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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第三章 冬のバラード~winter general's revenge~
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聖夜狂乱

「はい、あーん」

 そうして私の口元に突きつけられるケーキ。そのケーキに刺さっているフォークを持つ手は私の後ろから伸びている。

「あーん」

 こうなった以上抵抗しても無意味なので、諦めてケーキを口に入れる。私好みのチョコレートケーキだ。美味しい。例えどんな状態で食べても美味しいモノは美味しい。そう、後ろから抱きかかえられている状態であっても。

「ああ、セリーナはやっぱり可愛いなあ……。早く私のモノにしたいな」

 なんだか、聞いてはならないセリフを聞いた気がする。誰か、助けてくれ。いや、助けてください。

「何を言っているんだ、セリーナは私のモノだ。いい加減交代しろ。そのポジションを寄こせ」

 何言っているのかな、アズにゃんは? 私は貴女の友達であって貴女のモノではないんだよ?

「何言っているんだ、セリーナは私のモノなの。もう、騎士養成校で出会った時からそう決まっていたんだからな」

 何を勝ち誇っているんだろう、セツナは? 決まっていないから、そんな事は。セツナが大切な友人である事は確かだけど。まあ、後ろから抱きしめられて悪い気はしないけど、いい加減普通に椅子に座りたいんだけどなあ……。

「二人とも何言っているんですか? セリーナさんは僕の……ッ!?」

 瞬間、吹き飛ぶアキヒコ。一瞬にして私の視界から消え、先程まで埋まっていた壁に再度突き刺さっていた。

「ふふふ、いい加減にしてください、二人とも。セリーナさんは私のモノに決まっているじゃないですか。さあ、セリーナさんを私に渡すのです」

 アリス、君もか?


 どうしてこうなった?




 この頃になると街はクリスマス一色になるらしい。ホワイトクリスマスなんて、凄くロマンチックらしい、日本と言う国のどこかでは。

 が、住む地域によってはホワイトクリスマスなんて夢のまた夢、らしい。

「宮崎にはそれ以前に雪なんて降らないんだよ。ホワイトクリスマス最高!! なんてほざいている奴らは都会に住むごく一部の連中くらいのモノだ。宮崎だって山間部は雪が降ったりするけど、宮崎市にクリスマスの頃雪が降ってみろ。異常気象以外の何物でもないぞ。そして、積りでもしたら、交通機関が麻痺するね。断言できるね」

 とは、セツナの言だが、宮崎など行った事も見た事もない私には何が何だか。

 まあ、そんな事はどうでもいいとして、十二月二十四日、日本と言う国ではクリスマスイブだとかで、町中が浮かれムードになるらしい。恋人や家族に恵まれていれば何の問題もないらしいが、独り者には地獄同然だとか。

 クリスマスイブとは、何処かの宗教の開祖か何かの誕生日前日で、何故かその日を祝っているそうだ。日本では、その宗教を信仰していない人もその開祖か何かの誕生日前日を祝うそうだ。何で前日を祝うのか、知ったこっちゃないね、とはこれまたセツナの言葉だ。

 が、この日が誕生日になると結構キツイらしい。誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントが一緒にされる事で、他の子どもたちより貰えるプレゼントが減るトカ減らないトカ。学生時代に何度も愚痴を聞かされたっけ。

 そんな事もあり、約二年ぶりの再会も果たした事だし、今年はクリスマスイブを盛大に祝おうという事になった。まあ、この世界にクリスマスイブなんてないんだけど。

 それで、私としては大勢の方が楽しめるだろうと思い、アキヒコやアリス、レティ達にも声をかけた。団長の家でクリスマスパーティーをしよう、と。

 当のセツナは数日前から団長の家に宿泊している。どうにも居つきそうな気がするけど、ティアさんはティアさんで、「妹がもう一人出来たみたいで嬉しいわね」と言っていた。「娘じゃないんですか?」とついこぼしてしまったセツナが、ティアさんの眼光を受けて暫くガタガタ震えていた。

 で、ようやくセツナへの誕生日プレゼントを選びおえた私は、パーティーの準備に大忙しになった。ケーキの材料集めや、料理の準備など。まあ、ほとんどティアさんとレティ、アリスが大活躍しただけで私は荷物持ちばっかりだったけど。


 そして、クリスマスイブ当日を迎えた。さっさと仕事を終わらせて帰って来た。サービス残業? 知らんな。こういう日の残業は副組長と変態三羽烏に任せるに限る。あいつらもパーティーに来たがっていたが、変態はお断りだ。

 気が付けば大所帯となっていた。アキヒコにアリス、レティにクリス、いつものメンバーに蜥蜴丸とゲーサン。蜥蜴丸とゲーサンは呼んでいなかったんだけどなぁ……。せっかくのパーティーがカオスになりそうだったから。まあ、来てしまったモノはしょうがないか。

 そして、私が団長の家に帰り着いたのより少し遅れてリリスがハルキを連れてやって来た。久しぶりに見るハルキは見た目はそう変わっていないように感じたが、雰囲気がだいぶ変わっていた。どうやら、かなり鍛えられたようだ。

 そのハルキはレティを手伝い、パーティー当日の準備をかってでてくれた。うん、いい子だなあ。レティも心なしか嬉しそうにしている気がする。

 そして、ジンとマーガレットが連れだってやって来た。彼らには特に話はしていないように思っていたが、どうせセツナの誕生日パーティーをする事になるだろうから、と二人で話し合い婚前旅行みたいな感じで遊びに来た、との事だった。まあ、こちらも彼らが来る事は予想していたので、準備が増えるなんて事はなかった。

