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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
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変態による盗賊狩りの時間です。

 領境の町の役人に教えられた山の近くまでは馬でやって来た。近くに馬を繋いでおく自信がなかったので、“スペースリザー堂”製のアイテムボックスの中に入れておいた。盗まれたらたまらないので、そうしたのだが、どうして馬まで入れられるのだろうか? うん、深く考えたらきっと、負けなのだろう。

 教えてもらった山は、小高い丘のような山だった。高さはそこまでない。

 盗賊団がアジトを構えるだけあって、高さはないが広い山だ。ある程度踏みならされた登山道のような道を使わず、獣道を歩く。なるべく音を立てずに。私もジンもミスカトニック騎士養成校出身だ。

「まだ、腕は落ちていないようだな、ジン」

「そらそうよ。なんてったってそこそこの腕の冒険者だぜ、俺。この位は出来て当然よ。バカにするなよ」

「そいつは失礼」

 盗賊退治なんて命がけの仕事であるにも関わらず軽口が叩ける。相手の実力を信頼しているからこそ、だな。

 少し開けた場所が見える位置までやって来た。その入り口と思われる場所に立つ二人の男。いかにも盗賊でございますと言わんばかりの顔をしている。こんな卑しい稼業についているうちに、顔が如何にも盗賊でございますと言わんばかりの顔つきになったのだろう。もう、目線がヤバイ。

「あんなの相手にしたくないなあ、乙女の仕事ではないぞ、ゼッタイ」

「ぼやくな、仕事を引き受けた時点であんなのを相手にするのは決まっている事だろう? 行くぞ」

「ヘイヘイ」

「ヘイは一回」

「ごめんなさい」

 何で私が怒られなければならないんだ?


 薄闇に紛れて、見張りに立つ男に近付く。

 間合いに入った。私が踏み鳴らした小石の音に気付いたのだろう。視線をこちらに向けてきた。だが、それだけだ。元々はそこそこの使い手だったのかもしれないが、慢心しきっている。ここまで役人や冒険者が盗賊退治に来るとは思ってもいなかったのだろう。

 私が近付いてきた事に気付いてようやく武器を手にとろうとしたが、もう遅い。

 私は抜刀した日本刀の柄頭を見張りAの顎先に打ち込み、意識を一瞬で奪った。斬り殺しても良かったのだが、叫び声をあげられるのは面倒だったのだ。まあ、叫び声さえあげさせずに斬り殺す自信はあるがね。

 ほぼ同時に横で何者かが倒れる音。

 視線を向けてみると、掌底を振りぬいた姿勢で地面を見下ろしているジン。ジンの視線を追ってみると、そこには顎先への一発で意識を飛ばされたのであろう見張りBが横たわっていた。


 入り口を抜けると、まず目についたのは広場であった。

 その中央部には数人の盗賊たちが車座になって火を囲んでいる。

 そして、広場の奥には洞窟のようなモノがあった。簡易的な扉をつけている。どうやら盗賊の親玉などはそこにいるのだろう。

「どうする?」

「俺がこいつらの相手をしよう。お前は奥の洞窟みたいなところに行け。女の子が捕まっているとしたら、そこだろう。そこには俺が行くよりお前が行った方がいい。まあ、何かあったら駆けつけるからよ」

「そうか、頼む。ヘマをするなよ?」

「誰に向かって言っているんだ?」

 薄闇の中、微笑みあう。ミスカトニック騎士養成校時代の同期曰く、“邪悪な笑み”だそうだ。

 私たちは軽く拳をぶつけ合い、各自の行動に移る事にした。

 ジンはミスカトニック騎士養成校の同期であるが、剣の腕は悪くない。むしろ、同期の中ではいい方であった。もっとも、主席には私が三年間居続けたので、トップに立つことは出来なかったがな。だから、ジンに任せておけば盗賊の数人など何の問題もない。軽く腹ごしらえもしているから空腹で動けなくなるなんて問題もないからな。




