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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第二章 寂しさは秋の色~apocalypse autumn~
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私と出会ってしまったな。

「ええい、早く乗り込まぬかッ!!」

「アキ、早くしてッ!!」

「で、でもセリーナさんがッ!?」

 脱出ポッドに乗り込んだのは、魔塔が浮き上がり始めてからだった。

「蜥蜴丸、何とか出来ないのかッ!?」

 アキは気が気でないようだ。それはそうだ、セリーナさんを置いていくのだから。私だって、心が斬り裂かれそうだ。

「何トカ? それは、どういう意味でだね? 銀髪を殺してもいいと言うのなら、ワガハイ、スペース光線銃を威力MAXにしてぶっ放すがね。それでいいかね?」

「ダメに決まっているだろうがッ!!」

「ならば諦めろ。猫娘に頼むぞ。それしかあるまい!!」

 リリスに……? まあ、確かにリリスは非常識な存在ではあるけど、どうにか出来るかな、彼女に?

「出発するぞ、シートベルトを締めろよ!!」

 操縦席に蜥蜴丸が座る。私は何とかアキをシートに座らせて、自分もシートに座る。シートベルトって、これかな? 何とか体をシートに固定する。アキは、まあどうにでもするだろう。放置放置。

「では、脱出ポッド、出発!!」

 どうしてだろう? 蜥蜴丸がかなりノリノリな気がする。そう言えば、蜥蜴丸も時々夜空を見上げていたな。「ワガハイ、“星の海を渡る旅人センチメンタル・ジャーニー”故に」トカ言いながら。別の世界、違う時代にいるトカ言う蜥蜴丸も、きっと同じ事を言っているんだろうな。

 そして、私達を乗せた脱出ポッドは、魔塔から吐き出されたのだった。

「畜生、僕はセリーナさんを助けられないのか……ッ!?」

 アキの嘆きを乗せて。






 私たちが見つめる先、魔塔が浮き上がっていく。

「ほう、あれ程の質量を持つモノが、簡単に浮き上がるか。この世界に蜥蜴丸程の科学力を持つモノがいるとは思えなかったが……、流石は古代技術と言うべきかのう?」

 リリスと名乗った、天使と称えられた少女が、のんびりと呟いている。

「あの塔には、セリーナ達が向かったんだろう? 大丈夫なのか?」

 ジンの声も、震えている。心配なのだろう。私や彼にとってもセリーナは友人で、妹のような存在だ。ジンにとっては、セリーナと一緒に魔塔に向かったアキヒコ君にアリスや蜥蜴丸、ゲーサンは夏の終わりに一緒に冒険をした間柄だ。彼らの事も心配に違いない。

「蜥蜴丸とゲーサンなら何とでもなるだろうけど、アキヒコやアリスは心配だな。レティも心配だろう?」

 私達の近くに佇む黒髪のメイド服の少女、レティ。

「心配がないと言えば、嘘になりますね……。無事かどうか、確認する術はないのでしょうか?」

 ここから、確認する術はなさそうだけど……。あれだけ巨大な建築物だから、ここからでも見えるだけだ。

「いや、何か吐き出されたぞ……? おそらくは、脱出ポッドのようなモノだろう。ワガハイはそこまで行こう。この王都、もう心配する事はないだろう」

「すぐに行けるのか? その、脱出ポッドの到着地点まで」

 ジンがリリスに問いかける。叶うならば、自分もすぐに向かいたいという思いが伝わってくる。ああ、やっぱりこの人は優しいな。出来れば、その優しさを自分一人に向けて欲しいと願いたいところだけど、そんな事を考えている余裕は今の私にはない。

