美少女騎士による盗賊狩りの時間です。
さて、これからは私の時間だ。あんな片眼鏡ぼっちゃんの活躍より、私の活躍の方が大事だ。
盗賊狩りと洒落こもう。
目の前には簡易の扉。しかし、閉まっていた。あれだけの人数が通って行ったのに、もう閉まっているだと? 誰かいるのか? 気配を探ってみると、簡易扉の後ろに一人だけ気配を感じる。たいして強くないな。
仕方ないな、とりあえずノックしてみるか。悪意を込めて二回だけノックしてやる。便座に座ったままかどうか、確認してやらないとな。
「合言葉は?」
あれ、ノック二回で普通に返答していやがる。許せないな、団長くらいの洒落っ気が必要だぞ? もう一回だ。
「合言葉は?」
何、二回もわざわざ繰り返した意味が分からないのか、こいつは? 私が期待した返答はそうじゃないんだよ!! もう一回ノック二回してやる!!
「合言葉は?」
これだけ執拗にノック二回を繰り返しているのに、なんて奴だ。私の期待をことごとく裏切りやがって!! まあいい、もうこいつに期待するのはやめだ。仕方ないので、声を低くして間髪入れずに適当な言葉を言ってみる。
「山」
「川」
おいおい、私が適当に言った山という言葉に普通に返してきたぞ? もしかして、正解だったのだろうか?
しかし、アレだ。山、川、と続けばきっと、次の言葉も必要なのだろう。何だろうな、続く言葉は?
「ゆ……」
最後までいいきる前に扉は開いていた。山、川、で終わりだったのだろう。しかし、いったい私は何を言おうとしたのだろうな? きっと、言いきらないで正解だったのだろう。
開いた扉に素早く身を入れ、扉の傍にいた男の顎先を抜刀した日本刀の柄頭で打ち抜き、意識を奪う。音を立てないように優しく地面に寝かせてやるあたり、私はなんて優しい女なんだろう。ジンならきっと、問答無用で斬っていただろう。死なせたかどうかは分からないがな。
洞窟の中を歩く。そこそこ広いし、結構な奥行きもある。だが、広さは日本刀を振るうのに十分な広さはある。もっとも、日本刀が振るえなければ、小太刀を振るえばいいのだ。
今私が腰に差しているのは、日本刀と小太刀だ。小太刀は少し小さめの日本刀だ。“スペースリザー堂”で日本刀を購入した時、ついでに購入しておいたのだ。その時日本刀と小太刀と脇差の違いについて色々説明されたのだが、はっきり言って何を言われたのか分からなかった。簡単に言えば防御に特化したのが小太刀といったところだろうか? 違うかもしれないが、私は気にしない。
少し歩いた。五分ほどだろうか? 気配は一応殺しているが、もちろん完全に殺しきってはいない。足音は殺していないが。
そこまで開けてはいない空間に出た。奥にこれまた簡易の扉がある。きっと、そこにさらわれた女性たちがいるのだろう。
開けてはいない空間で男たちが火を囲んで車座になって談笑していた。おいおい、お前たち、先程外で侵入者騒ぎがあったのを知っているだろう? 何でそんなに呑気なの?
