、単純すぎて城の人間にかけてた洗脳が解けちゃったじゃん」
「洗脳って?」
「城の人間には、妖怪を全否定するようにこっそり洗脳してたんだよ、でも何故か姫だけにはかからなかったみたいだね」
正悟さんが反発しました。
「貴様!わしらに変な術をかけていたというのか!」
「惜しかったな〜君がもう少し頑固なら、戦に持ち込めたんだけどな〜」
「許さん!者共、かかれ!」
正悟さんに命令された数人のお侍さんは刀を抜き、ゆうゆうちゃんに詰め寄りました。
「ありゃりゃ、僕が敵にされちゃったよ、でも……それも面白いね〜♪」
「はああっ!」
1人がゆうゆうちゃんに斬りかかります。でもゆうゆうちゃんは一切抵抗する素振りを見せません、ズバッと刀で切られてしまいました。
しかし、切られたはずのゆうゆうちゃんは無傷でした。
「何!?」
「無駄だよ、君達は僕に傷つけることは出来ない、僕は幽霊だからね」
「くそ!」
「ええい怯むな!一斉にかかれ!」
数人のお侍さんは全員でゆうゆうちゃんに攻撃をします。しかし何度刀で斬ってもゆうゆうちゃんの体をすり抜けるばかり、全くダメージを与えられていません。
「でも、流石にそんなにブンブン刀を振られたら不快だな〜、そ〜れ!」
ゆうゆうちゃんは指を振りました。すると、攻撃していたお侍さんが全員吹き飛ばされました。
「指ひと振りで全員飛ばされただと!?化け物め!」
「そんな、おかしい!呪いは相手が怖がってないとかからないはずじゃ……」
「ん〜?あはは♪まさかあんなの信じてたの〜?馬鹿だね〜、あんなの嘘に決まってんじゃ〜ん♪呪いなんて好き放題かけられるんだよ、君達をからかうためにわざとああやったのさ」
「っ……!」
怒りで戦闘体制に入ろうとした私をニーナちゃんが止めました。
「挑発に乗っちゃダメにゃ、相手には攻撃が通らないにゃ」
「でも許せないよ!戦を起こすのを楽しもうだなんて!」
「もういいかな〜?どうせ君達じゃ僕は倒せないし、そろそろ邪魔になってきたよ」
「っ!?皆逃げるんだ!なにか来る!」
妖狸さんは感ずいてみんなに指示を出しましたがもう既に遅く、私達の足元に大きな魔法陣のようなものが形成されました。
「みんな城から出てけー!」
ゆうゆうちゃんが手を広げると辺りがとても強い光に包まれました。突然の出来事に誰も対抗できず、1人も光から逃れることはできませんでした。その光と同時に私は意識を失いました……。
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「ううん……」
私はゆっくりと目を開けます。さっき城で気絶した私は、いつの間にかとある民家の布団で眠っていました。
私の顔を心配そうに見つめるみぃちゃんとニーナちゃんが視界に写ります。
「あ、起きた!鈴ちゃん、大丈夫?」「鈴にゃ〜!」
「みぃちゃん、ニーナちゃん、ここは?」
「狸の家にゃ、私達はあの幽霊に飛ばされたみたいなんだにゃ、廃墟街の妖怪がみんなを運んでくれたらしいにゃ」
「そうなんだ、みんなは?」
「お姫様と正悟さん、妖狸さん達とリィルちゃん達はこの家にいるよ」
「起きたばっかりで悪いけど早速居間に来て欲しいにゃ」
「うん!わかった」
私達は部屋を出て居間へと向かいました。廊下を歩いてる途中で話し声が聞こえてきます。居間の障子を開け中に入りました。妖狸さんと姫が相向かいになるように座っていて、姫の後ろに正悟さんが座っていました。
「お、起きたか、身体は大丈夫か?」
「はい!あれ?木乃葉ちゃん達は?」
「忍びの猫と青い髪の人間は情報を集めにいったぞ、そこに座りなさい、今後のことについて話し合おう」
私達は用意された座布団に座りました。
「それで、私達はあの後どうなったんですか?」
「あの地上霊に飛ばされたようじゃ、ご丁寧に廃墟街までな」
「しかしじゃな、飛ばされた城の人間は我と爺やだけなのじゃ」
「えっ?じゃあ他の人達は……」
「うむ、城に取り残されているということじゃな」
「そんな!助けに行かないと!」
「まぁ待て、忍の猫達が情報を持ってくるのを待とう、闇雲に突っ込んでも返り討ちにされてしまう、ところで姫達よ、お主らはあの地上霊について何か知っていることはないか?」
姫は首を横に振りながら答えます。
「いいや全く知らん、爺やはどうじゃ?操られていたようじゃが……」
「いいえわしにも分かりませぬ……地上霊という種族もあの城での一件で初めて目にしました故」
「やはりそうか……わしら妖怪も初めて目にする種族じゃ、鈴はどうだ?どうやら知り合いのようだったが?」
