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異変は、その日の夜、直人に知らされた。
「直人。博昭くんって、今日も一緒に帰ってきたのよね?」
「へ?あー、うん。家の前まで一緒だったけど?」
夕食を食べ終わったころ、母はこわばった表情で直人に尋ねた。
お気に入りのアイドルがテレビにでていたので、直人は上の空で答える。
けれどスマホを握りしめた母が、
「ちょっと電話するから」
とリビングを出たのを見て、慌ててテレビを消して聞き耳を立てた。
「奥野さん。いま、lineを見て……。うちの子は、家の前まで一緒に帰ってきたみたいなの。時間もいつもどおりで、3時前だったわ」
直人の母の声は、大きい。
本人は小声で話しているつもりのようだったが、廊下で話している声は直人の耳にもはっきり聞こえてきた。
(博昭、まさか家にいないのか?)
博昭の母は、毎日1時頃までパートタイムで働きに出ている。
博昭が家に帰るころにはだいたい家にいるのだが、今日は交代で店に入る予定だったバイトの人がシフトが入っていることを忘れていたらしい。
交代が来るまで店を空けられず、仕方なく博昭の母はしばらく店に残っていた。
それでも、博昭が帰る予定の3時前には家についていたらしいのだが。
博昭は、まだ家に帰ってこないらしい。
直人の母は、なだめるような声音で何度も「落ち着いて」と言うと、博昭の母にlineの「クラス」グループで博昭の消息を知っている子がいないか尋ねるようにと指示していた。
そして電話を切ると、コートを羽織って、リビングに顔を出す。
「直人。博昭くんの家に行くから……」
「俺も行くよ」
父は、まだ仕事から帰っていない。
直人の母は、博昭の姿が見えなくて動転しているだろう博昭の家に直人を連れて行くことを躊躇しつつ、こんな時に直人を一人家に残していくのも不安そうだった。
だから直人は自分から宣言する。
博昭は、ともだちだ。
ちょっとお調子者でウザい時もあるけれど、家が近いこともあり、いちばんの友達だった。
学校から一緒に帰ってきたはずの彼が、夜になっても家に帰ってないなんて非常事態に、じっとしてなんていられない。
「そうね、それがいいわ」
直人の母も、うなずいた。