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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第二章 寂しさは秋の色~apocalypse autumn~
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空が、割れた……!?

「まるでモーゼの十戒のようだ」

 馬車に押し込む前、アキヒコがそんな事を言っていたので気になり、タブレットPCで検索をしてみた。何々……海が割れた? 恐ろしいな、このモーゼという男、もしかして実は魔道士なのか?

 まあ、十戒自体と海が割れたシーンというのは、特別関係がないらしい。海が割れたシーンが有名なのは映画とやらの影響のようだ。海が割れている間に、悠々と他の陸地に渡る……か。海はいつか割ってみたいものだが、その間に遠い陸地に悠々と歩いて渡るだなんて、何だか怖いな。途中で海が動き出したら、どうなるのだろう?

「おい銀髪、よそ見をするなよ? そろそろ恐怖にビビって動けなかったモンスターどもが動き出してもおかしくはない。奴らは知性などない連中がほとんどだからな」

 馬車の上から声をかけてくる蜥蜴丸。声にブレがないのは褒めてあげるべきなのだろうか?

「なあに、ワガハイのポジションはだいたいここだからな。慣れよ、慣れ」

 なんだか、悲しくなる事実を聞かされてしまったな。

 しかし、実際蜥蜴丸の言うとおりになった。今、王都を出てから約5キロメートルと言ったくらいだろうか? 馬車で街道を走っている。砂漠部分に入れば馬車の速度は多少落ちるだろう。だが、さほど時間を置かずして“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”に辿り着けるはずだ。

 だが、流石にモンスターどもが襲ってくるとなると、話は変わってくる。

 最初に動いたのは、空中にいたモンスターたちだ。彼らが数体ずつ、馬車へと降り立とうとした。王都を襲えと命令されていたのではなかったのだろうか? 知性を感じられるモンスターではない故、命令を忘れたのか、人間たちを襲いたいという本能なり欲求なりに従ったのかは不明だ。

 それを迎撃するは、蜥蜴丸のスペース光線銃。彼のスペース光線銃が火を噴くたび、地に堕ち、素材と魔石へと変化する飛行できるモンスターたち。

「クカカカ、空中にいるモンスターどもは任せておきたまえよ。地上にいるモンスターたちは、どうしようかねえ?」

 おいおい、「地上にいるモンスターどももワガハイに任せておきたまえよ」くらい言って欲しいモノだな。

 私の右側にいたモンスターたちも遂に動き始めた。御者席にいるというのは、案外動きづらいモノなのだな。

 日本刀を抜刀し、魔力を込める。そして、右側方向に日本刀を振るう。その軌跡に沿うように、魔力刃が放たれる。軌道上にいたモンスターたちが素材と魔石へと変換されていく。

「ほう、やるではないか、銀髪」

「この位は出来て当然さ。後は任せたぞ、ゲーサン」

「げげ、げっげげ」

 了解、と答えてくれたのだろう、ゲーサンは。

 御者席から立ち上がり、馬車の上に飛び乗り、そこで仁王立ちをする。

 彼の両手にいつの間にか握られていた日本刀。二刀流とは、見せてくれるじゃないか。

 そして、彼の両手に魔力が、いや、彼の両手に握られた日本刀に魔力が集中していくのがよく分かる。そして、交互に日本刀を振るう。放たれた魔力刃は、十数メートルに渡り、両側のモンスターたちを消滅させていった。

「凄いな」

 本当に美味い料理を食べると「美味しい」という言葉しか出てこないという事を聞いた事がある。それとは少し違うかもしれないが、本当に凄いモノを目にすると、驚嘆の言葉しか出てこないモノなのかもしれないな。

 ゲーサンの日本刀の一振り、否、二振りに驚いたのだろうか? それ以降、簡単にモンスターたちが近付いてくる事がなかった。

 馬車が砂漠に入るまでは。


 “天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”まで、目測ではあるが、あと五キロメートルをきったくらいだろう。馬車は砂漠地帯に突入した。

 馬は本来、砂漠には向かない生物だという。しかし、この蜥蜴丸謹製の馬車をひく馬は普通ではないのかもしれない。多少スピードが遅くなりはしたが、それでも砂漠の上を人力で走るよりは遙かに速いスピードで走ってくれる。

「クカカカ、多少スピードが遅くなろうとも、あらゆる場所で走れるのが、ワガハイ謹製のサイボーグ処理を施した馬よ。見た目は普通の馬と変わらんがな。砂漠の上だろうと、凍りついた湖の上だろうと走れるのよ。もっとも、スピードは多少落ちるがな」

 恐るべきは科学者様よ。

 だが、スピードが落ちてきたのを、周りにいるモンスターに恐れをなしたとでも勘違いしたのだろうか、周囲のモンスターどもが襲いかかって来たのだ。

「流石にこれだけのモンスターを相手にするのは辛いな、っと」

「そう言いながら銀髪、貴様も馬を操りながら魔力刃でモンスターどもを倒しているではないかね」

「ゲーサン一人に活躍させてばっかりでは騎士の名折れよ」

 まあ、この任務にあたる前に騎士服に着替えているのだ。騎士を堂々と名乗ってもいいだろう。しかし、騎士服を着ていると実力が一番出しやすい気がするな。もしかして、刷り込みでもされているのだろうか?

