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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
29/69

素材はいいのに、よく言われる言葉の一つです。

「そうか、じゃあ、デートをしよう」

 瞬間、世界は凍りついた。もっとも、実際に凍ったわけではないが、何故か私にはそう感じられた。みんな、固まっているな。何かおかしなことを言ったかな、私は?

「な、なななな……」

 よく分からない声をあげたのはアキヒコ少年ではなく、席についていたアリスだった。口をパクパクさせている。何だろう、何が欲しいのかな? 

 テーブルの上にあったチキン南蛮(何故、こんな料理がこの世界にあるのだろう?)を箸で持ち上げ、アリスの口に入れてあげた。そう言えば、私は何故箸など使えるのだろう? 団長の家ではたまに世界観の違う料理が出ていたな。箸の使い方はその時に習ったんだったな。まあ、団長が昔から蜥蜴丸と知り合いだったのなら、何の不思議もない。

「むぐぐ……」

 目を白黒させるアリスも可愛いなあ。喉を詰まらせるといけないから、水も持たせてやろう。私は案外優しいな。

「それで、アキヒコ、返事は?」

 断られるのは怖いんだよなあ。出来れば、いい返事を下さい。

「ふ、二人きりですか?」

 男女のデートは普通、二人で行くものではないのだろうか? 私の知る常識とは違うのかな?

「デートとは、普通は二人で行くものだろう?」

「そ、そそ、そうですよね。二人きりで行くんですよね。わ、分かりました。お付き合いします!!」

 おお、嬉しい返事をしてくれるじゃないか。

「にゃっ、にゃっ」

 クリスが私の右肩の上で鳴いた。私も連れて行ってよ、そう言っているように感じられた。

「そうだな、初デートなのだから羽目を外し過ぎないようにお目付け役が必要か。じゃあ、クリス、一緒に行こうか」

「にゃうん」

 嬉しそうに鳴いてくれるな。

「は、初デートがコブ付きだと……?」

 何を嘆いているのだろうな、アキヒコ少年は?

「ククッ、お前、面白いな。デートか、目いっぱい楽しんで来いよ」

 何を面白いモノを見る目つきで見ているんだ、ジン? 私がデートをしたいなんて考えるのがおかしいのか?

「同級生たちが今のお前を見たら、何て言うだろうな? 返事を待っている時のお前は、恋する乙女だったぞ?」

 からかわれているのだろうか? 私はまだ十八だ。恋する乙女であって何が悪いのだろう?

「いやはや、ラブレターを果たし状といつも勘違いして俺に尻拭いさせていたお前がねえ?」

 ラブレター? 確かに、果たし状は何度か貰ったな、学生時代。色んな所に呼び出されたが、相手はよく分からない言葉を喋っていたな。突き合ってください、トカ。仕方ないから、木剣で何度か突きをしてやったが。そう言えば、誰一人私に突きをしてくる男はいなかったな。何でだろう?

「その度、回復魔法が使える魔道士やら教師やらに手回ししていた俺も、ようやくお役御免かなあ」

 何で遠い目をしているんだ、ジン?

「だ、ダメですよ、セリーナさん。デートだなんて、私が許しません」

「そんな事より昼食にしようよ。お腹減ってきちゃった」

 私のお腹が限界を迎える前にご飯にしなくちゃね。朝食の時みたいにお腹が鳴るなんて年頃の女の子として、気になる男の子の前ではしたくないよね。

 アリスの目が点になっている。何でだろう? チキン南蛮、欲しいの?

「はい、あーん」

「……何の真似ですか?」

「欲しいんじゃないの、チキン南蛮?」




 昼食前に半泣きのアリスに怒られた。解せぬ。

 私が何をしたと言うのだ?

 今私は、厩舎の前でアキヒコ少年を待っている。デートに行こうというのに、何故アリスが怒っていたのかを考えなければならないとは、どうにも理解不可能だ。

「お待たせしました」

 む、先程とは違う格好だな。先ほどは少し背伸びをしてます、みたいな執事服だったのに、私服に着替えている。

「私服……か」

「執事服のベストを脱いだだけですよ。残念ながらデート用の服を持っていなくて」

「なんだ、そうか」

「そういうセリーナさんこそ、騎士服じゃないですか。せっかくの休暇なんだから、楽な服を着たらどうです?」

「……デートに着て行って、恥ずかしくない服を持ち合わせていないんだ。同僚の女性騎士からいつも、バカにされる。“素材はいいのに”って」

 そうだ、皆して私のファッションセンスをバカにして。誰かと一緒に服屋なんて行ってみろ。着せ替え人形にされるんだ。学生時代からそうだった。いや、ティアさんに連れて行かれたお店でも着せ替え人形にされたな。付き合わされる団長がいつもげっそりしていたな。

「そ、そうですか……」

 何だろう、アキヒコ少年の目も「素材はいいのに……」って感じの目をしているぞ。ここは、話題をきりかえよう。

「ま、まあいい。それで、何処へ連れて行ってくれるんだ? 帝都では行けないような場所に連れて行ってくれよ?」

「は、はい。じゃあ、行きましょうか!!」

 アキヒコ少年も話題を変えたかったのだろうな。


 馬を厩舎から引っ張り出し、目指すは近くの川。なんで、川?

「魚釣りってした事あります?」

「いや、ないな」

 たぶん、無い筈だ。

「せっかく田舎に来たんだから、田舎らしい事をしましょう」

 田舎らしい事の一つが、魚釣りなのだろうか?


 川辺に大きな岩があった。高さは二メートルくらい、幅は五メートルくらいだろうか?今、その上に二人並んで腰かけている。

「餌をつけるのは、何度やっても慣れんな」

 なんで、こんな気持ち悪い形の奴を針に付けないといけないのだろう?

