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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
31/69

エピローグ~夏の終わりに~

 もうすぐ、夏が終わる――。


 今年の夏の終わりに、世界の命運をかけた戦いが繰り広げられたなど、当事者たちを除いて誰一人知る事はないだろう。ただ、困った事に当事者たちも世界の命運をかけて戦ったという意識がない。死者の“王”ノスフェラトゥとは、私達にとって、その程度の存在だった。

 世界の命運をかけた戦いが終わってから約一週間。たまっていた休暇を使って私は遊びまくった。

 あの日、アリスに友人になって欲しいとお願いしたあの日の翌日、アリスとレティと三人で帝都で遊んだ。レティにはその日に友達になって欲しいとお願いした。了解してくれて涙が出そうになった。

 昨日、アリスから恋敵ライバル宣言をされた。私たちは友達だけれど、アキヒコ少年を巡っては、恋敵ライバルだ、と。うん、それでいいのかもしれない、私たちは。まあ、最後には殴りあうなんて事にはならないだろうし。




 別れの日がやって来た。

 皆に挨拶をする。

「今日でお別れですか、寂しくなりますね。今度会う時は、ミスカトニック騎士養成校を卒業した後でしょうか?」

 涙目になっているレティ。ひと時の別れだけど、寂しいって思ってくれるのは、本当にうれしい。

「何言っているの? 帝都とここは転送装置で結ばれているんだから、いつでも会えるよ。帝都とアーカムだって近いんだし」

 そう、また会いに来るよ。蜥蜴丸は便利なモノを作ってくれたよ、本当に。

「今度会う時は、恐怖心がなくなっているといいですね」

「アハハ、アリスと戦えるように、克服してみせるよ」

 そう、アリスといつの日か、真剣勝負をしないといけないからね。もちろん、殴りあいなんかしないけど。

「セリーナさん、俺、いや、僕は絶対にミスカトニック騎士養成校に受かってみせますよ。そして、セリーナさんを名実ともに守れる騎士になってみせます!!」

「うん、待っているよ、真に君が私の騎士になってくれる事を」 

 大声で言うなよ。恥ずかしいじゃないか。

「セリーナ、いつでも遊びに来ていいからね」

「ありがとうございます。また、絶対に来ます」

 ここには、かけがえのない友達がいるのだから――。

「それと、いい加減クリスを返しなさい」

 私の頭の上で、クリスが丸くなっている。

「まあ、もう少しだけ」

 もう少しだけ、一緒にいてもいいよね。きっと、クリスも私との別れを寂しがってくれているに違いない。

「あいつによろしくな」

「伝えておきますよ」

 ダーレス卿との挨拶はこれで十分だ。いちいち言葉にする必要もないだろう。

 団長やティアさん、アイリーンへのお土産もたっぷり貰ったからな。

「おいおい、別れの挨拶はもう済んだかね? ワガハイ、写真撮影に来たカメラマンじゃないんだよ。人を待たせるのは好きだが、待たされるのは嫌いなんだよねえ」

 蜥蜴丸がいい加減に挨拶を終えろと叫んでいる。仕方ないか。

 全員で整列する。クリスを頭から降ろして、腕に抱く。喉を撫でてやるのも忘れない。

 私の右隣りにアキヒコ、左隣にアリス、その横にレティ。アキヒコの隣にジン。後列にダーレス卿にエミリアさん、そして、ゲーサン。ゲーサンとは別れの挨拶をしなかったな。まあいいか。何言っているのか分からないのだから。

「よーし、全員そろったな。じゃあ、撮るぞ。はい、バター」

 変な掛け声に全員が苦笑する。

 そして、シャッターがきられた。

「おいおい、ワガハイが入っていないではないか。なんたる驚愕の事実。もう一枚撮るぞ。寂しがり屋のワガハイをのけ者にするとは、貴様らは鬼畜かね?」

 蝶理論が展開されていた。いや、超理論か。

 蜥蜴丸が加わった状態で、もう一枚撮った。


 撮影が終わった後、アキヒコと蜥蜴丸と一緒に厩舎の方へ向かう。ジンには少し待ってもらう事にした。

「どうしたんですか、蜥蜴丸まで連れて来て」

「いや、その、あれ、だ。しゃ、写真を撮ってもらおうと思ってな。その、ふ、二人きりの写真だ」

 言わせるなよ。私はこういう事に慣れていないんだぞ。

「何ナチュラルにいちゃついているのかね? まあいい、さっさと撮影を終わらせるぞ。そら、さっさと並べ」

 蜥蜴丸に言われる形で厩舎をバックにアキヒコと並んで立つ。ついでだ、腕を組んでやろう。心なしか、胸も押しつけてみる。

 お、赤くなりやがって。ふふ、いいね、こういう反応は。

「さあ、撮るぞ。こちらを向け。はい、バター」

 おかしな合図だ。だけど、この蜥蜴丸のかけ声に私は満面の笑みを浮かべていたに違いない。アキヒコはどうかな? 後で写真で確認しよう。

 写真を撮り終わった後、蜥蜴丸を皆のところに戻した。流石にこの後も近くにいられたらたまらない。

「なあアキヒコ、本当に私の騎士になるつもりか? 無理しなくてもいいんだぞ」

 素の状態でも、私の騎士になる、そう言ってくれるのは嬉しいし、同時に恥ずかしい。

「本気ですよ、僕は」

 そうか。確かに、本気の目をしている。

 じゃあ、いいかな。

 私は覚悟を決めた。アキヒコの顔を両手でつかみ、そっと、彼の唇にくちづけた。

 閉じておいた目を開けて見てみると、アキヒコは真っ赤になっている。まあ、私も自分の顔が真っ赤になっているのが分かるが。

「先払いだ。念の為に言っておくが、私のファーストキスだからな?」

 この言葉にどんな意味が込められているか、しっかりと考えてくれよ?

