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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第二章 寂しさは秋の色~apocalypse autumn~
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御前試合一回戦です。

 アリスの予選突破を確認し、皆で宿に戻り、簡単な反省会を行う事になった。反省する事などあるかな?

「あんなに頑張ったのに……、何でセリーナさんは僕のカッコいいところを見てくれなかったんですか?」

 アキヒコは何故そんなに嘆いているのだろう? 

「予選突破くらいをカッコイイなどと思ってはいけないぞ、アキヒコ。だいたい君の実力なら予選突破をするのなど、ワケもない。そんな結果が決まりきっているのを見るくらいなら、私は睡眠時間を多くとるね。アキヒコの勇姿なら、ジンかゲーサンとの対決を見た方がいい」

 予選の組み合わせを見ていても、それ程強い冒険者や他国、もしくはノーデンス王国の騎士がアキヒコと同一ブロックに入ってはいなかったからな。きっと、クリスが魔法を使ってどうにかしたのだろう。どうやったかは全然わからないが。

「しかし、ワガハイが予選落ちとは、納得いかんな。あの木っ端役人どもめ。殺傷力の高い魔法など使っていないというのに、解せぬ」

 何人か見たよ、お前のスペース光線銃とやらの犠牲者。

「いや、結果だけ見たら止められて当然ではないか? 御前試合に出て名誉を勝ちとるどころか、頭髪を失って帰ってくるなど、あまりにも悲しいではないか。しかも、頭髪を失っているのが貴族の息子だったり、浮き名を流しまくっている冒険者だったりしたのは何故だ?」

「イケメンこそ我が敵」

 言っている事はだいぶおかしかったが、堂々と言ってのけるその姿は、アキヒコの共感を得たのだろう。それとも、アキヒコもイケメンは敵だと思っているのだろうか? 蜥蜴丸とガッチリと握手をしていた。何だ、お前たちは?

「ジンはどうだった? 苦労した敵はいたか?」

 これ以上アキヒコと蜥蜴丸に話題を振るのはやめておこう。

「いや、思った以上に強い敵はいなかったな。せいぜいがCランクどまりだったと思うぞ、俺のブロックにいたのは。蜥蜴丸とゲーサンのところくらいだろう、結構強いのがいたのは。特にこいつが予選を抜けてきたらヤバイな、と思ったやつらはだいたいゲーサンが始末していたな」

 ああ、確かに。予選組み合わせの時に私でも手を焼きそうだと思った連中が何人かいたのは覚えている。ゲーサンのブロックに入ってしまったのか。

「アリスはどうだった?」

 アリスのところにも強い連中はほとんどいなかったのは覚えている。

「まあ、何とか勝ちあがる事が出来ましたよ。そこまで強い相手がいなかったのは幸いでした」

 やっぱりねえ。私はテーブルの上で丸くなっているクリスを撫でてやった。

「ここにいるメンバーで本戦に勝ち上がったのは蜥蜴丸を除いた全員、か。悪くないな。誰が勝ち上がってもマーガレットへの求婚権は使わないで済むな。まあ、ジンが優勝して使う、って手段もあるけれど」

 同席していたマーガレットとセツナがジンを見る。

 見られたジンは頭をかきながら、答えた。

「悪いけど、優勝したとしても求婚権を使用するつもりはねえよ」

「そっか……」

 マーガレットのしゅんとした姿を見て、慌てたのだろうか。

「俺は冒険者だ、一つのところにじっとしておくなんて性に合わねえ。歳とったら分かんねえけど、少なくとも今は王族暮らしなんてするつもりはないからな」

 まあ、ジンだからなあ。伯爵家の三男坊だから、王族と結婚してもまあ、おかしくはないんだけど。

「そう言えば、ジンは伯爵家の人間だったな。そっちで縁談を勧められたことはなかったのか?」

 セツナが思い出したかのように言う。よく考えれば貴族の人間だ。過去に縁談が持ち上がっていても、何の不思議もないのだ。

「昔は、結構あったよ。貧乏貴族や田舎貴族からな。だが、まあ、俺の特殊性が広まってからは縁談の話は来なくなったよ。向こうから避けられるようになってなあ。おかげで、騎士になるつもりはなかったから、ミスカトニック卒業後は気ままな冒険者暮らしを黙認してもらっているってワケさ」

