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絶望の果ての理想郷  作者: 秌雨
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第27話、立ちはだかる壁


「覚悟は良いな鈴よ、手加減はなしじゃからな」

「もし負けたら、どうなるんですか?」

「妾の臣下としてここに留まってもらうぞ、なーに、勝てばいいだけの話じゃ♪」

「うぅ.........」


おきつね様ニコッと笑います。余裕なのでしょう。

私はおきつね様と一騎打ちの勝負を仕掛けられています。普通に勝ち目がありません。

でも私には策があります。 先程外に出る前にニーナちゃんに別室に連れられこう言われました。


『鈴にゃ〜、外に出たら出口に向かって思いっきり走るにゃ』

『え!?でも戦わないと、おきつね様が納得してくれないよ?』

『鈴にゃ〜は狐尾とまともに戦って勝てると思ってるのかにゃ?きっとあいつは鈴にゃ〜を旅に出させない為に、絶対勝てる戦いを申し込んできたんだにゃ』

『でも、私が逃げれても、ニーナちゃん達が!』

『鈴にゃ〜を連れ戻すっていう嘘を言ってにゃ〜達も追いつくにゃ、だから安心するにゃ』

『分かった、やってみる!』


後ろには鳥居、つまり神社の出口、そうです。逃げるが勝ちです!

私は鳥居に向かって走り出しました。よし、このまま鳥居を抜ければ.........!私は鳥居を潜り、外に出ようとしました。しかし、本来鳥居を出た先は石段があるはずですが、何故か目の前にはおきつね様が.........!


「えっ!?うわあああああ!!!!」


私は走った勢いでおきつね様にぶつかってしまいました。

おきつね様は私を見てニコニコと笑っています。少し離れて、辺りを見回してみると、前には見覚えのある神社、後ろにはさっき通り抜けたはずの鳥居が.........。


「嘘!なんで!?」

「逃げようとしても無駄じゃぞ、出口には稲荷の転移結界が貼られておる、外に出ようとしてもここに繋がるだけじゃ」


「嘘!?なんでにゃ!?」

「バレるに決まってるでしょ.........準備をするから少し待てなんて口実で私達を騙せると思ったのですか?」


「そういう事じゃ、お主には戦うという選択肢しか残っておらぬ、観念するのじゃ!」


作戦は大失敗.........。もう戦うしかないみたいです。仕方ありません、私も覚悟を決めました。


「天生石、お願い!」


私は天生石に祈り、天生同化を開始しました。

しかし、私には結界を貼って破裂させることしか出来ません。状況は絶望的です。


「さぁ、お主の天生石の力見せてもらうぞよ」


おきつね様は修行の時みたいに、手のひらから炎を生成し、私に飛ばしてきました。

私は手を前に出し、手のひらを広げ、結界を張って炎を防ぎました。


「ほう?守りに入ったか、ではどこまで耐えられるかの?」


おきつね様はまた炎を生成しました。しかし、さっきとは違って何個も何個もおきつね様の周りには炎が生成されて行きます。

そして、何十個にも及ぶ炎を私に一気に飛ばしてきました。

炎が結界に当たって振動が伝わって来ます。このまま炎が終わってくれれば.........。しかし、振動がどんどん強くなって行きます。しかも炎の量がさっきよりも多くなっています。


