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短いです。
冬の夜は、はやい。
まだ7時過ぎだというのに、外はすっかり夜の色に染まっていた。
家を出て、角を曲がる。
すると道の手前のほうに、しらじらとした月がうつっていて、直人ははっとして足を止めた。
そこには、大きな水たまりがあった。
水たまりは、大人でもまたいで通るのは難しい大きさだった。
直人の母は、なにげない調子で水たまりの横を通り抜ける。
直人も母にならい、月をうつしたその水たまりの横を通り抜けた。
(水たまり……)
ふと、今日聞いたばかりの「こわい話」を思い出す。
あんなのは作り話だ。
家に帰ってからは、思い出しもしなかった話。
けれど、直人の家から博昭の家までのほんの少しの距離の間に消えた博昭と、そのほんの少しの道にある大きな水たまりを見ると、あの話が思い出されて仕方なった。
(香先生は、なんて言ったんだっけ。そうだ、確か……)
『子供が、ひとりで、その水たまりの上を通った時。
ぴぴぴのぴちょんさんは、その水たまりから起き上がり、子供を捕まえ、足からばりばりと食べちゃうんです。
食べられちゃった子は、すこしずつこの世から消えてしまいます。
そして、最期にはまったくこの世からなくなってしまうんです』
消えて、しまう。
馬鹿馬鹿しい。
そう、直人は思う。
けれど背筋を揺らす嫌な予感は、ますます強くなっていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
評価くださった方、ありがとうございました。
皆様、よいお年を