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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第二章 寂しさは秋の色~apocalypse autumn~
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天使降臨

 罅割れた空は、暫くしたら元通りに戻った。今までの空と、同じだ。だが、一度罅割れた空を見た者は、世界の終わりを思ったのかもしれない。

「空が割れた……? この国は、お終いだ……!!」

 騎士の一人が、そう呟いた。そう呟きたくなる気持ちもわかる。空には、未だ圧倒的な気配が漂っているからだ。

 圧倒的な気配は、光を纏っていた。その光の中にいるモノは、いったい何だ……!?

 ただ一つ、希望と呼べるものがあるのならば、それは私の肩の上で嬉しそうな鳴き声をあげるクリス。

 その光が、地上目指して降下を始めた。誰一人、その場を動くモノはいなかった。否、動けなかったのだ。王都の防衛にあたる私やジン、マーガレット、アズにゃん、近くにいた騎士たち。それどころか、王都に攻め入ってきたモンスターたちさえ。

 そして、地上に降り立ったモノは、纏っていた光を解き放った。

 そこにいたのは――。






 あまりの圧倒的な気配に、“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”到達目前だった私は、馬車を止めてしまった。その気配に驚き、馬車を止めてしまった私を、誰が責められようか。

 だが、ここに責める人間、否、責める蜥蜴がいた。

「おい銀髪、急ブレーキをかけてどうするね? 馬車の上で大活躍していたワガハイに対するこの扱い、賠償モノだよ?」

 何故か血塗れだ。モンスターに襲われたのではなく、馬車が急に止まった為に馬車の上から投げ出されたのだ。

「実際に血塗れだったら謝罪も賠償も辞さないのだがな。蜥蜴丸、お前それ、血糊だろ?」

「おうふ、あっさりバレテやがんの」

 お前の考える事などある程度お見通しだよ。

「急に止まって、どうしたんですか? “天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”は、まだじゃないですか」

「セリーナさんを怒らないであげてよ、アリス。きっと、あの気配を感じたんだと思うよ?」

 怒りながら馬車の中から、アリスが出てきた。その後から、アリスを宥めるようにしかめっ面のアキヒコが。アキヒコはまだ、筋肉痛が続いているようだ。塔の中で使い物になるかな、アキヒコは?

「ああ、王都の方向から、凄い気配を感じた。何か、心当たりがあるのか? 十数キロメートル離れたここからでさえ感じるくらいだ。王都は無事だろうか? 今からでも戻った方がいいのではないかな?」

 不安だ。あそこには、友達が、大切な友達がいるんだ。

「ああ、大丈夫ですよ。確かに凄い気配ですけど、心配はいりません」

「そうですね、アキの言うとおりです。どちらかと言うと、今までの方が心配でしたよ。これからは何の心配もいりません。私たちは、“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”攻略に全身全霊であたればいいのですよ」

「な、何で二人とも何の心配もしていないんだ? あそこには、レティだっているんだぞ!?」

 レティとの付き合いは、私よりアキヒコやアリスの方が長いだろう!?

「クカカカ、銀髪、何も心配する事はない。これ以上、あそこに住む人間たちが酷い目に遭う事はない。それに関しては、ワガハイも保証しようではないか」

 蜥蜴丸まで……。おかしい、私だけがおかしいと言うのか? いや、ここはこの魔塔攻略にあたるパーティー内に残された良心であるゲーサン……、ゲーサンは……、おい、何でお前御者席でかき氷食べてんの? 何でそんなに余裕なの?

「王都に降り立ったモノが何か、否、誰だかわかっているのか?」

「リリスですよ」

「リリスです」

「猫娘以外にいないだろうよ」

「げげ、げっげげ」

「俺は犬派です、そう申しております、ゲーサンが」

 リリス、あの少女か? アキヒコとアリスが口を揃えているという事は、心配いらないのかもな。しかし、蜥蜴丸曰く猫娘、か。まあ、確かにあの少女は猫っぽいところがある気はするが……。そして、最後のゲーサンの言葉の翻訳は何だ、蜥蜴丸? ここでゲーサンが犬派か猫派か分かったとして、何の意味があるんだ? ちなみに私は猫派だ。もちろん、犬も好きだがね。どっちかと言われれば猫派だ。

「はあ、わかった。王都には危険がないんだな?」

「「保証しますよ」」

 ハモるなよ、アキヒコ、アリス。

「ならば、私たちは魔塔攻略にあたろう」

 “天を穿つ魔塔カ・ディンギル”は目前。天まで届くのではないかと思われる魔塔は、すぐそこだ。

「行こう!!」

 無事でいてくれ、皆――!!






