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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
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死線は簡単に超えられないからこそ、死線なのです。

 女性たちを連れて、少しだけ開けた空間にやって来た。

 出迎えたのは、死体の山。女性二人が口元を抑えている。普通の人間には見慣れない光景だろうし、見慣れて欲しくない光景だ。

 私は、いったいいつからこのような光景を見て何も思わなくなったのだろう? 思うところがないワケではないが、神経が麻痺したのかもしれないな。慣れたくは、なかったのだがなあ。

 目を閉じ、両手を合わせ黙祷する。盗賊といえども、死んでしまえば単なるムクロでしかないのだ。死体に罪はないとは、思わないでもない。私は、女性たちにはこのような光景には慣れて欲しくないと、祈った。盗賊の死? 彼らのその後など興味はない。地獄行きだろう。

 私も、天国へは行けそうにないな。そんなモノ、あるかは分からないが。

 女性たちを促し、少しだけ開けた空間を出る事にした。いつまでも血の匂いの充満したこの場所には居たくない。


 少し開けた空間を出ようとした時、足を止めた。二人の女性には手で合図をした。通じたようで、彼女たちも足を止めてくれた。

「そこにいる者、出てきたらどうだ?」

 私の声に応じて、手を叩きながら出てきた男がいた。カシラとは違い、背の低い男だった。私よりも背が低いだろう。まるで、鼠を思わせるような男だった。

「よく、分かりましたねえ。流石は“銀髪の魔女”セリーナ・ロックハートとでも言ってあげるべきでしょうかねえ」

 カシラもそうだったが、私には変な二つ名がつけられているようだ。もっと、カッコイイ二つ名が欲しいのだがな、私としては。ふむ、そうだな、“銀髪の美少女”などどうだろう? ……自分のネーミングセンスのなさに泣けてきた。人前では口に出さない事を誓おう。考える事も出来ればやめよう。

 しかし、この小男、何かイヤ~な感じがする。出来れば、お近づきにはなりたくない。

「流石“銀髪の魔女”。カシラを倒して来るとはねえ。だけど、ここから先に行かせるわけには行かないねえ。この私が倒してあげますよ。ククク、カモ~ン、我が可愛い下僕たちよ!!」

 小男が右手を振り上げた。そして、彼が右手を上げたと同時に、洞窟の天井内に、赤々とした明かりが灯った。否、あれは明かりではない、無数の蝙蝠たちの赤々と光った眼だ。天井に足をつけて、こちらを見ている。爛々としたその眼は血走っているように見える。

「ククク、この蝙蝠マスターであるバット様が貴女の血を吸い、操り人形にしてあげますよ、イーヒッヒッヒ」

 おいおい、あんな数の蝙蝠操れるのかよ。世の中には変なのがいるなあ。

「セリーナさん、気を付けてください。町にいた冒険者達もあいつに大怪我を負わされたのです!!」

 二人の女性のうち一人が私に教えてくれた。そんな情報、あの役人からは聞かなかった気がするが。あの糞役人め!!

「ククク、この蝙蝠、女性の血を吸えば、女性を意のままに操れるのです。しかも、女性の意識を保ったままでね。ヒヒヒ、“銀髪の魔女”セリーナ・ロックハートを捕らえたとあれば、ワタシの名も上がるというモノ。他の盗賊団に幹部待遇で迎え入れられるもよし、貴女を奴隷商に売りつけ、左うちわで暮らすもよし、貴女を性奴隷にして口に出すのもはばかられる事をさせて生きるもよし。ククク、未来はバラ色ですなあ!!」

 よく喋る奴だな。溜息が出てくるよ。もっとオリジナリティーのあるセリフを投げかけてくる奴はいないのかね? どいつもこいつも、人を見てやりてえだの、高く売れるだの、性奴隷にするだの、聞きあきたよ。もっとも、そのおかげで、準備は出来たがね。まだ、蝙蝠に驚いた頃に仕掛けてきたら君にも勝機はあったのにね。

「さあ、行きなさい。ワタシの兄弟たちよ、その魔女を操り人形にしてあげるのです!!」

 バッタが右手を振り下ろした。……バッタだったっけ? どうでもいいか。彼が右手を振り下ろし、そして、その動きに合せるように、無数の蝙蝠たちが私達に襲いかかってきた。