「ああ、我輩ならすぐに行けるぞ」

「なら、俺も連れて行ってくれ!! あいつらだけをあそこに行かせた責任が、俺にはあるんだ!!」

「私も!!」

 そうだ、国を守る為に、民を守る為にセリーナ達だけにあの魔塔に向かわせたんだ。私も向かわなければならないだろう。

「待ってくれ、私も連れて行ってもらおうか。こんな場所に置いていかれてはかなわん」

 いたの、アズにゃん? まあ、そうだよね。他に王族とかもいるもんね。居辛いのは、よく分かるよ。アズにゃんも一緒に行こうか。

「なんだ、その慈しむような笑みは? 気に入らないな」

 おかしいな、そんな笑みを浮かべてはいない筈なのに……。

「私も一緒に行きます。いいですね、リリス?」

「やれやれ、大所帯じゃなあ……、セツナよ、貴様はどうする?」

 リリスがセツナに声をかけた。今もまだ、セツナはご両親と弟と思われる人たちと話をしている最中だ。涙は少しずつではあるけれど、乾いてきているようだ。

「私も行く。父さん、母さん、春希、すまないけど少し待っていて。友達を迎えに行ってくるよ。春希、父さんと母さんを頼むよ」

 頷いてくれたセツナの家族。いい家族だな。

「行っておいで、雪菜。父さんたちはここで待っているよ」

「行ってきます」

 私達の傍まで来たセツナ。両手で頬を叩く。

「よし、行こう。あいつらがきっと待っている。涙目のまま会うわけにもいかないさ。あそこに行かせたのは私なんだからな」

「私達、ね」

「そう、俺たち。お前一人で責任取ろうなんて、考えるなよ」

 軽く拳を合わせる私たち三人。ここにセリーナがいてこそ、私達のチームは完成するんだ。だから、最後の一人を迎えに行かなきゃね。

「ふむ、容易はいいかの? では、皆我輩につかまれ。もっとも、我輩をつかまえている誰かに触れていれば一緒に連れていけるぞ……? おい、レティ、貴様何故我輩を後ろから抱きしめているのだ?」

「抱きしめるのにちょうどいいですので」

「レティ、貴様もか……。我輩の周りの女は何故我輩を抱きしめたがるのだ?」

 あ、何となくわかるな。ちょうどいいくらいのサイズ? 私も今度抱きしめさせてもらおうっと。

「仕方ないな。では、行くぞ!!」

 軽い浮遊感。

 そして、気が付いた時には、私たちは砂漠のど真ん中にいたのだった。もっとも、地理的にど真ん中だったかは分からないけれど。

 砂漠の真ん中で待っていると、数分後、私達の前によく分からない機械が落ちてきた。

 そして、その中から現れたのは、アキヒコ君にアリス、蜥蜴丸だけだった。






「守れなかった……、騎士になるって誓ったのに……ッ!!」

 砂漠の砂に拳を叩きつけても、どうにもならないと分かっているのに、僕は拳を叩きつけずにはいられない。

 何とか、脱出ポッドから抜け出した僕たちを迎えたのは、リリスにレティ、セツナさんにマーガレットさん、ジンさん。王都に残った旅の仲間だ。ついでにアズにゃん……だったかな? でも、そこにセリーナさんの姿は、もちろん、ない……。

 心を、絶望が襲う。セリーナさんを、救えなかった。守れなかった……ッ!! 大事な女性ひとを守る事が出来なかった……ッ。

 セリーナさんをあの装置に繋いだまま、魔塔が天高く昇っていく。

「アキ、まだ諦めちゃダメだよ。ねえ、リリス、貴女ならどうにか出来るんでしょ? 蜥蜴丸が貴女に頼ろうって言っていたんだけど……?」

 アリスの声が後ろから聞こえた。そうだ、僕以上の魔力を持つリリスなら、きっとセリーナさんを助け出してくれる筈だ。

「リリス、どうにか出来るの? 頼むよ、リリスなら出来るでしょ? 僕をこの世界に送ったリリスなら……」

「お? お?」

「頼むよ、何でもする。僕に出来る事なら何でもするよ。だから、セリーナさんを助けてよ……!!」

 みっともないと言われても、情けないと言われても構わなかった。

 リリスの腰にしがみついた。

「お願いだ、頼むよ。お願いします……、セリーナさんを助けてください……ッ!!」

「お、おお……、しかし、お主こんな熱血漢だったかな? 我輩に必死こいて頼む程、セリーナは大事な存在なのか……?」

 リリスは、僕とセリーナさんの間柄なんて知らないんだったかな?

