第39話、幼き狐の悲しい過去
山の中を歩いていた私達は関所で手続きをして蓬莱の国へと入った。蓬莱の国に入る時は関所で荷物検査をして安全だと認識をされると和紙を渡されて、それが安全な者であるという証である。随分と時間がかかってしまった。私は忍故、服の中に武器を沢山仕込んでいる。そのため、関所の者にやたらとこれはなんだあれはなんだと聞かれていたのだ。
「着きましたニーナ様、ここが蓬莱の国です」
「随分待たされたにゃ……木乃葉にゃ〜は色々隠しすぎにゃ、ちょっと怪しまれたにゃ……」
「これもニーナ様達を守るためです、お許しを」
「まぁ通れたから良かったにゃ、それにしても広いところだにゃ〜、みんななんだかみぃにゃ〜みたいな格好をしてるにゃ」
「この国の者は全員このような服装です、なのでニーナ様やセフトの格好だと街の者に警戒されます、まずは呉服屋に行って和服を取り揃えてもらいましょう」
「その前に鈴にゃ〜達と合流するにゃ、でも見当たらないにゃ〜」
「ぶれすれっとで連絡を取りましょう」
「そうだにゃ〜、テレフォ!鈴にゃ〜!」
ニーナ様は鈴殿を呼び出す。しかし、ぶれすれっとは反応しなかった。
「おかしいにゃ〜、また繋がらなくなっちゃったにゃ」
「あまりにも遠いと繋がらないみたいっすね……」
「これ全然使えないにゃ!あのポンコツ魔法使いめ!」
「少し周りを探して参ります、セフト、ニーナ様を呉服屋までお連れしろ、このまま真っ直ぐ進んで呉服屋と書いてある看板がある、その店だ」
「了解っす!」
私は素早く地面から飛び上がり、屋根の上へと登った。街の風景を見下ろす、なんだか懐かしい気分だ。しかし、鈴殿らしき者は見当たらない、格好が違うのですぐにわかると思っていたのだが……。もう少し奥に行ってみるか
私は屋根伝いに街の奥へと進んだ。しばらく進んでいると。下に何やら3人の男が倒れている。ここは住民区だが今は昼なので大体の人間は商店街に出向いているため人通りはほとんどない、それ故、3人の男には気づかなかったのだろう。私は下に降りて男達に近づいた。
「大丈夫か?」
「うぅ……くっそぉ……」
「何があった?」
「不法侵入者の妖怪共を捕らえて町奉行所に連れてこうとしたら、突然狐の妖怪が出てきてやられたんだ!」
「不法侵入者……っ!まさか!」
私は不法侵入者の妖怪と聞いてピンっときた。鈴殿達だ、ニーナ様の話で幽霊に街まで案内されていることは知っていたが、あの3人、壁を超えてきたのか……。厄介なことになってしまった。つまり、あの3人は罪人になってしまったのである。
「おい、その不法侵入者はどこに行った?」
「このまま真っ直ぐ進んで行ったぜ……多分『廃墟街』の方面だ……」
「わかった、その不法侵入者は私が捕らえておく、お前らは動けるようになったら大人しく奉行所に帰れ、廃墟街まで追いかけるのは危険だ、ここからは私が引き受けよう」
「お前……何もんだ?」
「…………ただの忍だ」
そう言って私はその場を離れた。流石に妖怪だとは言えない、この国の妖怪と人間は犬猿の仲である。お互い執拗にはに嫌う習性がある。理想郷で一二を争う大都市であるが治安は悪い。そのため、この区内の町奉行は妖怪に対して厳しく取り締まる。
今から向かおうとする『廃墟街』それは過去戦によって滅びた区であり、そこに妖怪は住み着いている。廃墟街の妖怪も人間を激しく追い返そうとするのだ。
(廃墟街……か……)
「てれふぉ、ニーナ様」
私はニーナ様に通信を繋ぐ。
『木乃葉にゃ〜、見つかったかにゃ?』
「いいえ、ですが手がかりを見つけました、今戻ります」
『でかしたにゃ!もう呉服屋にいるから戻ってきてにゃ』
「かしこまりました、らくろす」
ニーナ様との通信を切り、私は再び屋根を伝って呉服屋へと向かった。
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「ほらほら、もう少しだよ」
先を歩く狐の女の子はまだまだ元気そうですが、もうかれこれ10分以上も走り続けたのでもうヘトヘトです。