「ああ、アリスも嫌がりますね。餌をつけるのは」

 アリスも、か。それはそうだろう。女の子が嫌いそうな形をしている。

 餌をアキヒコ少年につけてもらう。うん、なんか、男の子って感じがするな。しかし、初デートが魚釣りってどういう事だろう?

「いやあ、デートついでに、今晩の食料とって来いって言われちゃいまして。世話になっている以上ノーとは言えないんです」

 釣り糸を川に垂らすが、なかなか上手く行かない。魚は餌だけを上手く食べて逃げていく。対してアキヒコ少年は結構な量の魚を釣り上げる。

 なんだか分からないけれど、悔しい。

「ビギナーズ・ラックはありませんでしたか」

 やれやれ、といった感じで首を横に振るアキヒコ少年。悔しい。

「まあ、でもこんだけ釣れました。今日はもう十分ですね。魚釣りはもうやめましょうか」

 くーやーしーいー!!

 アキヒコ少年が釣り上げた魚をアイテムボックスの中に入れるのを確認した後、私の怒りは爆発した。

 あまりの悔しさに、私はアキヒコ少年を川に突き落とした。だが、敵も只者ではなかったのだ。突き飛ばした私の右手をとっさに握り、二人同時に川に落ちる事になった。


 たいして深くない川だ。私たちの腰くらいの深さしかない。二メートルくらいの高さから落ちたからと言って、互いの身体能力を考えれば、どうという事はない。

 気が付いた時には、アキヒコ少年に覆いかぶさるような形になっていた。

お互いびしょ濡れになりながら、至近距離で見つめあう。

 そして、どちらからともなく笑いあった。

 ああ、こうやって同年代の人間と笑いあったのは、いつぶりだろう?

 なんだかおかしくなって、アキヒコ少年の顔に水をかけてやる。向こうも水をかけ返してきた。ふふ、楽しいな。なんだか、青春っぽい感じがするぞ。

 岩の上からは呆れたような表情でクリスが私達を見下ろしていた(後から考えるとそんな表情をしていた気がする)。

 バカ丸出しになった私たちの水かけ遊びは、地元のおじさんが近場に釣りに来るまで続いたのだった。


 その後は、近くの森の中を歩いた。森林浴ってやつかな?

 衣服に関しては、私がよく使う乾燥魔法(と、言っていいのだろうか? 少なくとも体系づけられた魔法ではない。学校では教えてくれないよ)をアキヒコ少年に教えてやった。だから、二人とも着替える事もなく、デートの続きをしていた。

 気が付けば、どちらからともなく手を繋いでいたようだ。

 

 そして、時々会話をする程度の手を軽く繋いだ程度のデートは、陽が沈むと共に、終わりを告げたんだ。






「セリーナさんめぇ!!」

 私の怒りは簡単にはおさまらない。

 夕食時には魚釣りを初めてしたけど、全然釣れなかった。でも、アキヒコと喋りながらする魚釣りはとても楽しかっただの、その後二人で水かけ遊びをしただの、楽しそうに喋ってさあ。しまいには、森の中を二人手を繋いで、ゆっくり歩き回っただって。

「アキは私のモノなのにぃ」

 別に、将来を誓い合ったとか、そんな事はまだまだなんだけどさあ。

「アリスお嬢様、あんまり怒り過ぎると、眉間に皺が残ってしまいますよ」

 優しくレティが諭すように言ってくれるけど、今の私の心には届かないんだよね。

「だいたいにして、クリスもクリスなんだよね」

 レティがお風呂上がりの私の髪を梳いてくれている。セリーナさんが来るまでは、この時、クリスが私の膝の上で寝息を立てていたのに。今はセリーナさんにベッタリなんだよねえ。クリスまで盗られちゃった感じがするよ。セリーナさんが帝都に帰る時、本当についていかないよね、クリスは? 不安だ。

 セリーナさんが悪くないのは分かっているんだけどさ。

 昼間なんて、本当に何で私が怒っているのか分からずにチキン南蛮を食べさせようとしてさ。父さんですら口をポカーンとしてたっけ。団長さんとジンさんは後々笑い転げていたなあ。


 夕食後には、私達をミスカトニック騎士養成校に入れたい、許可を下さいと父さんと母さんに頭を下げていたっけ。

 本気なのが分かった。私やアキ、レティだけでなく、父さんと母さんまで。

 だから、父さんと母さんは私たちが了解するのなら、という条件付きでセリーナさんの願いを認めていたっけ。

 アキは最初渋っていたけれど、「私を守る騎士になってくれるんだろう?」の一言で陥落した。

 次にレティは、「アリスお嬢様が行くのなら、私も行きます」と、私に丸投げしてきた。

 私はまだ、答えを出していない。

 まあ、セリーナさんはあと一週間近くレムリア辺境領にいるんだ。その間に答えは出せばいいんだ。

 それにしても、昼間ジンさんに言われた事は気になる。それが、どうしても胸に引っかかっているんだ。

「ああ、むしゃくしゃする!!」

 もういい、今日はもう寝よう。

 明日、出来ればセリーナさんと面と向かって話をしよう。

 レティは自室へと戻って行った。不安そうに私を見つめていたけれど、何でもないよ、と言っておいた。

 

 朝になった。

 皆で朝食を終えた。団長さんは蜥蜴丸が用意した例の装置で昨日のうちに帝都に帰っていったらしい。

 流石に皆の前で色々言うのは恥ずかしい。

 朝食後、なんとかセリーナさんに時間をとってもらおうと私は考えていた。

 しかし、セリーナさんは私の予想の斜め上を突きぬけていた。


「アリス、今日一日デートしよう!!」


 世界が凍りついた気がした。


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