第38話、山を越え......
アガルータの街を出発をした私達は、アガルータの東にある『蓬莱の国』というところに向けて歩いています。
雲ひとつない快晴、周りには広い草原、そこに伸びた砂の道、まるでRPGのフィールドを歩いているような感覚です。
「ねぇ、これから行く蓬莱の国ってどんなところなんだろう?」
「私達が説明する」
「蓬莱の国のことなら任せて〜♪」
「木乃葉ちゃんとリィルちゃん、蓬莱の国のこと知ってるの?」
「ん、私達は蓬莱の国出身」
「な〜んでも知ってるよ!」
「リィル、なんでもは盛りすぎ……」
「蓬莱の国はアガルータやプレスターよりも段違いに大きい都市、住民はみんな実殿のような格好をした人や妖怪ばかり」
「つまり、現状世界の昔の日本みたいな所?」
「私は現実世界を知らないからわからないけど、鈴殿が想像しているのと変わらないと思う、蓬莱の国はこの先にある山の峠を超える、その峠には関所があってそこを越えると辿り着く」
「関所?なんにゃ?それ?」
「街に変な人が入らないように見張るための門だよ〜、そこで荷物検査とかをやるんだよ〜」
「私達も過去に通ったことあるからそこは大丈夫だと思います、しかし問題は山、急な坂道が多く暗い場所で、さらには魔物や山賊も多い、お気を付けて、私達も全力でニーナ様達を守ります」
「山登りだったら俺っちに任せるっすよ!なんせサバイバルのプロっすから!」
「そ〜んなこと言って、この前は魔獣に襲わたにゃ、豹牙にゃ〜達がいなかったら全員食べれたにゃ」
「あの時は猛獣がいるなんて知らなかったからしょうがないじゃないっすか!」
「知らないで済まされるわけないにゃ!」
ニーナちゃんと元盗賊のセフトちゃんは喧嘩しています。アガルータの時も度々喧嘩をしていました。みぃちゃんは2人を宥めます。
「2人共喧嘩しないで、仲良くしようよ!」
「「だって〜!」」
「だってじゃないの!喧嘩はだめ!わかった?」
「はいっす……」「はいにゃ……」
みぃちゃんはとっても優しい子なのですが、みぃちゃんに叱られるとぐうの音も出なくなっちゃうんです。大人しい人ほど、怒ると怖いんですね……。
数十分歩いていると遠くの方に山が見えてきました。木々が生えた緑の山です。
「見えてきたよ!あそこ?」
「ん、あの山に峠がある、ニーナ様方、着いてきて下さい、案内します」
木乃葉ちゃんに案内され、私達は山の入口付近に到着しました。目の前には木のトンネルがあり、まるでニーナちゃんの家の近くにある暗い森の入口のようです。私は思わず聞いてしまいました。
「えっ……この中に入るの……?こんな、暗いところを?」
「ん、ここからが本番、気を引き締めて」
「えぇっ!?ここしかないの?もっと他にないの!?ほ、ほら、ぐる〜って回って裏から入るとか!」
「ない、蓬莱の国は山で囲まれた所、どこから入っても同じ」
「そんな〜……怖いよ〜」
すると、ニーナちゃんが私の前で腰を当てて言いました。
「鈴にゃ〜、怖がってたら前に進めないにゃ、にゃ〜達が付いてるから大丈夫にゃ、みぃにゃ〜もそう思うにゃ?」
「えっ!?う、うん……そ、そうだね……」
みぃちゃんも怖がってるみたいです。
「みぃにゃ〜もどうしたんだにゃ?そんなに震えて」
「え、えっと……わ、私もちょっと怖いかも……」
「でも、ここを越えなきゃ辿り着かない、覚悟を決めて、リィルは準備いいよね?」
そう言われたリィルちゃんも腰に手を当てて意気込みますが、どこが様子がおかしいです。
「えっ!?も、もちろんよ!こんなのよゆーよ!」
「リィル……同様隠せてないし足震えてる……」
「安心するっすよ、山では俺っちがしっかりエスコートするっす!」
「さっきもだが、随分自信があるんだなセフト」
