コスプレは危険です。
昨日帰ってこなかった蜥蜴丸とゲーサンは翌朝になっても帰ってこなかった。
もしかしたら捕まっているかもしれないな。だが、あの二人が簡単に捕まるとは思えない。捕まるくらいならこのノーデンス王国の王都を丸ごと消滅させたり、王族の人間の頭髪を毛根ごと焼き尽くしているかもしれないな。
「お前たち、全員そろって何故そんなに目が赤いんだ?」
朝食の時に、ジンとアキヒコに不思議に思われたようだ。
「いや、まあ、ガールズトークに花が咲いてしまってな」
「嘘つけ。一番ガールズトークなどしないのがお前じゃないか」
ええ?
アキヒコを連れて王都の街を歩く。昨日出場を申し込んだ場所を見てみると、結構な人だかりが出来ていた。
「そう言えばアキヒコ達は簡単に出場申し込み出来たみたいだな」
「十五歳以上は出場が認められたんですよ。しかし、蜥蜴丸はどうしたんでしょうね?」
二人して覗いてみたが、一列分のスペースだけぽっかり空いていた。出場申し込みを受け付けている人間はいなかった。デッキチェアーだけがポツンと置かれていた。
「まあいいか。せっかく二人で出歩いているんだ。デート気分と洒落こもうじゃないか」
「で、デート気分、ですか?」
私は空いていた右手をアキヒコの左手にからませて王都を歩くことにした。左手? クリスを抱えているので空いていない。
「さあ、とりあえず昼食を食べられる場所を探そう。昼過ぎには宿屋に戻る事にしているからな」
ふふ、楽しいモノだよ。王都の最新ファッションになど興味はないからな。色気よりも食い気だ、私は。
その後は二人で喫茶店に入り(通路に面している屋根なしの部分はところは猫もOKの店だった)、食事に舌鼓を打った。なかなかに美味しいお店だった。今度はアリスとレティも連れて来よう。
「ぐぬぬぬ、セリーナさんめ、朝食が終わった後、姿を見ないと思ったら……」
「デート、ですか。アキヒコさん、デレデレですね」
レティの言うとおり、アキの顔は緩みきっている。セリーナさんはセリーナさんでクリスを見つめながらデレデレしている。
「へえ、あのセリーナがデートを、ねえ」
「珍しいモノが見れたな。マーガレットもジンとあんな感じでデートしたいと思う?」
「うん」
何でアキとセリーナさんのデートを尾行している私とレティにマーガレットさんとセツナさんが付き合っているんだろう?
「ふうん、アリスちゃんはアキヒコ君の事好きなんだね」
「幼馴染みたいなものですから」
「上手くいっているのかい?」
「セリーナさんが現れるまでは上手くいっていたんですけどね」
セリーナさんは美人だからなあ。アキが夢中になるのは分からないではないんだけど。
「まあ、もう少ししたら宿屋に戻ろう。だいたい、ばれているかもしれないからな」
変なところだけ勘が鋭いからな、セリーナさんは。でも、今回気付いているとしたらアキかな。クリスは気付いていそうだ。
「セリーナがあんなにデレデレになるなんて……、恋って恐ろしいね」
「人外好きにフラれても恋しているマーガレットさんに言われたくない、と、きっとセリーナさんも思っているでしょうね」
レティの毒舌がマーガレットさんの胸に突き刺さったようだ。レティ、恐ろしい子。
その後は私たちの間を無言が支配した。マーガレットさんはその場に項垂れた。
結局、アキとセリーナさんが喫茶店を出る前に私達もその場を後にしたのだった。
昼過ぎ、宿屋に戻ってきたら、何故かマーガレットは項垂れていた。逆にレティが晴れ晴れとした表情をしていた。何故だろう?
「デートは楽しかったか? セリーナ」
「うん、楽しかったよ。それにしても美味しいお店だった。今度アリスとレティも一緒に行こう」
「ご一緒しますよ」
返事をくれたのはレティだけだった。アリスが憮然とした表情なのは、何でだろう?
