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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第二章 寂しさは秋の色~apocalypse autumn~
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「甲子園は大阪府にあります」「本当か!?」

 王宮前に辿り着いた私たちを出迎えたのは、避難をして王宮前まで来ていた少女と弟の両親でした。抱き合う四人を見て、胸が痛まなかったと言えば嘘になるでしょう。私には本当の家族など、いないのですから。

 痛んだのは心だけではなく、左腕もでした。参りましたね。弟君の治療にほぼ全魔力を使ってしまいました。暫くは左腕の治療を自分でするのは難しいでしょう。ここには蜥蜴丸もいない事ですし。まあ、宇宙ナノマシン“スグナオール”をぶち込まれるのは遠慮願いたいものです。

 少し寂しげな気持ちを抱きながらも、王都を見まわしてみました。モンスターの死骸すらありません。黒き羽根に討ち貫かれたモンスターたちは、ほぼ一瞬のうちに素材と魔石へと変貌を遂げました。かなり大量ですが、これだけあれば今回王都を襲撃したモンスター達から得た素材と魔石の価値は暫く暴落するでしょう。少なくとも私には必要ありませんね。

 やがて、王宮前にある集団がやって来ました。

「天使様、ありがとうございますだ!!」

「天使様のお蔭で生き延びる事が出来ました!!」

 集団の中央にいる人物、見た目は十四、五歳くらいの白いゴスロリ服とかいうファッションに身を包んだ金髪の少女は、辟易しているように見えました。

「いや、我輩、天使ではないのじゃが……」

 どうにも、王都を救った救世主として、天使として国王陛下のもとまで連れて行こう、と周りの人間が言っているようです。それを断りきれない彼女も、人がいいと言えばいいのでしょうか? 人ではありませんがね。

 困りきっているリリスと目が合いました。アキヒコさんを訪ねて来る事が何度もある彼女なので、私とも友人付き合いをしてくれているのです。人波をかき分け、私の方へ近付いてきてくれました。

「おい、レティ、お主怪我をしているではないか。大丈夫か? 結構傷は深そうじゃが……?」

 ああ、そう言えばメイド服の左袖はごっそりモンスターに持っていかれましたね。先ほどから血も止まっていませんでした。

「魔力が足りなくて、ですね。ついでに言えば血も足りません」

「やれやれじゃなあ。お主、弱いのにモンスターに刃向ったのじゃろう?」

 私にからかうように声をかけるリリス。その時、私達に向かって声をはりあげる者がいました。

「お姉ちゃんは悪くない!! 私と、弟を命がけで守ってくれたんです!! いくら天使様だからと言って、お姉ちゃんをバカにする事は許せません!!」

 あの時、私が守った少女です。

 その少女の叫び声を真正面から受けて、目を点にするリリス。いや、面白いモノを見る事が出来ました。

「そうか、このお姉ちゃんがお主を守ってくれたのじゃな?」

 優しく少女に問いかけるリリス。

「そうです。両親とはぐれてモンスターに襲われていた私と弟を命がけで助けてくれたんです。弟の怪我を魔法で治してくれたんです。天使様がモンスターを倒してくれたけど、このお姉ちゃんがいなければ、私と弟は両親と生きてまた会える事は出来ませんでした……」

 ポンポン、と少女の頭に手を置くリリス。

「そうか、このお姉ちゃんにちゃんとお礼を言ったか?」

「はい」

「うむ、ならばよい。さ、これから我輩が、お姉ちゃんを治療するからな。お主は両親の所に戻っておれ」

 何でしょう? 凄く目立っていてとても恥ずかしいのですが……。

 特に、先程からセツナさんの近くにいるこの世界では見かけない服装をしている同い年くらいの男性からずっと見つめられているのですが……。何か、おかしな姿でもしているでしょうか……、ああ、左腕は血塗れでした。

「じっとしておれよ」

 リリスに言われるままにじっとしておきましょう。暖かい光に包まれたと思った時には、私の左腕は綺麗になり、メイド服の左袖まで元通りになっていました。

「ふむ、流石我輩」

「ありがとうございます、リリス」

「気にするな」

 リリスが私の傍から離れると同時に、先程の少女が家族そろって私の近くまで来て、丁重にお礼を述べてから、いったん避難所になっている場所まで移動して行きました。まあ、まだ完全に危機が去ったわけではないのですから、当然ですね。

