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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第二章 寂しさは秋の色~apocalypse autumn~
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出場申し込みは案外面倒くさいものです。

 御前試合出場申し込みの場所に辿り着いた。ノーデンス王国近衛騎士団の詰め所を解放して、明日いっぱいまで出場申し込み受け付けをしているようだ。

「出場申し込みの方ですか?」

「そうだ」

「では、こちらの申込用紙に名前を記入してください。あと、身分を証明する物はお持ちでしょうか? 一応、重犯罪者は出場申し込み出来ない決まりになっております」

 まあ、確かに犯罪を重ねてものうのうと生きている奴らはいるがね。

 名前を記入して、冒険者ギルドのギルドカードを渡す。別に、ティンダロス帝国帝都騎士団三番隊組長の肩書を晒す必要はない。だいたい、騎士団支給のサーベルなどで他国で身分証明出来るのかな?

「セリーナ・ロックハート様……ですか? もしかして、ティもごぉ」

 ここで身分をバラされると後々面倒だ、いや、ここで面倒事に巻き込まれるかもしれない。すぐさま受付をしてくれていた女性の口をふさぐ。

「私は一冒険者だ。優勝賞金目当てでこの御前試合に出場するんだ、オッケー?」

 耳元で囁く。息を吹きかけながら。息を吹きかけたのにはもちろん意味などない。これで頷いてくれなかったら、耳を甘噛みでもしてみようか? 異性には使えない手段だがね。

 息を吹きかけられた側はと言うと、異様に顔が赤くなっていた。何故だろう? もしかして鼻まで塞いでしまっていたかな? コクコク頷いてくれたので手を離した。何で熱のこもった視線で私を見ているんだ?

「では、予選の組み合わせを行いますので、明後日の午前十一時までにまた来てください」

「十分十五分の遅刻はいいのかな?」

「ダメに決まっているじゃないですか」

 日向ひゅうが時間は適用されないらしい。残念だけど、仕方ないな。王都と言うだけあって都会なのかもしれないな。


「私は出場出来ない、だと……?」

「騎士団員は若手以外は出場は認められていないのです。また、若手の中でもセツナさんだけは出場が認められていません。貴女が出場すれば余程の人間が出場しない限り、貴女が優勝してしまうだろうから、って」

「余程の人間ってどれくらい?」

「最低でもAランク冒険者ですね。AかSランク冒険者でもないと貴女に勝てそうにないですからね」

 確かにセツナは強い、それでも学生時代三年間主席だったのは私だけどな。まあ、今回は私が出場するのだ。保険程度にはなるだろう。一応私はBランク冒険者の肩書も持っているが、それは、Aランク以降に上がるのが面倒くさかったからだ。実力不足じゃあないぞ。

「そうか、残念だ。一千万G、欲しかったのにな……」

 本当に一千万G欲しかったように聞こえるな。ま、私も欲しいけどな。夏の終わりにアリスとレティを着せ替え人形にした時、学生時代に貯めていた金がほとんど消えたからな。モデルが良かったので、つい金をつぎ込んでしまった。

「買いたいモノ、結構あったのにな……」

 分かるよ、その気持ち。もっと、アリスとレティを着せ替え人形にしたかったよ、私も。ああ、一千万Gが手に入ったら今度はセツナとマーガレットを着せ替え人形にしようかな?


「蜥蜴の出場は、ちょっと……」

「責任者を呼びたまえよ。貴様程度の下っ端では話にならん。そこら辺の有象無象が出場出来てワガハイ達が出場出来ないだと? 蜥蜴差別をするのかね、この性根の腐った国は?」

「いえ、しかし、蜥蜴では身分を証明する物など持ち合わせてはいないでしょう? 身分がある程度はっきりしない方の出場は認められていないのですよ」

 蜥蜴丸とゲーサンは無言で冒険者ギルドカードを机に叩きつけた。

「び、Bランク冒険者ですと……?」

「ワガハイ達の身分は冒険者ギルドが保証している。冒険者ギルドは万国共通、それどころか国家の枠を超えている事すらある。それを、貴様如き木っ端役人が無下に扱おうと言うのかね?」