「何だと言うのだ、あの光は――!?」

 闇の中、男は目を見張っていた。

 空が割れ、そこから光に包まれた“ナニカ”が、ノーデンス王国王都に舞い降りた。

 これでは、己を受け入れる事のなかったこの星への復讐を果たす事が出来ないかもしれない。この星への復讐の為、地上に地獄を、終末を描く為にこの魔塔に今まで捕らえ、改良したモンスターたちを解放したのだ。

 だと言うのに、何だあの圧倒的な存在感を示すモノは……?

「この星は、私の復讐さえ受け入れないと言うのか……!?」

 男は、怒りに任せて鍵盤に腕を叩きつけるように空中に腕を振り下ろした。

 ノーデンス王国王都や近辺にいるモンスターどもに全力で攻撃を行うように指示を出したのだ。しかし、効果は薄そうだった。

 王都に降り立った圧倒的な“ナニカ”を、本能で恐れたのだろう。モンスターどもは、ごく一部を除いて動かなかった。

「ならば……」

 ならば、この塔を登ってくるであろうあいつらでこの鬱憤を晴らさせてもらうとしよう……!!

 塔の目前まで悠々と歩いてくる連中を映像の中に見つけた男の目は血走っていた。






 異世界転移を行う際、クリスを目印にして転移を行う事にしていた。しかし、どうも転移地点を間違えたようだ。かなり上空に来てしまったのう。

 眼前、とは言ってもかなり下じゃが、そこはモンスターどもで溢れていた。

 これは、色々とまずいかもしれんな。

 一計を案じ、派手に登場してやる事にした。空中を降下する際、まるで空が割れたかのように細工をしてやる。ふふふ、ヒーローたる者、派手に登場するのが基本よ。派手ついでに全身を光で覆う。つかんでいる三人もついでにな。

 やれやれ、理性のないモンスターどもが人間を襲っているようじゃな。下ではクリスが人間をかばうように動いておる。ふむ、派手な登場シーンを演出する為にも、派手に魔力を放出してみるかな。

 おや、モンスターだけでなく、人間まで動きを止めてしまったぞ? 加減を間違えてしまったかな?

 地上に降り立ち、身を纏っていた光を解き放つ。派手な演出としては十分じゃろう。

「地上に着いたぞ、目を開けよ、この世界でも読み書きが出来るようにしておいた。大事な家族を我輩も探してやろうじゃないか」

 本当はもう二、三日早くこちらに着く筈だったのだがな。共に調査にあたったアヤメと一緒にチキン南蛮食べ歩きをしたのがいけなかったかな?

「にゃう、にゃうう」

 お、クリス、我輩に会えたのがそんなに嬉しいか? 肩に駆け上がって来るとはな。

「あ、ああ……」

 涙目の声にふと目を向けると、そこには我輩に調査を依頼したセツナが立っていた。

「すまぬ、セツナ、少しだけ遅れたな。お主に会いたい、そう言ったので連れてきてやったぞ、お主の家族」

 腕に抱えていた三人を立たせ、セツナの方向に向けてやる。

「雪菜……!!」

「雪菜なのか?」

「父さん、母さん……!!」

 抱き合うセツナとセツナの両親。

「おい、お主は抱きつかないでいいのか?」

「うーん、俺の記憶の中の姉ちゃんは今の俺と同じくらいだし……、なかなか実感がわかないと言うか……」

 まあ、六年くらいは会っていないと言うのだから、仕方ないのかもしれんな。

「春希、春希か……? 久しぶりだな、大きくなったなあ。でも、ちゃんと面影があるよ。姉ちゃんだよ、分かるか?」

 しかし、セツナは春希に抱きついた。彼女には彼が弟だと分かるようだ。

「姉ちゃん、雪菜姉ちゃん……?」

「うん、うん……」

 ふむ、家族の再会、か。悪くないな。異世界で再会出来るなど、そうはあるまい。我輩も再会したいものだな、家族と。

 セツナと家族の再会劇を眺めていたら、肩を叩かれた。

「ねえ、ちょっといいかな?」

「ふむ、お主、たしかマーガレットじゃったな? 何用じゃ?」

 我輩の肩を叩いたのは、青いリボンが印象的な女性。しかしなあ、せっかくの感動シーンを見ているのに、無粋な真似を……。

「今、この王都がモンスターに襲われているんだ。手を貸してくれない?」

 周りを見まわしてみると、確かに雑魚モンスターがうようよいるな。今我輩の魔力に怯えて動いていないようじゃが……、お、急に何匹か動き出したな。何者か、こやつらに命令を下しているモノがいるのかもしれぬ。