「はい、私がこの国に入る時に手助けをしてくれたんです、それに、捕まってしまったリィルちゃんを助けてくれたりもしました、悪い人には見えなかったんです」
「ふむ……奴の能力はわかるか?」
「確か、怖がっている相手に呪いをかけることが出来るって本人は言ってました、でもそれは嘘で私達をからかっていただけで、呪いはいつでもかけれるみたいです」
「呪術の類か……いや、それだとおかしい、呪術は基本的に相手の動きを封じたり、痛みを与えたりするものじゃ、あのように何人も転移させる結界を出すものでは無い、あれは大きな妖怪や魔力を持ってしても難しい結界を張る技術のはずじゃ、あやつはそれを一人で軽々しくこなしよった、本当は別の力を持っている可能性が高い」
「天生石の力ってことですか?」
そう言った瞬間、それぞれ考える素振りをしていた妖狸さんと姫達が一斉にこちらを向きました。
「天力を知っているのか?」
「はい、私、天力を持ってます」
私は隠していた天生石の付いたネックレスをカーディガンの下から出しました。
「おきつねから妖力を貰っていたのもそういう事か、妖力を天力に変えているな」
「はい、蓬莱の国に来た理由も天力を持った人を探すためだったんです」
「なるほどな、確かにこれならばあの転移結界を発動させられる」
「でもゆうゆうちゃんは呪いの能力を持っています、天生石の力は能力を持ってたら発揮しないはずじゃ……」
「呪術は人間でも習得は可能じゃ、自分で学んで習得したものは能力とは別物じゃ」
「そんな、天力と呪術も両方持ってるし、しかも普通の攻撃じゃ効かないなんて……」
「強敵じゃな、まぁ慌てるな、とりあえずあの忍び達の情報を待とう」
しばらく待っていると縁側の方から木乃葉ちゃんとセフトちゃんが帰ってきました。
「あ!2人共おかえり!」
「鈴殿、起きていたか」
「ただいま戻ったっすよ、鈴の姉貴も無事みたいでよかったっす」
「忍の猫達よ、何か掴めたか?」
「ん、城は暗い霧のようなものに囲われていた」
「近づいてみたんすけど、黒い霧はどうやら結界みたいで、中に入ろうとすると弾かれちまうんっす」
「立てこもっているのか……恐らくそれも呪術と天力を掛け合わせたものじゃな……姫よ、竹街か松街に地上霊に詳しそうな人間はいないか?」
そう言われた姫は正悟さんと一緒に考え始めました。数秒間考えた後、姫は発言しました。
「地上霊に詳しいかはわからぬが、松街の3大神社の者に聞いてみてはどうじゃ?あやつらには神の言葉を聞く能力がある、何か知っているのではないか?」
「ふむ、手がかりはありそうだな、松街で結界の対処を頼んでみることにしよう」
そして、今度は正悟さんが発言しました。
「相手があれほどの力を持っているとなると助っ人が必要だろう、竹街にいる『華の剣士』に依頼をするのはいかがか?」
「華の剣士……妖怪と人間が戦をしていた時、大きく貢献した人間だったな、よし、その者にも協力を要請しよう」
「じゃが妖狸よ、誰が行くのじゃ?全員で一つずつ回るのは時間がかかりすぎるぞ」
「そうさな……二手に分かれるのが効率がよかろう、だが配分はどうする?」
「じゃあにゃ〜が決めてあげるにゃ!」
突然ニーナちゃんが自信満々にそういいました。
何やら考えがあるようですが……。
「松街はにゃ〜とみぃにゃ〜とセフトにゃ〜に任せて欲しいにゃ」
「ニーナ様、リィルとお供致します」
「いいや、木乃葉にゃ〜達は鈴にゃ〜と一緒に竹街に行くにゃ」
「どうして私は竹街なの?」
「華の剣士と言うぐらいだから剣技を使う人間のはずにゃ、鈴にゃ〜は剣の能力を習得するんだにゃ、木乃葉にゃ〜達はその護衛を頼むにゃ」
「確かに、有名な人なら特別な天生石の力を持ってるかも!」
妖狸さんも姫達も納得しているようです。
「ならワシらはここに残ろう、野乃の世話をしなければならん、姫もとりあえずはここにいた方がよかろう、城ほど良いもてなしはできぬが、それなりには努力しよう」
「いいや他の者と同じで良い、我は民と同じ生活がしてみたかったのじゃ、特別扱いは息苦しくて叶わん」
「うむ、作戦は決まったな、今にでも決行と行きたいがもう日が傾いておる、今日のところはワシの家に泊まりなさい」
みんな一斉に頷きました。
それと同時にぐ〜っとお腹のなる音がしました。
「あの〜……そろそろ飯にしないっすか……?」
「セフト、泊めてもらう身でいきなり飯を要求するのは失礼だぞ」
「だって俺っち達蓬莱の国に来てからまともな飯食ってないっすよ?」