「よお、避難誘導ご苦労さん。結構ピンチもあったようだな」

「ジンさん……、ええ、まあ、少しだけ苦労しましたよ。でも、まあ私は皆さんと一緒に命がけで戦うのはまだまだですし、少しは頑張らないといけないですからね」

 魔道士としての資質がある、とセリーナさんに言われてからというもの、エミリアさんに習って色々訓練を受けてはいますが、私はどうも攻撃魔法に関しては特性が低いそうです。補助魔法や回復魔法を重点的に習ってはいるのですが、“レムリア騎士団ナイツ”の皆はどちらかと言えば攻撃重視なメンバーが多いので、バランス的にはいいのかもしれませんが。

「全員で王宮の方に移動しているのですか?」

「ああ、リリスがセツナの家族を日本とかいうところから連れて来たんだがな、それ以来セツナが使い物にならん。泣きじゃくっちまってな。リリスの奴がモンスターに関しては何の心配もいらないって言うもんだからな。こうして、皆で王宮に移動しているところさ」

「セツナも、落ち着かせたいし」

 ジンさんの言葉を引き継ぐように、マーガレットさんが私に話しかけてきました。

「家族、か……」

 私がふと漏らした言葉に、ジンさんもマーガレットさんも少し訝しげな表情を見せました。彼らにはまだ、私がどんな人間か教えた事はなかったですね。まあ、今の私には血の繋がった家族はいませんが、血の繋がりに勝るとも劣らない家族がいます。血の繋がった家族がいる人を羨んでいてはいけないでしょう。

 ご両親と思われる男女に抱きつき、まだ泣きじゃくっているセツナさんを横目で見ながら、私も集団と一緒に王宮の中に入る事にしましょう。血を結構流しましたからね。少し横になりたいものです。

 残るは、“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”攻略ですが、そちらの方はお任せしますよ、アリスお嬢様にアキヒコさん、そして、セリーナさん。無事のお帰りをこちらで待っています。






 もう少しで魔塔の入口、という所まで来た時だった。

 馬車を使う必要はないだろうという事になり、馬車をアイテムボックスの中に押し込んだ。あの馬は、サイボーグ処理を施している、そう蜥蜴丸は言っていたな。しかし、どうやってあのアイテムボックスの中で生活しているんだろう? 覗いてみたいものだな。一緒に生活したいとは思わないが。

「しかし、歩きづらいな」

 砂漠の中を街中を歩く格好で歩いているのだ。歩きづらいのは仕方ないのだが。それを考えればあの馬はやはり凄いと言わざるを得ないな。

 敵の本拠地である“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”がすぐ近く、という事もあり、モンスターどもがひっきりなしに襲いかかって来る。アキヒコも魔力解放を中断しているので、ここら辺のモンスターは身動きが十分にとれているのだ。

 各自自分に近付くモンスターを倒し、魔塔へと近付く。

「おいこら蜥蜴丸、僕に向かってスペース光線銃を発射するんじゃない!! この年でハゲになったらどうするんだ!?」

「甲子園を目指します、トカ言ってボケてみるのだな」

「甲子園が大阪府にあると思っているバカな連中は滅べばいい。だが、スキンヘッドで堂々と甲子園を目指しています、なんて言う高校球児がいると思うのか?」

 よく分からない話をしているな、アキヒコと蜥蜴丸は。何でそんなに余裕なんだ、お前たちは?

「セリーナさん、気を抜かないでくださいよ?」

 からかうようなアリスの声。

「誰に向かって言っているの、アリス? この場で気を抜くほど私は愚かじゃないよ?」

「そうですか? 何か、セリーナさんって大事なところでポカをしそうなイメージなんですよね」

 イヤナイメージだね、それは。

 ゲーサンは砂漠の中だというのに、かき氷を食べていた。砂が混ざって不味くなりそうだが……、何らかの防御システムでも働いているのだろうか? 不味そうなそぶりを見せない。恐るべき蜥蜴よ。

 

 そして、ようやく魔塔が目と鼻の先に近付いてきた。

「ようやく、ようやくここまで来たな」

 万感の思いだ。はっきり言って、靴の中に入り込んだ砂の感覚が嫌だ。出来れば、靴を脱いで、砂を落としたい。髪の毛にも、砂がこびりついている。こちらもどうにかしたいものだな。

