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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第二章 寂しさは秋の色~apocalypse autumn~
53/69

茶番はそう簡単に終わりません。

 “天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”を目前にして、私とアキヒコ、蜥蜴丸は殴りあった。青春の一ページだな。出来るなら、河川敷で殴りあいたいものだ。そう、そして沈みゆく夕陽を前にして、河川敷に寝そべりながらこう言うのだ。「お前、やるじゃないか」「お前こそな」、と。そう、そして友情を確かめ合うのだ。私たちは、腐った蜜柑じゃないという事を証明してやるのだ。

 ……おかしい、今私の頭の中に浮かんだ映像は何だ? 死ぬ寸前に見る走馬灯というやつか? 走馬灯とは、何だろう? 実物を見た事がないのだが……。

 気が付けば、目の前にアキヒコと蜥蜴丸が倒れ伏していた。

「アキヒコ、蜥蜴丸、何故倒れている? て、敵襲か!?」

 バカな、私もアリスも何をしていたというのだ!? いや、それどころではない。アリス、アリスは無事か!?

「アリス、アリスは何処だ!?」

「さっきから何慌てているんですか? 私はセリーナさんの後ろに居ますよ」

 かけられた声に振り向くと、アリスが無傷で立っていた。アキヒコと蜥蜴丸を沈めた相手が近くにいるかもしれないのに、無傷だと!?

「アリス、近くにまだ敵がいるかもしれない。用心を怠るなよ」

「何を言っているんですか? アキと蜥蜴丸を沈めたのは、ゲーサンですよ。三人で殴りあっていた時にアキと蜥蜴丸がゲーサンにぶつかって、その後ゲーサンに沈められたんですよ」

「ゲーサンが強い事は知っているが、アキヒコと蜥蜴丸をあっさり沈めるだと?」

 いくらなんでも……。

「食べ物の恨みは恐ろしいですからねえ。ゲーサンが食べていたかき氷を二人がぶつかって落としてしまったんですよ。鬼神が現れましたね」

 食べ物の恨み、か。確かに恐ろしいな。

「私は何故無事だったんだろう?」

「二人を上手く盾にしていたじゃないですか。“これが私の無敵の盾(イージス)だ”トカ言いながら」

 無敵の盾(イージス)って……、もしかして、私の厨二病は進行しているのか? いや、違う、私は厨二病じゃない!! 断じて認めない!!

「まあしかし、二人をこのままにして“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”攻略にあたるわけにはいかないな。二人はちゃんとした戦力なのだからな」

 ……何で溜息つくの、アリス?

 まあいい、アリスが溜め息ついているのなど無視して、二人を叩き起こそう。

 そして、二人をよく見たら、似たような格好で倒れていた。右手では何かを血で書いていた。これが、ダイイング・メッセージとか言うヤツだろうか?

 “パンツ”“白”。なんだ、この文字? ちなみに“パンツ”が蜥蜴丸で、“白”がアキヒコだ。

「セリーナさんの下着の色じゃないですか?」

「よし、殺そう」

 二人が大事な戦力であるという事を忘れて、私は光属性魔法を纏わせた日本刀を振り下ろした。この二人は、きっと邪悪なる属性のもとに生まれているに違いない。

「数メートルに渡って出来たクレーターの中に、彼らはいなかった。彼らが生きていたという証拠すら残さず、消滅させたのだろうか?」

 ふ、いつか必ず人は死ぬのだよ。何を残すか、だ。体すら残さぬ死があってもいいではないか。

「何語っているんですか? 勝手に殺さないでくださいよ」

「だいたいにして、騎士服を着ている今の貴様のパンツなど、どうやって見ろというのだね? あの血文字は、貴様が今身に着けているパンツの色ではない。アキヒコが貴様に着けてもらいたいパンツの色だったのだよ。しかし、そうか。今は白なのか」

