第24話、命は永遠、記憶は一時
私は実、さっきまで忘れた三味線を取りに行くために森の中を歩いていて、途中怖い思いはしましたが、その後は何も無くお家に着きました。
「ここがあなたの家ですか?」
「はい、お友達と暮らしてます」
「立派な家ですね、では、早く取りに行きなさい、戻ったら修行を始めますよ」
「はい!」
私は家のドアを開けました。すると、
「おかえり〜♪」「またお邪魔してるよ〜♪」
ニライ様とカナイ様がまた家のソファーに座っています。
「ニライ様にカナイ様!?」
「実じゃないか、猫谷鈴は一緒じゃないの?」
「あの子に用があるんだよね〜」
「鈴ちゃんは稲荷神社です」
「じゃあ1人か〜、どうしたの〜?」
「いつもは3人一緒なのにね〜、珍しー」
「忘れ物を取りに来たんです」
「あ〜、テーブルにあるこれね〜」
「大切な物は忘れない方がいいよ〜、私物に関しては保証できないからね~」
すると、お稲荷様がすぐ後ろに来て口を開きました。
「どうしたのですか?取りに行くだけならすぐに...…この方々は?」
「ニライ様とカナイ様です」
「なっ!?」
「どうも〜♪」
「こんにちは〜、お稲荷さん、君の親友も寂しがってたよ〜?」
まぁ、驚きますよね……。何の変哲もない普通のお家に、この世界の創立者が普通にいるんです。無理はありません。
「理想郷の最高神である貴女方が、なぜこのような民家に!?」
「そんなの、用があるからに決まってんじゃ〜ん♪」
「というか、私達がここにいちゃまずいことでもあるの〜?」
「いえ、そういう訳ではないのですが.......噂によると誰もたどり着けないような所にいると聞いていたので.........」
「本当はそうなんだけどさ〜」
「今ちょっとしたトラブルがあってね〜、そうだ君、稲荷神社の子でしょ?だったら一緒に行こうよ」
「えぇ、構いませんが、少し時間をいただけないでしょうか?この子達に修行をさせないといけないので」
「えー、めんどくさーい、待ってるのやだー」
「そんなのあっちでやればいいじゃ〜ん、ほら行くよ〜」
「うわわっ!押さないでください、分かりましたから!」
ニライ様とカナイ様は私達を家の外まで両手でグイグイと押し出しました。そして、元来た道を戻りました。無理矢理ですが、物凄く厳しいと言われる修行はひとまず回避できたようです。
歩いてる途中、ニライ様とカナイ様はずっとおしゃべりをしています。
「いやーこの空気久しぶり〜♪」
「私達ずっと屋敷にいるもんね〜、たまには息抜きしなきゃね〜♪」
「最近は特にそうだよ〜、おちおち眠れやしない」
「現実世界の人達のためだよ、仕方の無いことだね〜」
とても愉快に話をしてるみたいですが、ニライ様もカナイ様も大変なようです。そんな中、出雲ちゃんと仙理君が私にこんな質問をしてきました。
「この人達誰?実ちゃんのお家からいきなり出てきたけど」
「お稲荷様がビックリしてたけど一体何者なんだ?こいつら」
「この世界を作った神様だよ」
「えっ!?」「はぁっ!?」
予想通りの反応です。むしろ驚かない人などいるのでしょうか?