 イヤな縁談の断られ方だな。

「伯爵家を継ごうという気持ちはないのか? 兄を追い落としたりして」

 凄い事を勧めるな、セツナは。

「上には凄いのが揃っているんだよなあ。一番上の兄貴が跡取りなんだが、文武両道を地で行く男だ。学問で負けるのは何とも思わんが、剣術でも負けるんだ。二番目の兄貴は剣術はほぼからっきしだが、役人として優れた才能を発揮してな。いくつかの領地の経済立て直しに一役買っていて、それが目にとまりグラスゴー公爵家に請われてそこの婿養子になっちまった。姉貴も一人いるけど、今は宮廷魔道士まで上り詰めているよ。宮廷魔道士のナンバーツーの嫁さんに、って請われているらしい」

 改めて聞かされるとジンの兄弟って優れているのがいるんだなあ。

「まあ、上の連中が優れているからな。おかげで俺は悠々自適な冒険者暮らしをさせてもらっているってワケよ」

 ああ、家の事を考えないで済む貴族って一番いいかもしれないな。

「ツマラン。お家騒動とか、私の一番好きな物語なのに」

「何言ってんだ、セツナ。お家騒動なんてドロドロしているだけで、何もいい事ねえよ」

 そうなのかもしれないな。

「セリーナさん、明日、明日の一回戦こそ僕の勇姿を目に焼き付けてくださいよ!!」

「Bブロックの勝者は?」

「何処かの冒険者です」

「なら、見る必要などないな。アキヒコの勝利は分かりきっている事だ。何て言ったって私の騎士になる男だろう、アキヒコは? 名前も売れていない冒険者相手に苦戦するくらいなら、私の騎士になる資格すらないぞ」

 私はアキヒコの強さを信じているからな。一回戦など見る必要性を感じないな。

「頑張っているところを見てもらいたいだけなのに……、あわよくば声援を貰いたいだけなのに……」

 何を嘆いているのだろう、アキヒコ少年は。

「俺は二回勝ち上がればアキヒコかゲーサンのどちらかと戦わなければならんのか……、どちらが勝ち上がってもヤバイな。勝てる可能性がない」

「そんな、ジン。優勝してよ。私の為に」

 マーガレット、確かにジンに優勝してもらいたいという気持ちは分かるよ。でもね、純粋に考えればジンがアキヒコやゲーサンに勝てるとは思わないよ? 私だって勝てるとは思わないんだから。

「いや、まあ、頑張りはするけどよ。しかしなあ……」

 アキヒコやゲーサンとの実力差を分かりきっているが故に、歯切れの悪いジン。

 ゲーサンはゲーサンでアイテムボックスの中からとりだしたトロピカルジュースを飲んでいる。セツナはゲーサンからもらったトロピカルジュースが美味しい事に驚いていた。

「美味いな、コレは。懐かしい味だ。まあ、そんな事は置いておいて、マーガレット、ジンを責めるなよ。アキヒコ少年もゲーサンも強い事は分かりきっているじゃないか。彼ら相手に勝ち上がっても、アリスかセリーナ、どちらかを相手にしないといけないんだぞ? 無傷でジンが勝ち上がるとは到底思えん。優勝したとしても冒険者としてどころか、人間として使い物にならんかもしれんぞ?」

