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絶望の果ての理想郷  作者: 秌雨
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第22話、猫又と人狼の災難

とある森のログハウス、その中で俺とニーナは暖炉の前で暖まっていた。川に落ちたせいで身体が冷えているため、火が付いているかまどは天国のように感じた。


「あったけぇ〜……」

「ぬくぬくにゃ〜……」


すると、鎌鼬と何かの動物が合わさった妖怪のマダラがお盆にティーカップを3つ乗せて持って来て、それをテーブルの上に置いた。


「紅茶ができたよ、こっちに座りなよ」


俺達はテーブルに着いた。それを確認するとマダラも自分の席に着く。そして俺達の前にティーカップが置かれた。


「飲みなよ、体があったまるよ」

「ちょっと待ってにゃ、睡眠薬とか入ってないにゃ……?」

「疑うね〜、人生損するよ?まぁいいや、じゃあ僕のを飲む?まだ口付けてないし」


ニーナはコクコクと首を縦に振る。さすがに疑いすぎだと思うが……。よほど盗賊に捕まったのがトラウマなんだな。

マダラは躊躇なくニーナの前に置かれているティーカップとマダラの前に置いてあるティーカップを交換した。


「これでいいでしょ?」

「これなら大丈夫にゃ、いただきますにゃ〜♪」


ニーナはやっと紅茶を飲んだ。それに続き俺も紅茶を飲んだ。

美味い、紅茶のことはよく分からないが、この香りといい何といい、普通のものとは違うような気がした。


「美味いな、これ」

「ふふ♪ 気に入ってくれたかい?僕は紅茶を入れるのが趣味でね、いつか店を開こうと思ってるんだ」

「なら、街に住んで街で開けばいいじゃねぇか、なんでこんな森に住んでるんだ?」

「街は何故か住み心地が悪くてね〜、森に住んでた方が落ち着くのさ、だから店もここに開くつもりだよ」

「誰か来るのか?こんな森の中に店開いて」

「この森で迷子になる人達は入ってきてくれるかな〜って、別に僕はお金儲けのためにやろうと思ってないよ、この森で迷う人達が結構いるからその人達を助けたいだけ、それにお金なんてこの世界じゃそこら辺の花でも売れば銀貨1枚にはなるしね」