「元盗賊っすからね、小さい頃に親っさんから自然で生きる術を教わってるっすから!だから鈴の姉貴達、怖がらなくても大丈夫っすよ!」
セフトちゃんはグッと親指を立てます。それを聞いて私達は少しだけ安心しました。
「そうだよね、怖がってばかりでもいられないよね」
「うん、私も頑張る!」
「セフト、ちゃんとニーナ様達と私を守ってよね!」
「もちろんっす!それじゃ行くっすよ、木乃葉先輩、道案内お願いっす」
「ん、こっち、暗いから足元には気をつけて」
私達は暗い暗い山の中へと入っていきました。
先頭には木乃葉ちゃんとセフトちゃん、その次にニーナちゃん、その後ろに私とみぃちゃんとリィルちゃんが3人で手を繋ぎながら進んでいました。
道も見にくく、吹き抜ける風も冷たく不気味です、鳥の鳴き声や羽音などが聞こえる度にビクッとしてしまいます。この山に入ってから数十分したぐらいでしょうか?恐る恐る歩いていると突然声が聞こえてきました。
【ふふふ♪かわいい♪】
「みぃちゃん、さっき何か言った?」
「え?ううん、言ってないよ」
「じゃあリィルちゃん?」
「何も言ってないよ〜」
「え?でも今誰か何か言った気が……」
「ちょ、ちょっとやめてよ!」
「そうよ!怖がらせないでよね!」
「ご、ごめんなさい、気のせいかな〜」
またしばらく歩いていると、今度はハッキリと聞こえてきました。
【気のせいじゃないよ〜♪】
「ひぃぃっ!?」
「きゃああっ!?」
「な、何!?なんなのよ!」
私以外の2人にもしっかり聞こえていたようです。私達はパニックになり3人で抱き合ってあげてその場に座り込んでブルブルと震えてしまいました。
「鈴殿、実殿、リィル、騒がしいぞ」
「だって今声が!」
「うん!うん!本当に聞こえたの!」
「本当よ!あなた達聞こえなかったの!?」
木乃葉ちゃんとセフトちゃんとニーナちゃんは顔を見合わせた後、首を横振っていいました。
「早く行くぞ、日が暮れると道が困難になる」
「俺っち達が付いてるから大丈夫っすよ」
「怖いと思うから変なのが聞こえてくるんだにゃ、早くしないと置いてくにゃ〜」
先を行く3人はまた歩きだしました。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」
「先に行かないでー!」
「ほんとに声が聞こえたのー!」
私達は慌てて立ち上がろうとした時、また声が聞こえてきました。
【おっと、君達は行かせないよ、え〜い♪】
その瞬間、なんも変哲のない地面に穴が空いて私達は3人とも真っ逆さまに落ちてしまいました。
「「「きゃああああああっ!!」」」
何も無い暗い暗い穴の中を落ちていく私達、いつ地面につくのかも分からない恐怖で悲鳴をあげ続けました。そして、突然柔らかいものにバサッと落ちました。ザラザラとした感触、青っぽい匂い、どうやら沢山集められた葉っぱの上に落ちて無事だったみたいです。
「うぅ……2人とも大丈夫?」
「うん、なんとか……」
「もう!さっきからなんなのよ!」
「ここどこだろう?暗くて何も見えないよ……」
「あ、それなら私に任せて!『ルミエール・エクライレル』〜♪」
リィルちゃんは魔法を唱えると周りが見える程度の光がリィルちゃんが持つ猫の肉球が付いたステッキに灯りました。これでお互いの顔が見れます。リィルちゃんがステッキを色んなところに向け辺りを照らすと、岩が見えました。どうやらここは洞窟のようです。
「ありがとうリィルちゃん、これで少しは見えるようになるね」
「でもどうしよう、だいぶ深いみたいだよ?上には戻れなそう」
「えー進むの〜?……暗くて嫌なんだけど……あ!テレフォブレスレットがあるじゃない!」
「あ、そうだね、使ってみよう、テレフォ!ニーナちゃん!」