「それはイヤ」

 うーむ。なんだかんだ言っても、やっぱりジンの事が好きなんだね、マーガレットは。

「まあ、反省会はここまでにしようか。明日に備えて休むとしよう」

 反省会はお開きとなり、各自部屋に戻る事になった。




「ねえ、セリーナ。例のコスプレをしてくれないか?」

「嫌だ」

「そんな事言わずに。な、着てくれ。主に私の目の保養の為に」

「マーガレットに頼んでよ。私は明日から本戦なんだ。無駄な体力は使いたくない」

「同級生の頼みを無下に断るというのか!?」

 これ以上の会話は無駄だ。私はさっさと毛布をかぶって寝る事にした。

「ええい、このままでもいい。抱き枕にしてやろう!!」

 結局セツナに抱き枕にされた。

「私も!!」

 こら、マーガレット、セツナと二人して挟み込むんじゃない。暑苦しいだろうが。

 結局は軽く冷房魔法をかけて一晩寝る事にした。まあ、いいか。




 翌朝、皆で朝食をとった後、全員そろって会場に向かう事になった。なんでも、最初にノーデンス王国国王陛下のありがたいお話があるらしい。聞きたくもない。

 本戦出場者全員でありがたいお話を聞いた。内容は全く私の頭に入ってこなかった。

 選手控室みたいなモノが各自与えられている。試合時間近くになれば、係の者が呼びに来てくれるらしい。なので、私はその時間まで軽く寝る事にした。マーガレットの膝枕で。アキヒコは一回戦を見て欲しいと今日も言っていたが、メンドクサイので、断った。一回戦の相手を見たが、私でも瞬殺出来る相手だった。試合を見る必要性を感じなかった。




 試合時間近くになって係の者が呼びに来た。

 係の案内に従い、リングまでやって来た。

 リングの上には、凄い男が立っていた。

「待っていましたよ、セリーナ・ロックハート。君の美しさは素晴らしいモノがある。もっとも、ワタクシのこの鎧には勝てはしませんけどね」

 全身を華美な鎧に包まれた男だった。どのくらい華美かというと、己が金持ちだという事を誇示したいのだろうか、色々な宝石が埋め込まれていた。何十ではきかないな。何百と埋め込まれていた。予選を金の力で勝ち抜いたのではないだろうな? 何故、頭部は何の防具もつけていないのだろう?

「ワタクシはノーデンス王国コンラッド公爵家のブルースと申します。ああ、貴女こそワタクシの花嫁に相応しい。おっと、マーガレット殿下を花嫁にするのだった。貴女は愛人になってもらおうではあーりませんか」

 コイツ、気に入らないな。

 試合に入る前に、木剣に殺傷力を抑える魔法をかけてもらう。殺傷力はおさえても、ダメージは通るらしい。

「ちょっと、試合開始を少しだけ遅らせてもらっていいかな? 五分くらい」

「その位なら構いませんが」

 レフェリーに相談したところ、了承を貰えたので、リングから降り、近くにいた蜥蜴丸に近付いた。

「あの宝石、私の物にしたい。出来るか?」

「どうやるつもりだね?」

「あの宝石を全て鎧から吹き飛ばす。回収できるか?」

「クカカカ、任せておけよ」

「では、頼んだ」


 リングに戻った後、試合が開始された。




 美しい銀髪の女だった。フフフ、第四王女マーガレットも、この女もいい体をしている。

 ワタクシの花嫁、愛人に相応しい。どうせなら、マーガレット付きの騎士であるセツナもワタクシの愛人にしてやろう。

 おいおい、先程から何度もワタクシの鎧を叩き続けているな。無駄だというのに。

「君の攻撃が、ワタクシに通じるとでも?」

 全く、無駄な事は嫌いなのだよ。体力の消耗はベッドの上だけにしたいねえ。

「このワタクシの“豪華な全身鎧ザ・ブリリアント・アーマー”に、君の攻撃が通じると思うのかね? 衝撃吸収魔法もかけてある。君の攻撃などワタクシには何一つ通用しないのだよ」

 親切に教えてあげるワタクシ。ククク、ワタクシの愛人になる女だ。親切に教えてやってもいいではないかね。

「貴様の愛人になどなるつもりはないよ」

「反抗的な女を躾けるのもいいねえ」

 さあ、疲れきったところにとどめを刺してやろうかね?