「確かにこの世界じゃ金には困らねぇな、でも人がいっぱい来た方がやりがいはあるんじゃねぇか?」

「いや、いいんだよ、なんだかんだでこの森気に入ってるし」


しばらくくつろいでいるうちに時間を忘れそうになっていた。そうだ、俺達はこれから帰らなければならない。こんな所でうだうだしてたら、また出雲に怒られてしまう。


「おっと、俺達はそろそろ帰り始めねぇとな、日が暮れちまう」

「そっか、なら僕が送ってあげるよ、家はこの森の近くなのかい?」

「あぁ、稲荷神社ってとこだ」

「稲荷神社?君達、稲荷神社の子達なのかい?」

「そうだぜ、この森には修行に来てたんだ」

「ぷっ……あはははははははは♪」

「何笑ってんだ?」

「君達、そんな近くなのに迷ったのかい?方向音痴にも程があるでしょ、あはははは♪」

「しょうがねぇじゃねぇか、川に流されて来たところねぇ所に流れ着いちまったんだからよ」

「じゃあ川を流された方向とは逆の方向に辿って行けば元の道に着けるじゃん」

「あっ!」


それに気づいた瞬間、とてつもない恥ずかしさがこみあげてきた。ニーナは少しイライラしている。からかわれるのが嫌いなのだろう。


「いや〜、久しぶりにおもしろい子達を見たよ、最近暇だったからさ、君達の話聞いて大笑いしちゃったよ」

「さっきから馬鹿にしすぎにゃ!あんまり言ってると〜……!」

「おっと、僕には手を出さない方がいいよ」

「どういう意味にゃ?」

「酷い目に会うってことさ、僕に手を出したことを後悔する羽目になるよ」

「ふーん、それはにゃ〜への挑戦ということでいいにゃ?わかったにゃ、受けてやるにゃ!」


ニーナは椅子から立ち上がり、テーブルの上をジャンプで通り越してマダラに爪を振る。しかしマダラはスっと後ろに移動し、ニーナの爪を軽々と避けた。


「おいニーナ、そいつはちょっとからかっただけじゃねぇか、そんな本気になんなって」

「仙理にゃ〜はそこで大人しく見てるにゃ!にゃ〜はこいつを懲らしめないと気が済まないんだにゃ!」

「どんだけ短気なんだよ、お前は……」


「やれやれ……街の人間もそうだけど、君も血気盛んだね、僕に手を出したってことは覚悟は出来てるんだろうね?」


いきなり攻撃されたのにも関わらず、かなり冷静だ。一切動揺する様子もなく、ただ片手を腰に当てながら戦闘態勢をとるニーナの前で堂々と立っている。


「ふん、そんな口をきけるのも今のうちにゃ、にゃ〜を馬鹿にした事、後悔させてやるにゃ!」

「おいおいやめろって!こいつは俺達を助けてくれたんだぞ!?」


俺の説得を無視してニーナは真っ先にマダラに向かい、攻撃を仕掛けようと爪を立てた。


「仕方ないなぁ……あんまり使いたくないんだけど……」


マダラは攻撃を避けずに尻尾から風船のようなものを取り出し下に叩きつけた。するとガスが抜けるような音とともにとてつもない悪臭が放たれた。俺達はそれをまともに吸い込んでしまう。硫黄のような強烈な臭いが俺達の鼻を刺激する。


「ふにゃあああ!!!?くしゃああああ!!!?!?」

「ゲホッ!ゴホッ!くっせぇぇぇ!!」



「どうだい?僕のガスの味は、えへへ♪」

「うう……ケホッ!ケホッ!なんなんだにゃ?この臭い……!」

「じゃあそろそろ正体を明かそうかな、僕は鎌鼬と『スカンク』のハーフさ」

「にゃっ!?スカンクってまさか、あの!?」

「そう、ピンチになると悪臭を放つあれ、恥ずかしいからあんまり言わなかったんだけどね」

「くぅっ!ううっ……臭すぎて力が入らないにゃ……」

「君が悪いんだよ?僕に手を出そうだなんて思うから、それに、忠告したよね?僕に手を出すと酷い目に会うって」


いや、俺に関しては完全に二次被害だ。俺は何もしていない、しかも俺の嗅覚は人間の何倍もある、だから俺にとってこの攻撃は凶器的な臭いだった。俺は全力で腕で鼻を覆いながら言う。