「はぁ…はぁ…ちょっと、待ってよ」
「足が痛いよ〜……」
「なんであんなに走ったのにあんたはそんなに元気なのよ……」
「お前達の体力が無さすぎるだけだ、気合いで歩け」
そんな無茶な……と思いつつも歩かなきゃ着かないので重い足を上げ街の中を進みます。しばらく歩いていると、先程の華やかな町並みとは打って変わってボロボロの家が沢山並ぶ所へと辿り着きました。
「よし、着いたぞ、ここが私達妖怪が住む場所、『廃墟街』だ」
「え?こんなところに住んでるの?もっといい場所いっぱいあるのに」
「人間の住んでる所になんて妖怪が住めるはずないだろ、変な事言うなよ」
「どうして?人間と妖怪は一緒に住んでるんじゃないの?」
「はぁ?人間の街に住むのなんて死んでも御免だね!いいか?余所者のお前達に一つ教えてやる、この国では人間と妖怪は犬猿の仲なんだ、そんな発言廃墟街の妖怪の前でしてみろ、尻引っ叩かれるどころじゃ済まされないぞ!」
「ご、ごめんなさい、気をつける」
「分かったならいい、さっさと行くよ、私の家はこっちだ」
狐の女の子はやや機嫌が悪そうに私達を案内しました。そして家に着きました。とてもボロボロの家で強風が吹いたらすぐにも崩れてしまいそうです。
「さ、ここだよ、入って入って」
狐の女の子は私達を玄関の中まで案内してくれました。私達は「お邪魔します」と言いながら靴を脱ぎ、中に入りました。そして縁側を通ってとある部屋に辿り着きました。
「この部屋には私の師匠がいる、くれぐれも失礼のないようにな」
「うん!」
「それじゃ開けるぞ、師匠!今戻りました」
襖の奥から「入りなさい」という声が聞こえてきました。
狐の女の子が襖を開けると、畳の部屋の真ん中の大きな座布団の上に旅館の女将のような格好をして、ショートヘアーの頭から丸まった三角の耳、腰の部分から2リットルのペットボトルよりも大きく丸い茶色と黒のシマシマ模様の尻尾が生えた女性がこちらに背を向けて座っていました。手には細いパイプのようなものを持っています。パイプの先端からは小さな煙が出ていました。
「師匠、客人を連れてきました」
「あぁ、そのようじゃな、『おつね』お茶を出しなさい、あとわしと『野乃』の分もな」
「はい」
大きな尻尾の女性に命令された狐の女の子は急いで部屋を出ていきました。そして、大きな尻尾の女性はパイプを1度吸うと、ふぅっと煙を吐き出し、立ち上がり、こちらを振り返りました。丸眼鏡をかけた女性でした。立つと首を上に傾けるほど大きい人でした。ざっと見て170cm以上はあります。
「ほう?可愛らしいお客さんだ、名は?」
「猫谷 鈴です!」
「実です!」
「リィルだy」
「うわわっ!」
私とみぃちゃんは慌ててリィルちゃんの口を塞いで言いました。
「リィルちゃん!敬語敬語!」「ですます使わないと!」
「あっ!リィルだよです!」
「「違うよ〜!」」
そうだ、そういえばリィルちゃんが敬語を使っているのを見た事がありません。失礼なことをしちゃった……と思って女性の方を見ると、女性は笑っていました。
「はっはっはっ♪良い良い、わしは『隠神 妖狸』見ての通り化け狸じゃ、以後お見知りおきを」
「「はい!よろしくお願いします!」」
「よ、よろしくねです!」
「もう!リィルちゃん!」
「はっはっはっはっ♪もうちょい言葉の勉強が必要じゃの〜、まぁ見たとこによると他の街から来たのじゃろ?疲れたじゃろ、『野乃』!座布団を三つ用意しなさい!」
妖狸さんがそう言ってしばらくすると、別の部屋の襖から黒髪のおかっぱ頭の女の子が座布団を三つ重ねて持ってきました。そして、私達の近くに座布団を置き、綺麗に三つ横に並べてくれました。その瞬間おかっぱ頭の子は妖狸さんの後ろに隠れてしまいました。
「これこれ、お客さんじゃぞ、しっかりとご挨拶せんか」
「うぅ……」
「仕方ないの〜、この子は『野乃』人間の幼子じゃ」
そう言われた瞬間、違和感を感じました。確か狐の女の子が言うには妖怪と人間は犬猿の仲のはず、どうして一緒に住んでいるのでしょうか?
