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プロローグ:兎の夢
その少女は小高い時計台の上に立っていた。時計台の屋根の先端、そこに―――単純に立っていた。端から見れば危ういバランスだが、少女はまるで自分が安定した地面の上にいるかのように直立不動だ。
もう夜更けと言っても憚らないくらいの時間のはずなのに、まだまだ地上は騒がしい。街のネオンは煌々としているし、車のライトが忙しく行き交っている。
少女はうるさいのも、派手なのも好んではいない。
けれど少女は、その夜景を嫌いでは無かった。
夜風がざあっ、と彼女の頬を撫でる。彼女の帽子についている兎の耳が、ひらひらと揺れた。
「―――ふぅ」
明日には仕事に取り掛からなければならない。あまり気分は乗らないが、自分のせいだし仕方ない。
そして何より、少女は地上が好きだった。好きという事より大事な理由が、この世のどこにあり得るのだろう。
少女は時計台の先端を蹴り、夜の闇へと跳ねた。
ここまで読んで下さってありがとうございます。初投稿なので不届きな所もあると思いますが、何卒ご容赦下さいm(_ _)m