第25話、新たなる生
「あ!いたいた!いましたよお稲荷様!」
「出雲、お話してきなさい、あの子を元気づけるのは出雲が一番いいでしょう」
「はい、頑張ります!」
私は仙理君を元気付けるために仙理君を探していた。仙理君は森の中の1本の木を背もたれにして片膝を立てて目を伏せて座っていた。
私は話しかけようとしたが、先に話しかけてきたのは仙理君だった。
「なんだよ出雲、ほっといてくれよ」
「仙理君......ごめんね」
「?」
「私、仙理君の気持ち全然分かってあげられなかった......ニライ様とカナイ様に聞いたの......グロリアさんのこと.........」
「.................」
「本当にごめんなさい、そんな過去があったなんて知らなかったの」
「なんで出雲が謝るんだよ、悪いのはあいつらだ、あいつらがグロリアを助けさえすれば、俺はこんなに思いをしなくて済んだんだ」
「うん、ニライ様とカナイ様は確かに酷いことをした、でも仕方ないことなんだよ?ニライ様とカナイ様があの時グロリアさんを助けてたら、世界が壊れちゃうかもしれなかったんだって、だから助けたくても助けれなかったんだって」
「っ!そんなんで納得しろって言うのかよ!」
「でも、もう納得するしか!」
「ふざけんなっ!」
仙理君は急に立ち上がり、私に向かって怒鳴りつけた。
「お前は俺の何がわかるんだよ!なんにも奪われた事ねぇくせに、知った気になってんじゃねぇぞ!」
「っ!」
パァンッ!!!!.........................。
「っ……!何すんだてめぇっ!」
私は仙理君の頬をはたいた。そして私は仙理君に向かって怒鳴りつけた。
「いい加減にしてっ!あなたの気持ちは痛い程わかるわ、わかってるに決まってるじゃない!辛いわよね、でもそうやって他人に八つ当たりしたって、いつまでも悲しんでたって、他人を憎んだって、あの頃のグロリアさんは戻ってこない!」
「じゃあ納得したら戻ってくんのかよ!」
「戻って来ないわよ!何をしても戻ってこないの!でも、グロリアさんはどうして仙理君を自分の命を犠牲にしてまで守ったか分かる!?」
「っ.........!」
「あなたのことが大好きだったからよ!仙理君に強く生きて欲しいって願ったからよ!」
「あなたは稲荷神社に来た時に言ってたわよね?『大切な人を守るために、強くなりたい』って」
「それなのにグロリアさんを殺してもいない相手を憎んで、戦いに負けたからっていつまでもそうやってメソメソして、言いがかりまでして、男として情けないわ!」
「何が大切な人を守りたいよ、そんなんじゃ誰も守れないわ!そんな弱気な仙理君なんて見たくない、グロリアさんだってそう思ってるわ!」
「そうか.........俺は.........グロリアの仇を撃つことばっかり考えてた.........でも、あいつらは、仇でもなんでもねぇ、俺が間違ってたんだ.........」
私は涙を流している仙理君の顔を両手で支える。
「仙理君、辛い時は私たちに言って?私もお稲荷様も、おきつね様も、あなたの家族でしょ?」
「そうだな、俺にはお前達がいる、それに友達も増えたしな」
「うん!」
「実は、俺がいつも帰るのが遅かったのはグロリアに会いに行ってたんだ、あいつが寂しい想いをしないように」
「そうだったんだ、じゃあ今会いに行こ!私もグロリアさんに会いたい!ね、いいでしょ?」
「えっ.........?会ってもいいけど、何も反応しないぜ?」
「それでもいいの、会ってしっかりと挨拶しなきゃ!」
「よくわかんねぇけど、出雲がいいならそれでいいぜ」
そして私はお稲荷様に事情を説明した。
「なるほど、では私も同行しましょう」
「はい!」
「なんだ、お稲荷様も来てたのか、さっきは.........その.........悪かった.........」
「いいのですよ仙理、私も久しぶりに会えたにもかかわらず、こんな厳しい言い方をしてしまって、ごめんなさいね」
「ううん、いいんだ、俺はいつも怒られてばっかだったから慣れてるしな、そんなことより早く行こうぜ、着いてきてくれ」
仙理君は私達をグロリアさんの家まで案内した。