「えっと、さっきの子がこの国の妖怪と人間は仲が悪いって言ってたんですけど……」
「あぁ、そうじゃな、じゃがこの子は別じゃ、色々あってわしらが預かっておる」
「そうだったんですか、野乃ちゃん、よろしくね!」
妖狸さんの後ろで隠れている野乃ちゃんに話しかけてみましたが「うぅ…」と言って目を逸らしてしまいました。
「すまんのぉ〜まだ初めて見る者達じゃから怖いんじゃろな」
「いいえいいんです、私も小さい頃はこんな感じでしたから」
「時期に慣れるじゃろ、まぁ座んなさい」
私達はそれぞれの座布団に座りました。それと同時に狐の女の子がお茶を6個お盆に乗せて持ってきました。
「野乃、そろそろ知らない者に慣れろよ、そんなんじゃ大人になった時に1人で生きてけないぞ」
「知らない人、怖い……」
「全く……師匠、お茶が入りました」
「うむ、『おつね』も挨拶をしなさい、野乃、お茶をこの方達の前に置いてあげなさい」
野乃ちゃんは狐の女の子からお茶を受け取るとそれぞれ座っている場所に置き始めました。
「私は『おつね』化け狐だ」
「私は猫谷 鈴!さっきは助けてくれてありがとう!」
「私は実」「リィルよ」
「ほう?助けてもらったとな?」
「はい!商店街の人に捕まりそうになった時におつねちゃんに助けてくれたんです」
「ふむ、おつね、お前まさか人間に手出しをした訳ではあるまいな?」
「ギクッ!?い、いえ師匠、この子達を連れて逃げただけです、なっ!そうだろ?」
「えっ?うん!おつねちゃんが瓢箪を使って商店街の人達を足止めしてくれたんです!」
「馬鹿っそれを言うな!……あっ……」
「はぁ……まぁ今回ばかりは状況が状況じゃ、仕方ないということにしておこう、とにかくゆっくりすると良い、おつね、客室に案内してあげなさい」
「はい師匠、お前達、着いてこい」
おつねちゃんは立ち上がりながらそう言いました。私達も妖狸さんにお辞儀をしておつねちゃんに着いて行きました。おつねちゃんは縁側を降りてしまいました。
「あれ?部屋に行くんじゃないの?」
「ああそうだぞ、私と野乃の部屋でもいいんだが流石に窮屈だろ?師匠はもう一軒家を持ってるんだ」
「どうしてもう一軒持ってるの?」
「昔、師匠の友達を泊めるために建てたけど、その友達が遠くに引っ越しちゃって今は誰も使ってないからもしお客さんが泊まりたいって言った時に残してあるらしい」
おつねちゃんはすぐ近くの家に案内してくれました。「ここだ」と指を指した先には、妖狸さんの家よりは小さくてもっとボロボロの家がありました。、それを見て思わず私は聞いてしまいました。
「えっと……これ本当に泊まれるの?」
「失礼なやつだなぁ、ちゃんと戸も開くし、台所も風呂も厠も使えるぞ、泊めて貰う身でわがまま言うな」
「ご、ごめんなさい……わがまま言うつもりはなかったんだけど、ちょっと心配になっちゃって、ほら、崩れちゃわないかな〜って」
「そんなすぐすぐ崩れるような家だったら案内してないよ、大丈夫、多少汚いだけさ」
「それを聞いて安心したよ、それじゃあお邪魔します」
私達はボロボロの家に上がり部屋の襖をあけました。部屋の真ん中には囲炉裏がありました。
「ここが茶間だ、この奥の部屋が寝室、布団は押し入れに入ってるからな、その隣が台所、羽がまと鍋と包丁とまな板ぐらいならあるぞ、その隣が風呂だ、薪は外にあるからな、厠は廊下の端っこにある、こんなもんかな、後は何かあったら私か師匠に言ってくれ」
「うん!ありがとう!優しいんだね、おつねちゃん」
「な、なんだよ、いきなり褒めるなよ、まぁとりあえずしばらくゆっくりしなよ、じゃあ私は戻るよ」
「うん!それじゃあまたね」
おつねちゃんは家に戻っていきました。
