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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
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聞きたくない話も、時には聞かないといけないのです。

 おかげで一日無駄にした。昼ごろ町に戻ってきた私たちは、役人から報奨金を受け取り、ジンと山分けした。そこそこ名前が売れていた盗賊団だったらしく、二十万Gの金額になった。一人十万Gずつだ。

ついでに蝙蝠マスターとか名乗っていたノット(だったかな? どうでもいいか)に襲われて大怪我した冒険者達を回復魔法を使って治してやった。まあ、傷だけだがね。

「いやいや、セリーナ様たちにちょうど来ていただいて、助かりました。レムリア辺境領には“レムリア騎士団ナイツ”を名乗る冒険者たちがいて、レムリアでは犯罪を犯さないのですよ。おかげで、行き場のない連中がこの辺りを襲うようになりましてね。冒険者を雇ったり、領主にお願いしたりするのです。数を減らす事には成功していたのですが、壊滅までには至らず。本拠地を突きとめても逃げられてばかりで。カシラとかいう奴と、蝙蝠を扱うやつ以外は入れ替わりの激しい連中でしてな」

 べらべらとよく喋る奴だな。

「しかし、回復魔法まで使えるとは、流石は“銀髪の魔女”ですな……ヒッ!?」

「やめろ、セリーナ。おい、お役人さんよ、その二つ名でこいつを呼ぶな。大怪我したくなけりゃな」

「邪魔をするな、ジン。こいつも怪しい。レムリア辺境領に凄腕の冒険者たちがいるなら、領境の町で盗賊団がのさばる筈がない。こいつが情報を売り渡していたんじゃないか? だいたい、蝙蝠野郎の情報をこいつは言わなかったぞ?」

 それが、一番おかしいんだ。名前が売れているのなら、盗賊討伐に向かう私たちに教えなければなるまい。

「まあ、確かにおかしいわな。じゃあ、こいつ、どうする?」

「尋問しよう。拷問に変わる前に洗いざらい吐いてもらえればいいがな」

 もっとも、こんな奴尋問しても、私には何の得もない。

「伝えるのを忘れていただけですぞ!! 私はあいつらと内通した事などありませぬ!!」

 必死に叫ぶ役人と、彼を周りでジト目で見ている見分に連れて行かれた人間たち。

「尋問、お前がするの?」

「ジンに任せるよ。私はお風呂に入って眠りたい。宿屋に行くさ」

「じゃあ、俺もしねえ。俺も宿屋で一眠りだ」

 そして、役人の事など忘れ去り、私たちは宿屋に向かうのだった。

 お風呂を借りて返り血を洗い流した私は、夜になるまでぐっすりと眠ったのであった。

 夕食時に目を覚ました私は、ジンと共にそこまで美味しくはないが、不味くもない夕食をとったのだった。

 夕食を食べ終えた私たちは、明日以降の事を話し合い、また各自部屋へと戻って行った。




 役人は宿屋の外でずっと、無実を訴え続けていたそうだ。飲まず食わずで。流石に周りの人間も彼が盗賊と内通していた人間だとは思っていなかったようで、誰かから暴行を受けたりはしなかったとの事だ。

 翌日、レムリア辺境領へ向かう為に宿屋から出ようとした私たちは、正座をして必死に無実を訴える役人の姿に驚くばかりだった。

 私たちが彼の事を信じると言った瞬間、彼は前のめりに倒れたのだった。

 気を失った彼を丁重に扱うように町の住人達に告げた後、私たちはレムリア辺境領へ向けて再度旅立ったのだった。




 レムリア辺境領に入って二日。

もう少しで辺境領最大の町、領主の館のある町に辿り着こうとしている。

「もう少しで、領主の館に着く、か。しかし、暑いな」

 私は騎士服の胸元を広げ、風を送り込んだ。ひんやりした風が全身を包み込んだ。まだ朝だというのに、暑い。夏はもうすぐ終わるというのに、気温は簡単には下がらない。

「セリーナよう、お前そんな仕草俺の前ならまだいいけど、男の見ている前ではしない方がいいぞ。お前、見た目もスタイルも悪くないんだからよ、男が見たら誘っているんじゃないかと勘違いしちまうぞ?」