 背中に衝撃。ほう、ワタクシの背後にもまわるかね? 機動力はなかなかのモノがあるな。


 おいおい、もう二時間以上ワタクシを叩いているな。よく壊れないねえ、その木剣。

 ワタクシの“豪華な全身鎧ザ・ブリリアント・アーマー”も、ヒビ一つつかないがね。


 長いね。もう四時間以上ワタクシに攻撃を続けているよ。ふむ、それだけベッドの上でも頑張ってもらいたいね。

「そろそろか」

 君の体力が尽きるのが、かね?

決着ケリをつけよう」

 なんだね、その構えは? 右足を前にだし、腰を軽く落とし、右手を前に突き出して木剣の切っ先の峯側に軽く添える。左手を軽く後退させている。ほう、突きに特化した構えだねえ。もっとも、ワタクシには通じないがね。

「くたばれ」

 限界まで引かれた弓から発射された矢もここまでのスピードは出ないのではないか、と錯覚するほどの突きが、ワタクシの腹部に突き刺さった。もっとも、ダメージは……




「これで終わりだ」

 私はナントカ公爵に背を向けた。私の左片手平突き、何の工夫もしていないと思うのか?

 木剣が砕け散ると同時に、公爵は血を口から大量に吐き出し、地に倒れ伏した。鎧が例え無傷だとしても、私の攻撃は鎧を通り越し、貴様本人にダメージを与えていたのだよ。

 レフェリーが試合続行不可能と判断して、試合が終わった。

 豪華な全身鎧とやらに身を包まれた男は、私への攻撃を一切当てる事は出来なかった。

「そんな金の力で守られたところで、貴様には何の価値もない。男なら、自分の力一つで立ってみろ。貴様は宝石で己を飾っていたに過ぎない。貴様は何一つ輝きを放っていないのだよ。男なら、己自身の力で輝きを放つのだな」

 そう、宝石の力になと頼らずに、な。

 私は宝石がほぼ全て消えた(・・・)全身鎧を見下ろして、そう言った。

 流石に四時間以上攻撃を続けたのはしんどかったな。


 


 アリスも危なげなく一回戦を勝ち上がったが、あまりにも一回戦が終わるまで時間がかかった為、二回戦以降は明日に持ち越しになった。






「クカカカ、銀髪、貴様も悪よのう」

「あんなキモイのと戦わなければならなかったんだ。これは慰謝料だな。精神的慰謝料」

 最後の左片手平突きで体内に衝撃を与えると同時に鎧全体に衝撃を与え、鎧から宝石をほぼ全部弾き飛ばしたのだ。

 宝石の回収は、蜥蜴丸に任せた。

「どうだ?」

「全部は回収できなかったが、二百以上宝石を手に入れた。価値の高いモノもいくつかあるぞ」

「それは素晴らしい」






 その日、ノーデンス王国王都中の宝石商をはしごする銀髪の女性と茶色のほっそりした蜥蜴がいたという。

「五千万G以上になったわ」

「山分けだぞ、蜥蜴丸」

 闇が王都を支配する頃に彼らとすれ違った人間は、恐ろしいまでの邪悪な笑みを浮かべた女性と蜥蜴だったと後に証言したという。






 翌日、コンラッド公爵家の不正疑惑が白日の下に晒された。

 一家断絶、更にコンラッド公爵家に連なる悪徳商人(中には闇の奴隷商もいたそうだ)や悪徳貴族が捕まったという話であった。ノーデンス王国全体に激震が走った。

 コンラッド公爵は、「蝶人が、蝶人が来たんだ……」と取り調べの間中それしか言わなかったという。「蝶人が怖い、蝶人が怖い。死刑になった方がマシだ。私を蝶人から救ってくれ!!」と言ったとも。

 この日が蝶人が歴史上に記された最初の日であった。


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