「大事なんだよ。凄く!!」

「ほう……」

 リリスの声がからかうような口調に変わる。でも、今の僕にはそんな事を気にしている余裕はない。

「守るって誓ったんだ。セリーナさんの騎士になるって誓ったんだよ……!!」

「つまりは、アレかね? 世界を敵にまわしても構わないと言うのかね?」

 おかしいな、リリスはこんな可愛げのない声だったかな? しかし、声はリリスの口がある辺りから聞こえるぞ?

「ああ、例え世界を敵にまわしても構わないッ!!」

「クカカカ、聞いたかね、アリス? この孺子こぞう、幼馴染である貴様をあっさりと捨ておったぞ?」

 へ?

「いやいや、世界を敵にまわすって言っているだけだから。あと、セリーナさんは私のだから。アキのじゃないから」

 顔をあげれば、苦笑するリリスの顔。そして、リリスの口の近くに、よく分からないマイクのようなモノ。も、もしかして……。

「いやはや、これが若さゆえの過ちというやつかね?」

 少し離れた所で、蜥蜴丸がニヤニヤしていやがる……ッ!!

「アリスよ、聞き捨てならない事を言ったな。セリーナは私のだ。お前のじゃない」

「セツナさん、貴女はあくまでセリーナさんの事を妹のように思っているにすぎません。セリーナさんは私のモノです」

「おい、お前ら何熱くなっている? セリーナは私が頂く」

「「アズにゃんは黙ってろ」」

 ……何だこれ?

 そして、その時天空高く、大爆発が起こった。そして、恐ろしいまでの魔力の発現を感じた。セリーナさんの魔力と似て非なる魔力の発現を。

「目覚めた……か?」

 目覚めた……? 誰が?

「アキヒコよ、我輩が出向く必要はなくなったようじゃぞ」

 どういう事だ……? そして、大爆発の意味はいったい何なんだ……?






 地上で大爆発を感じる少し前だった。天高く、闇の中で男が笑っていた。

「クククク、希望が見えた瞬間こそ、絶望に叩き落とす最高の瞬間だ!!」

 男は、天空高く魔塔が昇っていく時間、圧倒的なまでの愉悦を感じていた。

 ああ、己を受け入れなかったこの星に復讐を果たすのだ。

「“ダモクレスの剣”、発射用意!!」

 さあ、この星ごとぶち壊してやろう。

 “ダモクレスの剣”……天体をも破壊する程のエネルギーを有した荷電粒子砲である。白衣の男の切り札であった。

 ノーデンス王国を絶望に叩き落とす事は出来なかったが、彼の復讐の標的ターゲットは、王国一つではなかったのである。彼は、己を受け入れなかったこの星全てを復讐の標的にしていたのであった。

「クククク、この女を気にして、あの蜥蜴も手を出せぬようだな!!」

 結局は情に負けたのだ。この女を気にせず私ごと塔を破壊すれば良かったのにな!!

 エネルギーが溜まっていくのが分かる。そして、遂に塔も星の重力支配を抜け出した。

 そして、エネルギーが百パーセント、溜まった。ああ、気持ちがいいな。天高く、否、宇宙の彼方から星が崩れ去っていく様を見てやろうじゃないか。この美しくも醜い星が崩れ去っていく様をな!!