「よし、皆これから“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”に突入するぞ!!」

 そう言いながら、後ろに続く皆を振り向こうとした瞬間だった。王都の方から巨大な魔力が解き放たれるのを感じた。

 そして、振り向いた私の目に飛び込んできたのは、天高くから舞い降りてくる無数の黒き羽根だった。

 王都の方からリリスの手によって放たれたのだろうそれらは、王都と“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”の間を埋め尽くすモンスターどもに突き刺さっていく。

 あの羽根は、何を目標に舞い降りてくるのだ? モンスターか、それとも、生あるモノ全てか? ならば、私達とて無傷では済まないだろう。しかし、逃げる事は出来そうもないし、魔塔に逃げ込む事すら出来そうにない。

 防御をする事すら忘れて、私たちは無数の黒き羽根にのみこまれたのだった。




 砂煙が晴れていく。何のダメージも、それどころか黒き羽根が当たった感触すらない。

 という事は、あの黒き羽根はモンスターだけをターゲットにして放たれたのだろう。しかし、王都からここまでを覆い尽くすほどに放たれるとは、リリスとはいったい何者なのだろう? 今は、敵対していない事を神にでも感謝しておこう。私は無神論者だがな。

「皆、無事か?」

 流石に私だけ無傷なんてオチはないだろうな?

「僕は大丈夫です」

「私も」

 アキヒコとアリスの元気な声。ついでに全く無傷のまま砂煙の向こうから二人が現れた。む、二人の距離が近い。二人が無事な事にホッとすると同時に少し嫉妬心がわくな。

「アキヒコ、アリスの護衛ご苦労様」

「いやあ、念のためアリスの周りに結界を張っておいて良かったですよ。必要なかったですけど」

「何で、私には結界を張らなかったんだ?」

「セリーナさんなら、自分で張れるじゃないですか、結界」

 そういう答えを期待したんじゃないんだけどなあ……。

 忸怩たる思いを抱えながらアキヒコを睨みつけている時、砂煙の向こうから、ゲーサンも姿を現した。彼もまた、無傷だった。それどころか、相変わらずかき氷を食べていた。私にもくれよ、かき氷。砂漠は暑いんだぞ? 否、熱いと言ってもいい。

「クソッ、猫娘め、自らを“ワガハイ”と呼ぶワガハイをキャラがカブるという理由で抹殺を図ったな!? 何故ワガハイだけ血塗れなのだ!? 他の者は皆無傷ではないか!!」

 これまた別の方向から蜥蜴丸さんが現れた。何故か激怒しながら。

 しかし、コレは……、うん、蜥蜴丸さんが怒っているのも無理はあるまい。

 彼は何故か数百本の黒き羽根が突き刺さっていたのだから。一本突き刺さるだけでモンスターを素材と魔石に変換するほどの黒き羽根が数百本突き刺さっているのに、何故蜥蜴丸は血塗れとはいえ生きていられるのだろう? それ以前に彼はやはりモンスターなのだろうか? 彼が死ぬ時、どのような素材と魔石に変換されるのだろう? 見てみたいな。

「おい銀髪、テメェ何魔力こめて日本刀を抜刀しようとしているんだ!? 貴様もワガハイをモンスター扱いする気かね? いい加減にしないとかき氷の食い過ぎでWの部分だけ大きくなった貴様のスリーサイズの情報をアキヒコに売りつけるぞ!!」

「ごめんなさい、やめてください」

 何故ばれている? 私が蜥蜴丸を殺して、素材と魔石に変換したいと願った事も、Wの部分だけ少し大きな数字になった事も……!? ダイエットしなければ……!!

「ねえ、蜥蜴丸、アキじゃなく、私にその情報売ってよ。五百Gでどう?」

「安すぎる、却下だ」

「ちぇ」

 アリス!? 貴女何やっているの?

「じゃあ、僕に売ってくれ。千五百Gでどうだ?」

「最低、スケベ本一冊分の値段だな」

「マジか!? それだけの金を出すべきか、出さざるべきか、それが問題だ!!」

 君は何を言っているんだ、アキヒコ!?






 こうして私たちは、“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”攻略目前に、仲間内で一悶着起こす事になったのだった。






 ああ、かき氷、食べたい。

 

昔の浪蘭家の会話

雪菜パパ「雪菜、甲子園球場は大阪府にあるんだぞ」

雪菜「ホント、お父さん?」

春希「(騙されてるよ、姉ちゃん……)」

雪菜ママ「お父さんは博識ねえ」

春希「(母さん……!?)」

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