さて、女性陣だけで集まっているのは、昨日の計画を実行に移すためだ。
「ねえ、本当にやるの? は、恥ずかしいんだけど」
マーガレットは物凄く恥ずかしそうにしている。
「そんな事言ってられる場合じゃないでしょ? 買うよ」
“スペースリザー堂オンラインショッピング”で見つけた、“ワーキャット用コスプレ”一式。何でこんなものまで売っているんだ、このサイト? まるで見計らったかのようなタイミングじゃないか。……スケベ本も買いたいけど、値段は一冊十万G以上なのはまだ、変わっていなかった。
「ま、待ってよ、心の準備が……」
「全員がお金を出してくれたんだ。ここで引くわけにはいかないじゃないか」
ふふふ、恥ずかしがるマーガレットが可愛い。
「では、ポチッとな」
「待ってぇーーッ!!」
私がOKボタンをクリックしようとした際、止めようとしたマーガレットの腕が、個数ボタンを押してしまって数が変更されていた。そして、その状態でOKボタンが押されていた。
「あ……」
だが、もう遅かった。取り消しは不可能だった。「アイテムボックスに商品が届きました」のメッセージが届いていた。
「お、お金が……」
私の名義で買っているのだ。“ワーキャット用コスプレ”一式が八万G。二セットで十六万Gだ。おいおい、お金そこまで冒険者ギルドカードに入金していないぞ? 「二セット目は半額。色違い!!」のメッセージが哀しい。
「ま、まあ、どうしようもないな。とりあえずアイテムボックスの中を確認してくれ」
セツナに慰められる形でアイテムボックスの中を確認してみた。
届いていたのはコスプレ用道具一式。金と銀のセットだ。
「金はまあ、金髪のマーガレット用だな。銀は……銀髪のセリーナ用にしよう」
「賛成。私一人でこのカッコするのは恥ずかしいよ」
セツナとマーガレットが二セット目を私用のコスプレセットに決めてしまった。
「いや、私は別にジンをお色気で籠絡するつもりはないんだ。着る必要はないだろう?」
「アキが、セリーナさんのワーキャットコスプレを見て、興奮するかもしれませんよ?」
……アリス、耳に息を吹きかけないでくれないか。くすぐったい。
とりあえず、二人そろってコスプレをする事になった。何故私までコスプレをしなければならない?
“にくきゅうぐろーぶ”と“にくきゅうブーツ”をつけるのは結構面倒くさかった。
しかし、露出が多いな。少なくともこんな姿では冒険者として旅は出来ない。女に飢えた冒険者なら、見ただけで襲いかかってきそうだ。
十数分かけてコスプレをしたマーガレットを見ると、もう、ヤバイ。
元々スタイルのいいマーガレットの胸が強調され、さらにおへそも覗いている。むっちりとした太ももの色気もたまらない。“猫耳カチューシャ”もいい。凄くイイ。
最後には何故かノリノリで、右手を顔のあたりまで上げ、左手を胸のあたりで止め、肉球を見せる感じで「にゃっ」と言いだした。何故か、ウィンクまでして。
「こ、これで落ちない男の方がいないだろう……」
セツナのマーガレットを見る目が少し怪しかった。何だろう、獲物を見つめる目をしていた。
「ねえ、この姿でジンのところに行くの? 恥ずかしいんだけど」
腰の部分についている尻尾が彼女の心に呼応するかのように揺れている。果たして、彼女の心を支配しているのは喜びか羞恥か?
「ローブをお貸ししますよ」
レティがアイテムボックスの中からローブをマーガレットに渡した。
それを羽織るマーガレット。ああ、目の保養が……。
「女は度胸、ですよ。ジンさんの部屋の前までは一緒に行きます。一人かどうかの確認までは私たちでしますから。さあ、度胸を決めて一緒に行きましょう!!」
おかしいな、アリスがノリノリだ。マーガレットの手をひいて、レティと一緒に出て行った。
「上手く行くといいけどな……」
学生時代からのマーガレットの思いを知る者としては、ジンと上手く行けばいいな、という思いしかないな。
「そうだな。しかし、いいな」
「ああ、上手くいくといいな……」
セツナと会話が成立していない気がするな。
「こう、ムラムラ来るな。なんだか違う自分に目覚めてしまいそうだ。こう、ちょうどいいところにベッドもあるしな」
おかしい、私の方を振り向いたセツナの目が怪しい。
「素晴らしいな、強調された胸、むっちりとした太もも、銀色の毛皮もお前の銀髪と相まって映えるな。もう、はっきり言ってエロいな。そんな姿のセリーナを男に見せるなどもったいない。私が隅々まで調べてやろうじゃないか!!」