「仕方ないな。感動の再会シーンを見せてくれた礼をしてやるか」

 到着が遅れたお詫びもな。よし、少し派手に演出してやるか。

 天高く飛び上がる。地上十数メートルくらいか。背中に魔力で翼を生やす。ま、我輩の髪の色と同じ金色でいいじゃろ。

 さて、どうしようかね? お、今回はこれで行こうかな?

 両手に黒い羽根。烏の羽根を我輩の魔力を行き渡らせ、天高く放り投げる。後は仕上げをご覧あれ。

 ふむ、そうだな……。

「リリス黒羽陣」

 とでも、名づけるとしようかな? む、もしかして厨二病全開じゃろうか?






 リリスの両手から天空高く放たれた黒い羽根は、やがて何十、何百と分かたれ、地上に放たれた。

 そして、その黒き羽根は数多のモンスターに突き刺さっていく。王都内だけでなく、王都から“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”に至るまでのほぼ全てのモンスターへと。恐るべきは、人間には誰一人突き刺さらなかった事であろう。

 ノーデンス王国王都に、モンスターにとっての地獄が誕生した。

 天高く浮かぶ少女は、彼らにとって災厄を招く悪魔であった。

 そして、モンスターの恐怖に怯える人間たちにとっては……。






 幼き弟の手を引いて逃げる少女が、路地裏にいた。

 だが、無慈悲にも弟の背中にモンスターの爪が振り下ろされた。

 叫び声を弟があげるが、誰も助けになど来てくれない。路地裏の住民たちも、避難したか自分の身を守るので精いっぱいだ。

 騎士に誘導されるうちに家族とはぐれてしまったのだ。助けなど来ない。少女は、弟と一緒にこの場で殺されるのだと、覚悟した。

 弟を抱き寄せる。背中からは血が溢れ出し、少女の手を赤く染め上げる。

 そして、モンスターの腕が振り下ろされた。目を閉じて、死の一瞬を覚悟する。でも、痛みはやってこなかった。

 おそるおそる目を開けると、目の前にメイド服姿の黒髪の女性が立っていた。さっき、騎士たちと一緒に家族の避難誘導にあたっていた、自分とそう年の変わらない女性だ。

「立ちなさい、弟を連れて。逃げるよ」

 そう気丈に話すメイド服の少女も、左手の袖は破け、左腕は赤く染まっていた。

 ダメだ、この人が居てもモンスターに殺されてしまう。

 少女の心を絶望が覆い隠そうとした時、路地裏に光が溢れた。否、地上十数メートルに太陽に勝るとも劣らない光が出現したのだ。

 そして、その光から放たれた黒い羽根が、王都中のモンスターを突き刺し、消滅させた。メイド服姿の少女の前に立つモンスターさえも。

「天使……!?」

 弟を抱え、死の恐怖に怯えていた少女には、天高く浮かんだ金色の翼持つ少女が天使に見えていた。

 メイド服姿の少女は、目の前のモンスターが消滅したのを確認し、一息ついた後弟を抱えた少女に向き直る。

「大丈夫? すぐに治療するからね」

 そして、己の左腕など気にもせず、弟に回復魔法をかけてくれた。

 血の気を取り戻した弟に抱きつき、涙をボロボロ流す少女に少し困惑気味のメイド服姿の少女。

「さあ、お父さんたちのところに行こう」

 優しく声をかけられ、お礼をいう事すら忘れていた事に気付いた。

「あの、ありがとうございます。私と、弟を守ってくれて、ありがとうございます」

「ふふ、私達を助けてくれたのは、あそこにいる天使様だよ」

 メイド服姿の少女と共に、天使を見上げる。彼女はやがて、地上に降り立った。

「さあ、いつまでもここにいてもしょうがない。お父さんたちに会いに行こう」

「はい」

 弟の手を引いて、メイド服姿の少女に手を引かれて歩き出した。






 その日、地獄と化す筈だった王都に、“天使”を見たと言う人間が数多く誕生した。

 



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