「さてと、どうしよっか?お腹すいたね〜、なんか食べようよ」
「待って、ニーナちゃん達に連絡を取ろうよ、きっと心配してるよ」
「うん!テレフォ!ニーナちゃん」
『鈴にゃ〜?』
「あ!ニーナちゃん!良かった〜繋がった〜」
『良かった〜じゃないにゃ!ちゃんと関所を通らないとダメにゃ!』
「ごめんなさい、まさかこんなことになるなんて思わなかったの……」
『木乃葉にゃ〜がなんとか説得してくれたから良かったけど、もう少しで罪人になるところだったにゃ、もう少し気をつけるにゃ』
「うん、気をつける……」
『ところで今どこにいるんだにゃ?』
「廃墟街だよ、狐の妖怪さんに匿って貰ってるの」
『やっぱり木乃葉にゃ〜の言ってた通りにゃ!今その廃墟街ってところの近くにいるにゃ、今向かうから待ってて欲しいにゃ、できればその妖怪にも伝えといて欲しいにゃ』
「うんわかった!伝えとく!ラクロス」
そう言って通信を切りました。そして2人に言われたことを話しました。
「やっとニーナちゃん達と合流できるんだね!長かった〜」
「どれもこれもゆうゆうのせいよ!あいつ今度会ったら許さないんだから!」
「まぁまぁ…2人はここで休んでて、私伝えてくる!」
私はおつねちゃんの家に行き、妖狸さんがいる部屋を開けました。しかし部屋の中にはおつねちゃんはおらず、妖狸さんがパイプを吸っていました。
「ん?どうした?」
「おつねちゃんに報告があるんです」
「ほう?なんの報告じゃ?」
「実は、私達以外に一緒に来た友達がいて、合流する予定だったんです」
「ふむ、そうか、ならわしが伝えておこう」
「ありがとうございます!じゃあ失礼します」
「あー待ちなさい、少し話そうじゃないか、座りなさい」
「はい」
私は座布団に正座をしました。妖狸さんはまたパイプを吸ってふぅっと煙を吐き出しました。恐らくここで言う煙草のようなものでしょう。そして口を開きました。
「猫谷 鈴と言ったな、お前さん、妖力を誰かからもらったね?」
「はい、そうです、でもどうして分かったんですか?」
「おきつねの妖力を感じるんじゃよ、会ったことはあるじゃろ?」
「はい、おきつね様から妖力を貰いました、おきつね様を知ってるんですか?」
「うむ、普通に知り合いじゃよ、近くに妖狐を祀った神社があったのじゃがあやつが引っ越してからは誰も使っておらん、あやつ程強い妖力を持った狐などいなかったからな」
やっぱりおきつね様って物凄い狐なんだ。まぁ、そうだよね、私に妖力を分け与えられるぐらいなんだもん、
妖狸さんは続けました。
「あの時は平和じゃったな、ここも廃墟街なんぞではなかった、昔のこの場所は『緑豊区』(りょくほうく)と呼ばれ人間と妖怪は普通に共存しておっての、おきつねの神社も人気の参拝場所じゃった」
「どうして仲が悪くなっちゃったんですか?」
「くだらない権力争いじゃよ、どちらが蓬莱の国を支配するのに相応しいかのな、最初は些細な言い合いじゃったが、そのうち戦にまで発達してしまったのじゃ」
「戦、それって、まさか、せ、戦争!?」
「うむ、その戦の名残がこの廃墟街じゃよ、つまり緑豊区が戦場になった訳じゃな、結局勝利したのは人間、負けたわしら妖怪はこうして廃墟街に追いやられたという訳じゃ、それから妖怪と人間は頻繁に睨み合う時代となってしまったのじゃ」
「そんな!じゃあここの妖怪は人間が住んでるところには住めなくて、ずっとこのボロボロの街で暮らし続けてるってことですか!?」
「ああ、その通りじゃ」
私はあまりの怒りに震えだしました。許せません、話し合えば解決できたことをわざわざ戦争までして、日常を壊して、ずっと睨み合っているなんて……!