「ちっ、せっかく上玉の女さらって来てもオタノシミ出来ないんじゃ、つまんねえな」
「まあ、言うなよ。キズモノにして後々手に入る金が少なくなったらタマラン。大金が入ったら、デケエ街の娼館でも行って楽しもうや」
「手を出したらカシラが黙っていねえぜ? カシラが外出中だからって女に手を出す自信があるなら、女に手を出せよ。カシラにケツ掘られちまうぜ?」
なるほど、カシラとやらはあちらの住人か。しかも、外出中というなら安心だ。外にいるジンに任せておこう。
「だいたい、俺たちが手を出しまくったら売り物にならねえだろ?」
「違えねえ!!」
下卑た笑いが起こる。
しかし、屑だな、こいつら。こいつらを殺すのに何の躊躇もいらないな。
私は無言のまま娼館に行って楽しもうと言った男の後頭部へ日本刀を突き入れた。この日本刀を手に入れたあの日、天啓のように閃いた業――左手の片手平突き――、日々の訓練は欠かしていない。今では、私の必殺技と化しつつある。つまり、頭部を粉砕するくらい、余裕だ。もっとも、自身に強化魔法をかけてはいるからだが、ね。口から飛び出した切っ先に、何人か驚いたようだが、何故こいつら、私が近付いてきた事に気付かなかったのだろうか? 足音は殺していないぞ? もっとも、気配は殺していたが。
「てめえ、何モンだ!?」
「聞こえなかったのか? 侵入者がいると外の連中が騒いでいただろう?」
「バカな……、そうか、外の侵入者は囮かよ。で、本命はこっち、ってワケかい」
少しは頭が回る奴もいるようだ。だからと言ってこいつらが辿る運命に変わりはない。
「おい、別嬪さん、どうでもいいが、この人数相手に無事に帰れるとでも思っているのかい? テメエを楽しんでやろう。多少キズモノになっても、回復魔法で外見は誤魔化せるんだ。あんたくらいの上玉、初モノじゃなくても高く売れる。ククク、全員で楽しんでやろうじゃないか。何、カシラもあんたくらいの別嬪なら手を出しちまうかもしれねえな」
「ケケ、違えねえ!! ケツ掘られたくねえからな!!」
おいおい、ぞっとするな。そちらの住人にでも手を出されるほどの美人と言われても何も嬉しくないぞ、私は。
しかし、何故こうも全員似たような事を考えるかな? だいたい、盗賊狩りも何度もやったが、どの盗賊も人を見て高く売れるだの、やりてえだの、そんな事ばっかりだよ、私に言うのは。もっと、個性的なセリフを吐けないものだろうか? まあ、こいつらに対する返答はほとんど同じだがな、私も。
「言いたいことはそれだけか? 死ぬ覚悟は出来ているか? 私は、殺す覚悟は出来ている」
私は死ぬ覚悟など持っていないがね。何故なら、こいつらと私の間には海よりも深く、山よりも高い実力差があるのだから。海ってどこの海? そして、山ってどこの山だよ? なんだ、この例え?
「ヘっ、言ってろや、クソアマ!!」
「後でいい思いさせてやるぜ!!」
ごたくはイイから、かかってこいよ。
それとも、私が構えるまで待っていてくれるのか? なら、まあいいさ。構えをとらせてもらう。右足を前に、左足を後ろに、腰を軽く落とす。左手を後ろに引き、伸ばした右手に切っ先の峰の方を添える。左手で握るは柄頭。突きに特化した姿勢と言えるだろう。
「ティンダロス帝国帝都騎士団三番隊組長、セリーナ・ロックハート、参る!!」
もっと、カッコイイ決め台詞を用意したいな。そんなどうでもいい事を考えながらも、戦闘を開始した。イメージは、突風。最短距離を最高速で。己の最高の一撃を最良の角度で敵に打ち込む。この程度のレベルの敵では、反応すら出来ない一撃。
正面に立つ男の口に日本刀が吸い込まれ、後頭部から吐き出された。一瞬で絶命させた辺りは、私の優しさかもしれないな。
「てめえが、あの、セリーナ・ロックハートかよ!!」
「畜生、何でこんな所に……!!」
生き残りの盗賊どもが私の正体を知り慌てふためいているが、無駄だ。逃がしはしないよ。あと、何でこんな所にいるかって? 私は単に仕事に行こうとしていたところだ。そこでこんな騒ぎがあったんだ。騎士として、見逃すわけにはいくまい。
一方的な殺戮は終わった。DOAかどうか、確認するのを忘れていたな。まあ、いいか。
簡易に作られた牢獄を開け、中にいた女性二人を外に出した。盗賊が上玉というだけあってなかなかの美人だ。それにしても、何でこんなに怯えているんだろう? 盗賊は全員退治したというのに。もう、怯える必要はないというのに。
まあ、明日以降に役人に確認はしてもらえればいいだろう。死体は放置しておけばいいさ。
女性二人を連れて先ほどの空間に戻ると、長身のマッチョな男がいた。こいつがカシラ、か? 糞、ジンの奴め、こいつが男のケツを掘るのが好きな奴だと感じて、私に押し付けやがったな? しかし、腐りきった目をしていやがる。人を商品としか思っていないのだろう。
「てめえがこいつら殺したのか?」
「だとしたら?」
「ふん、役立たずなどどうでもいい。てめえを犯して、鬱憤を晴らさせてもらうさ」
「貴様は男色家だろう? 見逃してくれ」
男色家に犯されるなんて、御免こうむる。
「俺は男でも女でもイケるのさ」
聞きたくない事を聞いてしまったなあ。
「死ねや!!」
男が背中に背負っていたメイスを振り下ろしてきた。とっさに女性二人を突き飛ばし、その反動で反対方向へと飛んだ。壁を削るメイス、なかなかのスピードと破壊力だ、当たればお終いだな。
当たれば、だが。
日本刀を抜刀し、相手の出方を待つ。
遮二無二メイスを振りまくってもどうしようもないだろう?