 蜥蜴丸に木っ端役人と言われた男性(若手の騎士団員か、事務職の人間だろう)が、右往左往している。

「止めないの?」

 一緒に見ていたセツナに小声で話しかけると、

「面白そうだから見ておこう」

 との返事。同感。

「いえ、しかし人間以外の出場は……」

「この用紙の何処にそのような事が書いてあるのかね? 言ってみたまえ。否、ここで、最初から最後まで声を大にして読み上げてみたまえよ。うん? 貴様の目は節穴か? ならばその眼球をくりぬいて、代わりにビー玉でもはめ込んでやろうじゃないか」

 ビー玉を目の代わりに入れられる事を想像してしまった。やめてくれぇ。

「いえ、確かに書いてはいませんが、常識から考えて……」

「貴様の常識が、ワガハイに通じると思うのかね?」

 普通の人間の常識は、蜥蜴丸には通じないよ。

「貴様の常識は、世界の非常識。王族の常識は平民の非常識。その程度の事くらい分かるだろう、木っ端役人が。出場をここで認めるか、それか上の者を呼んできたまえよ。貴様如きでは話にならん」

 蜥蜴丸に言いくるめられる木っ端役人。もう、私は彼の事を木っ端役人と呼ぶ事にした。

「上の者も手が空いていないモノで、申し訳ありません。ですが、蜥蜴はやはり……」

 最後通牒だ、と言わんばかりに蜥蜴丸は新たに何かを懐から取り出し、テーブルに叩きつけた。

「これを読んでもワガハイを蜥蜴扱いして見下すだけの度胸があるかね、木っ端役人?」

 封筒。テーブルに叩きつけられたのは封筒だった。

 中から出てきた便箋には身分を証明するかのような文章が書かれていた。そして、印が押してある。ティンダロス帝国の帝室の紋章が。執筆者の名前は現ティンダロス帝国皇帝。つまり、彼らの身分はティンダロス帝国皇帝が直々に保証する、端的に言えばそう書いてある文章だった。

「こ、これは……」

「さあ、これを読んだ君はどうするのかね、木っ端役人? ワガハイは心優しい科学の子。いちいち大事にしたくはないのだがねえ。だが、この文書を読んだ木っ端役人である君が簡単に判断を下せる事かね? 君が今までごねまくったせいで、この列に並んだ出場申し込み希望者が何分間待たされていると思うのだね? 諦めて別の列の最後尾に並び直した者たち、今日の出場申し込みを諦め、明日にしようと帰っていった者たちもいる。君は彼らに対して何と言って謝るのかね? 明日は出場申し込み最後の日だ。明日は更なる混雑が予想される。もしかしたら、今日よりもさらに待たされるかもしれない。それだけ多くの人間の貴重な時間を君は奪ったのだよ。まあ、ワガハイ達以外への謝罪は後回しでいいだろう。だが、ワガハイに対する、ワガハイ達に対する謝罪はどうするのかね? 貴様如き木っ端役人が土下座したくらいでワガハイの心の傷が癒える事はない。さあ、どうするね?」

 蜥蜴丸の長台詞の間に、木っ端役人の顔はどんどん蒼白くなっていった。

 少々お待ちください、とのセリフと共に木っ端役人は何処かへと慌てて走っていった。

 そして、ゲーサンは何処かからデッキチェアーを取り出し、サングラスをかけ寝そべりながらトロピカルジュースを飲みだした。

 こいつらに付き合っていると、時間が長くなりそうだ。

 先に宿屋に戻っておくぞ、と声だけかけ、出場申し込みが終わっていたアリスとアキヒコ、付き合いで来ていたレティと一緒に宿屋に戻る事にした。

 しかし、ティンダロス皇帝の直々の身分保証書みたいなモノを持っているとは、蜥蜴丸とはいったいナニモノなのだろう?

