ヤバン王 Ⅶ 天意/サンライド㈲
「ゴットン、いくのか」
「ああ」
――二人の男が短い別れの言葉を交わす
ここは通称『北都』と呼ばれる人間が自治する村、トウモロコシの良く育った畑。
ゴットンと呼ばれた青年は暑い中、煤けた袖のないロングコートを羽織っている
そして手には鉛板で補強されたスーツケース。
「迷わず、使え。生きて帰ってこい」
そう言った土に汚れた服と日に焼けた中年の男の瞳には死力の輝きを、爛々と灯していた
「トキヤ…なに大丈夫さ!ヤツが生きていたんだ人間の世界を取り戻すチャンスだよ
ヤツのことだから竜人を仲間に取り込んでしまわないように先手を打っておかないといけないからね
まあ誘拐した俺たちと一緒に救助に来た部隊と戦うような変な奴さジュージと言う男は」
受け流すように軽い口調で肩をすくめる
「そいつぁは大丈夫なんか、おらぁ知らんヤツよりおら達を守ってくれたおめえのが大事だ」
直球の物言いに毒と捕食者の世界に行くよりもその言葉にゴットンは苦しむ
守っていれば確かに何人かは細々と生きられるかもしれない
だがそれもいつまで持つか、西でまだ戦線を維持しているらしかったがそれは後退の一途だったはずだ
格下の竜人なら村を発見させないように操ることが可能だったが集団突撃されたらひとたまりもない
特にティラノサウルス型の炎冠、ヤツが関東付近を離れないため今まで北都を不在にするのはかなりの危険を孕んでのことだった
霊波検知を使えば場所は解るが相手にこちらの存在を教えることにもなる
日本だけで最低で5匹、竜人の能力者を確認していた
炎冠、成田、新宿、西、西と新宿の中間にもう一匹、霊信を傍受している
能力だけで言えば新宿が同等の濃さ残りはそれ以下だが
近接で戦闘した場合、炎冠の蜂蜜色よりも力で劣り、加えてあの巨体である。
世界規模で後どれだけいる事か。いや問題は能力者だけではない
航空戦力、制空権を奪っている何者かが海にいる!
「心配ないよトキヤ、ヤツの強さは折り紙付きだ。相打ちとは言え【サタン】どもを皆殺しだからね
うまく誘導してやれば竜人に支配された世界も一発逆転さ、
ゾンビのようなやつで死んだと思ってもまた生き返るからね。ははは」
言葉とは裏腹に自分の手札だけで世界を変える方法を模索していた
そしてゴットンは静かに瞳の奥を輝かせる
「そう、うまぐいくとも思えねぇ…」
トキヤにはわかっていたゴットンにはもう銃の弾が無いことを。
だからスーツケースを持っているのだと
「大丈夫、大丈夫だ。このゴットン・キリングス 伊達に100年以上も、
暴力主義を貫いて生きていない」
左手首のベルトに手を添えた
「――変身」
そこには蒼銀に輝く狼を象った鎧、その後ろ姿があった
「蒼狼の天意、征く」
如何な獣よりも早く駆け出す、目指すは南、クジューリ!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナリタ砦上空、直径2メートルほどの黒い球が48、円を描くように現れ
黒い人型を落下させてゆく、人なら挽肉になる高さからそれらは苦も無く着地する
上空から見ればナリタ砦内にはおびただしい数の恐竜が横たわっている
黒騎士・杖の霊波攻撃による強制的な眠りだ
その少し手前。
そこに走ってくる装武に道を作るように
2列づつに並び片膝をつく黒騎士達。
ぺたっぺた、ぺたっぺた、
転送してきた槌、弩、ゆみやは装武の傍に、だが、無視して走ってゆく
ぺったぺったぺった…
「装武様…?」
《剣:ゆみや様、装武様は既に…》
「え…?」
ぺた…
「おれは既に死んでいるッッッ!!!!!」くわっ
べた―――ん!!!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――そうこれは夢、昔の思い出
「お兄ちゃん良かったね!天意継げるんだって!」
(てんいってなんだー)
「天意っていうのはロボットのパイロットのことだよ!すごいねー!」
(ろぼっと!おれろぼっと好きだ―どんなだーカッコいいのか?)
「一番強い奴だよ!万死の鉄槌!みんなメガデスには敵わないから
お兄ちゃんが最強だよ!」
(ぉぉーすげー!)
「あ、でもメガデスってみんなは呼んでるけど本人にそんなこと言ったらだめだよ?
傷付いちゃうから。ロボット、【天子】は善悪を決めることができない赤ちゃんなのだから殺したり破壊するのを決めるのは【天意】のお仕事なんだって」
(おれに任せろ~!悪いやつみんなやっつけてやる!)
「今、地上に降りてる天子は二柱、お父様の万死の鉄槌
他所の人は名前使うと怒られるけどメガデスの本当の名前は巨神の天使お兄ちゃんは知っておかないとね
と、反逆者に奪われた、楽園への茨道。
残りの三柱、月にいる女神の魔鏡
辺境にいる千年王国の夜明け
皇帝と共に眠っているとされる大英雄の王冠」
(くらうんおぶびっぐへらくれす…へらくれすおおかぶ…ザザ…
あれ?なんだっけ?あ、おれそっちに乗りたい!)
「え?お兄ちゃん、今私以外の人とお話しした?」
(わかんない!)