「くっ.........!」

「修行の時のように行くと思っていたら大間違いじゃ、お主の作り出す結界はまだ弱い」


無尽蔵に飛んでくる炎の衝撃で、ついに結界にピシピシとヒビが入りました。


「っ!?駄目!お願い!持ちこたえて!」


しかし、私の願いは届きませんでした。結界は衝撃に耐えきれず、バリンっ!という音を立てて砕け散ってしまいました。


「うわっ!?」


その衝撃で私は尻もちを着いてしまいます。

幸い、結界が割れた時に周りも炎もかき消されたので丸焦げにならなくても済んだのですが.........。

おきつね様は満足そうに近づいてきます。勝ちを確信したのでしょう。


「うぅ.........」

「さぁ、もうお主には後がないぞ、諦めて妾の臣下になってここに留まるのじゃ」

「.................」

「そんなに落ち込むことはなかろう、ここにいれば襲われることも無い、それに妾の毛皮をモフモフし放題じゃぞ〜♪」


悔しいけど、私にはもう戦う手段が残されていません。いえ、私の貧弱なパンチをすることぐらいなら出来ますが、妖力を持ったおきつね様にそれが叶う訳ありません。


「負けを認めよ」

「.................はい、私は負けまs.........」


「まだにゃっ!」


ニーナちゃんは尻尾を伸ばし、何故かお稲荷様の手足に巻き付けて動けなくしました。


「っ!?何を!」

「鈴にゃ〜!今のうちに逃げるにゃ!」


「え!?でも!」


「いいから早く!」


「うん!」


私は立ち上がりおきつね様に背を向けて思いっきり走りました。再び鳥居をくぐり抜けて、石段を駆け下ります。

さっきとは違い、神社に戻されることはありません。ニーナちゃんがお稲荷様を動けなくしたことによりお稲荷様の転移結界が解けたのです。


私は石段を降りきっても走り続けました。とりあえず街まで逃げられれば.........!私はプレスターの街へと向かいました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方、鈴にゃ〜が逃げた後の稲荷神社では.........。


「くっ!離しなさい!」

「そろそろ、解放してやってもいいにゃ」


にゃ〜は狐尾の妹を解放する。それと共に戦闘態勢に入る。

すると、狐尾がジト目でこちらを見ながら口を開いた。


「三尾よ、余計なことをしてくれたの、仙理、出雲よ、鈴を追いかけるのじゃ!」


「はい!」「おうよ!」


「リィルにゃ〜!」


追いかけようとする仙理と出雲の前にリィルは立ち塞がる。


「ふんふ〜ん♪あんた達は私が通さないんだから♪」

「1人で何ができるってんだよ、怪我したくなきゃそこどきな!」


「1人じゃない」


神社で眠っていたはずの木乃葉が2人の後ろから出雲を捕まえて左手で口を塞ぎ右手に持っているクナイを首に突きつけ人質にする。


「ふむっ、!?んーっ!んーっ!」

「こいつを傷つけられたくなかったら、鈴殿のことは諦めろ」


「てめぇ卑怯だぞ!誰が助けてやったと思ってんだ!」


「関係ない、お前達が私達の邪魔するなら私達も抵抗するだけ」


傷は完全に治っているようだ。しかし油断はしていられない、狐尾から背を向けている木乃葉は無防備、それをわかっているであろう狐尾は右手を上げて妖術を繰り出そうとしている。

それを阻止するべく、みぃにゃ〜が両手を広げ、狐尾の前に立つ。


「やめてください!おきつね様!」

「実よ、そこをどくのじゃ、さもないとお主も痛い目に遭うぞよ」

「鈴ちゃんの為なら、私が犠牲になる!」

「ほう?ならその言葉、確かめさせてもらうぞ」


狐尾は手を振り下ろす。するとさっきの炎の玉がみぃにゃ〜に飛んでいく、みぃにゃ〜は震えながら目を瞑った。

狐尾め、さすがにみぃにゃ〜なら攻撃をしないと思ったが、容赦がない、相当怒っている。


しかし、みぃにゃ〜の目の前で突然風が吹き、小さな竜巻のようなものを作り、炎の玉を消した。


「欲しいものが手に入らないからって、八つ当たりは良くないなぁ、おきつねさん」


小さな竜巻が治まり、現れたのはマダラだった。小さな鎌を両手に持っている。


「お主も邪魔をするのかの?鎌鼬」

「君の本音を言ってみなよ、君は鈴を危険だから旅に行かせたくないんじゃない、かわいいから自分の物にしたいんでしょ?」

「何を!」

「だってそうだろ?じゃなきゃこんな必死にあの子を止めようとする?」

「.................ふふふ♪負けじゃ、一本取られたの、辞めじゃ、皆、戦いを辞めよ」


狐尾がそう言うと、皆一斉に戦闘態勢を止める。


「鎌鼬の言う通りじゃ、鈴がかわいくて仕方なかったのじゃ、それが遠くに行ってしまうのが妾は嫌じゃった、じゃがこの世界は自由な世界じゃ、鈴の自由を奪ってはならぬ、三尾よ、鈴を追いかけるが良い」