しかしブレスレットに反応がありません。
「あ、あれ?テレフォ!ニーナちゃん!」
もう一度やって見ても同じでした。
「繋がらない……」
「壊れてるのかな?」
「えー、便利かと思ったのに、ポンコツじゃない!」
「仕方ない、先に進んでみよ?」
私達はリィルちゃんの光の魔法を頼りに、洞窟の奥へと進んでいきます。すると突然、
「うらめしや〜」
目の前に真っ白な着物を着て、頭に3角の布を付けた水色のショートヘアーの女の子が現れました。足がなく、常に宙にふわふわ浮いています。
私達はまたもや3人で抱き合って悲鳴を上げました。
「きゃああああっ!」
「で、でたあああっ!」
「お化けーーーっ!」
「テンプレのような驚き方だね〜、ふふふ♪」
幽霊の女の子はこちらに近づいてきます。私達はその場から走って逃げ出しました。
「おっと、逃がさないよ〜、えいっ!」
「わあっ!?」「きゃっ!」「きゃあっ!?」
しかし私達は何も無いのに躓いて転んでしまいました。
「あはは♪やった〜♪それじゃこのまま、『金縛りの呪い』!」
幽霊の女の子がそう言った瞬間、私達の身体はまるでなにかを全身に締め付けられたように動かなくなりました。
「うぅ、動けない……!」
「金縛りだよ〜、私の呪い、凄いでしょー?」
「私達をどうするつもり?」
「それはね〜……」
幽霊の女の子はニコニコしています。私達は何をされるのかが分からず、震えながら息を飲みました。そして、女の子は口を開きました。
「何もしませーん♪」
「えっ?」
「だから、何もしないよ?今、呪いを解いてあげるね」
そう言いながら幽霊の女の子が人差し指を振ると。締め付ける感覚がなくなり動けるようになりました。
「実は驚かせたかっただけ〜、あはは、ごめんね〜♪」
笑いながら謝る女の子にリィルちゃんはステッキを構えながら怒りの声を上げました。
「ふざけないでよ!散々嫌がらせしておいて、あははごめんねですって!?絶対許さないんだから!」
「そんなに怒らないでよ〜、これにはちょっとした訳があるんだよ〜」
「何よ!答えようによっちゃ魔法で焼き尽くすわよ!」
幽霊の女の子は全く動じる気もなく説明を始めました。
「僕の能力は相手に呪いをかけること、だけど相手が怖がってないと効果がないんだ、だから考えんたんだよ、僕幽霊でしょ?だから相手を怖がらせればいいんじゃないかなって思ってその練習がしたかったのさ、で、怖がらせるために落とし穴をしかけたんだ、そしたら君達がたまたま通りかかった、でも6人のうち前の3人は全然怖がりそうもないから、ビクビクしてる君達を選んだって訳!」
それを聞いてリィルちゃんは…
「じゃあ、あんたの呪いの練習のために私達は使われたって訳!?もう許さない!完全に怒った!」
リィルちゃんはステッキを構えたまま魔法を唱えました。
「ファイヤーショット!」
「おっとっと」
ステッキから炎の玉がでて幽霊の女の子に向かって飛んでいきました。しかし避けられてしまいました。
「危ないなぁ、少し動けなくしただけじゃんか、そんなに怒らないでよ〜、でもちゃんと謝まんなきゃね、試したりしてごめんね〜」
「謝ってるようには見えないんですけど!」
「まぁまぁ、一応謝ってくれたんだし…」
私はリィルちゃんを宥めました。不満げですがステッキを下ろしてくれました。そして、私はふと気になったことがあるので質問しました。
「ねぇ、この世界で死んじゃったらどこかで蘇るんじゃないの?どうしてあなたは幽霊なの?」
「ん〜ちょっと違うんだな〜、人が死ぬとまずはそのまま幽霊になってこの洞窟よりもっとも〜〜〜っと深い『黄泉の国』に飛ばされる、その後はそのまま黄泉の国に住み続けることもできるし、望めば元の記憶を無くしてこの世に蘇る事も出来るって教わったよ〜」