じりじりと私ににじり寄ってくるセツナ。おいおい、目がマジだぞ? ま、待て。落ちつけ。早まるんじゃない。しかし、こんな姿では部屋の外に出るのはちょっと……。
「いいじゃないか。私たちは友人だ。親友と言っても過言ではない」
いや、確かに私はセツナの事を親友同然だと思ってはいるが……。後退している時にベッドに膝をぶつけて、ベッドに腰掛けてしまった。
「じゃあ、楽しもうじゃないか」
ベッドに押し倒されてしまった。毛布が宙を舞った。
ついさっきアリスが部屋を訪ねてきた。一人か、と聞かれたので一人だ、と答えた。まあ、実際一人だったのだが。
俺の返答を聞いたアリスは変な笑みを浮かべて、部屋を出て行った。
そして一分後、部屋がノックされた。ドアを開けると、ローブを着こんだマーガレットが立っていた。
とりあえず、部屋の中に招き入れる。王族を男一人の部屋に入れるなんて、バレたら恐ろしいが、まあいいだろ。
「どうした、何か相談事か?」
やたらとモジモジしているが、何かあったのか? ここで「トイレに行きたいのか?」なんて聞くほど、俺も野暮じゃないつもりだ。
「ねえ、ジン。今、誰か好きな人、いるの?」
「いねえよ。だいたい、俺が人外娘好きなの、お前も知っているだろう?」
だからこそ、卒業前にこいつの告白を受け入れなかったんだ。こいつやセツナとは、セリーナを通じて親友と言ってもいい間柄になっていたし、こいつの人柄に関しては、よく知っている。好感すら抱いていたと言ってもいい。
「じゃあ、私がもう一度告白しても、いい?」
「お前ね、俺がお前の告白受け入れるとでも……?」
振り向いた俺の目に飛び込んできたのは、ワーキャットのコスプレをしたマーガレットの姿だった。
視界が一瞬真っ白になった。それだけ、動揺していたのかもしれない。
はっきり言って、俺のストライクゾーンど真ん中だった。コ、コスプレとはこれ程破壊力があるものなのか。
「ジン、私は、貴方が好きです。で、出来れば私と結婚を前提にした付き合いを……!!」
ダメだ。ここで頷いてはダメだ。俺は確かにこいつの事が好きだ。人間としては。
だか、ここで簡単に頷いては俺の今までのポリシーが崩れ去ってしまう。
「バカ野郎、お前、もっと自分を大事にしろよ!!」
俺は理性を総動員してマーガレットにローブを再度着せた。まともに見る事が出来ない。
「へ、返事は今この状態では出来ない。落ち着いてから再度返事をするよ」
俺はマーガレットの返事をまともに聞かず、彼女の手をひいて、彼女たちの部屋を訪ねた。
セツナとセリーナを説教してやろう。そう言う思いもあり、また、まだ昼過ぎである事もあり、ノックすらせずに部屋を開けた。
「いいじゃないか、コラ、暴れるんじゃない」
ベッドの上から変な声が聞こえてきた。
「や、やめて……、あ、ちょっと、セツナ、変な所触らないで……」
「辛抱出来ん。もう、全裸にしちゃおう」
毛布が二人を覆っている為、見る事が出来なかったのは良かったのか、残念だったのか。俺も健全な男だ。ここにいては理性を失ってしまいそうだ。
「悪いな、マーガレット。二人を頼むわ」
「そんなこと言われても……」
マーガレットに全てを押し付け、部屋を出ようとしたのだが、セリーナに気付かれてしまった。
「た、助けてジン……!! 逃げないで!!」
胸元がはだけていて、視線に困った。
「こら、ジン。さっさと出ていけ!! 今からいいところなんだから、お前はマーガレットとイイ事しておけ!!」
やれやれ、どうやら説教が必要なようだな。
俺はセツナの頭を殴りつけ、正気に戻させてから、三人を正座させた。
ついでにアリスとレティも連れて来て正座させた。
さあ、長い長い説教の始まりだ。俺がマーガレットのコスプレ姿に動揺した事は内緒にして説教を始めよう。
セツナに性的暴行を受けそうになったのをジンに救われたのは良かったが、何故その後コスプレ姿のまま正座をさせられ、説教を受けなければならないのか。ローブを纏ったので、ジロジロ見られなかったのだけは幸いだが。
最近、正座をし過ぎじゃないか? おかしいな、ノーデンス王国の王都にはマーガレットを救う為に、御前試合に出場する為にきた筈なんだけど。
まあ、ジンのマーガレットを見る目が動揺していたのだけが救いかなあ。
あ、足が痺れてきた……!!
私以外のメンバーも足の痺れに苦労しだしたがセツナ、何でお前だけ平然としているんだ?
ジンの説教も途中から何も頭に入って来なくなった。