 まあ、一緒に旅しているのがお前だから気にせずしているのだが、な。こいつが人外娘意外に、つまり人間の異性に目覚めたらやばいかもな。

「だいたいお前、自分の見た目に無頓着すぎるんじゃねえの? 帝都で男にモテなかったのか?」

 帝都でモテたかなあ? アクロイド副組長は流石に除外しよう。アレは、御免こうむる。仕事関係以外でよく喋るのっていたかな? 団長くらい?

 真剣に悩んだが、どうにも出てこない。女の子にはやたらと、「お姉さまと呼んでもいいでしょうか?」などと言われたものだが。……ミスカトニック騎士養成校でもよく言われたなあ。

「やっぱりか、なあ、聞いた事はあったか? ミスカトニック騎士養成校の裏ランキング」

 なんだそれ?

「いや、聞いた事はないな。なんだ、それは?」

「お前ってホント噂とか興味ないって感じだったもんな。仕方ないか」

 私も、普通の女の子並に噂話とか、興味あったんだけどなあ。ガールズトーク、憧れるよね。でも、全く話をしなかったわけじゃないぞ。三年間、ジン以外の友だちだって出来たんだからな!!

「守ってあげたい美少女ランキングとか、聞いた事ねえか?」

 聞いた事はない気がするが、ジンが見た目は悪くないという以上、ランキングの下位には入っているのだろう、うん。

「期待しているのに悪いけどな、守ってあげたい美少女ランキング、お前入った事ねえぞ。ああ、一年の時は入っていたかもな。あの頃からお前は強かったけど、まだ小さかったからなあ」

 ええ、一番入りたいランキングじゃないか。騎士に守られるか弱い女の子、憧れちゃダメ? まあ、十三歳でミスカトニック騎士養成校に入学したからなあ。普通は十五歳以上だからなあ、入学資格は。しかし、それでもランキングに入っていたかどうかなのか。

「ちなみに、守ってもらいたい美少女ランキングでは一年から三年までぶっちぎりでお前な。三年間。なんと、お前がいたせいで、そのランキングは有名無実。なんてったって、お前がナンバーワンでオンリーワン。一位以外そのランキングには名を連ねる者はいなかったよ」

 騎士を目指す者たちが守ってもらいたいと思ってどうするんだ? 守る側にまわれよ。

「念の為言っておくけど、男の大半はプライドが邪魔してそのランキング、ほとんど票を入れていないからな。九割が女子だったからな」

 何で? いや、男に票を入れられなかったのは、良かったのか、悪かったのか、どっちだろう?

「あと、一年次の妹にしたい美少女ランキング、一位はお前な。あの頃のお前、小さかったから。ちなみに、このランキングには男女問わず入れていたから、票を」

 まあ、あの時は小さかったからな。仕方ないだろう? だって、十三歳で他の学生より年下だったんだから。

「で、二年と三年の時はお姉さまと呼びたい美少女ランキングナンバーワンな。これは、上級生も普通に票を入れていたぞ。ちなみに、一年の時にも上位に顔を出していたからな、お前」

 いや、何で上級生に「お姉さま」なんて言われないといけないの? 普通に三つ四つ年上だよ?

「ああ、でも妹にしたい美少女ランキング、三年間ぶっちぎりでお前が一位だからな。同級生からだけだけどな」

 何で?

「よかったな、モテモテじゃないか」

 異性にモテたい!! 