「だが、数が多いな。流石にゲーサンの魔力刃でも驚かなくなったのか、誰かが強制的に命令を下しているのか、それは分からんが」

 そうなのだ、ゲーサンの魔力刃の威力にモンスターどもが驚いてくれなくなり、先程からひっきりなしにモンスターどもが襲いかかって来るようになったのだ。

「このままでは馬車を捨てないといけなくなるぞ、どうする蜥蜴丸!?」

 馬車を捨てても十分“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”には辿り着けるが……、正直砂漠の中を人力で突っ走るのはゴメンだ。

「クカカカ、そろそろエロガッパがどうにかしてくれるだろうよ!!」

 エロガッパ……アキヒコが? 今筋肉痛で呻いているだけのアキヒコが、か? ハッ、もしかして今、馬車の中でアリスとエロい事してるんじゃないだろうな? だめだぞ、アキヒコ、アリスにエロい事していいのは私だけだからな!!

 私の疑念を払うかのように、馬車の中から強大な魔力が解き放たれたのはその時だった。

 そして、その強大な魔力に驚き、恐怖心に負けたのか、それ以降馬車に襲いかかって来るモンスターはいなかった。

「ありがとう、アキヒコ!!」

 聞こえているかどうか分からないが、アキヒコに一声感謝の言葉をかけて、馬車を再出発させた。

 いざ、“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”へ――!!






 馬車をアイテムボックスの中からとりだした僕は、あっさりとセリーナさんにアリスと一緒に馬車内に押し込められた。

「僕も戦えますよ……イテェ」

 筋肉痛はセリーナさんにカッコイイところを見せたいという僕の願いを簡単にへし折ってくれた。

「全く、アキは男の子だねえ。セリーナさんにいいところ見せたいだけでしょう?」

 流石家族同然の幼馴染。僕の考えている事などお見通しか。

「だったら、少しでも休養しないと。“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”に入ったらアキの力が必要になるだろうから、さ」

 そして、アリスに引き倒された。頭の着地点はアリスの膝枕。柔らかいな。

「ありがとう、アリス。暫くお世話になります」

「気にしないで、少し休みなさい。えーっと、あ、こうだったな」

 アリスは僕の頭を膝枕で受け止めた後、何かを操作した。

 馬車内に映像が浮かび上がった。車外の光景だ。いつの間にこんな機能付けたんだろう?

 馬車が進むうちにモンスターたちが襲いかかって来たけど、セリーナさんが魔力刃を日本刀から放ち、近くのモンスターを消滅させた。

 そして、それを真似たゲーサンが日本刀の二振りで、暫くの間モンスターたちを沈黙させた。

「凄いな……」

 ゲーサン、やっぱり凄いな。流石は僕の師匠格の一人だな。しかし、あんなに魔力の扱い上手かったかな?

「そうだね、スタイルもいいし、美人だし……、今のところ勝ち目がないか、な?」

「ゲーサンのスタイルがいい? 美人?」

「え?」

「え?」

 どうやらこの時、僕とアリスの間で会話がかみ合っていなかったようだ。


 暫く進み、砂漠地帯にやって来た。

 ゲーサンの魔力刃で沈黙していたモンスターたちも再度動き出した。

 今度はセリーナさんもゲーサンも、ついでに蜥蜴丸も頑張っていたけど、奴らは諦めず襲いかかって来た。

 仕方ないな。

「アリス、ちょっと魔力を解放するよ」

「ふふ、了解」

 膝枕の上って言うのは少しカッコよくないけれど。第二段階まででいいかな?

