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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第二章 寂しさは秋の色~apocalypse autumn~
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天をも穿つ魔塔が出現したのです。

 ノーデンス王国王都から十数キロメートル離れた砂漠に、突如としてソレは現れた。

 天高く、十数メートル、否、数百メートルの高さにそびえ立つ魔塔。

 その魔塔の中、闇の空間に浮かぶ一人の男。

「さあ、時は来た。早くここへ来い、セリーナ・ロックハート。貴様を贄として、私は遙か高き星の海へと帰還する」

 闇の空間に映し出されるは、御前試合の会場。そこに二人だけ立つ出場選手。彼が目にとめていたのは、銀髪の少女。向こう側からも、こちらが、この魔塔が見える筈。

「さあ、疾く来い。この塔へ。我が贄となる為に」

 ひとり言は続く。

「ノスフェラトゥはこの星を己が住みやすい世界に変えようとした。しかし、それを恐れた星がある女を召喚した。その伝承が正しいかどうかは知らん。そして、貴様がその女の生まれ変わりなのかどうかも、私にとってはどうでもいい事だ。私が必要とする魔力が貴様の中にある、それだけの事。そして、私は貴様の魔力を使い、星の海へと旅に出る」

 闇の中、不気味な笑い声が響く。

「ああ、この塔がいきなり現れたくらいでは、君たちは誰も動かないかもしれないな。ならば、動かざるを得ないようにしてやろう」

 男の指が、何もない空間を何かの楽器を奏でるかのように動き出す。

「さあ、奏でようではないか。鎮魂歌レクイエムを。それは、君たちの死を祝福する神の歌となるだろう」

 男の指が何かを奏でるように動くと同時に、塔からこのファーガイア上に存在する大型のモンスターを除く大半のモンスターが放たれた。

 モンスターたちは、知性のあるモノも、知性を持たぬモノもいた。だが、彼らは何者かに命令されるが如く、ある一点を目指して動き出した。目的地は、ノーデンス王国の王都であった。

「疾く来い、疾く来い。我が居城へ。私の贄となる為に。私が星の海へ帰還するための鍵となる為に。ああ、この気持ち、これが恋というものに近い感情かもしれぬ。さあ、セリーナ・ロックハート、貴様が騎士を名乗るのならば、疾くここへ来い。ここにすべての元凶がいるぞ」

 闇の中、笑い声は途切れない。

「さあ、疾く来い。この魔塔、天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)へ――!!」






 御前試合準決勝第二試合、つまり私とアリスの決戦が始まる直前だった。

 ノーデンス王国王都から十数キロメートル離れた地点にある砂漠の中に突如として巨大な建築物がその姿を現したのは。

 リングの上で立っていられない程の地震が起こったのだ。そう、レフェリーだけが。

 私とアリスはお互い、視線を相手から離さなかった。この時をお互いが待ち望んでいたのかもしれない。まあ、私の方はここで視線をそらしたら負けだと勝手に考えていたので、視線をアリスから外さなかっただけなのだが。

 しかし、レフェリーが腰を抜かしてしまったので、試合をすぐに始めるというわけにはいかなかった。あれだけの大地震が起こったように感じた割には建物には何の被害もなかったようだ。観客も慌ててはいたが、転んで怪我をした人間以外は特に被害はなさそうだ。

「これだけの大地震だ。何かしら街に被害が出ているかも分からない。レフェリー、試合はいったん中止にした方がいいと思うが、どうかな?」

「同感です、王都ももちろんですが、近隣の町などにも何らかの被害が出た可能性があります。試合はいったん中断しましょう」

 アリスも私と同じ事を考えてくれたようだ。

「わ、わかり……」

 レフェリーは最後まで己の意見を言う事が出来なかった。リングまで通じる通路を駆け抜けてきた兵士がいた。

「申し上げます!!」

 悲鳴とも思えるその兵士の声に、御前試合を観戦していた国王が許可を出した。

「許す。何があった!?」

 兵士の顔が蒼褪めていた事に気付いたのだろう。国王もすぐに許可を出した。

「ここから、十数キロメートルの地点に、巨大な塔が出現しました!!」

 塔が出現した、だと?