 そして、無数の蝙蝠たちが羽根を裂かれ、胴体を真っ二つにされ、またあるモノは首を胴体から斬り離され、地面に落ちて行った。そして、素材と魔石のみを残して消えていく。蝙蝠かと思っていたが、どうやら蝙蝠タイプのモンスターのようだ。

「ハレ? 何故にワタシの兄弟たちがッ!?」

 バッドは心底驚いているようだ。彼の兄弟たちが何故私に近付く事すら出来ずに地面に落ちていくのか、分からないのだろう。……ところで、こいつの名前バッドだったかな?

「貴様ら、何をやっている? 行け、あの魔女に噛みつかんかい!!」

 地が出てきたな。しかし、まだ数多くの蝙蝠がいるが、奴らは私達に襲いかかろうとしない。

「何故だ、何故動かない? ワタシの命令が聞けないってのかい?」

 もしかして、このベットも男色家か、どちらでもイケる口なのだろうか? 変態には好かれたくないんだけどなあ。

「動けって言っているのが分からないの!? キーッ!!」

 後ろを振り向いて背後に従う蝙蝠たちに向けて怒鳴っている。

 やれやれだ。まだ分からないのだろうか?

「動くわけがないだろう? どうやって操っているのか分からないが、しょせんその蝙蝠型モンスターどもは、野生のモンスター。強きモノに従う事はあっても、弱いモノには従わないよ、当然だろう?」

 ドットはおそるおそるといった表情で私の方に顔を向けた。

「バカな、蝙蝠どもがワタシではなく、貴様を主と認めたというのか!! この魔女めがぁ!!」

 叫びだすテッド。可愛そうに、叫んだって、どうしようもないよ。でも、こいつを生かしておいてもまた悪事に手を染めるだけだな。生かしておく価値などない。だいたい、目が腐っていやがる。

 風属性魔法を使い、トッドの頸動脈を斬った。真空刃という奴だ。

 そして、血の臭いに導かれたのか、生き残った蝙蝠たちがネットに襲いかかった。

「やめろ、やめてくれぇ、兄弟たちよ……」

 兄弟と信じる彼らに血を吸い尽くされての死、か。彼にとっては幸福なのかもしれないな。私にとっては幸福でもなんでもないがな。

 血液を吸いきって満足でもしたのだろうか、蝙蝠たちは彼の死体から離れて、何処か分からぬ場所へと旅立って行った。

 残されていたのは、ほぼ数分でミイラと化した死体であった。

 私は蝙蝠対策でセットしておいた魔法糸を解除した。私たちの周りに無数に張り巡らせておいた魔法糸で、蝙蝠たちを斬り刻んだのだ。もっとも、向かってきたのは蝙蝠たちだ。蝙蝠は何か特殊な能力で敵の位置を分かるという話を聞いた事があった(音波だったかな?)が、私の魔法糸はそんなモノに反応はしない。彼らは何もないと思っていた場所で斬り刻まれたのだ。まあ、教えてやる必要などないから、黙っておいた。

 私は、ポッドの死体を特に見る事もなく、手を合わせる事もなく、歩き出した。二人の女性は慌てて私の後をついてきた。もちろん、蝙蝠どもの魔石と素材は回収しておいた。少しの金にはなるだろう。

 ……蝙蝠使いの名前ってなんだったかな?


 洞窟を抜け、広場へとやって来た。ジンの奴はどうしているかな?