全て、紙一重でかわす。そう、紙一重で。
カシラも彼我の実力差を感じたのだろう、だが、それでも無闇にメイスを振るうのをやめようとしない。いったい、何故だ?
気がつけば壁際に、そこだけ一人分入れるかどうかの窪みのある壁際に追いやられていた。
そして、周りの壁をガンガン削っていくカシラのメイス。気がつけば、私は身じろぎするほどしか身動きできない位まで追い詰められていた。腰のあたりまで削られた岩石でほぼ埋まっていた。参ったなあ、ほんと、参ったなあ。上半身は動かせるけどなあ。普通の女性ならここで諦めるなあ。参ったなあ。
「ククク、どうよ、身動きできまい? そこで数日飲まず食わずで我慢できるか?」
なるほど、ここで餓死でもさせる作戦か? まあ、私が戻るのが遅ければジンがやって来てこいつを始末するだろうが、さらわれてきた女性二人が心配だな。
「てめえの見ている前で女二人を犯してやろう。自分の無力さに涙でも噛みしめるんだな!!」
やれやれ、これで私の身動きを封じたとでも本気で思っているのだろうか? 確かに、下半身は身動きが出来ない程だ。だが、私の上半身は動かせるぞ?
左手に魔力を集中させ、日本刀に無属性魔法を纏わせる。日本刀を救い上げるような感じで、上半身の筋肉の動きだけで突きを放つ。
岩石を吹き飛ばし、己に向かってくる日本刀に驚き、メイスを構えるが、私の突きはその程度で防げるモノじゃあない。メイスを粉砕し、無属性魔法に風属性魔法まで上乗せした日本刀はカシラの鳩尾に突き刺さり、私の手を離れてそのまま反対側の壁まで巨体を吹き飛ばし、突き刺した。流石に上半身と下半身を別れさせてやる事は出来なかったようだ。いつかはその境地まで辿り着きたいものだ。
「て、てめえ、いったい何モノだ?」
口から血を吐き出しながら問いかけてくる。しかし、目は腐ったままだ。こんな奴に名前を教えたら、末代まで祟られそうだ。
「知りたいか?」
教えたくないなぁ。どうしようかなぁ。
「俺を殺した女の名を覚えてから地獄に行きてえ……」
仕方ないな。冥土の土産に教えてやろう。もちろん、本名など教えてやらん。そういえば、セリーナ・ロックハートは私の本名だったかな? 誰がつけたのだろう、この名前は? 分からないな。いつかは思い出せるだろう。さて、何か面白い偽名はないだろうか? まあいいか、適当なので。
「ケロッピ公爵家のケロケロです」
「そんな名前、娘につけるバカがいるかよ……」
いないと思うよ、私でもこの偽名はどうかと思う。
こんな名前つけられたら、絶対学校でいじめられる。私だったら、親をボコボコにするね、その自信はあるよ。
壁に突き刺したとはいえ、カシラの体は壁に密着はしていなかったようだ。自重に耐えきれずに、カシラの体は落下していった。頭頂部までを真っ二つにしながら。
「そうか、て、てめえがあの“銀髪の魔女”かよ……ッ!!」
私の髪の色に落下中に気付いて、思い当たる事があったのか、それがカシラの辞世の句となった。辞世の句? 辞世の句とは違うか、遺言かな? まあいいや、どっちでも。
私は女性二人を連れ、洞窟を抜ける事にした。ああ、外の空気が吸いたいな。