「……かしい」
「ん?」
「おかしいですよ!どうしてみんなそれで納得できるんですか!?もう一度手を取り合おうって、そういう事はできないんですか!?」
「落ち着きなさい、残念じゃがもうこれは変えられない事実じゃよ、人間と妖怪は完全なる対立を作ってしまった、どちらかが動けばどちらかが滅ぶ、ならいっそ何もしないで睨み合っている方がかえって平和なのじゃよ、ま、物を売る職業のもんは仕事上妖怪が来ても嫌な顔はできないという人間の決まり事があるらしいがな、そこがわしらの唯一の救いじゃよ、不便なく生活できるのじゃからな」
「そんなのダメです!どうして妖怪だけがそんな窮屈な生活をしなきゃ行けないんですか!みんな平等であるべきですよ!妖狸さん、こんな状況変えましょうよ!」
「優しいなお前さんは、でもな、余所者一人が解決できる程の小さい問題ではないのじゃ」
「最初は一人かも知れません、でも、人間と手を取り合いたいと思っている妖怪はいるはずです!人間と話し合いさえできればきっといい方向にはなると思うんです!」
妖狸さんは険しい表情になりました。きっとしつこいと思われてしまったのでしょう。しかし、私は諦めきれません。私も負けじと真剣な眼差しで妖狸さんを見ました。そして妖狸さんはまた柔らかい表情に戻りました。
「お前さんの熱意は伝わったよ、わかった、考えておく」
「ありがとうございます、ごめんなさい、熱くなっちゃって」
「いいんじゃよ、確かにわしらも目の前の事だけを見すぎていたかもしれんな、全く、若いもんに咎められるとは思いもしなかったよ、おっと、気付けば昼の時間が過ぎているな、どうりで腹が減るわけだ、鈴、他の二人も呼んできなさい、一緒に飯を食べよう」
「はい!」
私は立ち上がって会釈をした後、妖狸さんの部屋、そして家を出ました。泊めさせて貰っている家に戻ろうと道を歩いていたその時です。
突然後ろから布のような物で口と鼻を抑えられました。何やら甘い匂いがします。私は必死に抵抗しました。
「んーっ!んーっ!」
暴れようとしますが相手の力は強く離れてくれません。次に私に強烈な眠気が襲って来ました。頭がぼーっとしてきて力がどんどん抜けていきます。そしてとうとう私は意識を失ってしまいました。
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「んぅ……?」
私は目を覚ましました。しかし目を開けてるにも関わらず辺りは真っ暗です。今わかっていることは何か布製の物を噛まされて喋れないということと、縄で手は後ろ手で、足は足首を縛られていること、そして足を曲げていないと壁に当たってしまう程狭い所に閉じ込められていることです。
「ん、んううっ!んーっ!」(だ、誰かっ!助けてーっ!)
私は必死に誰かに気づいて貰おうと声を出したり、足で壁をガンガンと蹴ったりしました。
しばらくすると、目の前が急に明るくなりました。急な光に目を瞑り、少しして開けると目の前にはおつねちゃんが立っていました。
「んっ!?おううえうわぁん!?」(えっ!?おつねちゃん!?)
「少し押し入れに閉じ込めさせてもらったよ、お前があんまりにも勝手なこと言うからさ、私もお前に聞きたいことがある」
「んぅ?」
「お前、妖怪じゃないだろ」
私は返答に困りました。確かに私は妖怪ではありません。ワーハクタクです。しかし私は頷くことも首を横に振ることも出来ませんでした。
「答えろよ、はいかいいえかの二択だろ?」
「うぅっ……」
「どっちでもないって言いたいのか?」
おつねちゃんは私の口の布を取りました。そしてまたさっきの質問をしました。
「ほら、答えろよ、お前は妖怪なのか?人間なのか?」
「ぷはっ!わ、私はワーハクタク、人間と猫の」
「じゃ人間とたいしてかわらないな、捕まえといてよかった」
「確かにそうだけど、どうしてこんなことするの?私は敵じゃないよ?」
「人間はいつもそうやって嘘をつくんだな、お前と師匠の話を聞いてたけど、この状況を変えるっていいながらどうせ裏切るんだろ?私は化け狐だし師匠だって化け狸なんだ、化かす相手を間違えたね、人間!」
「ま、待ってよ!騙すつもりなんてないよ!私は本気でこの状況を変えたいって思ってるんだよ?」
「私は、そうやって言って裏切った人間を、それに騙された妖怪を何回も見てきた、結局味方を装ってるだけなんだ、そんな嘘なんてすぐに分かるんだぞ」
「嘘じゃないよ!本当におつねちゃん達の味方だよ」
「へー、まだそうやって言い張るんだ」