「でも、あなたは?」
「僕は元々こういう種族なんだ〜、『地上霊』って言うんだけどね、ちなみに黄泉の国の人は『地下霊』ね〜」
まさか幽霊という種族がいるなんて、やっぱりまだまだこの世界は謎だらけです。そして今度は幽霊の女の子が質問をしてきました。
「じゃあそっちが質問したからこっちも質問していいよねー、君達こんな山に何しに来たの?」
「私達は蓬莱の国に行きたいの」
「なるほど〜、うん分かった!じゃあ怖がらせちゃったお詫びに蓬莱の国まで連れてってあげる!」
「え?ほんとに!?」
「ほんとほんと、どうせお仲間も先に行っちゃってるだろうしね」
「あんたがこんなことしなければニーナ様達とはぐれること無かったんですけど……」
「嫌味言わないでよ〜、案内してあげるんだからさ、ほら、しかも安全に行ける方法があるんだ、それで許して」
リィルちゃんは腕を組んで「ふんっ」といいながらそっぽを向きました。
「あらあら、嫌われちゃったよ、悲しいな〜、ま、それはそれとして、まずはこの洞窟から出なきゃね」
「うん!だから案内お願い!」
「え?」
「えっ?ってこの洞窟から出なきゃでしょ?落とし穴を掘ったあなたなら出方もわかるんでしょ?」
「そんなの知らないよ、だって穴を掘って落としたところがたまたま洞窟だったんだもん」
「「「えーーーーっ!?」」」
3人の声が洞窟に響き渡ります。つまり、脱出する方法が誰にも分からないということです。
リィルちゃんは更に問いつめました。
「ちょっと!さっき蓬莱の国まで案内してくれるって言ったじゃない!話と違うわ!」
「それは地上にでてからの話だよ〜?僕は常に宙に浮いてるからすぐ出れるけど、君達はどうするの?」
「じゃあ飛べるようにしなさいよ!」
「そんなこと言ったって呪いをかけようにも君達もう怖がってないじゃ〜ん、呪いがかかんないよ」
「そこをなんとかしなさいよ!」
「全く、しょうがないなぁ……」
女の子はそう言うと突然スーッと姿を消してしまいました。
「あれ?消えちゃった」
「あいつ…逃げたわね……」
キョロキョロと探していると突然、リィルちゃんのステッキの光が消えてしまいました。
「え!?嘘!?魔力はまだまだあるのに!」
「暗くて何も見えない!」
「怖いよ〜!」
【今だ!そ〜れ!】
すると突然女の子の声が聞こえたのと同時に身体がふわふわと浮かぶような感覚がしました。そして再びリィルちゃんのステッキに光が灯り、辺りを見回すと本当に私達は宙に浮いていました。
「えっ!?私達浮いてる?」
【そのと〜り!】
そう言って女の子は目の前に再び姿を現しました。
「驚いたでしょ〜、君達をびっくりさせて、幽霊化の呪いを掛けたのさ、自分の足を見てみなよ〜」
言われた通り足を見て見ました。そうです、女の子と同じように私達も足が無くなっているのです。
「本当に幽霊になっちゃってる……」
「なんか変な感じ……」
「それはいいけど、ちゃんと元に戻せるんでしょうね!」
「呪いを解除すれば元に戻れるさ、さて、こんな所でのんびりしてる暇はない、早く出よう!着いてきて、身体を前に倒せば進めるよ」
私達は女の子の後に続いて洞窟を出ました。
「よし、そろそろいいでしょう、呪い解除!」
「うわっ!?」「きゃっ!」「きゃあっ!」
外に出た途端、急に身体が重くなり、地面にお尻から落ちてしまいました。
「痛たたた……ちょっと!解除するんならちゃんと言ってからにしてよね!」
「あはは〜失敗失敗、それじゃあ行こっか?」
「あれ?ちょっと待って!」
私の手首が突然震えだしました。なんだろうと思って手首を見るとテレフォブレスレットが反応しています。きっとニーナちゃんだと思い『リスポンド』と言って繋げました。