「俺何もしてねぇのに……なんで俺までこの臭いを嗅がされなきゃならねぇんだ……」

「ごめんね〜、同じ部屋にいる以上仕方ないね、僕はこの猫に用があるから、君は外で空気でも吸ってきなよ」

「そうさせてもらうぜ……うぇぇ……」


「うぅ…にゃ〜も外に……」


俺は外に出た。続いてニーナも出ようとするがマダラがニーナよりも先にドアの元に付き、俺が出たあとすぐにドアを閉めた。


「にゃっ!?」

「おっと、君は逃がさないよ、僕に手出しをした罰だ」

「そんにゃ、どいてにゃ〜……」

「ふふふ♪どこまで耐えられるかな?」


俺は外の空気を思いっきり吸った。まさかもう1つの動物が狼の天敵で、その天敵に助けられるとはな。

さて、中の様子が見たいが中に入るとまた悪臭地獄だ。俺は外の窓から中の様子を見ることにした。ニーナはふらふらになっている。


窓越しに耳を当て、会話を聞いてみることにした。


「さて、そろそろ謝ったらどうなんだい?もうフラフラじゃないか、お互いごめんなさいで終わらせようよ」

「にゃ〜は悪くないにゃ……絶対に、謝んないにゃ……!」

「耐えるね〜、謝れば済むのにさ、じゃあもう1度嗅がされたらどうなるのかな〜?」

「にゃっ!?」


マダラは再び風船を取り出す。


「ひっ!?い、嫌にゃ!やめろにゃ!この下品妖怪め!」

「君もそうやって言うんだね……はぁ……仕方ないなぁ……」


マダラはそう言うとニーナの近くに風船を落とした。


「ふにゃあああああああっ!!!!……あぁっ……」

「本当はしたくなかったんだけどね、君がそんな態度なら、お仕置きしないといけないでしょ?もう二度と僕に手を出そうだなんて思わないことだね、ってあれ?」


ニーナは動かなくなってしまった。どうやら気絶しているようだ。俺は鳥肌が立った、普通の嗅覚であるニーナが2発で沈む臭い、俺ならどうなってしまうんだろうか……?

マダラは俺に気づいたのか、俺が覗いている窓の前まで来て言った。


「あ〜、ちょっとやりすぎちゃったみたい、手伝ってくれるかい?」

「おいおいちょっと待て、俺は狼だぜ?その中入ったら1発でノックアウトしちまうだろ?」

「そっか……ちょっと待ってて」


マダラは窓から離れる、しばらく待っていると外に出てきて「はい」と言いながら俺に手を伸ばす。手のひらにあったのは木製の洗濯バサミだった。


「これで大丈夫でしょ?ほら早く、僕は力が弱いんだから」

「ったく、気絶するぐらいまでやることねぇじゃねぇか……もうちょい女の子らしさを身につけた方がいいと思うぜ?」

「やめてよ、気にしてるんだから……それよりも早くこの子を運んでよ」

「たく、しょ〜がねぇな〜」


俺は洗濯バサミを受け取り、それを鼻に挟んで部屋に入る。そしてニーナを家のベッドに運んだ。

そして、家の窓を開け換気をした。とりあえずニーナは気絶しているだけだったので、ニーナが目覚めるまで傍で様子を見ることにした。


「なんか、ごめんね、僕がちょっとからかい過ぎたみたい、それなのにこんなに酷い目に合わせちゃってさ」

「ニーナも怒りっぽ過ぎただけだ、悪ぃのはこっちだよ」

「またやっちゃった……もう封印しようって決めたのに」

「どうしたんだ?そんなに沈んでよ」

「実は、街で人間に襲われたと時も同じ方法で懲らしめたら街の人間に嫌われちゃってね、この子みたいに『下品妖怪だ』って、その時からみんな僕を避けるんだ」

「やっぱ、気にしてんのか?」

「うん、まぁ自分なりに努力したんだよ、この風船を人に見られないように作ったりさ、まぁでも大体想像つくだろ?この風船の作り方ぐらいさ」

「まぁそうだな、でもそりゃお前の習性から来たものだぜ?切っても切り離せないもんじゃねぇか?」


マダラは静かに頷く。ずっと笑顔だったが今は無理矢理笑顔を作ってるような笑顔に変わっていた。

やっぱ嘘をついていたんだな、マダラは森の方が落ち着くから住んでるんじゃない、街の人間に嫌われてるから森に住むしかないから住んでいるのだ。それを隠していた。


「お前、本当は街が好きなんだろ?街で店を開きたいんじゃねぇか?」

「うん、本当はね、でももう僕は街に行けない、だから森の方が落ち着くって思い込むしかないんだ、理想郷なのに、理想的な生活が出来ないなんて、自分のやりたいことを抑え込まなきゃ行けないなんて、これじゃあ現実世界と一緒だよ……」


マダラは自分の膝の上に置いた手をギュッと握る。その手には今までに積み重ねてきたであろう悔しさと、怒りが俺に伝わってきた。マダラはその辛さを誰にも伝えられずに、自分に抑え込んで生きていたのだ。

どうしてなんだ、こいつの習性だし、襲われたら自分の身を守るのは当然なんだから仕方ないことなのに、なんで人間は分かろうとしないんだ。だから人間は自分勝手なんだ。でもこいつにも非はある、こいつは少し心が弱すぎるのだ。