「はっはっはっ♪そうじゃな、直ぐに夕飯の支度をしよう、おつね!」
妖狸さんはおつねちゃんを呼びました。すると直ぐに隣の部屋の障子が開いて、おつねちゃんたちが現れました。
「わかりました師匠!すぐに準備します」
「野乃もやる!」
「あ!私も手伝うよおつねちゃん!」「私も!」
「にゃ〜も!」
私達は夕飯の支度をしました。
木乃葉ちゃんとリィルちゃんは食卓の準備をしてくれました。
そして全ての準備が終わって皆座卓に座り夕飯を食べ始めました。みんな雑談しながら食事を取ります。
ご飯とお味噌汁、焼き魚に漬物、久しぶりの和食です。
「美味しい!久しぶりにお米とお味噌汁食べたよ〜」
「お腹すいてたからより一層美味しいね♪」
私とみぃちゃんの言葉に引っかかったおつねちゃんが質問します。
「鈴は蓬莱の国に来るのは初めてじゃないのか?」
「元々私は現実世界の人間だったの、現実世界では日本って所に住んでいて、そこだと蓬莱の国と同じようなものを食べてたんだよ」
「じゃあ現実世界って、蓬莱の国と同じような所なのか?」
「うん、昔はそうだったみたい、今は大きな建物が沢山建ってて服装はみんな私みたいな洋服を着てて、食べ物も沢山増えたんだよ」
「そうなのか、じゃあ、現実世界には妖怪がいないって本当か?」
「うん、みんな人間だよ、よくお話とかには出てくるけど、実際にはいないの、だから私がこの世界に来た時にびっくりしちゃった、妖怪が当たり前にいるんだもん、なんなら私まで妖怪と人間が合わさった状態になるなんて夢にも思わなかったから」
妖狸さんも質問に加わりました。
「もうこの世界の生活には慣れたか?」
「ニーナちゃん達のおかげでだいぶ慣れました、でも色々と分からないことも沢山あって、例えば、国ごとの決まりとか……この世界に法律はないって聞いたんですけど……」
「ふむ、鈴よ、おまえさんは少し勘違いしておるな」
「勘違い?」
「うむ、この世界の創造神はわし達に法で縛ることはしなかった、しかしそれぞれの国の代表にあたる者は民を法で縛ることはできるのじゃよ、その国の中だけな」
「じゃあ、国の外はどうなってるんですか?」
「外は全く法はない、だから盗賊やらなんやらは森に潜んだりするわけだな」
「そうだったんですか、郷に入っては郷に従えってことですね」
「そういうことだ」
「ありがとうございます!あっ!」
私はアガルータでリラさんに言われた事を思い出しました。
『旅先で重要な情報を聞いても覚えていなければ何も意味がありませんわ、情報を聞いたらメモを取る!常識ですわ!』
私はリラさんから貰ったメモ帳とペンを取り出し、今言われたことをメモしました。
「ほう?勉強熱心じゃのう、その心意気、忘れるでないぞ」
「はい!」
私達は、お互いに情報交換をしつつ、その日の夕食を楽しみました。そして食べ終わって別荘に戻り、お風呂に入って布団を敷いて中に入り、寝ようとした時でした。
私みぃちゃんは疲れからかすぐに寝付いてしまい、すーすーと寝息を立てながら眠っています。でもニーナちゃんはヒソヒソ声で私に話しかけてきました。
「鈴にゃ〜、寝る前に聞きたいことがあるにゃ」
「どうしたの?」
「鈴にゃ〜は友達を助けたらどうするんだにゃ?」
「利奈ちゃんと一緒に暮らしたい、もちろんニーナちゃん達とも一緒に」
「にゃ〜は、故郷に帰ろうと思うにゃ」
「故郷?」
「にゃ〜は猫又だけが集まる村から来たんだにゃ、その村でにゃ〜は村長になる予定だったんだにゃ、でもにゃ〜はそれが嫌で村を出たんだにゃ」
「どうして村長になりたくなかったの?」
「にゃ〜は大人達にはいっぱい褒めて貰えたけど、にゃ〜と同じ歳の子にはチヤホヤされてムカつくって言われて、仲間外れにされたにゃ、にゃ〜は村長になんてなりたくなくて、友達が欲しかったんだにゃ」
「そうだったんだ、でもそれなのになんで故郷に帰りたいの?」
「お母さんに会いたいんだにゃ、お母さんはにゃ〜が村を出る時に手伝ってくれたんだにゃ、お母さんに恩返しとして友達を連れて旅の話を聞かせるって約束したんだにゃ」
「ニーナちゃんは優しいね、わかった、利奈ちゃんを助けたら、一緒にその村に帰ろ?旅の話をいっぱい聞かせてあげようね」
「うん!約束にゃ!」
「そろそろ寝よう、明日に備えなきゃ」
そう言って私達は眠りにつきました……。
かなり遅れましたが、あけましておめでとうございます!
今年も絶望の果ての理想郷をよろしくお願いします!
今年もゆるりと投稿して行けたらいいなと思っております、是非楽しんでもらえれば幸いです。では!また次回〜♪