 振り向いた私の前に、無傷の二人が立っていた。そうだよな、手応えなかったもんな。

「ならば、手応えを得るまで斬りまくろう」

「なんでそうなるんです?」

「時間の無駄というのが、分からんのかね!?」

 そして、十数分の追いかけっこが始まった。

 アリスの溜息だけが砂漠の風に乗って何処かへと渡っていった。

 ゲーサンは相変わらずかき氷を食べていた。




「む、無駄な体力を使わせやがって……!!」

「せ、セリーナさんが悪いんですよ。謝ったじゃないですか!!」

「おいおい、一番キツイのはワガハイよ? お前らみたいに脳筋じゃないのよ、科学者なのよ、ワガハイ。言わばホワイトカラー。冷房の効いたオフィスでPC相手に仕事しているのがワガハイ。そんなワガハイを汗だくになるまで追い回しおって……」

 三人とも汗をかいて砂漠の上にへたり込んでいた。先ほどまで目と鼻の先にあった魔塔からも、五十メートルくらい離れてしまっていた。何をやっているのだろうな、私たちは。

「落ち着きましたか? では、魔塔攻略に向かうとしましょう」

 おかしいな、引率役は私の筈だったのに、何時の間にかアリスにその役目が移っているようだ。まあ、気楽になったからいいのかな?

「一番落ち着いていそうに見えるセリーナさんが一番子供っぽいところがあるんですよねえ。まあ、ギャップがあって可愛いところでもあるんですがね」

「何言っているの? アリスの方が可愛いよ、なんてったって私の天使だからね」

 アレ、何で急に顔を赤らめているんだろう、アリスは?

「他の女の子にも天使って言っているんでしょう?」

「セツナからはよく言われてた気がするけど……」

 言っているのはアイリーンくらいだと思うんだけどな。

「なら許します」

「ありがとうございます」

 何に感謝したのだろう、私は?

「なんだね、あの空間は?」

「蜥蜴丸、僕らが近付いてはいけない空間があそこには出来ている。暫く放置だ」

 お前たちは何を言っているのだ?

 あ、ゲーサン、かき氷をくれ。

「Wがまた大きくなるぞ」

「五月蝿いぞ、蜥蜴丸。ダイエットすればいいのだ」

「いつから?」

「明日から。明日から本気出す」

「明日も同じ事を言いそうだな」

 なんとなくだけど、私もそう思うよ。




「ようやく、ようやくここまで来たな」

 目の前には、遂に魔塔の入口。そう、まだ目的地に足を踏み入れてすらいなかったのだ。これから、魔塔攻略を始めるのだ。

「何、万感の思いを込めて呟いているのだね? これ程時間がかかったのも全て貴様のせいではないかね。ワガハイを何度も追い掛け回しおって」

 あーあー、聞こえない。

「まあ、王都の方はリリスがしっかりと掃除してくれたでしょうからね、モンスターを。だからこそこうしてのんびり出来ているというものですよ」

 アリスはやっぱり私の天使だなあ。癒してくれるよ、私を。

「しかし、よく言います。帰るまでが遠足だ、と。さっさとこの魔塔を攻略して王都に帰りましょう。どのみち、砂漠じゃ安心して眠ることも出来ません」

 アキヒコの言うとおりだ。眠るのは砂漠の砂の上じゃなく、宿屋でいいから、ベッドの上がいいな。

「ふふふ、今夜は寝かせませんよ」

 何言っているの、アリス?

「ダメだよアリス、セリーナさんを寝かせないのは僕だからね」

 アキヒコ……、今君に対する殺意が頂点を迎えようとしているよ。そういうセリフは、もう少し大人になってから言って欲しいな。もしくは、二人っきりの時に、ね。

「顔がデレているぞ、銀髪」

 !?




 恥ずかしさのあまり、無属性魔法を纏わせた日本刀の一撃で魔塔の入口を粉々に破壊してしまった。まあ、いいじゃないか。最終的には全部壊す事になるかもしれないし。そう、壊すのが早かったか遅かったか、それだけの問題だよ、たぶん。

「さあ、行くぞ!!」

「やれやれです」

 そのセリフを言いたいのは、私だよ、アリス。




 魔塔の中は、今まで見た事もないような景色だった。“死者の都”ブリュージュは、古代遺跡ですと言わんばかりの雰囲気だったが……。

「ほう、これは……」

「なんとなくだけど、近未来チックだね」

 アキヒコの言う近未来とは、どのくらいの年代の事を言うのだろう? 向こうの世界での事なのだろうが。

「知ってます? 色んなSF作家が近未来を予想したけど、携帯電話だけは予想できなかったそうですよ、確か」

 それ以前に、携帯電話って何だよ?