寝たきりのおれと○○、まだ小さいころだ アイツ、どこ行ったんだろう…?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そんなっ!」
まだ微弱な霊波を感知できるものの倒れた装武の心臓は停止していた
「誰ぞ医者をッ!」
真剣な眼差しを騎士団に向ける
「ウチかッ」ビシッ
(((ゆみや様がご自身で突っ込みを…気が動転してらっしゃる!!)))
≪ま、まだ魂の乖離はしていないッッバリスタ!心臓マッサージッ
ソード敵能力者を連れてきなさいッ死力の回復方法を吐かせなさい!≫
≪弩:お待ちください、装武様が≫
むくり
ぺたり ぺたり ぺたん ぺたん ぺたん ぺた ぺた ぱた ぱた ぱた ぱた
起き上がりゆっくり走り出す
「え?あ、あれ、装武様~?」
剣「おそらくですが心臓と脳の活動がほぼ停止しておられるので
運動神経だけで生命維持をしておいでなのでは…?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――新宿元都庁
トライドン辺境伯爵は驚愕していた!
「ば、ばかな…ナリタ周辺の配下、全て反応がない…如何に賊が強力な
支配者型だとしてもっ王に匹敵…?王よりも?馬鹿なっ馬鹿なっ!
これでは西から主力をもってきても全く歯が立たない!
それどころかたった一手で盤上が360度回転してしまう!
ま、まだだ。王の不興を買うのを承知で【巨人】を出していただくしか!
あれならば我々支配者型の能力も効かぬ!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――ナリタ砦手前
ナリタの支配者イクアナも驚愕していた!
気がづけば状況は最悪だった。手足を拘束され後ろから拘束され、囲まれていた!
ただの人間であれば取るに足らない状況、能力を使えばすぐに虜にしてしまえる。
だが何故か『声』も届かない。いや、届いている…奥が深すぎる…
ゾワッ
拘束している何者かの中に侵入したつもりが侵入されている!!
「アタシの中に入ってくるなぁああぁッッッ!!!アヒィィ」
バタッバタタタタビクンビクン
(ああああああああぁぁぁぁああああぁぁああああッッ)
「やめなさいランス。まだそれに吐いて貰わねばなりません死力の回復方法を!」
丸太で作られた壇上の白い布の女が言った
ぎぃぎぃぎぃ 隣で木でできた水車の様なものが回っている
頭は押さえつけられてよく見えない。
それよりも!こっちは相手の欲しい情報を握っているのだ、
この窮地を脱出すべく頭を使う時!
戦う?否!アタシはそんなキャラじゃあない
さっきの感覚!
先ちょをちょ~っと入れただけのつもりで頭から尻尾の先まで丸呑みにされた
格闘もそうだけど能力も相手にならないと考えるべき、
後ろのやつだけ強い?否!この黒い奴ら一匹一匹が…
下手をすれば王と同等…
そして壇上の女はそれ以上…?立ち位置、さっきの会話からして
頭はあの女!
「い、言います!言わせてください!ですから!命ばかりは!」
なんとしても、この場を凌ぐ!
下手に取引しようとすれば恐らくさっきの侵入でアタシの心は砕けてしまう!
「それが有用であれば今しばらく生かしておいてあげましょう答えなさい
死力を回復させる方法を!」
「は、はい。」周りのやつらはどっちだ?
「言った瞬間に殺したりはしません。武器を下げなさい」
ガシャガシャン!
見える範囲の6~7匹の音じゃない!!なんなの?
これだけの連中が今までどこにいたっていうの?!
「どうしましたか?」
「いえ、こちらの方々は男の方ですか?女の方ですか?」
体型で言えば女だ。
それ以前に…ホモサピエンスなの?どっちの匂いもない
「関係ある話ですか?」
「はい、わたしの回復方法には…」
いっても大丈夫よね…?信用を得るしかないはず…
「男性の…」
「男性の?」
「○液を体内に取り込みます…」
!!
「…なるほど…それは確かにそうかもしれません…うぅ~ん
男性の睾丸をご主人様に召し上がっていただけば回復すると思いますか?」
「残念ながら…我々はホモサピエンスを食べますが
男性を食べても女性を食べても回復しません…」
ぎぃぎぃぎぃ何なんだろうさっきからずっと
「つづけて」
「ハイ…これはアタシが立てた仮説なのですが…
生き物は子孫を残すときにその命を分けるのではないかと」
「なるほど…それで男性からしか取れない…と?女性から生殖器を摘出して食べたりはしなかったのですか?」
「…」え?いや何言ってんだこいつ…
「構いません答えなさい」
「試しておりません。アタシは人間を食べておりませんので」
「え?!」
「『愛』よ。愛、アタシはアタシの男の子を皆愛してるわ
彼らもアタシを愛してくれてるわ」キリ
「え、どうみても貴方、恐竜の…卵胎生よね?それ以前にメス?」
「オスよ!!」
「ま、まあそこはいいです。繁殖行為に愛があれば死力が回復するということ?」
「いいえ、普通の繁殖であればその生命力は子へ変わるわ。
男性から男性、もしくは異種交配ね!」
「…」
頭抱え込んだわ ざまあ!
ぎぃぎぃと言う音がやんだ
『――もう一個あるよ 死力を回復させる方法』
「ご主人様?!」
ゆらぁあと水車?を中で回していた男が降りてきた
ようやく変身した(ぇ
主人公じゃあないけどおおおお!!!
実はロボットが出てくるのです