さあ、御前試合出場の申し込みに行こう。
三日目の夜も野宿になった。まあ、夕方には近くの村の宿屋でお風呂を借りる事が出来た。やはり、お風呂はいい。本当はここで宿をとりたかったがあいにく満室だったのだ。結構な人数の旅なのだから、仕方ないと言えば仕方ない。
「でも、こうして大人数で旅をするのもいいな。修学旅行には小学生の頃以外いけなかったからな」
昨日の事は忘れたかのようにセツナは上機嫌である。だが、アキヒコはまだビビっているようだ。普通に勝負すればアキヒコが勝つだろうに、きっと、女性に対しては本気が出せないのだろう。もしくは、女性に対して逆らえないのかもしれない。ヘタレとも言うが。
「そ、そうですか。と、ところで、セツナさん。実はこっちの世界でも恋愛ドラマを見る事が出来るんですよ。もちろん、裏技なんで、他の人には教えないでくださいね。マーガレットさんくらいになら教えても構いませんよ」
そう言いながらセツナにタブレットPCを手渡すアキヒコ。
「何だ、これ?」
セツナは見た事がないようだ。操作方法をアキヒコに教わっている。
「僕は十歳の頃にはこちらに来たんで、向こうの恋愛ドラマなんて見た事ないんですよ。だから、オススメの恋愛ドラマとかないですか? そうですね、いい月九ドラマなんてあったら教えてくださいよ」
瞬間、セツナの雰囲気が変わった。逃げ出そうとするアキヒコだったが、既に襟をセツナにつかまれていた為、逃げる事は出来なかった。
「お前は何度言えば分かるんだ? 宮崎をバカにするな、と昨日あれ程言ったはずだぞ?」
「げ、月九ドラマは全国共通ではないのでしょうか?」
ガタガタ震えているアキヒコ。皆は二人に近付こうとはしない。もちろん、私もだ。
「民放二局で月九が放送されていると思っているのか? テレビ雑誌を見る度、私たちがどのような思いで見ていたか分かるのか?」
「え? あ、あの?」
「宮崎ではなあ、土曜の四時半から放送されていたんだ!! 土四なんだよ!!」
「し、知らなかったです。すみませんでした!!」
「駅に自動改札がないからと言って、見下しやがって!!」
「すみません、僕、電車に乗った事がないので、自動改札なんて知りません!!」
ある意味悲しいやりとりだった。
「か、仮●ライダーは、日曜の朝八時からですよね!?」
「金曜の朝五時半だよ!! アレ見たくて学校に遅刻しかけた事が何度もあるんだよ!!」
いい加減アキヒコが可哀相になってきたので、二人を引きはがした。
「邪魔をするなよ、セリーナ。今からこの都会モノに日向時間の素晴らしさを叩きこんでやるところだ。集合時間に家を出る素晴らしさを教えてやろう」
アキヒコが日本に居た頃都会モノであったとしても、今は純粋なる田舎者だ。日向時間など叩きこんでどうするつもりだ?
「社会人でそんな事したらクビになるだろ?」
「……それもそうか」
まあ、分かるよ。学生時代はそれでいいかもね。少し落ち着いてきたかな?