「お前、ほんとにこのままでいいのか?」

「いいんだよ、みんなに迷惑をかけないならここに住んでた方がいいからさ」

「綺麗事言ってんじゃねぇ!」

「え?」


マダラは少し驚いている。俺は続けた。


「いいか?確かにお前の武器は好かれるものじゃねぇ、俺だって鼬は天敵だ、だがな、それはお前が持ってる強ぇ武器なんだ、嫌われようと下品だと言われようと『関係ねぇ!これが俺の持つ武器だ、文句あんならかかってこい』って堂々と言ってやれやいいじゃねぇか、抑え込む必要なんてねぇんだ、ほんとにやりてぇことがあんなら、嫌われることなんて気にすんな!」


マダラの目には涙が浮かんでいた。でもその涙を必死にこらえている。やべ、女泣かせちまった……。


「い、いや違うんだ、その、ご、ごめんな!つい熱くなっちまった!」

「ありがとう……こんなこと言ってくれたのは君だけだよ、その通り、僕は怖がってたんだ、そうだよね、自分から動かなきゃなにも出来ないよね」

「そうだ、自分に自信を持て、こいつみたいにな」


俺はニーナを見ながら言った。すると、ニーナがちょうどゆっくりと目を覚ました。


「うーん……?」

「お、起きたか、大丈夫か?」

「うう、酷い目にあったにゃ……まだうっすらと臭いがするにゃ……」

「たく、親切な人に手ぇ出すからだ、お目覚めのとこでわりぃがマダラが言いてぇことがあるらしい」


俺はマダラに首で合図をした。そしてマダラは涙を拭い、その場に立ち。こう言い放った。


「だから言ったでしょ?今度僕に手を出そうとしたら、容赦しないからね、分かった?」

「わ、分かったにゃ……」

「まぁ、僕もちょっとからかいすぎたよ、ごめんね」

「にゃ〜こそ、下品妖怪とかいってごめんなさいにゃ……」

「それじゃ、和解ってことでいいね?」

「うん!これからは仲良くするにゃ♪」


ニーナとマダラは共に握手をした。どうやら仲直り出来たみたいだ。


「そう言えば、君達の名前聞いてなかったね」


「俺は仙理、狼と人間のハーフだ、人狼ってやつだな」

「にゃ〜はニーナって言うにゃ、よろしくにゃ〜♪」


「よろしく、改めて僕も自己紹介しようかな?僕はマダラ、鎌鼬とスカンクのワーハクタクさ」


自己紹介を終えると俺達は神社に帰るため家を出た。しばらく歩くとマダラはその場で停止して俺達に止まるように合図する。


「どうしたんだ?マダラ」

「何かいる、僕達を付けてるみたい」

「気配も匂いも全然しねぇぞ?気の所為じゃねぇか?」

「いやいるね…………そこだ!」


マダラは腰に付けてる鎌を木の上の方に向かって投げた。

すると、


「うわっ!?きゃあああ!!!!」


叫びながら1人の少女が落ちてきた。派手なスカート、ショートヘアーの桃色の髪の毛、頭には猫耳の少女だった。

少女は尻もちを着いたまま手で尻をさすっている、強く打ち付けたようだ。


「リィルにゃ〜!?」

「こいつは、お前の連れじゃねぇか」

「どうしたんだにゃ?」


リィルと呼ばれる少女は涙ながらにニーナに訴えかける。


「ニーナ様、木乃葉が!木乃葉が!」

「落ち着くにゃ、木乃葉にゃ〜がどうしたんだにゃ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私はリィル、ニーナ様の部下、強くて賢いかわいい天才魔法白猫少女!