『あ!繋がったにゃ!鈴にゃ〜達、今どこにいるんだにゃ!?テレフォブレスレットも繋がらなかったしセフトにゃ〜に戻らせてもいないって言うし心配したにゃ!』
「ごめんなさい、ちょっとトラブルがあって、とりあえずこっちはみんな無事だよ、今はさっき私達が座り込んだ場所にいるよ」
『良かったにゃ……にゃ〜達はそこからしばらく進んだところにいるにゃ、合流しようにゃ』
「えっと、それがね、さっき蓬莱の国まで案内してくれるって人がいて、安全に行ける道を知ってるんだって、着いて行って大丈夫かな?」
『ん〜……ちょっと怪しいにゃ……』
「ちょっとそれ貸してよ」
女の子は突然私の腕を掴んで手首を自らの口に近付けました。
「どうも〜、親切な人で〜す♪」
『にゃっ!?もしかして、鈴にゃ〜の言ってた子かにゃ?』
「そのと〜り、僕がきっちり案内するから安心してよ、君達は君達の道で行きなよ、大丈夫、ちゃんと案内するからさ」
『むむむ……ほんとかにゃ?もし傷つけたら承知しないにゃ!』
「僕にお任せ〜♪ちゃ〜んと責任を持って蓬莱の国まで連れて行きますにゃん♪っと、はい、返す」
女の子は手を離しました。
「……らしいです」
『ま、まぁ分かったにゃ、とりあえずはそいつに任せるにゃ、もし襲われそうになったら直ぐに逃げるんだにゃ』
「うんわかった!じゃあ蓬莱の国で」
私は『ラクロス』と言って電話を切りました。女の子は不思議そうな目でこちらを見ています。
「ごめんね、それじゃ行こっか?」
「あいよ〜、それじゃちゃんと着いてきてね〜、そう言えば君達名前は?」
「私は猫谷 鈴!よろしくね!」
「私は実、よろしく!」
「リィルよ、ちょっとでもこの子達に変なことしたら許さないんだからね!」
「あなたの名前は?」
「僕は名前がないんだ、だから好きに呼んでいいよ〜」
「じゃあ私がつけてあげるわ!」
リィルちゃんが腰に手を当てて、自信満々にそう言いました。
「じゃあ〜、あなたは幽霊だから〜『ゆうゆう』!素敵な名前でしょ?」
「え〜、変な名前」
「付けてあげたんだから文句言わないでよね!」
「まぁそれでいいよ、それじゃあこっちこっち」
幽霊の女の子のゆうゆうちゃんは道の横にある茂みに向かって進み始めました。
「ゆうゆうちゃん、そこは道じゃないよ?」
「こっちの方が近いしわざわざ関所の面倒臭い手続きしなくていいから楽なんだ〜」
「うぅ…歩きにくそう…」
「転んだりしないかな?」
「服が汚れちゃうじゃない」
「茂みなんだし歩きにくいのも服が汚れるのも当たり前だよ〜、文句言わない、早くしないと置いてくよ」
そう言って進んでいきました。私達も仕方ないと諦めて、茂みに入りました。草が膝ぐらいの高さまである茂みで、とても歩きにくくて、時々草が足に絡みついてつまづいたり転んでしまいそうになりながら進んでいます。そして、草木をかき分けながら30分ぐらい歩いていると。木製の5メートル程ある壁を発見しそこの目の前に行きました。
「あれ?行き止まり?」
「ううん、ここが蓬莱の国と外を分ける境界壁だよ、外から簡単に入れないように高い壁が隔たれているんだ、ここから入ろう」
「こんな高いところ登れないよ……」
「言うと思った、みんな目を瞑って、鈴、ちょっと手を出してよ」
言われた通り目を瞑って手を出すと何かが私の手に置かれました。置かれた物はヌメヌメとした触感がします。
「はい、みんな目を開けていいよー♪」
私達は一斉に目を開けました。そして、手に乗ったものを見ると……なんと30cm程の蛇でした。
「「「きゃあああああああっ!!!!」」」
私は悲鳴と共に蛇を投げ捨てました。その瞬間にゆうゆうちゃんは指を振りました。
「今だ!『幽霊化の呪い』!」