街を通り抜け、少し歩いた先にある一件の家が建っていた。大きくもなければ小さくもない、草原に囲まれた普通の民家だった。
この家の周りには何も無い、ただ本当に普通の民家がポツンと一軒建っているだけだった。何故こんな所に家が建っているのか、そんな疑問を抱きつつ、私達は家に辿り着いた。
「ここがグロリアの家だ、入ろうぜ」
仙理君は戸を開け中に入る。そして私達もあとに続いた。中は至って普通だ。台所に厠、風呂など、生活するのに必要最低限の物は揃っている不便のない洋風の家、でも普段から神社に住んでいる私達からしたら、洋風の家は新鮮だった。
「グロリアは2階だ、あんまり驚くなよ?反応しなくても、意識はあるからな」
そして私達は階段を上り、1つの部屋へと入った。そこには金色の短い髪の女性が下半身に掛け布団を掛け、上半身は起き上がった状態で存在していた。ただ、青い瞳の目は虚ろで瞬き一つせず、常に真顔の状態だった。その女性に仙理君は話しかける。
「起きてたのか?グロリア、どうしたんだ?」
「この人がグロリアさん?」
「あぁ、そうだぜ」
私はグロリアさんの傍に行き、話しかけた。
「こんにちはグロリアさん、初めまして、私は出雲、仙理君のお友達です」
「.........................」
グロリアさんは表情を変えずにこちらに顔を向ける。
「良かったな、気に入ってるみたいだぜ」
「分かるの?仙理君」
「なんとなくだ、野生の勘ってやつだな」
「あなたは飼われてる狼でしょ.........つまりは適当じゃない........」
気に入られてるかどうかは分からない、でも私の言っていることは聞こえてるようだ。
それを確認した私はグロリアさんの濁った目を見つめながら話した。
「グロリアさん、仙理君の事は私達に任せてください、私達がグロリアさんの代わりに仙理君の面倒を見ます、だからグロリアさんはゆっくりと休んでください、私達がいつでも遊びに来ますから」
「.................ん.........」
「えっ?」
確かに聞こえた。仙理君でもなくお稲荷様でもない、か細くて可愛らしい声が、目の前で聞こえたのだ。
「おいグロリア、今.........喋らなかったか?」
「今、『ん』っていったよね?」
「あっ.........く.........レッ....ク」
「お、おい、グロリア.........?」
少しずつではあるが、グロリアさんの口からはゆっくりと一文字一文字言葉が発せられていた。
グロリアさんは反応しなかったんじゃない、記憶が無くなって誰かもわからない目の前の狼と、必死に会話を交わそうとしていたのだ。
「これは.........この人間は言葉を習得しつつある状態です」
「お稲荷様?どういうことですか?」
「この人間はこの世界の出身です、この世界で死亡すると理想郷の記憶が無くなってしまいます、この世界の者はこの世界で言葉を発することや歩くこと、寝ること、ご飯を食べること、生きることの最低限の知識を学びます」
「じゃあ、その人がこの世界で死んじゃったら.........」
「そう、この世界で学んだ言動全ての記憶を失います、つまり、この人間はわけも分からず私達の会話を聞いているということになります、しかし、今この人間は私達の発する『言葉』を見て、聞いて、それを必死に真似しようとしてるのです」
「あっ.........あっ.........アレ.........ク、アレ...ク」
グロリアさんは仙理君を見つめながら、必死に仙理君の昔の名前を呼んでいる。
「そうだ!俺はアレックだ、いいぞ、その調子だ!」
「アレッ.........ク.........アレック!」
「喋れた.........喋れたぞ!」
「しゃべ.........シャベ.........レタ?」
「あぁ!良かったな!お前は言葉を話せるようになったんだ!」
「こと.........ば.........よ.........かた.........はな.........せ.........ルヨニ?」
グロリアさんは一つ一つ言葉を覚えようと聞こえてきた言葉を復唱している。仙理君から発せられている言葉の意味はわかっていないのだろう。しかし、発音の仕方はわかりつつあるようだ。
