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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
30/69

「友達になりたいんだ」「だが断る」「!?」

 暫く、開いた口が塞がらなかった。え? どういう事? セリーナさんはアキの事が好きなんだよね? だから、昨日アキをデートに誘ったんだよね? なのに、何で今日は私をデートに誘うの? そう言えば、キャンプの時は私を抱き枕にしていたよね? つまりはアレ? セリーナさんって男でも女でもイケる、ってタイプの女性ひと

「ダーレス卿、今日一日、アリスをお借りしてもいいでしょうか?」

「ハハハ、変なところに連れて行ったりしなければいいよ」

 父さん? 何受け入れちゃってるの?

「あんまり遅くまで連れまわさないでね」

「了解です、エミリアさん」

 母さんまで? 私は脱兎の如く逃げ出した。必死で逃げるウサギなど、見た事はないけれど。

 しかし、まわりこまれてしまった。は、はやい!! ふりきれない!!

「さあ、行こう」

 どうでもいいけれど、あれだけの猛スピード、いや、超スピード(もしくは、蝶スピード)で動いているセリーナさんの頭の上に平然と乗っているクリスは、いったい何を考えているのだろう? 不思議だなあ。

 結局、セリーナさんに腕をひかれて、デートに連れて行かれる事になった。もう、色々と諦めよう。


 気が付けば、見知らぬ場所にいた。

 セリーナさんは見覚えがあるようで、スタスタと歩いていく。何処だろう、ここは? 誰かの家のようだけれど。

 居間のような場所に来た。誰かいる。十歳くらいの女の子だろうか。可愛い。

「アイリーン」

 セリーナさんがかけた声に応じて、顔をあげる女の子。

「セリーナお姉ちゃん、お帰りなさい」

 セリーナさんに抱きついてきた。セリーナさんの妹なのだろうか? あれ、でも、見覚えがあるなあ。

「ただいま、アイリーン。私はこのお姉ちゃんとお出かけしてくるよ。夕食前くらいには戻ってくるけれど、また、すぐにお出かけしないといけないんだ。ごめんね」

「お仕事?」

「お仕事半分、遊び半分」

 凄く優しい声だ。セリーナさんは妹さんの事を凄く大事に思っているんだなあ。

「あら、セリーナ。帰っていたの?」

 その時、部屋に入ってきた女性がセリーナさんに声をかけてきた。見覚えがある。そうだ、時々家に遊びに来る団長さんの奥さん、セレスティアさんだ。ああ、この子は何度か遊んだ覚えがあるアイリーンだ。私の事、覚えているかな?

「ただいまです、ティアさん。ちょっと、アリスとデートしてきます。あ、そうだ。帝都で迷子になるといけないので、この子を預かっておいてください。クリスって言います」

「クリスだぁ。久しぶり!!」

「にゃあう」

 クリスは覚えていたようだ。アイリーンの伸ばした手に飛び込んだ。

「あれ? お友達?」

「ふふふ、何度かダーレス邸には、遊びに行っているからね。アイリーンとクリスはお友達よ。久しぶりね、アリス。私の事は覚えているかしら?」

「お久しぶりです、セレスティアさん。アイリーンは、私の事、覚えてる?」

 私は帝都の方には来た事ないんだよね。父さんも母さんも帝都の方に行くときは私やアキを連れていく事はなかったし。

「うん。アリスお姉ちゃん、久しぶり!!」

 どうやら、覚えていてくれたらしい。

「じゃあ、ちょっと出てきますね。アイリーン、クリスをお願いね」

「はあい」

 アイリーンの太陽のような笑顔に見送られ、私たちは帝都の街に向かった。


 おかしいな、逃げ出そうとしたところをセリーナさんにまわりこまれてしまってからの記憶がはっきりとしない。おそらく、屋敷にあった転送装置みたいなので帝都まで来たのだろうけれど……、まあいいか。せっかくの帝都だ。楽しもう。




 いつの間にか隣を歩くセリーナさんの髪の色が金色に変わっていた。

「これなら、姉妹に見えるかもね」

 そう言ってくれるのは嬉しいけれど、お姉さんが美人過ぎないかな? 