「こんなヤツ」

 準備がいいな、蜥蜴丸。

「まあ、皆に渡しておこう。使い方をレクチャーしてやる」

 簡単な使い方を聞いておく。いまいちよく分からないが……。

「番号を振り分けておこうではないか。銀髪が一番、アキヒコが二番、アリスが三番、ワガハイが四番……、四番だと? ワガハイに死ねというのか!?」

 何を一人で盛り上がっているんだ、蜥蜴丸?

「いや、四番はなしだ。四は死に通じるという言葉だったか噂だったかがある」

「科学者の癖にそんな非科学的な事に恐れをなしてどうする、蜥蜴丸?」

 凄いツッコミを入れるな、アキヒコ。

「ふ、バカめ。噂にはいくらか真実が混じっている事もある。つまりは四は死に通じるというのも何らかの真実が混ざっていてもおかしくはない。単なる語呂合わせかもしれんがな。用心するに越したことはないのだよ」

 慌てすらしないとは、な。流石は蜥蜴丸というところだろうか。

「ま、そう言うワケだ。ワガハイが五番。ゲーサンが六番だ」

 ゲーサンが携帯電話を受け取った。ゲーサンと誰が会話が通じるのだろうか?

「ま、モノは試しだ。使ってみるがいい。慣れておくべきだ」

 蜥蜴丸に教えてもらったとおりに、二番をプッシュしてみる。

『もしもし』

『何で、もしもし、って言うんだ?』

 すぐ近くに相手がいるのに、電話で話す……、か。おかしな感じだな。

『様式美じゃないですかね?』

『知らないなら知らないって、はっきり言えよ』

『すみませんでした』

 言葉を出すと同時に頭を下げるアキヒコ。離れていた場所に居たら頭を下げていたとしても、見る事は出来ないと思うのだが、何故頭を下げるのだ? もしかして、これも様式美なのだろうか?

 通話終了ボタンを押した。

「使い方は分かったかね?」

「ああ、まあな。ところで、さっきの説明にあった電波とやらは何処から来ているんだ?」

「クカカカ、リザード星の科学力は宇宙一だと答えておこう」

 凄いな、リザード星。いつか行ってみたいモノだ。

「たぶん、蜥蜴丸も理解していないだけですよ」

 クールなアリスの声が、塔内部に消えて行った。もしかして、私は騙されたのか?




 明滅を繰り返し、奥へと消えていく光が、まるで私たちを誘っているかのようだ。

 これが、アキヒコが近未来チックと評した光か。

 その光を追うかのように、私たちは奥へと向かう。

「鬼が出るか、蛇が出るか」

 奥で何が待ち受けているだろうか?

「蜥蜴はもう出ているので、蛇が出てきても面白味がありませんね、鬼の方が面白そうです」

 アリス、君は何て身も蓋もない事を……。

 





「あいつらは、いったいいつになったらこの魔塔を上がってくるのだ!?」

 “天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”上層部の闇に浮かぶ男は、焦っていた。

 ノーデンス王国王都への襲撃も、何モノかの邪魔が入り、何の結果も残さなかった。

 ならば、この魔塔を登ってくるであろう銀髪の女を捕らえ、星の海へと帰還する事を願った。さあ、早くこの魔塔を登ってこい!!

 しかし、男の願い虚しく、なかなか登ってこない。

 塔の近くで何度も殴りあいを繰り返したかと思えば、追いかけっこをし、それが終わったかと思えば、魔塔の入口を粉々にぶち壊した。

 ようやく魔塔の中に入って来たかと思えば、変な道具で遊びだす。

「いつまでも茶番を……ッ!!」

 男の焦りを知ってか知らずか、魔塔に入ってきた連中はのんびりと時を過ごしていたのだった。


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