すると、仙理君がニライ様とカナイ様に向かって指を指しながら言いました。
「おいっ!お前ら!」
「ん〜?なーにー?」
「どうしたの〜?」
「お前ら本当にこの世界を作った神様なんだろうな?」
「こらっ!仙理!」
お稲荷様が仙理君に向かって大声を出して叱りました。
「御二方に失礼でしょ!謝りなさい!」
「お稲荷様、俺は本物かどうか聞いただけだぜ?」
「本物にきまっているでしょう!ニライ様、カナイ様、申し訳ありません!」
「へぇ、そうかい」
そう言うと仙理君は背中に背負っていた槍を抜きました。
「仙理!?あなた何をやっているの!早く武器をしまいなさい!」
「仙理君あなた馬鹿じゃないの!?相手は最高神なのよ?お稲荷様の言う通り早く武器をしまって謝って!」
「そうだよ仙理君、そんなことやめようよ!」
「嫌だね、俺はこいつらを探してた、ぶちのめすためにな!」
私達は必死で仙理君を止めようとしますが仙理君は聞く耳を持ちません。ニライ様、そしてカナイ様と戦う気なのです。
「へぇ〜、こんな子まだいたんだ〜」
「君は確か仙理だね〜、無駄なことはよした方がいいよ?」
「うるせぇ!おれはてめぇらが許せねぇ.......俺の大切な奴が人間に殺されて、記憶がなくなってもなんとも思ってねぇようなてめぇらがな!」
仙理君は槍を斧に変え、ニライ様とカナイ様に向かって走り、斧を振り下ろしました。しかし斧は2人の前でピタリと止まりました。
「くっ........!なんだこれ、武器が........動かねぇ!」
「君、 誰に手を出してるんだい?」
「誰がこの世界に住まわせてあげてると思ってるんだい?」
ニライ様は斧を必死で動かそうとする仙理君の額に人差し指を丸め、そのままピンッと弾きました。すると仙理君は手に持ってる斧と共に3mぐらい後ろに吹っ飛ばさて行きました。
地面に打ち付けられた仙理君は痛みで額を抑えながらのたうち回っています
「うわあああああっ!!!!イッッッテぇぇぇぇ!!!!」
「あははっ♪飛んでった飛んでった〜♪」
「うわああだって、あははははっ♪」
ニライ様とカナイ様はキャッキャと笑っています。それよりもデコピンであの威力........さすが最高神です。
私は仙理君が心配になり、仙理君の近くに駆け寄りました。
「大丈夫?」
「大丈夫な訳ねぇだろ........デコに穴空くかとかと思ったぜちくしょう........!」
「今治してあげるからね」
私は三味線の弦を貼り直し、『癒しの弦』を奏でます。するとさっきまで赤く腫れていたおでこが治りました。
「よし、これでまた戦える、あいつら、いい気になりやがって!」
「駄目だよ!ニライ様とカナイ様は私達の味方なんだよ?どうして攻撃するの?」
「騙されるな!あいつらは俺達妖怪の味方なんかじゃねぇ、人間だけの肩を持つ最低な奴らだ!」
「仙理!いい加減にしなさい!」
「そうよ!ニライ様とカナイ様はそんな神様じゃないわ!バカ言わないで」
「馬鹿はおめぇらだ!おめぇらは何も分かってねぇからそんなことが言えんだよ!俺の気持ちなんて、誰もわかりゃしねぇんだ!」
そう怒鳴りつけて仙理君は走って行ってしまいました。
「あれま〜、私達、なんか悪いことしちゃったかな〜?」
「ニライのデコピンが悪かったんじゃな〜い?」
「違うよ、あの時のことをまだ根に持ってるんだ」
ニライ様とカナイ様は明るい表情から、どこか悲しそうな表情に変わりました。
機嫌を悪くしてしまったのでしょうか?慌ててお稲荷様は謝ります。
「申し訳ありません、うちの仙理が失礼なことを.........」
2人は首を振って口を開きました。
「いや、悪いのは私達、あの子が怒ってる理由も私達は知っている」
「私達は過去にあの子の一番大切な友を見殺しにしてしまった」
「その友は、『グロリア』という女の子だった」
「争いを好まない優しい人間の女の子」
「2人は一緒に暮らすほど仲が良かった」
「でも、ある日この世界に人間と妖怪との間で戦争が起きた.........」
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私達は、屋敷でこの世界のを見ていた。今までにない絶望的な光景だ。
人間は剣を振るい、また矢をつがえ放ち、時には魔法で敵を攻撃していた。
妖怪は爪で引っ掻き、敵に噛みつく、妖術で攻撃を仕掛ける妖怪もいた。
血を血で洗う最悪な光景だった。
『なにこれ!?ニライ、これどういう事!?』
『人間と妖怪が戦争を始めた、どっちの立場が上かの権力の争いさ』
『そんなことして何になるって言うの!?今すぐ止めさせなきゃ!』
『カナイ、これ、無理.........この世界の全人間と全妖怪が戦争に巻き込まれてる、私達だけじゃ手に負えない.........』
『じゃあどうすんの!?こんなの死んだらまた生き返ってまた戦って、まるで現実世界の戦争ゲームじゃないか!』
そう、この頃の理想郷は今とは違い、死んでも記憶はそのままになるようになっていた。だからみんな命をドブに捨てるかのように、戦い、死んで、生き返り、また戦いに身を投じていた。