 ジンとマーガレットが来た時、少しセツナが警戒をしている感じがして印象的だった。何でもトリスタン家で危ない目に遭いかけたとの事だった。




 やがて、パーティーは始まった。アリスやレティ、ハルキがセツナに誕生日プレゼントを渡していた。

 私も誕生日プレゼントを渡そうとした時だった。

「セリーナ、お願いがあるんだ」

 真剣な表情だったので、つい聞いてみようという気になったのがいけなかったのかもしれない。

「今日は私の誕生日だ、そうだな」

「そうだね」

 だからこうして、皆を集めてお祝いをしてあげているんじゃないか。クリスマスイブだから祝い事をしようなんて、ここに集まったメンバーの中で考える人間はせいぜいハルキくらいじゃないだろうか。アキヒコは世俗に疎そうだからなあ。リリスはそういったイベント事を楽しみそうだけど、人間じゃないから却下。

「つまり、私が主役だな」

「そうだね」

 何を言おうとしているのかな、セツナは?

「私を喜ばせる義務があると思うんだ、セリーナは」

「だから誕生日プレゼントを買っているってば。喜んでくれるといいんだけど」

 何だか嫌な予感がして先手を打とうとした。でも、セツナは聞いていなかったみたいだ。

「さあ、パーティーの間中コレを着るんだッ!!」

 手渡された衣装一式を見て、血の気が引いた。イヤな思い出がよみがえる。

「イヤだ、コレは着たくない」

「着なければ、ヒドイ事するぞ、それはもう、十八禁的な何か」

 ……目が、セツナの目が血走っていた。コレはヤバい。着ないとマズイ。ここで大切な何かを失ってしまいそうだ。十八禁って聞くと、凄くイヤラシイ感じがするね。……まあ、着たら着たで色々失いそうな気がするけれど。




 結局、私はセツナの血走った目に負けた。

 着る事にしたのだ。

 “にくきゅうぐろーぶ”に“にくきゅうぶーつ”、“ねこみみカチューシャ”、その他諸々、そう、ワーキャット用コスプレ一式。結構露出が多いので恥ずかしいのだけれど。ま、まあ、誕生日のセツナに楽しんでもらう為だもんね。今日一日だけだからいいよね。

 誕生日プレゼントは、どうしよう……?

 それより、本当にこのカッコでパーティーの間過ごさないといけないのかな? 恥ずかしいんだけど。うう、いつもよりスースーするんですけど……。




 覚悟を決めてパーティー会場に出て行った。パーティー会場って言っても団長の家の食堂だけど。

 まず一番最初に目についたのは、口をポカンと開けているアズにゃん。そう言えば、アズにゃんの前でこんなカッコした事はなかったなあ。

 次に目についたのはアキヒコ。目についたと言うより、視界に飛び込んできた。凄く速いな、アキヒコ。

「セリーナさん!!」

「は、はい!!」

 いきなり両手を掴まれ、つい敬語で話してしまった。まあ、“にくきゅうぐろーぶ”を装備しているおかげで直につかまれているワケじゃないんだけど。

「今すぐ式場を見に行きましょう!!」

 アキヒコも目が血走っていた。式場? これが噂の式場狂という奴か。心配するな、アキヒコ。式場は逃げないぞ。火事になったり魔王が攻めてきたりしない限りそう簡単に式場は消えたりしないぞ。ところで、何の式場を見に行くのだろう? 

 だけど、確認する前にアキヒコは先ほど私の前に現れるのと同じくらい、いや、それ以上のスピードで私の視界から消えた。何処かから凄い音がして、音がした方を向くと、壁にめり込む形で足が生えていた。アキヒコの足だろう、アレは。

 またも両手が掴まれた感触を感じて正面を向いたら、満面の笑みのセツナがいた。

「さあ、今すぐ式を挙げに行こう。何処がいいかな? もう、この国の国教でもいいや。同性婚は認めていたかな? 認めていなくてもいい。教祖を脅してしきたりを変えさせてやろうじゃないか」

 うわあ……。

 逃げ出そうとしたけど、ガッチリつかまれていて、逃げられそうもない。

 助けを求めてマーガレットを見てみたけど、ダメだった。バカップルの世界へ飛び込んでいた。

「マーガレット、今度またアレ着てくれよ」

「えー、ま、まあ、ジンがそう望むなら、着てもいいというか、着たいというか……」

 ダメだありゃ。

 鼻息荒く私の両手を掴んで屋敷を出て行こうとするセツナを止めてくれたのは、ティアさんだった。

「パーティーが終わってからにしなさい」

 優しい一言。でも、セツナを止めるのには十分だった。

「分かりました」

 そして、セツナが席に着き、パーティーは始まった。アキヒコは壁にめり込んだままだった。

「ちゃんと撮影しているか、蜥蜴丸?」

「クカカカ、任せておきたまえよ。バッチリよ。クカカカ、後で強請ゆすれるな、これで。何をさせようかねえ……」

 団長、何を蜥蜴丸に撮影させてるのかな? 後でティアさんにチクってやる!! ……ああ、チクる必要ないね。気付いているね、ティアさん。あとで団長をいたぶってやろう。

 蜥蜴丸、その映像データで私を強請るつもりだな? どうにかしなければ……!!




 さて、パーティーの間中、私はとても柔らかい椅子に腰かけていた。セツナという椅子に。……背中に凄く柔らかい、心地いい物体が当たっているのです。そして、首筋に吐息がかかるのです。はぁはぁ言っているのが聞こえるのです。誰か、助けてください。

 “にくきゅうぐろーぶ”では、箸をつかめないどころか、ナイフもスプーンもフォークもなかなかに使えない状態で、セツナに食べさせられている状態が続く。

 カオスな時間と空間は、流れていく。




 お願い、誰か助けて……。




 私の心の声に応えてくれる存在は今、ここにいなかった。


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