 ジンは死体の山に腰かけて、夜空を見上げていた。周りでうめき声が上がっているところを見ると、皆殺しにしたわけではなさそうだ。

「終わったか。町へ行って役人に後始末は付けよう……。どうでもいいが、返り血が付き過ぎだぞ、セリーナ」

 ジンにそう言われて初めて、そう言えば衣服が重い事に気付いた。

 アイテムボックスから手鏡を取り出し(手鏡を何で返り血の確認に使わないといけないんだろうな?)、自分の状態を確認する。うわ、酷いな。

「悪い、ちょっと着替えてくる」

 私はジンに断り、女性たちを押し付け、周りから見えないところで着替えをする事にした。いくら元相棒といえども、着替えを見られるのは嫌だからな。

 近くの木立の陰で騎士服を着替える事にした。メンドクサイので、仕事で来るときは騎士服を着て旅をするのだが、どうしよう? 私服に着替えるべきか。いや、面倒だ。騎士服にしよう。

 下着は、流石にここでは着替えられないな。騎士服の上下をアイテムボックスに放り込み、余分にアイテムボックスに入れておいた騎士服をとりだした。

 その時、微かな音がした。同時に二人の人間の気配。

 おやおや、着替える事に夢中で接近に気付かなかったかな?

「へへへ、姉ちゃん、ストリップかい? 楽しませてくれよ、俺たちを」

「いい体してるじゃねえか。目だけじゃなく、体も楽しませてくれや」

 わあ、しまった。日本刀も小太刀もすぐ手を伸ばせる距離に置いていないではないか、しまったなあ。

「ククク、どうしてくれようか?」

「カシラたちは死んじまったんだろう? じゃあ、俺たちが楽しんであげようじゃないか。カシラたちの分までなあ」

 溜息しか出ないな。私の噂、知らない奴らは知らないんだなあ。

「その木と木の間が死線デッドラインだ。その間を一歩でも越えたらお前たちは死ぬことになるだろう」

 もう、殺すのも面倒だ。慈悲を与えてやろうじゃないの。

「ケッ、このアマ!!」

「着替え中に動けるわけねえ!! テメエの体を味わってやるぜえ!!」

 どいつもこいつも……、似たようなセリフばかり吐きやがって。聞きあきたって言っただろう? それに、私が何の準備もしないでこんな敵地で着替えるモノか。

 木立の間を抜け、私に襲いかかろうとした男二人だったが、木立の間を抜けた瞬間、彼らの両足の膝から下が消えた。崩れ落ちる二人の体を見ても、私は何の感慨も抱かなかった。ホント、殺してやらなかっただけ、ありがたいと思ってもらわなくては。

 着替えが終わると同時に、痛みに呻いている二人の体を引きずって、ジンたちの所に戻った。

 水属性魔法を使って髪の毛についた返り血も少しだけ洗い流したが、まだこびりついている気がするな。こればっかりはお風呂に入って流そう。町の宿屋でお風呂は借りられるだろう。

「なんだ、逃げていた奴がいたのか。スマンな、迷惑をかけた」

「気にするな」

 死体の山の傍に男二人を捨て置いた。

 ああ、早く血の匂いが充満していない所に行きたいな。

 山を下りた私たちは、女性二人を馬に乗せ、歩いて領境の町へと向かった。




 ようやく帰り着いた領境の町。ああ、今日はもう働かないぞ。私は宿屋でお風呂を借りて返り血を洗い流すんだ。

 しかし、帰り着いた領境の町では、血走った目をした役人に捕まった。

「おお、お帰りになりましたか。流石は帝都騎士団三番隊組長のセリーナ・ロックハート様と“豪剣のトリスタン”ですな。では、さっそく見分に向かいましょう。さっさと行かないと山に住む獣やモンスターたちに死体が荒らされたりして、しっかりと見分できませんからな。何、お二人は見ているだけで構わないですよ。数だけは揃えましたからなあ」

 役人の言うとおり、見分に向かうだけの人間は確保したようだ。

「いや、お風呂に……」

「そんなモノ、後回しで構わないでしょう。見分が先ですな、行きますぞ!!」

「あの、お風呂に……」

「見分が終われば好きなだけ入るとよろしいでしょう!!」

「そんな事言わずにお風呂に……」

「行きますぞお!!」

 何故かノリノリで「うおおおお!!」とか答える見分の為に集められた人たち。

 ジンは私の隣で肩をすくめて首を横に振った。諦めろ、とその目が言っていた。

 畜生、お風呂に入らせろお!!


 


 結局、見分は明け方までかかった。

 領境の町に再度戻ってきたのは昼頃だった。

 私はふて寝をする事にした。レムリア辺境領の領主の館に辿り着くのはいつになるだろう?


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