「学生時代によく待ち合わせに遅れてきたのは日向時間のせいなの?」
「……知らないな」
顔を背けるなよ。
それ以降は特筆する事もなく、ノーデンス王国へと辿り着いた。合計したら十四日でノーデンス王国王都へは着いた。予定とはずれなくてよかった。
皆冒険者としての身分を持っていた(レティも夏以降、レムリア騎士団に加入していたらしい)ので、国境での移動もスムーズだった。
ノーデンス王国とティンダロス帝国は現在友好的な状態だ。まあ、だからこそ第四王女への求婚権が優勝賞品となっている御前試合武闘会の連絡が来たのかもしれない。
御前試合というだけあって、会場は王都の騎士団詰所などで行われるようだ。
まずは王都で宿をとろうという事になった。
問題は御前試合前という事もあり、噂を聞きつけた観光客も、出場予定者も結構集まりつつあるという事だ。
ある程度上等な宿屋に空室があればいいのだが……、やっぱりお風呂は重要だと思うんだ、私は。
この国の貴族に繋がりがあれば彼らの屋敷にお世話になる事も可能だろうが、私たちにはそんな知り合いはいないし、王宮の方にお世話になるわけにもいかない。
だが、まずは全員でノーデンス王国王都の冒険者ギルドを訪ねてみる事にした。ジンの事を聞けるかもしれない。こちらに来る間にすれ違う事はなかったが、もしかしたら王都にまだいるかもしれないのだ。
冒険者ギルドに全員で入ると、熱気があふれていた。溢れていたというよりは暑苦しかったと言ってもいいだろう。ティンダロス帝国の帝都の冒険者ギルドでもこれ程多くの冒険者達を見る事はほとんどないと言ってもいい。
受付の方を見ると、こちらは何故か空いていた。どうやら、仕事を受けに来た人間はそうはいないようだ。
「すみません」
「あら、何かしら、セリーナちゃん」
何故、私たちが帝都を出る前に帝都の冒険者ギルドで受付をしていたお姉さんがここにいるのだろう?
「ふふ、ここの冒険者ギルドから応援を頼まれていたのよ。だから、貴女達が帝都を出る前に私も帝都を出発していたのよ。だから貴女達より先にこちらに着いて仕事をしていたってわけよ」
読心術の使い手がここにもいたか。
「で、何の用かしら? 仕事を探しに来たわけじゃないのよね?」
「はあ、ジンを探しておりまして。こちらに商隊の護衛任務で来ている筈なんですが」
「ジン君ね、ちょっと待ってね」
何か手元の資料をごそごそしだした。
「ああ、あったあった。昨日着いているわね、王都に。ただ、依頼料の受け取りは明日みたいね。なので、近くの宿屋に泊っているみたいよ」
お姉さんに礼を言い、教えてもらった宿屋に向かう事にした。
「ああ、畜生!!」
教えてもらった宿屋はそこそこのランクの宿屋だった。こちらに泊まる事が出来ればここに泊まる事にしよう。
そんな事を考えながら宿屋に入ると、男たちの叫び声が聞こえてきた。
「ま、待てよ、待ってくれ。頼むよ」
「ダメだね。勝負を持ちかけてきたのはお前らの方だろう? そして、俺は勝負にのってやった。で、結果は俺のボロ勝ち。お前らは金が払えないというのか?」
「いや、へへ、確かにもう、俺たちが払う金はねえ」
「でもよ、ここまで同じ仕事をこなしてきた仲じゃねえか。な、金を払うのを少しだけ待ってくれって話だよ。金は明日入るんだからよ」
「おうよ、俺たちが逃げると思っているのか?」
ジンが応対しているのは如何にも冒険者ですと言わんばかりの風体をしている男たちだった。どうやら、ジンの方が賭け事に勝ったようだ。
「信用できるかよ。さあ、耳揃えて十万G払えよ、全員で十万Gじゃあねえぞ。一人十万Gだ。さあ、どうする? だいたいお前ら、イカサマしていたじゃねえか。それは、この宿にさっきからいた連中なら全員知っているぞ。そして、イカサマして他の連中から金をまきあげていたそんな奴らがまともに借金を返さないのは常識だ。さあ、今すぐ払えよ」
「ま、待ってくれよ、払っちまったらここの部屋代だって払えねえ。な、一人三万Gまでまけてくれ。それなら払える。なあ、お前らもそうだろ?」
「ああ、三万までなら払える。頼むよ」
そんなジンと男たちの会話を背景に、宿屋の店員に話しかける。マーガレットやセツナはジンに声をかけようとしていたが、私はそれを手で制した。