「塔、か? それは、どのくらいの高さの塔だ?」

「目視ではありますが、数十メートル、いえ、百メートルを超える高さではないかと!!」

「百メートルを超える、だと……?」

 国王も混乱しているようだ。

 私はアリスと一緒にリングを降りた。ここでアリスと見つめあっていても、何の意味もありはしない。ここは、皆と一緒に意見交換と行こう。


「塔、か。聞いた事はあるか、マーガレット、セツナ?」

「私は聞いた事がないな。何せこの国の事、そんなに興味がなかったからな、私は。マーガレットは?」

 セツナはいとも簡単に答えた。まあ、この世界で生きているとはいえ、元は違う世界の住人なのだ。そこまで興味などなくてもおかしくはないだろう。

「うーん、聞いた事があるような、ないような……」

「おいおい、しっかりしたまえよ、青リボン。貴様はまがりなりにもこの国の王女だろうが」

 容赦ないな、蜥蜴丸。

「うーん、伝説の類で聞いた事があるような、ないような……」

 はっきりしないな、マーガレットも。

 しかし、伝説の類ねえ。

 私達の話し合いも、そこで終了した。もう一人、兵士が駆け込んできたからだ。


「申し上げます!! 大量のモンスターが、地を覆うほどのモンスターが、この王都を目指して進んできています!!」


 おいおい、なんか凄い事になってきているよ?




 何故かノーデンス王国国王に呼ばれ、会議室まで通された私達。会議室に入る前に党のある方向をチラリと見たが、目を覆いたくなるほどの光景が広がっていた。

 大量のモンスターが、この王都を目指して進軍してきている最中だった。空を飛ぶモノ、ヒト型のモノ、その他色々。唯一の救いは大型のモンスターがいない事くらいだろうか?

 会議室に集められたのは、私達とアズにゃん、その他このノーデンス王国の騎士たち。王族の人間たち。

「皆の意見を聞かせて欲しい。この場では礼儀など考えずに発言してくれて構わない」

 案外話の分かる王様なのかな、この人は?

「クカカカ、では基本的にどのようにこの事態にあたるつもりなのかね、貴様は? まず、貴様がどのように考えているのか教えてもらいたいねえ」

 お前はホントぶれないね、蜥蜴丸。

「貴様、蜥蜴の分際で陛下に何たる無礼を……」

 この国の騎士なのだろうか、蜥蜴丸の無礼な口のきき方に激怒したようで、蜥蜴丸につかみかかった男がいた。だが、彼の姿は蜥蜴丸の黒マントをつかんだ瞬間、吹き飛んだ。蜥蜴丸のスペース光線銃が火を噴いたのだろう。吹き飛んだ男の頭部からは、毛根も吹き飛んだようで、何故か髪の毛も綺麗さっぱりなくなっていた。おかしい、撃たれたのは腹部だった筈だが……。

「貴様の意見などワガハイ聞いていないのだよねえ。雑魚は引っ込んでおれよ。さあ、この国の王であったな。貴様はどのように事態にあたろうと考えているのか、意見を聞かせてもらおうではないか。おっと、どうでもいい木っ端騎士どもは黙っておれよ」

 木っ端騎士って、凄いネーミングだね。でも、私もこう、気持ちよく啖呵をきってみたいモノだな。

「まず、守るべきは王都、そしてそこに住む民たちだ。王都には幸い、御前試合の影響もあり冒険者の数も平時より多い。彼らからも希望者を募り、王都の防衛にあたってもらおうと考えている。一応、冒険者ギルドに既に募集をお願いしているが、あれだけのモンスターの数だ。希望者が出てくるかどうか……」

