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その日、博昭は帰ってこなかったらしい。
らしい、というのは、直人たちが博昭の家についてすぐ、博昭の父が帰宅したからだ。
博昭の母からの連絡でいそいで帰宅したという博昭の父は、直人の母に何度も頭を下げて、直人たちに帰るよう言った。
「いやぁ。子どものことですからね。どこかで時間を忘れて遊んでいるんでしょう。そろそろ腹がへって帰ってくるんじゃないのかな」
ぎこちない表情で、博昭の父は言った。
(博昭がひとりで、こんな時間まで遊んでいるわけないだろ)
直人は、あまりにも博昭のことをわかっていない博昭の父に腹をたてた。
博昭はたしかに調子に乗ってハメを外すことはあるが、どちらかといえば臆病で、慎重だった。
調子に乗って馬鹿なことをするのは、直人たち友達と一緒にいるときだけだ。
夜の九時は大人にとってはまだ早い時間みたいだが、小学校1年生の直人や博昭には、じゅうぶんに遅い時間だった。
博昭がひとりで外で遊んでいるはずないのだ。
「おっちゃん。そんなはずないって。博昭がひとりでこんな時間まで外で遊んでいたことってある?それに、今日、うちのクラスじゃ怖い話したんだよ。博昭、すっげーびびってた。そんな日に、こんな真っ暗な外にひとりでなんて、いるわけないじゃん」
直人は、自分の意見が正しいことに自信があった。
正しいことなんだから、大人相手にでもちゃんと言わなくちゃいけないと思った。
博昭の父は、直人の言葉を聞いて、顔色をなくした。
博昭の母は、わっと堰を切ったように泣き出した。
直人の母は、二人に何度も頭を下げて、博昭の家を後にした。
家に帰った直人は、母にさんざん怒られた。
「あんたね。あんな不安そうに、子どもの心配をしている親御さんに、不安をあおるようなこと言うなんて、なにを考えているの?余計に不安にさせるだけだって思わなかった?小学生にもなって、言っていいことと悪いことの違いもわからないの?」
「なんだよ。俺、間違ったことなんていってねーよ。母さんだって、ぜったいおかしいって思ってたんだろ!」
博昭の父の強張った顔。
博昭の母の絶望するような泣き声。
直人にも、自分が言ってはいけないことを言ってしまったのだとはわかっていた。
けれど自分が正しいことをしたという気持ちは変わらない。
「なんだよ、博昭の父さん、博昭のことぜんぜんわかってないよ。さっさと探してやらないと、博昭、ぜったい今頃泣いてる。お腹がすいたら帰ってくるだろうなんて言ってないで、さっさと探しにいかなくちゃいけないんだ!なのになんであの人、なにもしないんだよ!」
母を怒鳴りつけながら、直人はえぐえぐと泣いた。
母は「ふーっ」と息を吐いて、直人を諭すように言う。
「直人にも、考えがあったんだよね。ごめん。母さんも心配で、ちょっとイライラしていたみたい。直人の話も聞かないで怒ったのは、母さんが悪かった。ごめんね」
直人は、答えなかった。
これが直人の母の説教の前触れだということは、いつものことだからわかっていた。