「部屋は空いているかな?」
「申し訳ありません、満室でございます」
ふむ、いいランクの宿屋だ。ここで泊まれるならそれに越したことはない。
「彼らは一人一部屋ずつとってる?」
「ええ、大部屋を三つ。確かに十万Gも取られたら宿代どころか食事代さえ払えないでしょう」
ふむ、いい機会だ。
「頼むよ、な。三万にまけてくれ」
「嫌だね。十万ずつ払えよ」
「頼むよ、三万以上は払えねえ。宿代すら払えなくなっちまう」
「この通りだ」
床に額をつけている。どうやら、よっぽど困っているようだ。
「いいだろう。一万Gにまけてやる。ただ、部屋は譲り渡してもらうぞ。あんたたちの代わりに私たちが泊まる」
「な、部屋を……?」
いきなり私が会話に割って入ったのに男たちは驚いたようだが、ジンは眉一つ動かさなかった。やはり、気付いていたか。
「部屋を譲り渡さない限り、十万Gだ。どうする……?」
男たちは顔を見合わせた、相談したが、どうやらまとまったようだ。
「五千Gにまけてくれ。それなら、部屋を渡そう」
「十万だ」
「わかったよ、一万でいいんだろう? 部屋も渡すよ」
男たちは項垂れ、ジンに金を渡した後、宿を出て行った。
ふふ、宿を手に入れたぞ。部屋割りは、私とマーガレットとセツナ、アリスとレティ、アキヒコと蜥蜴丸、ゲーサン。
「蜥蜴はちょっと……」
渋る店員に大金を渡し、黙らせる事に成功した蜥蜴丸。
「それでも泊めないというのなら、ワガハイの持てる力を全て使い、この宿屋を地上から消滅させてやるが、どうするね?」
見つめあう店員と蜥蜴丸。
「分かりました。蜥蜴もいいという事にしましょう。特例ですよ」
「クカカカ、賢明な判断だな。最悪、宿屋だけでなくここら一辺が焼け野原になるところだったよ。その時は、貴様が宿泊を断ったからこうなったと、ワガハイが大声で喋りまわるところだったわ」
やりかねない、と判断したのだろうなあ、店員さんも。
「どうして、お前たちがここにいるんだ?」
私はジンに御前試合の事を話した。
「マーガレットへの求婚権? ああ、確かに巷で話題だな」
「うん……、今年まで結婚せずにすめば私は平民になれる筈だったんだけど……」
「そうか。で、どうするの、お前たちは?」
あれ? マーガレットの現状を聞いても、なんか冷静だな。もう少し、慌てたりしないのかな?
「ふふ、阻止するに決まっているだろう、同級生パワーで」
「そういうワケだ、ジン、力を貸してくれないか。出場をお願いしたい。私は申し込んでみるが、たぶん出場は認められないだろう。マーガレットの為にも、出場してくれないか、ジン?」
同級生パワーって……私も案外ノリノリだな。
マーガレットを見つめるジン。見つめかえすマーガレット。
む……、いつの日か、アキヒコと熱のこもったまなざしで見つめあいたいものだな。
「悪いが無理だな」
「な……」
断られるとは思っていなかったのだろう。セツナも開いた口が塞がらないようだった。
「そ、そう、そうだよね、ジンにも都合があるもんね。ごめんね、無理なお願いして」
マーガレットは泣きそうだった。
「断るとは、どんな理由があるんだ、ジン? 学生時代の友がお前を頼って来たんだぞ? それに応えようとは思わないのか!?」
少し、声に怒りが混じっているのかもしれないな。私も、冷静ではいられなくなったのかもしれないな。
「今更出場申し込みは出来ねえ」
「だから、何でだよ!!」
「昨日のうちに出場はもう申し込んであるんだよ、だから、再度の申し込みは出来ない」
へ?
「出場予定者が結構集まっているみたいでな、もう、今日か明日には申し込み締め切りの筈だぞ。昨日申込みした時にそう言われたぞ。部屋に荷物置いて来るのは後でいいだろ? さっさと出場申し込みして来い」
私とセツナはマーガレットをジンにお願いして、アキヒコ達を誘って出場申し込みをしに行く事にした。
宿屋を出る時、チラリと振り返ると、マーガレットに抱きつかれて苦笑しているジンと目が合った。さっさと行ってこい、と言わんばかりに軽く手を振られた。
うん、暫く二人っきりにさせてやろう。
私はセツナと目を合わせ、皆と一緒に王都の街に飛び出した。