 髪の色を変えたのは、銀色のままだと色々と面倒だからとの事。髪の色だけ変えてもしょうがないと思うんだけどな。

「流石に、デートに着て行く服を持っていないというのは、年頃の女の子としてダメだと思うんだ。この際、アリスにも選んでもらおうと思ってさ。いくつか服屋をはしごしよう」

 まあ、帝都の流行の最先端ファッションを知るのもいいかな。レムリアじゃあ、流行の最先端ファッションを着ていても浮きまくるだけだから、向こうでは着る事の出来ないモノばかりだろうけれど。


 一件目の服屋に入った。学生時代に年上の同級生によく連れて行かれて顔なじみの店らしい。

「あら、セリーナちゃん、いらっしゃい!!」

「何で速攻でばれてるの!?」

 服屋のお姉さんに速攻で見破られていた。仕方ないよね。髪の色を変える事で、ばれない事もあるとは思うよ、セリーナさん。でも、騎士服のまんまじゃ、ダメだと思うよ。


 午前中に二件ほど服屋を巡った。一件目では店員のお姉さんと協力してセリーナさんを着せ替え人形にして満足した私だったが、二件目では逆に店員さんとセリーナさんに着せ替え人形にされてしまった。つ、疲れた……。

 今は、路地を一本入ったところにあるセリーナさんオススメのお店に向かっているところだ。セリーナさんが学生時代同級生に連れてこられて、それ以来通っているお店で、美味しい食事とケーキが楽しめるとの事だ。楽しみだ。

 セリーナさんが髪の色を変え、騎士服ではなく、一件目で買った服に着替えたのがいけなかったのだろうか? それにしても、麦わら帽子が似合っている。麦わら帽子自体は昨日、“スペースリザー堂オンラインショッピング”で購入したとの事だ。まあ、この世界に麦わら帽子はない……のかな?

 ケーキを楽しみにしていたのと、可愛いセリーナさんに見とれていたのが悪かったのだろうか? セリーナさんはセリーナさんで周囲に気を張り巡らせていなかったのだろうか? 路地裏から飛び出てきた薄汚い男たちが、私とセリーナさんを取り囲んだ。

 二人ともナイフを首筋に突きつけられた。内心焦ったが、セリーナさんが動じている様子を見せない。怖くないのかな?

しかし、焦っているのは男たちのようだった。

「てめえら、近づくんじゃねえ。女の命はねえぞ!!」

「オラ、騎士が女を見殺しにしてもいいのか?」

 路地裏をにらみつける薄汚い男たち。何人か騎士の人たちが彼らを追っているようだった。男たちが人質をとっているのが見えたのだろう、立ち止まる騎士たち。私たちが人質になっているのを見て、手が出せないのだろう。

「ヒヒヒ、手も足も出せまい。先生、お願いします!!」

「ケケケ、騎士どもを痛めつけてくだせえ。手も足も出ねえ騎士どもの前で女を頂いて、その上闇商人に売り払ってやるぜえ」

 薄汚い男たちの声に応えて反対側の路地裏から出てきたのは、三十になるかならないかくらいの騎士服を着た男性。凄く、仕事が出来そうな男性だった。強い、その事が見るだけで分かった。手には、ボロボロになった男性を引きずっていた。

 しかし、振り返ってその男性を見た瞬間、セリーナさんがブチきれた。

「アクロイドォーーッ!!」

「な、セリーナ隊長?」

「貴様、騎士でありながら、悪人どもの用心棒をしているのかッ!?」

 セリーナさんの視界には、ボロボロになった男性は見えなかったのだろうか?

 その後は、怒涛の展開だった。

 薄汚い男たちと、ボロボロになった男(先生と呼ばれた男性だろう)と、アクロイドと呼ばれた男性が、宙を舞った。一番高く舞い上がった男性がアクロイドと呼ばれた男性だった。五十メートルくらいは舞い上がったのではないだろうか? ある程度の強さを持つ相手には恐怖心が出て体が動かなくなるのではなかったっけ?