「やっと理解してくれたにゃ、大丈夫、また遊びに来るにゃ♪」

「うむ、出雲、仙理よ、お別れじゃ、伝えたいことがあるなら伝えよ」


出雲はみぃにゃ〜の傍に行き口を開く。


「実ちゃん、ちゃんと修行してあげられなくてごめんね、でも、さっきの実ちゃん、かっこよかったよ!その勇気忘れちゃ駄目だからね!」

「うん!ありがとう、出雲ちゃん!またね!」


仙理はにゃ〜の傍に来て口を開いた。


「お前、あの女の子のこと、守ってやれよ」

「言われなくてもわかってるにゃ、鈴にゃ〜はにゃ〜が守るにゃ!」

「お前との手合わせ、楽しかったぜ!」

「また会ったらにゃ〜が手合わせしてやるにゃ♪」

「へっ、そりゃどうも」


マダラにゃ〜はリィルと木乃葉の傍に行き口を開く


「君たち、怪我には気をつけなよ」


「あぁ、かたじけない、本当に助かった」

「ほんとにありがとう♪」


「ニーナのこと、しっかり守ってあげるんだよ、君達はとてもいいコンビだよ」


そして、にゃ〜達は狐尾達に別れを告げて、行こうとした。しかし、狐尾がにゃ〜を呼び止める。


「おっと、ちょっとだけ待ってくれぬか?」

「何にゃ?」

「鈴に伝えてくれぬか?『どうか気を付けて旅をして欲しい、本当に辛くなったらいつでも帰って来るのじゃ』と」

「分かったにゃ!それじゃあ、行ってくるにゃ!」

「うむ、行ってくるが良い、気をつけるのじゃぞ♪」


にゃ〜達は神社を出て、鈴にゃ〜を追いかけた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


三尾が行ったあとの稲荷神社。


「行ったの」

「えぇ、しかし、本当に大丈夫なのでしょうか?あの子達」

「大丈夫じゃ、あの者達は互いに支え合っておる、どんなことも乗り越えられよう」

「ならいいですが」

「それより、稲荷よ」

「はい?」


妾は思いっきり稲荷に抱きついた。そう、嬉しい嬉しい親友との再開である。


「よく帰ってきたのぉ〜♪これを望んでたのじゃろ?可愛いやつめ〜♪」

「うわっ!あれは別にそういう意味で言った訳じゃっ!ひっ!?尻尾をこねくり回すのはやめなさい!」


「変わらねぇな、おきつね様達は」

「うん!でも、私嬉しい、こうしてまた4人で暮らせるんだもん」

「マダラ、お前はどうするんだ?」


「僕は帰るよ、やることはやったしね」


それを聞いた妾は稲荷から離れ、マダラに話しかけた。


「鎌鼬よ、帰るのかの?」

「うん、さっきは手を出して悪かったね」

「気にしてはおらぬ、それもお主の判断じゃ」

「優しい妖怪さんで助かったよ、それじゃあね」

「ちょいと待て、お主の夢はなんじゃ?鎌鼬」

「カフェを開いて人間を喜ばせることだよ、まぁまずは人間に好かれるところからだけどね」

「なら、ここに留まってこの神社が栄えるのを手伝ってみぬか?この神社でその、かふぇとやらを開くのもありだと思うがの」

「えっ、こんな神聖な場所でそんなことしていいのかい?」

「人間を喜ばせたいんじゃろ?なら、妾達も同じじゃ、一人でやるよりは皆でやった方が良いであろう?」

「そうだね、ならお言葉に甘えさせて頂くよ、改めておきつねさん、稲荷さん、いや、おきつね様、お稲荷様と呼ぶべきだね、迷惑をかけるかも知れないけど、よろしくお願いします」


鎌鼬は妾達に深くお辞儀をすると、今度は出雲と仙理に挨拶をした。


「ということで、僕は今からこの神社に住まわせて頂くよ」


「うん!一緒に頑張ろ、マダラちゃん!」

「お前の夢が叶いそうじゃねぇか、よかったな」


「うん、感謝するよ、これからもよろしく」


挨拶を終えた妾達は鈴達の成功を祈りながら夜明けと共に神社に戻るのであった。


どうも、3月になりましたね

コロナウイルスが流行っていますね、感染にはお気をつけて!

さて、今回で稲荷神社編、終了です!ここまで読んでくれてありがとうございます!

次回からは、猫谷 鈴達の親友を探すための旅が始まります、旅の先にはどんなことが待っているのか、是非ご期待ください!

では、また次回♪

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