っとかっこよく決まったところで、今日私達は前にニーナ様を捕まえて酷いことをした盗賊を処理するのを任された。

それで、今木乃葉と一緒に盗賊を連れて森に行って今歩いてるところ。

私達はこの人を逃がしてあげようって決めた、本当は魔法で散々痛めつけてやろうって思ったけど、木乃葉が生かしてあげようって言って、盗賊ももう私達の前には顔を出さないって言ったから許してあげようってなった。森をしばらく進んで木乃葉は止まり、縄を解いた。


「ほら、ここで自由にする、だからどこか遠くにいけ」

「すまねぇ、あんた達は優しいな、あんなひでぇことしたのに俺を殺さねぇなんて」

「できれば人間を殺したくない、それだけの話、さっさと行って」

「なぁ、行く前に渡してぇもんがあるんだ、両手を出してくれねぇか?」


木乃葉は両手を盗賊の前に差し出した。すると、盗賊は木乃葉の手を思いっきり掴み、そのまま木乃葉の腹を足で思いっきり膝蹴りをした。


「ぐあっ!うぅ……」


木乃葉は力を失い、その場に膝をついた。私はステッキを構えて魔法を唱える。


「卑怯者!木乃葉を離しなさい!『ファイヤーショット』!」


炎の玉をステッキから出現させ、盗賊に飛ばす。しかし、盗賊は木乃葉を無理やり立たせて前に出した。炎の玉は木乃葉に当たってしまった。盗賊は木乃葉を盾にしたのだ。


「うわあああっ!!!!」

「っ!?そんな!木乃葉!」


「へっ、やっぱり馬鹿だなお前らは、恨むんなら当てるのが下手な自分を恨むんだな、あばよ!」


盗賊は素早い逃げ足でどこかへ行ってしまった。

私は追いかけようとしたけどそれどころじゃない、急いで倒れた木乃葉の元へと駆け寄る。


「木乃葉!ごめんなさい…ごめんなさい…」

「うぅ……リィ……ル……ご…めん……私が……こんな…提案…したから……」

「ううん、悪いのは私、もうちょっと慎重に打ってれば……ごめんなさい……」

「リィル……私は……もうだめ……かも……」

「嫌!やめて!そんなこと言わないで!」


どうしよう、今助けを呼んでも間に合わない。木乃葉が死んじゃう……。

私の魔法で何とかしないと、でもこの魔法はまだ未完成、でも、やるしか!私はステッキを構えて魔法を唱える。


「お願い、奇跡よ起きて!『フェアリーパーチェ』!」


すると、ステッキが白く光り、その光が木乃葉を包む。

『フェアリーパーチェ』この魔法はかけた人の生命を維持する中級魔法、私は初級魔法しか使えないけど私にも使えた!私もやれば出来るんだ。

私は胸を撫で下ろした。でも私の魔力だと長くは持たない。早く誰か助けを呼ばないと。


「待っててね、木乃葉、すぐに助けを呼んでくるから!」


私は森の中を駆け出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それでニーナ様を探しに来たの、早くしないと木乃葉が死んじゃうの!ニーナ様、助けて!」

「事情はわかったにゃ、はやく木乃葉にゃ〜の元に連れてくにゃ!神社に運んで狐尾に治療してもらうにゃ!」


「いや、ちょっと待て、その魔法は長くは持たねぇんだろ?だったら今から行って神社に連れてっても遅せぇ、その間に魔法が解けて死んじまう」

「だったらどうしたらいいのよ!じゃあ木乃葉を見殺しにしろって言いたい訳?ふざけないでよ!」

「そうは言ってねぇよ、その場で何とかしねぇと間に合わねぇってことだ、こうしてる間にも時間はどんどん迫ってるんだぜ?」

「分かってるわよそんなこと!だから助けを呼びに来たんじゃない!私だってどうしていいかわかんないのよ……」


リィルはメソメソ泣き始める。すると、マダラはリィルの肩に手を乗せ自信満々に言った。


「僕に任せてよ、多少の治療なら僕ができる」

「ほんとに!?」

「うん、とにかくその、木乃葉だっけ?その子のところに連れてってよ」

「うん!」


俺たちはリィルに連れられ、急いで木乃葉の元へと向かう。

到着すると、そこには数多くある木の中の1本に背中をつけてもたれかかっている白い光に包まれた木乃葉の姿があった。木乃葉はなんとか意識を保ってる状態でリィルに目を合わせて言う。


