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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第二章 寂しさは秋の色~apocalypse autumn~
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エピローグ~寂しさは秋の色~

「この世界に残りたいだって……?」

 セツナのご両親は国王陛下と話があるトカで、ここにはいない。今日は私達も復興作業にあたっていて、今は少し遅めの昼食を仲間ととっているところだ。私とジン、セツナ、マーガレット、そしてハルキ。別テーブルにアキヒコとアリス、レティ、もう一つのテーブルにはアズにゃんにリリスにクリス。蜥蜴丸とゲーサンの姿は見えない。

 そんな安らぎの時間をぶち壊したのはセツナとハルキ君の会話だ。

「大声出さないでよ、姉ちゃん。言ったとおりだよ。俺、この世界に残りたい。この世界で自分を試してみたいんだ」

 若者にありがちな自分探しでもするつもりだろうか?

「どうして……? 私がこの世界に残ると決めたからか?」

「……姉ちゃんは関係ない」

 セツナはこちらの世界に残ると決め、朝一番で蜥蜴丸とリリスを叩き起こし、日本とこちらとで使える携帯電話を作らせていた。どうやって作ったんだろ? あの携帯電話。それで両親を説得していた。セツナの両親は最後には折れた。

 セツナの両親には悪いけれど、私はセツナがこちらの世界に残ると決めてくれて、嬉しかった。私にとっては姉のようなモノだし、頼りになるし。時々変な知識を吹き込んでくるのは困りモノだけれど。

「じゃあ、何で? こっちの世界は、日本みたいに安全じゃない。召喚魔法で呼ばれた私と違い、お前には何の能力もないんだぞ? すぐに死んでしまう。私はお前のお守りをする為に残るんじゃないぞ!?」

「じゃあ、強くなるよ!! 強くなればいいんだろう? ちょうどいいじゃんか。姉ちゃんが鍛えてくれればいいだろ!!」

「……」

「……」

「……」

「いや、セツナでは君を鍛えてやる事は出来ないだろう。彼女は全て天性の勘で動いている。理論的に君を教えてやることは出来ないぞ」

 セツナに助けを求められたが口をはさめなかった私とマーガレット。ジンの言ったとおり、彼女は天性の勘みたいなもので動きを決めているのだ。ミスカトニック騎士養成校の教師陣でも彼女に剣術を教えるのをやめたくらいだからなあ。

「ジンの言うとおり、私では無理だ。他の連中もそれぞれ事情がある。お前に構っていられる余裕はない」

 まあ確かに。

「でも、俺は残りたいんだ!!」

「今の君じゃ、ミスカトニック騎士養成校に受かる事は出来ないよ」

 私はピーンと来ていた。先ほどから特にレティがハルキの方を心配そうにチラチラ見ている。ハルキはハルキで時々レティの方をチラチラと見ている。きっと、レティの事が気に入ったんだろう。レティは可愛いからな。もしかして、好きになったのかもしれないな。これが若さか……。

 アリスは恐ろしい目で私の方を見ている。朝までセツナと一緒に毛布にくるまって寝ていたのがいけなかったのだろうか? 

「ふむ、ミスカトニック騎士養成校とやらの試験はいつじゃ?」

「三月だけど……?」

 リリスが口をはさんできた。どういうつもりだろう?

 試験の結果は早い奴はすぐに言い渡される。合格でも、不合格でも。まあ、今のハルキなら学科試験で落ちるだろう。

「勉強の方は、どのくらい頑張れば試験に受かるようになるのじゃ?」

「読み書きが出来れば一か月頑張れば何とかなると思うけど……?」

「ならば、こういうのはどうじゃ? 今年で中学卒業じゃろう、ハルキよ?」

「そうだけど……?」

「なら、中学卒業までは日本に居る事。その間に我輩が知り合いに頼んでお主を鍛えてもらおう。週末や冬休みはないと思えよ、ハルキ? その後、こちらにもう一度やって来てミスカトニック騎士養成校とやらを受けるのじゃ。それで、不合格なら諦めよ。試験までの間、こっちにはやって来れないと思え。向こうでお主を鍛えてくれる連中がダメ出ししても諦めろ。そしたら、試験の暫く前に我輩がこっちに連れて来よう。勉強の試験対策なら、我輩がこちらから貰って来てやろう。それでどうじゃ? こやつらの言うとおり、こっちに今残っても単に足手纏いにしかならんぞ?」

「……分かった」

 リリスの理路整然とした意見にハルキも納得せざるを得なかったようだ。

「ま、もっとも、両親の説得に失敗すればそれまでじゃがな。我輩は力を貸さんぞ、そちらの方にはな」




 夕食時、ハルキは両親の説得に成功した、と嬉しそうに笑いながらレティの両手を握り上下にブンブンと振っていた。やはり、レティか。レティもレティでまんざらでもなさそうだな。

 マーガレットはマーガレットでジンを連れて国王陛下や王妃様と話があるトカで夕食時には姿を現さなかった。彼らは彼らでどうなるのだろう?

 そして、翌日にはリリスと一緒にセツナの家族は日本へと帰っていった。永遠の別れ、というワケではないけれど、セツナの目からは涙が溢れだしていた。




 そして、私たちがティンダロス帝国に帰る日がやって来た。

 馬車に乗り込む前、アズにゃんが大荷物を持ってやって来た。

「私も一緒に行くからな、乗せていってもらうぞ」

「へ?」

「私は身寄りもない気ままな冒険者だからな。セリーナについていく」

「へ?」

 私とアリスは目を見合わせた。どういう事だろう?