戦えない者の中には自殺をしても記憶は消えず、辛くなる一方で絶望する者もいた。絶えない恐怖に震え続ける者もいた。どこにも無い助けを求め、必死に泣き叫ぶ者もいた。
何処へ逃げても戦いの戦禍に巻き込まれ、敵が来れば何もしていなくても問答無用に殺される。生き返って別のところに逃げればまたそこで殺される。この世界は理想郷とは呼べないほどの、最悪な時代を迎えていた。
それから私達はこの戦争を止めようと色々試行錯誤をするけどそれはまた別の話。
戦争が終わり、ニライが1度死ぬと理想郷での記憶を失うという世界にし、命の大切さを思い知らせてから数年経った時のことである。
まだ幼い仙理とグロリア、そして仙理の弟であるフレキは共に民家で幸せに暮らしていた。グロリアは2人にとって母のような存在であり、まだ妖怪と人間が打ち解けあっていない時代で妖怪と仲の良い数少ない人間だった。
「アレック、フレキ、買い物に行くわよ〜」
当時の仙理は『アレック』という名前だった。『仙理』という名前はおきつねが付けたものである。妖怪は元々名前が無いため誰かに付けてもらうか、自分で決める場合が多い。
アレックとフレキは幼い声で返事をする。
「はーい!」
「わかりました」
「なぁグロリアー、お菓子買っていいかー?」
「いいけど、夕飯ちゃんと食べてよ?この前食べ過ぎて夕飯食べれなかったでしょ?」
「あれはフレキが少しなら大丈夫って言ったからさ〜」
「僕のせいですか!?いやいや、兄さんが夕飯が食べれるって言ったのですよ、僕は忠告しましたからね!?」
「フレキだって一緒に食って夕飯残したじゃねぇかよ〜」
「どっちも人のせいにしないの!どっちも悪いわ、今回は罰としてお菓子なし!行くわよ!」
「うへぇ〜」「残念です.........」
グロリア達は街に買い物に出かけた。そして、買い物が終わり、3人は帰り道を歩いていた。
「なー、グロリア」
「どうしたの?アレック」
「グロリアはなんで妖怪の俺達と仲良くしてくれるんだ?人間は俺達のこと嫌いなんだろ?」
「ううん、仲良くなることに人間も妖怪も関係ないわ、みんないがみ合ってるけどそんなの間違ってる、どっちが上かなんてどうでもいい、私はあなた達と暮らせるのが幸せよ」
「俺、もっとたくさんの人間と仲良くなりたいぞ、な!フレキ」
「もちろんです!グロリアのような大人になるのが目標です」
「ふふっ♪ありがとう、愛してるわ、2人とも」
3人が歩いていると、向かい側から6人の人間が道に広がって歩いてきた。そして、グロリアに向かって話しかけた。
「止まれ、そこの金髪の女」
「何よ」
「お前の隣にいる奴らは妖怪だな?そいつらと何をしている?」
「何って、一緒に買い物に出掛けていただけよ?何か悪い?」
「そいつらは人間に慣れ親しむと見せかけて殺すかもしれん、我々が預かろう」
「この子達はそんな子じゃないわ!勝手に決めないで!行きましょ」
グロリアは2人の手を引き、その場から立ち去ろうとする。しかし、男はグロリアの腕を掴む。
「何よ!離しなさいよ!」
「こいつらはお前にとって危険な存在だ、捕らえろ!」
「うわっ!?何すんだよ!」
「グロリア、これはどういうことですか!?」
他の男達はアレックとフレキを捕らえる。
「その子達を離しなさい!私の大事な家族よ!」
グロリアは2人を捕らえてる男から2人を引き剥がそうと必死に抵抗する。しかし、他の男達に逆に引き剥がされ取り押さえられる。
「くぅぅっ!!!」
「暴れんじゃねぇ!」
「グロリアー!お前らグロリアに何すんだよ!」
「お願いします!やめてください!」
先程先頭にいた男はグロリアを見下しながら口を開く。
「こいつらは危険で排除されるべき生物だとなぜ分からない?いつ殺されるかもわからないんだぞ」
「関係ないわ、アレックとフレキがあなた達みたいなやつに排除されるぐらいなら、その子達に殺された方がマシよ!」
「そうか、ならその願い、現実にしてやろう」
男はフレキを自由にし、ナイフを持たせた。そしてフレキにこう命じる。
「おい、お前、それでそいつを殺れ」
「そ、そんなのできるわけないじゃないですか!」
「フレキ逃げろ!今すぐ逃げるんだ!」
「兄さん...でも、グロリアと兄さんが.........」
「そんなのいいから!早く.........むぅぅ!!!!」
「黙ってろ!」
男達がアレックに集中している間に、フレキはそのまま走り出した。
「あ!畜生...追いかけろ!逃がすな!」
男は2人の男に指示を出し、フレキを追いかけさせた。男はアレック頬を殴る。
「ぐっ!ぐぅっ.........!」
「やめなさい!やるなら私をやりなさい!喧嘩を売ったのは私よ?そう、私は妖怪の味方、あなた達人間の味方なんてしないわ!残念ね!」
「グロリア.........おまえ.........」
グロリアは必死に叫び男を自分に集中させた。
「ふん、そういう事か、人間に紛れてるのはお前か」
「えぇそうよ!さっさと殺しなさい!」