 セリーナさんは踵で地面に十字を描いた。

「アクロイド副組長の体はここに落下する。十秒後にな」

 だけど、アクロイド副組長が描かれた十字に落下してきたのは五秒後の事だった。自分が告げた時間通りにアクロイド副組長の体が落下しなかった事に不満げなセリーナさん。

「隊長、休暇ですか? どっかの辺境に行っているんじゃなかったでしたっけ?」

「まあ、休暇だよ。レムリア辺境領に行っていたんだ。仕事が終わったのでね、溜まっていた休暇をとらせてもらったんだ」

「しかし、いいっすね。騎士服の隊長もいいけど、清楚なお嬢様風の服装も凄く似合っていますよ」

「お、おお、そうか。似合っているか、ありがとう」

 褒められて嬉しいのか、頬をかくセリーナさん。私服を褒められることは少ないんだろうな。

「まあ、でも、あれだ。ちゃんと組長と呼んで欲しいんだけど」

「いや、呼びづらいんで」

 確かに、隊のトップが組長っていうのは、呼びづらいよね。

「しかし隊長、清楚なお嬢様風もいいんですけどね。どうせなら、もっと胸を強調した服を着てくださいよ。その、素晴らしい胸を。ヤル気アップで、仕事がはかどるってもんです」

「な、何を言っているんだ、べイン!?」

「貴様はバカだな、べイン。何も分かっていない。その、清楚なお嬢様風がいいのだ。そう、とてもいい。今度、その恰好をしている隊長を赤面させてやりたい。言葉責めで半泣きにさせてやりたい。きっと、その時の泣き顔はたまらなくソソルだろうなあ。ククク、夢が膨らむぜえ」

「カ、カーペンター、貴様は変わらないな!!」

「ったく、お前らは全然ダメ。隊長のいいところを何もわかっていない。そう、隊長のいいところは、フトモモ。胸を強調するのもいいけど、もっと足の露出を増やしてくださいよ。そう、生アシをッ!! 俺は胸よりフトモモ派なんすよねえ」

「ディケンズ、貴様もか……!!」

 帝都騎士団三番隊は変態ばかりだった。

 しかし、無駄口を叩きながらも、きっちり仕事をしていた。この男たちは闇商人と結託して、人身売買に手を染めていたらしい。組織全部を潰そうとして、追いかけていたようだ。闇商人の方は他の隊の手で壊滅したらしい。

 色々と話し合いをしている間、誰もアクロイド副組長に触れなかった。ピクピクしているが、いつもの事らしい。恐ろしい生命力だ。やがて、事後処理を終えた騎士団の皆さんは、アクロイド副組長と犯罪者の皆さんを引きずって、何処かへ去っていった。

 アクロイド副組長が去って行った場所には、おそらく血文字だろう(彼の手によるものだろう)が、真っ赤な液体により、“白”と書かれていた。何が“白”なのだろう? セリーナさんの下着? もしかしたら、アクロイド副組長のいた場所こそ、ベストポジションだったのかもしれない。

 


 あんな事があった後だけど、ケーキは凄く美味しかった。また来たいな、セリーナさんと一緒に。


 結局あの後もいくつか服屋やら、宝石店やらを巡った。

 明日はレティを連れて来て着せ替え人形にしようという事で私たちの意見は一致した。




 夕方近くになり、セリーナさんの案内で城壁の上にやって来た。

 帝都の街並みが一望出来る。

「私が一番好きな景色なんだ。この景色が、私の守りたいモノなんだ」

「景色を守りたいんですか?」

 ちょっと意地悪を言ってみた。

「うーん、分かっているとは思うけど。守りたいのは、この景色の中に暮らす人たちだよ。この帝都で、懸命に生きる人たちだ。この国で懸命に生きる人たちだ。この景色を、懸命に生きる人たちを守る為に騎士になった」

 私たちの間を優しい風が通り抜ける。

「でも、何で守りたいと願うようになったのか、分からないんだ」

 セリーナさん……?