「仙理が毎日グロリアに話しかけていたお陰で、言葉を習得したのです」
「本当か!?じゃあ俺と喋られるようにするにはどうしたらいいんだ?」
「まだ相当かかります、まだ発音の仕方がわかっただけですから」
「そうか.........でもこのまま言葉を覚えさせれば、きっと俺と話せるようになるよな!」
「じゃあその願い」
「私達が叶えてあげよう」
グロリアさんが喋れるようになったことに感動していると。この部屋にニライ様、カナイ様が突然現れた。
「うわっ!?」「っ!?」「うおっ!?」
「.................?」
「おっと、驚かせちゃってごめんね〜」
「お邪魔するよ〜」
「ニライ様にカナイ様!実ちゃんと一緒のはずじゃ!」
「先に神社に行ってもらったよ、ところで、グロリアはどう?」
「ちょっと気になってね」
「さっきやっと喋れるようになったところだ」
「そっか、でもこれは酷いね」
「さすがに可愛そうだ、ニライ、やろう」
「はいよ〜」
ニライ様とカナイ様はグロリアさんに近づき、グロリアさんのおでこへと手を伸ばそうとした。しかし仙理君が2人の手を払い阻止する。
そして、2人の前に立ちグロリアを庇うような姿勢で言った。
「やめろ、これ以上手ぇ出すな、さっきのことは謝る、俺が悪かった、だからこれ以上グロリアから何も奪うな」
カナイ様は首を振りながら言った。
「仙理、謝らなければ行けないのは私達の方だよ、大切な人を見殺しにしてごめんね、でも今度はほっとかないよ」
「どういうことだ?」
「私達はグロリアから奪いに来たんじゃない、与えに来たんだ」
「よくわかんねぇよ、はっきり言えよ」
「グロリアを君と会話をできるようにするんだよ」
「ほんとか!?じゃあ俺との記憶も!」
「それは出来ない、記憶を保持したままの蘇生は大きな罪となるからね」
「でも、会話をできるようにするって、記憶を戻していることと同じじゃないですか?それも、罪になっちゃうんじゃ.........」
私の問いにニライ様は答える。
「記憶を戻すんじゃないんだよ、時間を進めて行動を与えるのさ」
「時間を、進める?行動を与える?」
「私の能力でグロリアの脳の発達だけを進めて、生きるのに必要最低限な知識を記憶できるようにする、そしてカナイの能力で話す力、食べる力、動く力、書く力、一般的な知識をグロリアに与えるのさ、そうすれば誰とでも一緒に過ごせるし私達も罪にはならない」
「ほんとに!?だって、仙理君、やってもらおうよ!」
「信用していいんだな?」
「もちろん♪」「私達に任せてよ」
「わかった、じゃあやってくれ」
仙理君はその場からどき、ニライ様とカナイ様は再びグロリアさんに手を伸ばす。おでこに手を添えて目を瞑り何かを唱え始めた。
「死して記憶を無くした命よ、我が汝に新たなる記憶を与えよう」
「全てを奪われ、空の器となった魂よ、我が汝に新たなる生を与えよう」
すると、2人の指先から優しい青い光が出る。そして、2人は言葉を続けた。
「汝の命は新しいものとなった」
「次の人生を歩むといい」
言葉を終えると2人は静かに手を下ろした。そしていつもの明るい表情へと戻った。
「よし、これで終わったよ」
「じゃ、私達は先に神社に行ってるね〜」
「素敵な生活を〜♪」「素敵な生活を〜♪」
そう言って2人は消えてしまった。仙理君はグロリアさんに話しかける。グロリアさんの表情はさっきと変わっていないみたいだけど.........。
「グロリア、喋れるか?」
「.................うん、っ!?私.........は、私はグロリア.........」
「っ!?」
「あなたは.........私にずっと話しかけてくれた人、やっと喋れた、やっと声に出せた.........?」
「グロリアぁ!!!!」
仙理君はグロリアさんを涙ながらに思いっきり抱きしめる。
「うわっ!?.................うん、これでお話できるね、アレック」
「俺の名前を!?ってことは俺のこと覚えてんのか?」
「ううん、あなたのことは分からない、どんな関係だったのかも、どんな人なのかも、でもあなたは私に話してくれた、自分でアレックってずっと言ってくれた」
「そうか.........」