「どうりでこいつの肩を持つわけだ、じゃ、望み通り殺してやるぜ、そいつを立たせろ」
男はナイフを取り出し、無理やり立たせられたグロリアにナイフを突き刺した。
「っ!?.........ぁぁっ.........」
「グロ....リア........!?」
「.........................」
グロリアが意識を失ったことを確認すると、手を離す、グロリアはその場に倒れた。
「連れてけ」
そして男達はアレックを連れ、立ち去ろうとする。しかし、刺されて倒れていたはずのグロリアが自分に刺さったナイフを抜き、おとこの背中めがけて突き刺した。
「ぐおあああ!!!!おまえ.........死んだはずじゃ.........ぐふっ.........」
「死ぬのは.........あんた.........よ!」
男はその場で倒れ、青い光の粒となって消えた。
そして、グロリアは他の男を睨みつける。それはまるで妖怪そのものの目だった。
「ひぃ!」「に、逃げろ!殺されるぞ!」
男達は逃げ出した。そのお陰でアレックは自由になった。アレックはグロリアに駆け寄る。それと同時に、再びグロリアは倒れてしまった。
「グロリア!グロリア!」
「アレッ....ク............大丈.........夫.........?」
「嫌だよ!死なないでよグロリア!」
「ごめん.........ね.........フレキのこと.........お願い.....ね.........大好きよ.........アレッ.......ク.........................。」
「嫌だ、グロリア起きてよ、グロリア!もうフレキと喧嘩しないから!お菓子買ってなんて言わないから!夕飯ちゃんと食べるから!お願い、起きてよ!グロリア!!!!」
涙で顔がぐしゃぐしゃになるアレックを見て、私達はグロリアとアレックの元へと私達は向かう。
しかし、助けることは出来ない、私達がここで助けてしまえば、この世界の時空が歪み、壊れてしまう。
しかし、アレックは必死に私達に懇願していた。グロリアはもう青い光に包まれ始めている。
「神様?グロリアを助けてよ!ずっと見てたんでしょ?お願い!助けて!俺達のこと忘れないようにグロリアを生き返らせてよ!」
「ごめんね、それは出来ない」
「生き返っても、君達のことはもう覚えてない」
「なんで!前まで死んでも覚えてたじゃんか!なんで変えちゃったんだよ!」
「こうしないと、この世界は平和にならない」
「君達を安全に住まわせるためにやった事だよ」
「安全じゃないじゃんかよ!じゃあなんでグロリアが死んじゃうんだよ!ふざけたこと言うなよ!」
「ほんとにごめん.........」
「どうか君だけは、強く生きるんだよ、それじゃあね」
「待ってよ!グロリアを助けてよ!生き返させてよ!うああああああ!!!!」
私達はまた屋敷に戻ってきた。私達だって辛い、死にかけてる人間を私達は助けることが出来ないのだから.........。しかし一番辛いのはアレックなのだと私は知っている。
そしてグロリアは死亡し、自宅で蘇ったが記憶を失っていた。それどころか、話しかけても返事すらしない、表情も一切変わらない、植物のような人間になってしまったのだ。
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「私達はあの子を深く傷つけちゃったんだ」
「だからあの子は私達が憎くてしょうがないんだと思う、なんで助けなかったんだって」
それを聞いた私達は、とても複雑な気持ちになりました。悲しい気持ちが、私達の心を槍の如く突き刺したのです。
「そうですか......仙理がそんな辛い過去を持っていたなんて知りませんでした...」
「仙理君.........」
「慰めに行った方がいいんじゃない?」
「私達が行ってもダメだからさ、君達が行きなよ」
「えぇ、実、御二方を神社まで案内してください、私と出雲は仙理を探します」
「わかりました!」
「出雲、行きますよ」
「はい!お稲荷様!」
お稲荷様と出雲ちゃんは先に走って行きました。
「ニライ様、カナイ様私達も行きましょう」
「はいよ〜、あ、君に一つだけ忠告ね」
「私達はキリンヤガの城で君達の幸せを保証すると言ったよね?」
「でもこれは必要最低限な生活ができるって意味での幸せ、個人的に幸せと思うことは自分で見つけるんだよ」
「そして命は大切にするんだよ、君の親しい友達の記憶を消したくなければね」
「はい」
そして私達も神社に向かって歩きだしました。私は命の恩人の鈴ちゃんとニーナちゃんと一緒にずっと幸せに暮らしたい、もう大切な人を失いたくない。だから、強くならなくちゃ!
そう思いながら.........。
どうも、秌雨です、とても久しぶりな感じがしますね、
次はもっと早く投稿できるといいなーと思っています。
さて、今回は仙理君の過去の話でした。しかし、過去の話はこれだけじゃありません。これから明らかになっていくので、お楽しみに!
では、また次回♪