そして私達の身体は軽くなり宙に浮きました。私達を怖がらせて呪いをかけたのです。ゆうゆうちゃんは手を上げて喜んでいます。
「やった〜大成功〜!今日調子いい〜♪」
「もう!その驚かせ方は卑怯だよ!心臓止まるかと思ったよ!」
「あはは〜、ごめんね〜♪ほら、こうでもしないと怖がってくんないでしょ?」
「うぅ……怖がらせないで呪いをかける練習して欲しいよ……」
「そりゃ無理な相談だね〜、だってこう言う能力なんだからさ、とりあえず早く行こう、飛ばなくてもこのまま壁に突撃すれば壁をすり抜けられるよ」
私達は壁に向かって進みました。壁には激突せずに、すぅーっと壁をすり抜けました。そして、ゆうゆうちゃんは呪いを解除しました。しかし、壁を超えたのにも関わらずまた木の壁が目の前にありました。どうやら門の近くの家の裏みたいです。
「さぁ、ここが蓬莱の国だよ、この裏路地を抜ければ広いところに行けるよ」
「良かったぁ、やっと着いた、案内してくれてありがとう!」
「どうってことないよ〜、さて、僕の役目はここで終わり〜、僕は家に帰るよ〜またね〜♪」
「うん!ありがとう!」
私達が別れを告げたあと、ゆうゆうちゃんは姿を消しました。
「ふぅ……なんだか凄く疲れちゃったよ」
「色々あったね〜、でも辿り着けてよかった」
「お腹すいちゃったよ〜」
「そうだね、とりあえず裏路地から抜けよう、ニーナちゃん達と合流しなきゃ」
私達は裏路地を抜けました。明るい日差しが差し込んできます。周りは和風の家が立て続けに並んでおり、道行く人々はみんな和服を着ています。まさに日本の古い時代のような街並みです。街の人は多くとても賑わっています。
「わあっ!凄い!さっきの森が嘘みたい!」
「私みたいな格好の人が沢山いるね!」
「うわあ、久しぶり〜♪帰ってきた感じ〜♪」
しばらく見れなかった賑わいに私達は一気に元気を取り戻しました。そして、ニーナちゃん達と合流するため、関所の方に行こうと歩き出した途端、後ろから声をかけられました。
「なぁ、あんたら、この辺じゃ見ねぇ顔だな」
声を掛けられた方を向くと、紺色の着物を着た男の人が3人立っていました。ちょんまげを頭につけています。
「あ、はい!ここの街は初めてなんです」
「おうそうか、じゃあもちろん関所はちゃんと通ってきたよなぁ?」
「えっ……は、はい!ちゃんと通ってきました!」
そうです、私達はしっかりと関所という場所でしっかりと手続きをせずに入ってきてしまったのです。でも、流石にそうは言えないので嘘をつきました。
「ほう?じゃあ和紙は持ってるんだろうな?」
「えっ!?わ、和紙……ですか?」
「そうだよ、関所で検査をした証明をした和紙だ、まさか持たねぇで違う場所から入ってきた、なんてこたぁねぇよなぁ?」
「え、え〜っと……あ、あはは〜、お、落としちゃったかも〜」
「嘘つけ!おい、こいつらを捕らえろ!」
「へい!」「へい!」
3人の男の人は突然、私達の腕を思いっきり掴んで来ました。
「痛っ!ちょっと待っt……きゃああっ!」
「きゃっ!こ、怖いよ〜!」
「は、離しなさいよ!」
そして、男の人達は私達の足に縄をかけて思いっきり引っ張りました。バランスを崩して倒れた瞬間にそのまま縄で縛られて3人全員、拘束されてしまいました。固く縛られてしまい、とても抜け出せそうにありません。
「この不届きもんが!この街に何しにきやがった!」
「ち、違うんです!確かに勝手に違うところから入ったのは認めます!で、でも私達は怪しい者じゃないんです、信じてください!」
「怪しくねぇもんならちゃんと手続きを踏んで来るはずだ!しかもお前ら妖怪じゃねぇか!詳しく話は聞かして貰うぞ、連れてけ」
縄を引っ張られ、私達は強制的に連行されてしまいました。もしかして、私達、逮捕されちゃったってこと!?