おつねちゃんは着物の中から小さい刃物を取り出しました。そして、私の髪の毛を引っ張り首に刃の部分を近付けて来ました。
「痛っ!や、やめっ!」
「さぁ、どっちか偉べ、そのまま嘘をついて死ぬのか、正直に『隙を着いて襲おうとしました』って言って死ぬのか」
「お願い信じてよ!本当に私は……!」
「そっか、やっぱり人間は嘘つきだ、死んでしまえ!」
「い、嫌……やめてぇぇぇぇっ!」
おつねちゃんが手に力を入れて首に刃を押し付けた瞬間、私の天生石が反応して強く青い光と衝撃波を放ちました。その衝撃でおつねちゃんは部屋の入口まで吹き飛ばされていきました。
「うわあっ!?」
そして天生石は光を失いました。おつねちゃんは腰を抜かしています。
「な、なんだよ、今の」
「はぁ……はぁ……助かった……?」
「くっ!なんだよお前、人間の癖に生意気なんだよ!」
おつねちゃんは再び落とした小刀を拾い、私に足早で近づき、私の胸ぐらを掴んで小刀を振り上げました。まずい、今度こそ殺される……!そう思った時です。
「これっ!おつね!何をしておるか!」
おつねちゃんの後ろから妖狸さんの声がしました。おつねちゃんは慌てて手を離し、小刀を自分の後ろに隠して妖狸さんの方を向きました。
「し、師匠!?」
「野乃が慌てた様子で部屋に入って来ての、そしたら妙にお前さんの部屋が騒がしくなって来てみたらなんじゃこの状況は、何故鈴が縛られておる?納得のいく説明をしなさい!」
「これは……あ、遊びですよ遊び、最近こういう遊びが流行ってるんですよ、あはは…」
「ほう?」
妖狸さんはおつねちゃんの元まで歩き、小刀を持っているおつねちゃんの腕を掴んで無理やり自身の前まで持ってきました。
「こんなもの持った遊びがどこにある?」
「っ………!」
「聞いていたぞ、お前さん、人間は嘘つきと見下していたな?ならお前さんは正直者なはずじゃ、ならなぜこんな嘘をついた?お前さん、人間のことを言える腹か?」
「ちがっ……!」
「違わないじゃろ?お前さんはたった今嘘をついた、嘘じゃないと言うのなら、さっきの言動はどう説明をするつもりじゃ?」
「…………」
「見損なったぞおつね、お前がそんな奴だとは思わなかった、野乃、鈴の縄を解いてあげなさい」
妖狸さんの後ろから野乃ちゃんが出てきて、私の元まで駆けてきて私の縄を解いてくれました。
「猫のお姉ちゃん、大丈夫?」
「うん、助けてくれてありがとう、野乃ちゃん」
「お姉ちゃん傷つくの可哀想、見てるだけなの嫌だった」
「ありがとね、偉いよ」
私は野乃ちゃんの頭をなでなでしました。野乃ちゃんは嬉しそうです。
一方妖狸さんはおつねちゃんに怒りの眼差しを向けています。
「お前さん、何故こんなことをした?」
「こいつが、今の蓬莱の国の状況を変えたいって嘘をついたからです」
「嘘だという証拠はどこにある?」
「嘘に決まってます!人間はいつもこうやって寄り添う振りをして私達妖怪を殺そうとするつもりです!」
「鈴は獣人じゃぞ、人間ではない」
「半分人間なんだから人間みたいなものですよ!こんなやつのことを信じないで下さい!」
「たわけもの!さっきから聞いていれば当たり障りのないことを言いおって、全てお前さんの決めつけじゃろうが!もういい、わしはお前さんをそのような妖怪に育てた覚えはない、この家から出ていけ!」
「そ、そんな!師匠、私を見捨てるつもりですか!?」
「師匠などと呼ぶな!お前のような決め付けで行動するような弟子はいらん!何処へでも好きところに行くがいい!」
「う、うぅ……なんだよ……なんだよなんだよなんだよ!どうしてみんな分かってくれないんだよ!みんな……みんな大っ嫌いだ!私のことをバカにして!」
おつねちゃんは泣きながら家を出ていってしまいました。
「おつねちゃん!待って!」
「あやつめ、人間への抵抗が解け始めたと思ったのじゃがな……やはりまだ恨みは消えていないようじゃ」
「私、追いかけてお話してきます!話せば分かってくれるはずです!」
「うむ、どうやらわしが説得しても効果がないようじゃ、よろしく頼むぞ」
私が家を出ようとした時、野乃ちゃんがツンツンと私をつついて来ました。
「どうしたの?野乃ちゃん」
「おつねのこと、怒らないであげて、おつねは、いつも悪い子じゃない、野乃が代わりに謝る、ごめんなさい」
「謝らなくてもいいんだよ、分かった、私に任せて!」
「うん!」
私は再び野乃ちゃんの頭を撫でて、家を出ました。
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ここは廃墟街と言われる戦の跡地、にゃ〜達は呉服屋で和服を仕立てて貰ったあと、鈴にゃ〜を探すため、木乃葉にゃ〜と一緒にこの街に踏み入った。