「騎士になりたいと、願った。この国で、この世界で懸命に生きる人たちを守りたい、そう強く願ったはずなんだ」

 なんて、悲しそうな、寂しそうな顔をしているんだろう?

「でも、何故そう願ったのか、分からない。思い出せない事が、多いんだ」

 胸に手を当てるセリーナさん。まるで、ぽっかり空いた穴を覆っているように見えた。


 


 私は昨日ジンさんに言われた事を思い出していた。

「あいつは、騎士になる事を強く願っていたけど、何故そう願ったのか分からないらしい。それどころか、色々な事を結構忘れていくらしい。特に、大事な事を」

「大事な事を、ですか?」

 あんなにしっかりしているのに? リリスが言っていた事に関係するのだろうか?

「大事な事を忘れるのが怖いのかな? 人と積極的には交わろうとしねえ。少なくとも、学校ではそうだった。あいつから声をかけた存在なんて凄い少数だ。アリスちゃんや少年たちと結構積極的に話をしているようで、ちょっと驚きもしたんだ。あいつも働きだして、変わったのかもしれねえけれど、な」

 昔を知るからこそ、今のセリーナさんがおかしいと感じるのだろうか?

「なあ、あいつと友達になってくれねえか? いつか、あいつが壊れそうで怖いんだ。その時、俺じゃあたぶん止められない。止めることの出来る奴にあいつの大事な存在になってもらいたいんだ。アリスちゃんやアキヒコ少年なら、あいつを止める事が出来るんじゃねえかな、って俺は思っているんだ」

 ああ、ジンさんはセリーナさんの事が大好きなんだ。本当に妹みたいに思っているんだろう。それが、よく分かる。

「だから、頼むよ、アリスちゃん。あいつと、友達になってやってくれないか?」

 ジンさんへの返答は、決まっている。

「友達になってやるなんて無理ってものです。だって、私たちは――」




 夕陽が落ちだそうとしていた。

 いつの間にか、私たちは向き合っていた。麦わら帽子は胸に抱かれていて、金髪に変えていた髪も、銀髪に戻している。いやはや、魔法の便利な使い方をするなあ、この人は。

「アリス、頼みがあるんだ。聞いてくれないか?」

 凄く、真剣な表情だ。いつものセリーナさんらしくない。

「私と、友達になって欲しいんだ。アリスと、友達になりたいんだ」

 セリーナさんの決意を秘めた顔は、夕陽に照らされて、それはとても綺麗で、それでいて物凄く寂し気で。

 私は、どう返答をしようか迷った。でも、素直な気持ちを告げよう。

「お断りします」

「そ、そうか、いや、か。うん、悪かった。わ、忘れてくれないか?」

 今にも、涙が溢れそうな表情カオで。それでいて、絶対に泣かないと決めていそうで。

「ハハハ、ゴメン。か、帰ろうか。遅くなると、ダーレス卿に殺されてしまう」

 後ろを振り向き、帰ろうとしだす。やれやれ、最後まで話は聞いてくださいよ。


「今更友達になんて、なりたくないです」


 ビクッと肩が震えるセリーナさん。


「だって、友達になる、って事はいったん絶交しないといけませんよ?」


 訝しげな表情で私に向き直るセリーナさん。


「私はセリーナさんと絶交なんてしたくないです」


 そうだ、絶交するなんていやだ。

 だって、こんなに可愛いんだ。

 凄く美人で、強くて、優しくて、頼りになって、でも、それでいて寂しがり屋。




「だって、私たちはとっくに友達じゃないですか」




 涙目のセリーナさんに抱きつかれた。その目から、とめどなく涙があふれ出していた。

 私は、セリーナさんが泣き止むまで、ずっと抱きしめていた。




 セリーナさんが泣き止むのを待ったので、帰りはだいぶ遅くなった。

 父さんと母さんに凄く怒られた。

 セリーナさんにはだいぶ懐かれた。結局その日は抱き枕にされた。解せぬ。 


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