 まあ、アイリーンによくおはようのキスをしてあげているので、完全にファーストキスかと聞かれると、言葉に困るが。異性にはファーストキスの筈だ。その筈だ。

 唇に手を当てて呆然としているアキヒコを置き去りにして、私はロッキーとジンの馬を厩舎から出し、皆のところに戻った。




 あの後、ジンと共に馬上の人となり、帝都へと向けて旅立った。何度も何度も振り返って、手を振りながら皆に別れを告げて。

「いい人たちだったな」

「ああ」

 特にこれ以上語る事もない。短い言葉だけで足りるんだ。

「ま、俺はまだまだ帝都までお前のお守りが残っているけどな」

「わざわざ付き合う必要なかったのに」

 いい同級生を持ったよ、私は。

「今のお前を一人で帝都に帰してみろ。あの団長に殺されちまうよ。あのおっさん、お前の事を家族の一員くらいに思っていやがる。強さは化物級だ。ここでお前を放り出して気の向くまま何処か行ってもいいけど、そんな事したらあの団長に地の果てまで追いかけられちまうよ」

 団長ならやりかねん。

「ま、帝都まで一人旅も寂しいだろ? お前は寂しくないかもしれんが、俺は寂しい。帝都までは楽しく行こうや」

 そうだな、一人旅よりは、楽しいだろう。


 その後は、特筆することもなく、無事に帝都に着いた。

 お互い拳を当てあい、それぞれの道へと歩を進める。また、何処か遠い空の下で会う事もあるだろう。






 季節が巡り、秋になった。

 仕事に追われながらも、時は流れる。恐怖心はまだ克服できていないが、事務仕事なら恐怖心を抱えながらも出来る。

 しかし、私が旅から帰ってきて職場復帰してから、もう何度目だろう? アクロイド副組長が大怪我をして入院したのは。おかげで仕事がたまる一方だ。彼は私がいないと、本当に優秀なのだが。私がいる時に限って凡ミスを繰り返す。

「アクロイド副組長のせいで、仕事が溜まる。何度入院すれば気がすむんだ、あの人は?」

「お前が入院させたんじゃないか」

 三番隊の誰かがそう言った。聞こえないふりをしよう。




 週末は団長の家で過ごす事が多くなった。

 あの後、アイテムボックスの中に写真と写真立てが転送されていた。写真立てはサービスだという。

 一枚はみんなと写っている写真。泣きそうな表情のレティが印象的だ。こうして、友人たちと写っている写真は、いつの日か私の記憶を呼び覚ましてくれる宝物になりそうだ。少なくとも、今の段階では死者の都ブリュージュの宝物庫にあった宝物よりも、価値がある。

 そして、もう一枚は……。


 少し困っているような、それでいて嬉しそうな笑顔を見せているアキヒコと彼と腕を組みながら満面の笑みを浮かべている写真。


「夏の終わりに、恋をした……か」


 季節が変わったよ、アキヒコ。でも、君を、君たちを忘れる事など出来そうもない。今でも皆に、そして君に会いたいよ、アキヒコ。


「晩御飯よ、セリーナ」


 私を呼ぶティアさんの声。

 返事をして皆の元に向かう。今日は団長も一緒に夕食だ。私が作った料理の毒見をしてもらおう。味見より毒見の方がまだ近い印象というのは、どうかな? まあ、あの人なら毒を食べても死にそうにないが。

 返事をして、私はアキヒコと二人で写っている写真が入った写真立てを寝かせて歩き出す。


 夏の終わりに恋をして、そして、それは今でも続いている。

 この頃は料理を本格的に習い始めた。なかなか上達しないが、少しずつ、少しずつでいい。いつか、君の胃袋をつかんでみたいものだな。




 今でもアキヒコ、君に会いたいよ。

 でも、このままじゃダメなんだ。君に守られるだけの女になるつもりはないよ。

 いつでも再会できるけれど、その度に君に守られるだなんて御免だ。私がなりたいのは、君と肩を並べて歩いていける存在だ。


 季節は巡る。夏の物語は終わりを告げたけれど、時の流れが止まらないように私達の物語も続いていく。

 いつかまた、大きな転機となる物語が紡がれるかもしれない。

 その時には、出来れば君と、皆と並んで歩ける人間になれますように――。









 セリーナ・ロックハートの持つアイテムボックスの中に、邪悪なる意思を持つモノがいた。

 専門家が派遣された死者の都ブリュージュの宝物庫の中で、唯一紛失が確認されていた蝶仮面であった。

――MEが、いつかYOUを、新世界に連れて行ってあげるよ。

 彼は、昏い、深い闇に身を潜める。

長い、とても深い眠りについているうちに、蝶仮面には魂が宿っていた。

 彼は、待ち続けた。己と共に新世界の扉を開ける者を。

 そして、深い眠りから目覚めた時に、見つけたのだ。

 彼と共に新世界の扉を開く資格を持つ者を。セリーナ・ロックハートである。

 いつの日か、彼女に見つけてもらう為に。

 いつの日か、彼女に己を手にとってもらう為に。

 そう、全ては彼女と共に新世界の扉を開く為に。

 彼の物語もまた、続くのであった。

 


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