この街は人間が踏み入ろうとすると酷く拒絶するため、人間であるセフトにゃ〜には門の前で1度別れ、街で情報収集をして貰っている。
「酷い街にゃ…なんで妖怪がこんな所に?」
「昔の人間と妖怪の戦で、ここが戦場になり妖怪が負け、人間の街に住んでいた妖怪もこの街に追いやられてしまった歴史があります」
「酷いやつらだにゃ!それで人間は綺麗なところでぬくぬく暮らしてるってことかにゃ?」
「はい、今もお互い睨み合っているとのことです」
「お互い窮屈そうだにゃ〜」
そんな話をしながら廃墟街を歩いていると。奥から狐の妖怪が目を伏せながら歩いてきた。にゃ〜は何か鈴にゃ〜の情報が掴めるかもと思い。話しかけた。
「ちょっとそこの君、聞きたいことがあるにゃ」
「なんだよ……グス……」
「どうして泣いてるんだにゃ?」
「お前には関係ないだろ!今腹を立ててるんだよ! 話しかけるなよ!」
「にゃっ!?」
狐の妖怪はにゃ〜を両手でドンッと押して、走って行ってしまった。
「なんなんだにゃ?あいつ、失礼なやつにゃ!」
「相当気が立っていましたね、こんな状況ですから、無理もないでしょう」
「おーい!」
突然、聞き覚えのある声が聞こえた。声の方向へ顔を向けると。鈴にゃ〜がこちらに走って来ていた。
「鈴にゃ〜!」
「ニーナちゃん、やっと会えたね!あれ?格好も変わってる、緑の和服?かわいい〜」
「かわいい〜、じゃないにゃ……どれだけ苦労したと思ってるんだにゃ?」
「ごめんなさい、ところで狐の姿をした女の子を見なかった?」
「見たにゃ、話しかけたらいきなり癇癪を起こして走って向こうの方に行っちゃったにゃ、変なやつだったにゃ」
「ありがとう!その子を探してたの」
「あの子、何があったんだにゃ?」
「実は……」
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私はニーナちゃんにおつねちゃんのことを説明しました。
「許せないにゃ!鈴にゃ〜を傷つけようとするなんて!とっ捕まえてボコボコにしてやるにゃ!」
「ま、待ってよ!恨みがあるわけじゃないよ、あの子にもきっと事情があるんだよ、だから少し話し合わなきゃ!」
「むむむ……なら一緒に着いていくにゃ、鈴にゃ〜の身に危険があったら困るにゃ」
「うん、ありがとう」
私達はおつねちゃんが走っていった方に向かって進みました。そして、しばらく探していると、おつねちゃんはもう使い物にならないぐらいボロボロな家の裏で体育座りでしくしくと泣いていました。私達は家の側面に隠れ、私は小声でニーナちゃん達にいいました。
「ここで待ってて、終わったらすぐ行くから、終わるまで絶対出てきちゃダメだよ?」
2人はこくりと頷きました。そして、私はおつねちゃんに近づきました。
「うぅ……ヒッグ…みんな……みんな大っ嫌いだ……!」
「おつねちゃん」
「なんだよ、放っておいてくれよ……」
「うん、一緒に話そ?まだおつねちゃんのこと分からないしさ……隣いいかな?」
「勝手に座ればいいじゃないか、いちいち聞くなよ」
冷たい反応です。私はおつねちゃんの隣に座りました。そしておつねちゃんに聞いてみました。
「ねぇ、前に何があったの?話してみて、少しは楽になるかも」
「お前に話して何になるんだよ」
「お願い教えて?おつねちゃんのこと知りたいの!」
「このまま黙ってるのもあれだし、教えてやるよ」
おつねちゃんは自分の過去のことを話し始めました。
「私は元々山の妖怪だったんだ、人間の住んでる街に食べ物を探しに行ったら迷っちゃってさ、食べ物も見つけられず倒れちゃったんだ、そしたら人間が拾ってくれてさ、しばらく一緒に過ごしてたんだ、そしたら戦が始まって他の妖怪が家を襲ったんだ食べ物も全て取られた、私が一生懸命説得して命は助けて貰った、でも人間にその妖怪の仲間だと勘違いされちゃって追い出されちゃったんだ……その後は散々人間に追いかけ回されたよ、誰に助けを呼んでも助けてくれなかったんだ、私は敵だからな」
「それで恨むようになっちゃったの?」
おつねちゃんは首を横に振りながら続けます。
「いや、その頃はまだ人間を恨んだりはしなかったよ、実は一人の人間に助けて貰ったんだ、それが野乃だったんだ、野乃は敵のはずの私に、食べ物を渡してくれたり傷を手当してくれたり、優しい子なんだ、その時は人間は捨てたものじゃないと思ったよ、でも私が人間に見つかった時野乃は私を庇って必死で傷つけるのを拒んだんだ、そしたら人間達は野乃を傷つけ始めたんだ、妖怪の仲間だって決めつけられてさ、私は必死で野乃を守りながら逃げ続けた、そして戦が終わって私は廃墟街に追いやられたんだ、野乃も一緒にね」