「住民の避難は考えないのかね?」

「あれだけのモンスターの数だ。それに、住民の数も多い。避難を行うとしても、すぐには出来ないし、混雑するだけだろう。王城や騎士団詰所を解放して住民たちに避難してもらう方が上策だろう」

 マーガレットから聞いていた話と違い、民の事をよく考えている王のようだ。父親としては失格なのかもしれないが。少なくとも、民を守ろうとしている事だけは感じられる。

 蜥蜴丸でさえ「ほう……」と国王の考えに共感したモノがあったかのように感じられた時だったが、この時金切り声が会議室に響き渡った。

「何をおっしゃっているの、お父様!? この王城に庶民たちを入れるだなんて!! この王城には認められた者たちだけが入る事を許された場所なのですよ!? それに、私達王族が生き延びれば、国の再建など容易な事。ここに、王城に庶民を入れるだなんて、許される事ではありませんわ!! 民は自分の力だけで生き延びさせればいいのです!!」

 縦ドリルだった。この女、王族という立場にありながら何を考えているのだ? もう、ダメな王族の見本とでも言うべき存在だな。こいつはぶん殴っても許される存在じゃないかな?

 よし、ぶん殴ろう、そう私が思い行動に移そうとした瞬間だった。私より先に動いた者がいた。国王でもなく、セツナでもなかった。マーガレットだった。

 小気味いい音が会議室に響き渡った。

「恥を知りなさい、ドリル!!」

 本名は、いったい何なのだろう? この場であろうと、ドリルと呼ばれるとは……。しかし、何人か頷いている者もいるな。共感を得たのかもしれない。おいおい、国王陛下まで頷いているよ。ずっと、ドリルって呼びたかったのかもしれないな。

「き、貴様妾腹の分際で……!!」

「妾腹であろうと何であろうと、今の私はノーデンス王国第四王女マーガレットだッ!! そして、国とは民あってのモノだ。民がいれば国の再建などいつでも出来る!! 何故それが分からない?」

 おお、二発目。

「父上、王城や騎士団詰所への住民の避難を」

「それに関しては既に進めている」

「では、騎士団や冒険者のみなさんたちには、王城や騎士団詰所に避難してくる住民たちの警護をお願いします!!」

 王族の人間に頭を下げられるなどという事は冒険者にはほとんどない経験だ。だからこそ、この場にいる冒険者は皆驚いているようだ。

「私からも頼む。この国を、民を守ってくれ」

「私からもお願いいたします。民を、守ってください」

 国王や、それまで成り行きを見守っていた王妃までマーガレットの横に立ち、頭を下げた。冒険者だけでなく、騎士団の人間まで目を潤ませていた。凄いな。

「わ、ワタクシは認めないわよ、こんな事……!!」

 ハンカチを噛みながら部屋を出て行った縦ドリル。何人かついていったところを見ると、人望だけはあるのだろうか。少なくとも私はあんな奴にはついていきたくないけどね。




「ふむ、民は貴様らの方針でいいとして、あの塔はどうするね?」

 相変わらずの蜥蜴丸がいた。彼にとって、この国の民などどうでもいい事なのかもしれない。

「どうって?」

「モンスターどもがあの塔から吐き出されている事は一目瞭然。ならば、あの塔をどうにかするのが第一目標ではないかね?」

「あの塔……、“天を穿つ魔塔(カ・ディンギル)”の事かね?」

「ほう、あの塔に関して、知っているのかね?」

「伝承を知っている、というくらいだがね」

 国王はあの塔の事を知っているようだ。

「そうだな、私があの塔に関して知っている事を話そう。伝承とか伝説の類の事しか知らないので、参考になるかどうかは分からないがね。その話の結果であの塔に対してどのように対処するか決めようじゃないか」




 破滅の音が、少しずつ近付いてきていた。

 しかし、私の仲間はそんな事など気にしていないようだった。

 なんだろう、よく分からないけど、このメンバーがいさえすれば心配などする必要がないように感じられるんだよなあ。


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