「話しかけてたことを覚えてるんですか?グロリアさん」
「あなたは、センリ君?の友達.........出雲?うん、あなた達が話してくれたことは覚えてる、でもそれ以外は分からない、あなたは初めましての人、センリ君.........出雲.........あれ?.........あれ?」
グロリアさんは困惑している。そうか、仙理君の名前も私の名前もグロリアさんには初めてのことなんだ。だから私が誰なのかって言うのと、仙理君って言う名前を知らないんだ。私は改めてグロリアさんに自己紹介をした。
「グロリアさん初めまして、私は出雲、アレック君の友達です、アレック君は今仙理って名前に変わってるんです」
「あ!そうだったのね!アレックの友達、それで、アレックは今、仙理って名前なのね」
「そうです!分かって貰えて何よりです」
「ありがとう、よろしく、そっちの人は?」
グロリアさんはお稲荷様に指を指す。お稲荷様も私と同じように挨拶をした。
「初めまして、私は稲荷、この子達の保護者です、詳しいことは後々話し合いましょう、よろしくお願いします」
「保護者.........出雲とアレックはあなたに育てられてるのね、うん、よろしく.........」
「そして、アレックにとって、私は大事な人、ちょっと前にアレックが言ってた.........私はグロリア、何も分からないけどよろしくね」
「グロリア、これからもよろしくな」
「うん!」
そして、私達は神社に帰ることにした。これ以上グロリアさんを困惑させるのは可哀想だ。少し休ませてあげようという仙理君の判断だった。
グロリアさんは私達を玄関まで送ってくれた。
「また、お話しに来て、あなた達のこと、もっと知りたい!この世界のことも、私、ここで待ってるから」
「おう!もちろんだ、また近いうちに来るからな!」
「ありがとう、じゃあねアレック、いや、センリ?」
「アレックでいいぜ、また会おうなグロリア!」
「出雲、稲荷もじゃあね、」
「うん!私も遊びに来るからね♪」
「どうかお身体にはお気をつけて」
グロリアさんとの別れを済ませ、神社へと向かう、よく良く考えれば、とても長い1日だった気がする。
あ、そう言えば.........。
「ねぇ仙理君、森で私達を助けてくれたでしょ?どうしてあそこがわかったの?」
「出雲の匂いを辿って来たんだ、なんか嫌な予感がしたからな」
「匂い?一体あなた、何を嗅いで来たの?」
「出雲の下着だ」
「.................は?」
「だから、出雲の下着だ」
私は顔が真っ赤になった.........。この馬鹿は.........!私は大声で怒鳴った。
「うああああ!!!!馬鹿馬鹿馬鹿!仙理君の馬鹿ぁぁぁ!!!!」
「うおっ!?なんだよ出雲」
「なんだよじゃないでしょ!私の下着ですって!?あなたはもう少し女の子への配慮ってものを知らないの!?」
私は仙理君の頭をポカポカと叩く。
「痛てぇ痛てぇ!叩くなよ、しょうがねぇだろ?それしかなかったんだから」
「ほんとにあんたって子は!最低!馬鹿!変態!」
「おいおい、助けてやったのにそりゃねぇだろ!」
「もう許さない!今度という今度はぜぇぇったいに許さなぁぁぁい!!!!」
「やっべ、鬼出雲だ、逃げよ〜」
「あっ!待ちなさい!」
私は仙理君を追いかける。この子ったら、とっ捕まえてきっつーいお仕置きしてやるんだから!
それを見ていた。お稲荷様は
「やれやれ.........こういう所は昔から全く変わってませんね.........でもなんだか懐かしいです♪」
もうすぐ日が暮れる時間、2匹の無邪気な子供妖怪と、1匹の旅から帰ってきた大人の妖怪が道を歩いていた。夕日は家族との再会、大事な人との再会を祝福するかのように暖かく3匹の妖怪を照らしていた。
お久しぶりです!あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!
さて、今回は前回に引き続き、仙理君と新キャラ、グロリアが中心のお話になります。じっくりとお楽しみ頂けたら幸いです。稲荷神社編、長いですね〜( ̄▽ ̄;)
もう少しで終わると思います。それまで稲荷神社でゆっくりしていってください。
では、また次回♪