「それから私は人間が憎くて仕方なくなった、師匠に拾われてからもずっとね、人間は勝手な生き物だ、戦いに勝つためなら同じ種族の者まで傷つけて、その結果がこれだよ、野乃は人間が怖くなっちゃたんだ、だから私は人間に絶対復讐してやるって思ってる、野乃の為に、そして妖怪の為にね」
私は心が痛くなりました。確かに人間を憎むのも無理はありません、でも……。
「そうだったんだ、辛い思いをしたね、でも復讐なんてだめだよ」
「人間は勝手な生き物なんだ、殺さなきゃ行けないんだよ!今の話を聞いてなんでわかんないんだよ!」
「痛いほどわかるよ、でもそれじゃ何も変わらないよ」
「それじゃあお前は、このままやられっぱなしでいいって言うのかよ!」
「違うよ!復讐なんてしたって何も変わらない、野乃ちゃんはそれじゃ何も満足しない、人間と話し合って仲良くなるべきだよ!」
「ふざけんな!」
おつねちゃんは立ち上がって私に怒鳴ってきました。
「勝手な事ばっかり……お前に何がわかるんだよっ!余所者で人間と大して変わらないお前が私の心なんて分かるわけないだろ!」
そして、まだ持っていた小刀を懐から取り出して私に向けながらいいました。
「もう邪魔はさせない、殺してやる!いつまでも私のことをバカにして!」
「やりなよ!」
「っ!?」
「私を殺して気が済むんだったら、それでいいよ、さぁ、やって!」
私は手を広げて抵抗をしない意志を示しました。おつねちゃんは困惑しています。しばらく沈黙が続いたあと、おつねちゃんは小刀を持った手を下ろしました。そして私はいいました。
「ほら、できないでしょ?それはおつねちゃんが相手を傷つけても心が満たされないって分かってるからなんだよ?だから復讐なんてやめよ?ね?」
「くぅっ……なんで……なんでなんだよっ!」
おつねちゃんは地面に小刀を叩きつけて目に涙を浮かべながら私に大きな声で怒鳴りつけます。
「なんでお前はそんなに優しくできるんだよ!お前の事を気絶させて縄で縛ったんだぞ!お前を殺そうともしたんだぞ!酷いことしてるじゃないか!なんでそれでも私に寄り添う事ができるんだよ!」
「おつねちゃんが本当は優しい子なのを知ってるからだよ」
「っ……!」
「野乃ちゃんが言ってたんだ、おつねちゃんはいつも悪い子じゃないって、野乃ちゃんはおつねちゃんが優しいってことを知ってるんだよ?野乃ちゃんが私を助けてくれた時も、私が傷つくのが見てられないって言ってたんだよ?なのに、これから人を復讐して殺すなんてことしたら、野乃ちゃんが悲しんじゃう、だからそんなことやめよ?ね?」
「うっ……うぅ……うわああああああん!」
おつねちゃんはその場で泣き出してしまいました。私はすかさず、おつねちゃんをやさしく抱きしめて頭を撫でました。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「よしよし、悔しかったんだよね?野乃ちゃんを守るためにやったんだよね?」
「私、分かり合えるかな?人間と.....鈴みたいに優しく寄り添えるかな?」
「きっとできるよ、おつねちゃんは優しいから」
「師匠、怒ってるよね?」
「ううん、ちゃんと謝れば分かってくれるよ、大丈夫、私が着いてるから、だから一緒に謝ろ?」
「うん!」
すると、ニーナちゃんと木乃葉ちゃんが家の陰から出てきました。
「鈴にゃ〜……ものすごくヒヤヒヤしたにゃ……」
「鈴殿は毎回無茶をする……もう少し慎重にやってくれ」
「でも何とか説得できたよ」
「あれ?こいつら、さっきの……知り合いか?」
「うん、友達だよ」
「そっか、2人共、さっきはごめん……」
「ま、鈴にゃ〜に何もしなかったから許してやるにゃ」
「ニーナ様が許せばいい」
すると、おつねちゃんのお腹がぐぅ〜となりました。そういえば今はもうお昼過ぎ、私達は朝から何も食べていません。
「お腹すいたね、早く帰ってご飯にしよ」
「うん!」
「ニーナちゃん、木乃葉ちゃん、着いてきて、私達が泊まれる所があるの」
「でかしたにゃ!」
「感謝するぞ」
私達は妖狸さんのお家に帰りました。
どうも!秌雨です!
段々と暑くなってきましたね、もう夏になります。時間が過ぎるのが早いですね〜
さて、今回も新キャラがいましたね!そろそろキャラクターが多くなってきたので設定みたいなのを公開しようかと思ってます。公開したら確認していただけると幸いです。
では、また次回!