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いつも通り1人の幼い人間を連れて商店街を歩いている妖怪がいた。幼い人間の為に菓子を買ってやろうと、人間に化けて街中を歩いている。
周りは人間ばかり、むさ苦しい、腹が立つ。この妖怪は人間が大嫌いなのである。しかし連れ歩いている幼子は別で、この子にはとても優しいのである。
さっさと終わらせて帰りたい、だから早足で歩いていた。いつもの店の前に辿り着く、早くこの子の食べたい菓子を買って帰ろう、と思ったのだが、店の前がやけに騒がしい。
真ん中の道を開けて人が避けるように端に寄っている。真ん中の道を見てみると、見たことの無い格好の猫獣人が二人、和服の猫又が一人が町奉行に捕らえられ強制的に歩かされている。さしずめ不法侵入者だろう。何を考えているんだあいつらは、ただでさえ人間は妖怪に対してぞんざいな扱いをするのに、捕まったらとんでもない目に遭うじゃないか。
私は連れ歩いている幼子にこう言った。
「『野乃』、先に帰ってろ、振り返らずに走るんだ、お菓子は明日だ、いいな?」
野乃と言われた幼子は、こくりと頷き走って家へと帰って行った。素直でいい子だ。妖怪は幼い人間の姿が見えなくなったのを確認すると、人目につかないところまで引き返し、民家と民家の間に隠れた。そして、化けの術を解いた。息を殺しながら待機する。腰にぶら下げている瓢箪を確認して、直ぐに飛び出せる準備をした。しばらく待っていると。足音が聞こえてきた。ふぅ〜っと息を吐いて心を落ち着かせる。足音が大きくなってきた。そして狐の耳と尾を生やした少女は民家の陰から飛び出した。
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「待ってください!本当に私達は怪しいものじゃないんです!」
「うるせぇ!だから町奉行所で聞くっつってんだろ!」
私達は蓬莱の国の警察らしき人達に捕まってしまいました。何されちゃうんだろう?拷問とかされちゃうのかな?私達は震えながら歩いていました。しかし、突然民家の陰から狐の耳を生やして和服を着て、腰に瓢箪をぶら下げた女の子が飛び出してきました。
「待て!人間共!」
「あぁ?何だてめぇは?妖怪はさっさと『廃墟街』に帰りな!」
「そうやってお前らはいつも妖怪を追い詰めるんだ!だから、妖怪が人間に危害を加えても、文句は言わないでよね!」
すると、狐の女の子は3人の警察の1人に素早く近付いてお腹に膝蹴りを入れました。
「ぐぉあ゛あ゛っ!」
「おい!大丈夫か?」
「てめぇ!」
警察の人は蹲りました。そして、残りの2人が狐の女の子に襲いかかりました。
「っ!危ない!」
狐の女の子は腰にぶら下げていた瓢箪を取り出し蓋を取りました。
「喰らえっ!『体痺れの香』!」
瓢箪からオレンジ色の粉塵が出ました。それをまともに食らった2人は……。
「うお!?何だこれ!?」
「身体が……痺れ……!」
倒れてビクビクと痙攣しています。狐の女の子は瓢箪の瓢箪の蓋を閉めて、倒れた警察3人に近付きました。
「ふん、ば〜か、弱っちい癖にさ」
「ぐぅ……畜生……!」
「しばらくそこで寝てなよ、この子達は私が預かる」
狐の女の子は私達の縄を解いてくれました、
「あ、ありがとう……あなたは?」
「説明してる暇はない、着いてきて!」
「う、うん!みんな、行こう!」
狐の女の子は走り出しました。それに続いて私達も駆け出します。すると、
「待ちやがれ……!」
「きゃあっ!」
うずくまってた警察の1人がリィルちゃんの足を、必死で掴んでいます。
「くっ!しつこい!後の二人!そのまま真っ直ぐ走れ!」
狐の女の子は私達にそう告げたあと、クルクルっとバク宙をして、リィルちゃんの上から後ろに回り込み、掴んでいる手を思いっきり踏みました。
「うぎゃあああああっ!いっっっでえぇぇぇぇ!」
その衝撃で男の人は手を離しました。
「行くぞ!」
狐の女の子はリィルちゃんの腕を掴み、引っ張りながら走り出しました。リィルちゃんは躓きそうになりながらも走り続けます。なんだか分からないけど全員助かったみたいです。狐の女の子はリィルちゃんの手を離し、先頭を走る私の横まで来て言いました。
「私に着いてきて!家で匿ってあげる!」
「うん、分かった!」
私達は言われた通り狐の女の子に着いていきました。
どうも、暖かくなってきましたよと、秌雨です!
さて、ここから新章がスタートします!どんな物語になるか、お楽しみに!
では、また次回♪