「でも、私は冒険者じゃないよ? 住まいはどうするの?」

「セリーナの所に世話になるに決まっているじゃないか」

「え、いや、あの……」

「帝都騎士団団長のところに世話になっているんだろう? 部屋くらい空いているだろうし、いいだろ?」

「……説得できたらね」

 ……アズにゃんの説得は諦めよう。

「よかった。まだ、出発はしていなかったみたいだね」

 マーガレット、ジン、セツナの三人が揃ってやって来た。

「私は十一月いっぱいで王族を抜ける事が決まったからさ。その後はジンのご両親に挨拶する為にティンダロス帝国に行くよ。十二月中に、また会おう」

「ご両親に挨拶?」

「まあ、アレだ、アレ。結婚を前提に……ってやつだ」

「そっか。おめでとう」

「おめでとうございます」

「はは、ありがとな」

「ありがとう、二人とも」

 二人に祝福の言葉をかけた後、セツナに声をかける。

「セツナは、どうするの?」

「ティンダロス帝国まで二人の護衛を頼まれたよ。国王陛下に。だから、お前と一緒に行けないのが心残りだ。いいか、セツナ? 勝手に行くなよ、私を置いて」

 カダスの事だろう。それにしても、そんなに心配なのかな、私の事。過保護じゃないかなあ?

「行かないよ。暫く休養。仕事だってたまっているかもしれないし」

「ならいい」

「ふふ、また旅をしようよ。一緒にさ」

 そう言って私は右拳を突き出した。ジンやマーガレットにもアイコンタクトする。

 二人は頷いて拳をさしだしてくれた。

 私達に促され、セツナも拳を合わせてくれた。

「また、再会出来る事を願って」

「暫しのお別れだ」

「この別れは、サヨナラじゃないよ」

「ああ、また、な」

 私達の別れの挨拶はこれで十分だ。また、何処かの空の下、出会えるだろう。

 その時はまた、笑顔で会いたいね。




 三人に手を振って、馬車は走り出した。屋根の上には蜥蜴丸とゲーサン。

 アズにゃんは荷物を準備するのに時間がかかったのだろう。馬車が動き出したのに合わせて眠りだした。レティの膝枕で。レティはレティでウトウトしている。

「流石に少し、疲れましたね」

「うん」

「カダスとか言う場所、私も行きますからね」

 驚いて、アリスの顔をまじまじと見てしまう。

「なんだか釘をさしておかないと、セリーナさん一人で向かいそうだから」

「あ~、バレバレ?」

「アキだって連れて行かないつもりだったんでしょう?」

 やれやれだなあ。すっかりばれているんだから。

「セツナさんも、私も置いていくつもりだったんでしょう?」

「うん、たぶん、色々そこには待ち受けていると思うんだ。皆を巻きこめないよ」

「今まで散々巻き込んできたくせに」

 ……それもそうか。

「私たちの事、信じられないんですか?」

 そんな事はないよ。

「ううん」

「じゃあ、何で一人で行こうとするんですか?」

「違うんだ。皆の事が信用できないんじゃないんだよ。信用できないのは、自分。皆の事を傷付けてしまいそうな気がするんだ。今の私は、きっとまだ、不安定だから」

 私の中のシェリルの凶暴性は今、眠っている。でも、きっと彼女はその気になれば世界に破滅をもたらしてしまうかもしれない。

「自分の事が信用できない?」

「うん」

 それは、私の正直な気持ちだ。

「じゃあ、セリーナさんは自分の事を信用しなくてもいいですよ」

「え?」

 思わず見上げてしまったアリスの表情は、見惚れてしまうくらい優しさに満ち溢れていて……、

「セリーナさんの事が大好きな、私の事を信用すればいいんです」

 そんなアリスの言葉がとても嬉しくて……、

「なんて言ったって、セリーナさんは私の親友なんですから」

 私の目からは、涙がとめどなく溢れてきたんだ。

 



 夏の終わりの頃と同じように、私はまた、アリスに抱きついて大泣きをしてしまった。

 私の頭を撫でてくれるアリスの手は、とても優しかった。






 


 夜。宿屋について夕食を終え、各自部屋に別れている。

 今、同室になったアズにゃんはお風呂を浴びに行っていていなかった。

 窓に腰かけ、見上げた夜空には満天の星。

“何を見ている?”

“星”

 数日ぶりに聞いたシェリルの声。彼女の声は優しく聞こえた。

“昔聞いた貴女の声は、こんなに優しかったかな?”

“優しかったと思うか?”

 彼女の声、初めて聞いたのはいつだった? 何処で彼女の声を初めて聞いた?

“おかしいな、一人じゃないのに、凄く寂しい気がするよ”

“寂しい?”

“みんながいないからかな、近くに?”

“私がいるぞ”

“それでも、だよ。なんだか、この秋の夜空のような、寂しげな色をしている気がするんだ”

“詩人だな”

 言わないでよ。

“行くのか、カダスに?”

“行くよ、カダス”

“お前にとって、物凄く辛い事が待ち受けているかもしれないのに?”

 やはり、完全に私の記憶が戻ったわけではないのだろう。シェリルから受け渡されなかった記憶も、やはりあるのだろう。

“それでも、行かなきゃ前に進めない。なんだか、そんな気がするんだ”

“そうか”

 それ以降、シェリルも押し黙った。

 沈黙が、その場を、私の心を支配した。

 ――ああ、寂しいな。

 何故かは分からないけれど、胸を埋め尽くすは寂寞の思い。

 いつか、この思いが消える日があるのだろうか?






 旅は続く。ティンダロスへ。そして、その先へ。

 冬が、もうそこまで来ている――。


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