 しかし、卒業後二年近く経って、驚愕の事実を知らされてしまったぞ。もう嫌だ。

「ああ、異性にモテたい!!」

「お前、俺以外に学生時代に親しくしていた男っていた?」

 しばし、考えてみる。

「そう言えば、いなかったな」

「なんで俺はお前と仲良くなれたと思う?」

「お前が話しかけてきたからだろう?」

「まあ、そうなんだが……、じゃあ、なんで俺だけがお前と仲良くできたんだと思う?」

 何でだろうな? 首をひねってみるが、答えは出てきそうにない。

「俺が、お前に決して手を出さない事を知っていたからな、皆。男どもはプライドが邪魔をして自分より強い女を恋人にしようと考える奴はいなかったからな、たぶんだけど。でも、本当の理由はな、女の子たちがお前を男に渡そうとはしなかったからだよ」

 そんな裏があったのか!!

「まあ、お前の近くにいると、夏も冬も快適だったがな。それだけは幸運だったよ」

 快適?

「お前、何も気にせずに、夏は涼しく、冬は暖かく、自分の周りの空気を変えていただろう? 無意識に魔法を使ってさ」

「そう言えばそうだったな」

 うむ、その頃から既に魔法を使って一年中快適に過ごしていたな、それよりも前からだっただろうか? よく覚えていないな。いつ頃からだろう、意識せずに魔法を使っていたのは?

「だから、男では俺だけ。一年中快適に過ごしていたの。女子はお前の取りあい。快適に過ごすために」

 嫌な事聞いた、確かに夏と冬は特に女の子に抱きつかれまくっていた気がする。友情はなかったのか、友情は?

 友達が欲しいよ、私の周りで快適に過ごすだけじゃない、ちゃんとした友情を持つ友達がさ。

 ああ、友情なんて目に見えない宝物、何処を探せば見つかるのだろう?

 そして、恋も。

「この夏で、恋をしてみせるぞ!!」

 拳を固く握りしめる。そうだ、ゼッタイにしてみせる!!

「もう、夏も終わりだよ」

 私の決意を嘲笑うかのように、ジンの声が私の耳に届いた。同意するかのようにロッキーがいなないた。

 ああ、やはり恋は私にとっては“八番目の虹の色”なのだろうか?




「ところで、ジン、お前はどうするんだ、宿に関して考えているのか?」

 昼頃になっても気温は減らない。当たり前か。 

先程、騎士養成校裏ランキングを聞かされて思考停止に陥っていた頭脳を再起動させる、無理やりに。

「ああ、宿にでも泊まろうかと考えているよ、お前はどうするの?」

「領主が帝都騎士団の団長の友人らしくてな。向こうに連絡をしてくれているそうだ。止めてもらえる事になっている。お前が良ければ私も頼んでみるが、どうする?」

「気を使う必要がなさそうな人たちだったら、泊めてもらおうかな。その時は、お前に頼むよ。上手く交渉してくれ」

「了解」

 まあ、私も先方の事は良く知らないんだよね。でも、誰が知らせているんだろう? 私が調査員として派遣されると決まったのは、旅立ちの前日だ。でも、了解はとりつけているとか言っていた気がするなあ。旅立ちの朝の朝食の時に言われた気がするが、あんまり気にはしていなかった。まあ、あの団長ならどうにかしたのだろう。気にしない事にした。いや、気にしたら負けだ。

「もう少しで、領主の館がある町だ。出来れば今日中に着きたい」

 それには同感だ。

 そんな時だった。

 私たちの前方に、見慣れぬ影が現れた。

「クッソウ、あいつら、ワガハイを置いてきぼりかましやがったな。確かに、ワガハイ馬車の上に乗っていたのが悪かったよ。突き出た枝に引っかかって飛ばされたよ。でもね、あれだけ大きい音がした筈だもの。気付かないとおかしいよね。冒険者パーティーを一緒に組んでいるのに、そのパーティーメンバー置いてきぼりにしてどうするのさ。これから、頭脳労働担当のワガハイに家まで歩いて帰れというのかね? なんという拷問。尋問を通り越して既に拷問。きっついわあ」

 茶色の人型をした、二足歩行をする蜥蜴であった。蜥蜴が二足歩行? 世界観が違わないか?

 こいつはいったい、何モノであろうか……!?


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