 俺はセリーナが遠く離れたのを見計らってから、火を囲んで車座になっている男たちに近付いた。もちろん、音を立てながら。

 盗賊どもはいきなり一人で近付いてきた俺に気付いてギョッとしていた。だが、立ち上がる気配すらない。もしかして、結構な人数がいて俺も仲間の一人ではないかと思われているのではないだろうか? ハハ、まさかな。俺はそんな盗賊に間違われそうな顔立ちはしていないぜ。

「こんばんは、諸君。いい夜だな」

 あえてバカにしたような口調で言ってみた。

「てめえ、何モノだ? 俺たちの仲間じゃねえな?」

 ようやく俺が仲間ではないと気付いたのだろう。立ち上がりだした。

「盗賊狩りに来る理由なんて必要か? 理由を知っても無意味だ。お前らは今日ここで死ぬのだからな」

 本来ならDOA《生死を問わず》かどうか、確認してからでないと、貰える賞金とか減るんだけど、まあ、問題ない。盗賊なんざ生かしておいても何の役にも立たん。ティンダロス帝国みたいな平和な国で盗賊稼業に身を落としている人間なんてロクでもないやつばっかりだからな。

 先の大戦が終わってからもう二十年くらいになる。それから少なくとも対外的な戦争はない。一部の内乱も表立ったモノはここ十五年以上起きていないという話だ。

 きっと、盗賊の一部は傭兵崩れの人間もいるだろう。平和な国では役に立たない職業だ。しかし、人を殺したりする感触が忘れられないんだろうねえ。

「ケッ、よく見れば貴族のボンボンかよ。どうしたの、お供も連れないで。お小遣いはパパに貰えなかったの? 帰ってママのミルクでも飲んでメイドにイタズラでもして眠っとけよ」

 盗賊どもは人数の差で絶対に負ける事はないとでも思っているのだろう。一人の軽口に周りの人間たちが大声をあげて笑う。これが、爆笑ってやつか。ククク、せいぜい大声をあげて笑うがいいさ。最後の晩餐ならぬ最後の爆笑ってやつだ。俺はお前らに爆笑ではなく嘲笑を送ってやるがね。

「ククク、おめでたい奴らだ。頭の中はお花畑ですか?」

「あ? 何言ってるの、ボンボン?」

 一番近くにいた盗賊Aが俺を指さし嘲笑っている。しかし、次の瞬間彼があげたのは悲鳴であった。

 俺を指さしていた右腕が消えた事にようやく気付いたのだろう。右肩から先がなくなり、代わりに盛大に血液を噴き出している。

「ぎゃああああ!!」

「五月蝿いよ。その程度でごちゃごちゃ言うな。盗賊というだけあってもっとひどい行いをしてきたんだろ? 罰が当たったんだな」

「畜生、俺の右腕……!!」

「どっかの神様はこう言ったそうだぜ? 右の頬を打たれたら左の頬も殴ってもらいなさいってな!!」

 そんな神様いるか知らんがね。まあ、その故事に従い、俺はAの左腕も斬り飛ばしてやった。うむ、いい斬れ味だ。

 悲鳴をあげ続けるAが可哀相になってしまい、仏心を出してやった俺は、ついでに首も斬り飛ばしてやった。両腕を失った盗賊など何の価値もない。生き延びても地獄だ。さっさと地獄に送ってやった方がいいってものだ。ああ、俺ってなんて優しいのだろう。あまりの優しさに涙が出てきそうだ。もっとも、こんな奴らの為に流す涙なぞ、俺にはないがね。

「て、てめえ、その青竜刀、そしてキモイ片眼鏡モノクル、“豪剣のトリスタン”か!?」

「何、こいつが“豪剣のトリスタン”か……」

「“キモイ片眼鏡モノクルのトリスタン”か!!」

「ああ、“人外娘意外に興味のないトリスタン”か!!」

 名前が売れているという事に喜んでいいのかどうか、全然わからんな。

 直後、笛の音が響き渡った。仲間を呼ばれたか。

「ケケケ、“豪剣のトリスタン”を殺したって言えば、俺たちの名も少しは上がるというモノだぜ」

「ああ、“キモイ片眼鏡モノクルのトリスタン”をったって言えば盗賊連中の中でも名が売れるようになるさ」

「ハァハァ、“人外娘LOVEのトリスタン”を殺したと言えば人外娘に感謝されるぞ。イヒヒヒ」

 なんか、最後に恐ろしいセリフが聞こえてきた気がするな。人外娘に知り合いでもいるのだろうか?