 現皇帝の筆跡に見覚えがあるが、寸分違わぬモノだった。どこであいつは現皇帝とお近付きになったのだろうな? もしかしたら、皇帝も“スペースリザー堂オンラインショッピング”でスケベ本でも買っているのかもしれないな。




 王都の雑踏を通り抜け、宿屋に戻って来た。

 ジンとマーガレットはまだテーブル席に着いたままだった。お互い、積もる話はあっただろうに……。

「お帰り、みんな」

「ただいま、とここで言うのは変な感じだな」

 確かに、変な感じだ。

 アリスとレティ、アキヒコは部屋に荷物を置いてくると言って、階段を上がっていった。


「出場申し込みはどうだった?」

 暫く皆、無言で紅茶を飲んでいた。だが、無言の空間に耐えられなかったのか、ジンが出場申し込みが出来たかどうかを聞いてきた。

「私は出場申し込みは断られたよ。私が出場するとほぼ優勝間違いなしだからって」

 おい、そこで何故私を見つめるんだ、ジンにマーガレット?

「セツナが出場断られたからってここに最有力候補がいるじゃないか」

「ふふ、セリーナはどうだったの?」

「いや、申し込みはちゃんと出来たぞ?」

「名前で断られなかったのか?」

「一冒険者として出場を申し込んだからな。ティンダロス帝国帝都騎士団三番隊くみちょうとしては申し込んでいないよ。ばれていたかもしれないがな」

 とりあえず、どういう風に申し込みをしたかをかいつまんで三人に説明した。

「お前は、相変わらず自分の見た目を考慮に入れていないな」

 ジンは苦笑したが、マーガレットとセツナは頭を抱えていた。

「甘噛みはしなくて正解だったのかな?」

「当たり前だろうが!!」

 何故、怒られなくてはならない?




 各自、部屋に戻る事になった。夕食時にもう一度集まろうという事にした。

 私の部屋はマーガレットとセツナと同室だ。

「で、どうだったの? 私たちがいなかった間は?」

 やはり、気になる。ジンとマーガレットが二人っきりで何を話していたのかを。

「にゃあう」

 私の頭の上でクリスも興味があるよ、みたいな感じで鳴いた。……いったい、いつから私の頭の上にいたんだろう? 今日一日頭の上からクリスをどかした記憶がないのだけれど……。

「ううん、特にたいした話はしなかったよ。そうだね、ミスカトニック騎士養成校を卒業してからの、それぞれの事を軽く話したくらいかな?」

 何で、その程度の話しかしていないんだ!?

「おい、いいのか、その程度しか話をしなくて?」

 セツナも私と同意見のようだ。

「まあ、御前試合まではもう少しあるし、その間も一緒に行動出来るんだから、すぐにどうこう、なんて考えていないよ」

 呑気だなあ。

「セツナの日向時間に毒されたかな?」

「声に出ているぞ、セリーナ」

 ごめんなさい。

「こうなれば、ジンをマーガレットのお色気で籠絡するしかないんじゃないかな?」

 とりあえず、強引に話題を変更する事にした。

「お色気で籠絡出来るのなら、もうとっくに成功している筈ではないか?」

 マーガレットのスタイルは悪くない。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。まあ、私も負けていない……よね?

「ジンがロリコンでもない限り、マーガレットのスタイルで籠絡出来ないとは思えないのだが……」

「ジンがロリコンなわけないじゃない!!」

 ロリコンって……何?

「いやいや、そんな話は聞いた事ないよ」

 知らないふりで話を合わせよう。

「ジンは人外娘好き。ならば、ジンの嗜好にマーガレットを合わせればいいだけの事!!」

 私はアイテムボックスの中からタブレットPCをとりだした。

「そうだね、とりあえず、ワーキャットから検索してみよう!!」

 後は、買えそうな衣装を“スペースリザー堂オンラインショッピング”で購入だ。








「え? こ、こんな恰好を、ジンの前で……?」

「うーむ、これなら、ジンも籠絡出来るかもしれんぞ。しかし、凄いな、この格好は」

「す、凄いな、これは……」

 ジンを籠絡するしない以前に、画像検索に三人で血眼になってしまった。

 

 画像検索の旅は、夕食時になりアリスが呼びに来るまで続いた。

 夕食終了後は、アリスとレティにも加わってもらい、画像検索の旅を再開したのであった。

 クリスも興奮しているようだった。いつか、クリスもこんな風に変身するかもしれないな。変身してくれないかな?








 蜥蜴丸とゲーサンはこの日、宿屋に戻って来なかった。


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