「うぅ……リィ…ル……?」

「木乃葉、もう大丈夫よ、助けを呼んだからね」


リィルはマダラの方を向いて頷いた。マダラも頷き返して、木乃葉をじっくり見始めた。数分見た後、口を開いた。


「全身に火傷を負ってるね、だいぶ重症だよ」

「私のせいなの……お願い!木乃葉を助けて!もう魔法が切れちゃう!」

「うん任せて、何とかしてみせるよ」


マダラはそう言うと突然自分の尻尾に手を突っ込んで尻尾の中からクリームのような液体が入った小瓶を取りだした。こいつ、尻尾に物を入れて持ち歩いてるのか……。


「傷薬を塗るよ、しみるけど我慢してね」


そう言いつつマダラは木乃葉の身体に小瓶の中の液体を塗り始めた。木乃葉は痛みのあまり悲痛な声を上げる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!………ううっ……!」

「しばらく痛いけど我慢して、傷が治ったら痛みもなくなるから」

「ううっ……!」


マダラは薬を塗り終えると次に包帯を尻尾から取り出す。それを木乃葉の体に巻いていった。腕、足、胴体全てに包帯を巻いた後、マダラは立ち上がった。


「これでよし、あとは安静にしてれば問題ないよ、さぁ、神社まで運ぼう」


マダラは木乃葉を背中でおんぶした。そして俺達は神社に戻った。着く頃には既に夕方になっていた。出雲にまた怒られちまうな……。でも今回は仕方の無いことだ。さすがに許してくれるだろう。


「戻ったぞー!」


俺は大きな声で言いながら入口の襖を開けた。しかしそこにはいつも出迎えてくれる出雲の姿がなかった。俺はもう一度声を出す。


「おーーい!帰ったぞー!出雲、いねぇのかー?」


やはり返事がない。その代わりに出てきたのはおきつね様と鈴だった。


「おお、戻ったかの仙理、出雲はまだ帰っておらぬ、まぁ修行が長引いておるのじゃろ」

「おきつね様木乃葉を助けてやってくれ、ひでぇ怪我なんだ」

「一体何があったのじゃ?」


「リィルにゃ〜と木乃葉にゃ〜が盗賊を見逃したら襲ってきて、リィルにゃ〜の攻撃を盗賊が木乃葉にゃ〜を使って防いだらしいんだにゃ、それであってるにゃ?」


リィルは下を向いたままコクリと頷く。今にも泣きそうな顔だ。

歩いてる途中いつの間にか眠っていた包帯だらけの木乃葉を見て、おきつね様は言う。


「応急処置はしてあるようじゃの、鈴、布団を用意するのじゃ、あと木乃葉を背負っている鎌鼬よ、中に入るが良い、木乃葉を寝かせてやるのじゃ」


鈴とマダラは部屋の中へと入っていった。ニーナとリィルも後に続く。しかし俺は外に出ようとした。


「仙理にゃ〜、どこに行くんだにゃ?」

「出雲達を探す、ちょっと嫌な予感がするんだ、お前達は木乃葉の世話をしてやれ、いいな?」

「わかったにゃ、気をつけてにゃ」

「おう」


俺はすぐさま準備をして神社を飛び出した。怪我をしている木乃葉を見て少しゾッとした。いつもなら家にいていつも俺を叱る出雲が今日はいない、嫌な予感しかしない。何かあったに違いねぇ!俺は手がかりもない夕方の森を走った。

どうも、秌雨です。今回の話、下品な内容ですみませんね( ̄▽ ̄;)

最初はこのキャラはボツにしようかなぁなんて思ってたのですが、思い切って出してみました。お楽しみいただけたら幸いです。さて、次は出雲ちゃん、実ちゃんサイドの物語です。お楽しみに!

では、また次回♪

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