 丹田に気を集中するイメージ。寝そべっていては少し気が練りにくい、か? だけど、このまま続行する。

「第二段階、解放」

 まあ、別に口にする必要はないんだけど、ついカッコつけで言ってしまう。

 そして、その魔力を馬車外広範囲にまで広げるように放出する。

 馬車外のモンスターどもは僕の魔力に恐れおののき、それ以後近付いてくることはなかった。

「ありがとう、アキヒコ!!」

 セリーナさんの感謝の声が聞こえてきた。その言葉を聞くことが出来て満足ですよ、僕は。

 ああ、“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”突入までは、アリスの柔らかい膝枕で眠らせてもらう事にしよう。

「お休み、少し眠るよ」

「うん、お休み」

 アリスの柔らかな笑みを見た後、僕は目蓋を閉じた。


「やはり、セリーナさんが一番の敵か……」

 最後にアリスの物騒な声が聞こえた気がした。






 砂漠地帯に馬車が入るまで、モンスターどもが攻撃を加える事はなかった。ビビったと言うのか、知性なきモンスターどもが!?

「ふん、だが、いい。ならば強制的に襲わせるまでだ。私が星の海へ帰還するまでのほんの遊びだ」

 闇の中、鍵盤をかき鳴らすかのように指が動く。

「さあ、黙示録のトキは今。殺戮したまえ、銀髪の女以外をな!!」

 モンスターに埋め込まれている極小の機械へと電波が発信された。彼の命令を聞かざるを得ない電波が。

 暫く命を聞き、馬車に襲いかかったが、いきなりモンスターどもの動きが止まった。

 何か強大な魔力が馬車から発せられている。

 男の居る場所からは、誰が強大な魔力を発しているかは分からなかった。

 だが、馬車の周辺にいるモンスターは二度と彼の命令を聞くことはなかった。

「いったい何モノなのだ、貴様たちは……?」

 闇の中、彼の疑問に答えるモノはいなかった。






 セリーナ達が馬車に乗り込み、城門前から出発した後、暫く経ってモンスターどもが動き始めた。

 城壁の上には弓の扱いや槍の扱いが上手い騎士たちに登ってもらい、飛行できるモンスターの対処をしてもらう。

 私は私でセリーナから受け取った魔法弓で、彼女の真似事をしながらモンスターどもを討ち落としていく。私や騎士たちで討ち漏らしたモンスターどもを、ジンやマーガレット、アズにゃんやその他の騎士たちが討ちとっていくという構図になっていた。

 が、堅固な城門もモンスターどもの攻撃には十数分しか耐える事が出来なかった。

 城門を破られた事をきっかけに、王都内にモンスターどもが入ってきた。

「住民たちの避難は終わったか!?」

 城壁から飛び降り、モンスターどもを数体滅ぼした後、近くで奮闘している騎士に質問を投げかけてみる。

「ハッ、八割以上の避難は終わったと報告を受けています!!」

「八割だと? 残りの二割は?」

「避難するのを拒んでおる者たちです!!」

 この国にもいるのか、王族嫌いが……。まあ、私も人の事は言えないか。

 会話をしながらも、ジンやマーガレットと連携し、数十体以上のモンスターを滅ぼしていく。だが、終わりが見えない。

 そこまで強いモンスターがいないのが今のところ幸いだ。ある程度集まった冒険者や騎士たちを王都中に配置してはいるが、どうなっているだろうか?

 私やジン、マーガレット、アズにゃんが討ち漏らしたモンスターどもが、少しずつ、少しずつ王都の中へと侵入していく。

「クソッ、キリがないな!!」

 このままでは、避難しなかった人間たちだけではない、避難している人間たちにまで害が及ぶぞ。

「どうする、どうすればいい?」

「俺たちはここに集中するしかないぞ!!」

「他の騎士たちに任せましょう。ここを突破するモンスターが少なければどうという事はないよ。この国の騎士やこの国をメインに活動している冒険者にも、腕の立つのは多いんだからね!!」

 同級生の励ましというのは、何と心強い事よ。

「ああ、分かっている。ここを死守するぞ!!」

 周りの騎士や冒険者にも声をかける。実際、ここを大多数に抜けられるようでは、王都に配置してある騎士や冒険者達だけではどうにもならないだろう。援軍など期待できない。


 


 そして、その時、王都近辺を強大なプレッシャーが襲った。

 まるで、心臓を鷲掴みにされるような感触。冷や汗が止まらない。

「なんだ、コレは……?」

 余程強大なモンスターでも現れたか?

「にゃう、にゃあう」

 しかし、私の左肩の上では、クリスが嬉しそうな声をあげた。

「おい、アレを見ろ!!」

「セツナ、空、空を見て!!」




 空が、割れた。そう表現するのが一番ピッタリくるだろう。

 空に裂け目が出来ていて、空間が覗いていた。真っ赤な、血を思わせるような空間。

 そして、そこから強大なプレッシャーを放つ“ナニカ”が、この王都へ舞い降りた。

 

 世界は、この王都は破滅へ向かうのか――!?


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