「どうした、何があった!?」

「盗賊狩りよ!!」

 おお、ひいふうみい、何だこの数え方? 俺、こんな数の数え方今までした事あったかな? まあいい、十人を軽く超える数の盗賊どもが来たぞ。

「ククク、この人数相手に一人だと……? テメエら、何ビビっていやがる!!」

「何言っていやがる!! “豪剣のトリスタン”だぜ、相手は!?」

「そうだぞ、“キモイ片眼鏡モノクルのトリスタン”だぞ!!」

「“人外娘LOVEのトリスタン”だぜ、仲良くできそうだな、ハァハァ」

 あまりにもキモクなったので、俺をやたらと“人外娘LOVEのトリスタン”と言い続けた男から斬り殺してやった。普段の斬れ味から数倍斬れ味が良かった気がした。

「てめえら、何くっちゃべってやがる? 盗賊狩りが来たんだ。そしてお前らは盗賊。てめえらと仲良くお花畑で喋るために来たんじゃねえんだよ。さっさと始めようぜ、殺し合いってやつをよ!!」

 もっとも、殺し合うなんて俺は思っちゃいないがね。何故なら、俺と貴様らの間には逆立ちしたって越えられない圧倒的な実力差があるからだがね。普通に越えられないモノを逆立ちすることで越えられるわけないんだがね。むしろ、難しくなるだろ? 

 立ち向かってきた盗賊Bの武器を弾きあげ、返す刀で奴の右腕を斬り落とす。ついでにBの体を蹴り飛ばし、右側から斬りかかってきたCにぶつける。Cを立ち止まらせてから、左側から斬りかかってきたDの首を胴体からオサラバさせてやる。この間、約一秒。うむ、二年近くの間で腕が落ちたなんてセリーナには言わせねえ。

「やべえ、噂通りだ、ツエえ!!」

「糞、逃げるぞ!!」

「バカ野郎!! 逃げてどうする!!」

 おいおい、逃げるのかね?

 Cの首も胴体からオサラバさせてやりながら、俺は一団に数歩近づく。

 もう、数えるのも面倒くさいが、五人はったっけ? まあ、全部が全部命をったってワケじゃないけど、戦闘力は奪ってやった。

「逃げてもいいぜ、別に。逃がしてやらんけどな」

「くそう、俺たちが何したってんだよ!!」

「盗賊だよ。それだけで罪になるんだよ。分かっているだろう?」

「全員でかかるぞ!! 一対多数だ!! 全員でかかれば怖くねえ!!」

 まだ逃げ腰の奴もいるな。まあいいさ。

「いいぜ、かかってこいよ」

 先頭をきってかかってきた奴の右腕を斬り落とし、ついでに奴の持っていた武器で奴の右足を突き刺し、動けなくしてやる。

「盗賊狩りの時間だ」

 悲鳴をあげ、向かってくる者、逃げようとする者。とる行動はバラバラだ。統率などとれていない。

「逃げる盗賊はタダの盗賊だ。逃げない盗賊はよく訓練された盗賊だ」

 これからは狩りの時間じゃない、大量虐殺ゲームの時間だぜ?

「ハハハ、盗賊狩りはホント、悲惨だぜえ!!」




 簡易扉の近くまで近付いてきた時、笛の音が響き渡った。どうやら、ジンの方で仲間を呼ばれたようだ。

 私は近くの窪みに身を隠し、気配を消す。もっとも、完全に消したワケではないが。

 十数人の盗賊どもが笛の鳴った方向へと簡易扉を開けて走り出した。フム、大した使い手はいないな。ジンに任せておいて大丈夫だろう。

 さて、向こうはジンに任せて、私は私の仕事をしよう。

 盗賊狩りの時間はもうすぐだ。


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