「さあ、崩壊の序曲を奏でるがいい。“ダモクレスの剣”、発射!!」

 男は発射ボタンを押した。彼はもはや、絶頂寸前だった。

「世界よ、星よ、滅べ……!!」




 だが、“ダモクレスの剣”は、何の反応も示さなかった。




「何だ、何が起こった……!?」

 男は、すぐさま“ダモクレスの剣”のある位置を映像として映し出す。

 そして、そこには数多の剣が突き刺さった“ダモクレスの剣”を背景に、かき氷を食べている緑色のマッチョな蜥蜴の姿があった。

「バカな、あの蜥蜴、一人だけ残って“ダモクレスの剣”を破壊していたというのか……? このままでは、“ダモクレスの剣”のエネルギーが暴発を起こしてしまう……!!」

 男は、“ダモクレスの剣”を破棄する事を決めた。このままでは、この“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”までもが壊れてしまう……!!

 “ダモクレスの剣”を破棄する直前、かき氷を食べ終えた緑色のマッチョな蜥蜴は、彼を嘲笑うかのようにそこにあった脱出ポッドに乗り込み、地上へと落ちて行った。




 クソ、このままでは星に対する復讐は出来なくなってしまう……!!

 “ダモクレスの剣”に匹敵する程の威力を持った兵器はこの魔塔に搭載していなかった。男はその事を悔やんだ。この女から抽出した魔力で、せっかく“ダモクレスの剣”まで起動させたというのに……ッ!!

 だが、まあいい。安定軌道に乗りさえすればこちらのモノだ。

 いくらあの茶色の蜥蜴が恐るべき科学力を持っていたとしても、もはやここまで辿り着けはしない。

 この銀髪の女ももう、魔力はほぼ空だ。だが、まあ美しい。このままオブジェとして飾っておこう。目の保養にはなるからな!!

「クククク、星への復讐こそならなかったが、そんな事はもうどうでもいい。ああ、圧倒的なまでの愉悦を感じるよ!!」

 嬉しいねえ。あまりにも嬉しいよ!! 

 長年の悲願が遂に成し遂げられたのだ。

「あまりの嬉しさにニンマリしてしまうよ!!」

「そうか、では、次は圧倒的後悔をさせてやろう」

 今、己の後ろから声をかけたモノは、誰だ……?






 男は、後ろを振り返った。そこには、己より高い位置に装置に繋がれた銀髪の女がいる筈だった。

 だが、目の前に立つこの銀髪の女は誰だ?

 巨人族オーガモンスター数人がかりでもぶち壊せない筈の装置は、易々と引きちぎられていた。

 己が装置に繋いだ銀髪の女に瓜二つのこいつは、誰だ? そして、装置に繋いだはずの銀髪の女は何処に行った? 

 そして、伏せられていた女の顔が上がった。黒瞳であった筈の瞳は、爛々と光る赤であった。血の色を思い起こさせる、赤。

 そして、凶暴なまでの魔力の顕現。人間ではありえない魔力量の発露。

 違う、魔力の質が先程まで装置に繋いでいた女とあまりにも違う。あの女の魔力は、優しさの混じった魔力だった。だが、この女の魔力は違う。優しさなど、一かけらも感じられなかった。

「誰だ、誰なんだだお前は……!?」

 男は、己の声に恐怖が混じるのを感じた。

 分かったのだ。この女が先程まで装置に繋いでいた女だと。だが、違う。見た目の違いは、瞳の色だけだ。だが、分かるのだ。違うのは瞳の色だけではないと。

 人間性なかみが違う? そんな生易しいモノではない。

 セリーナ・ロックハートと名乗っていた女ではない。そのような、ニンゲンではない……!!

「貴様は、誰だ……、いや、何モノだ?」

 ああ、その笑顔の美しさよ。だが、その笑みはセリーナ・ロックハートの優しき笑みではない。死へと誘う、邪悪なる笑み。

 そして、遂に女は口を開いた。






「“私”と出会ってしまったな」






 男は、死を覚悟した。凄絶なる、死を。


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