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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
27/69

八番目の虹の色を見つける事が出来たかもしれません。

 目の前に立つは、死者の“王”ノスフェラトゥ。もう、夜だ。だいぶ力を取り戻したのだろう。最初、棺から出てきた時のインパクトは抜群だったけれど、力強さは感じなかった。今は、違う。かなりの力強さを感じる。

 もっとも、出てきた時と比べて、だけれど。実際、たいしたことはない。少なくとも僕にはそう感じられる。

 僕をこの世界に送り込んだリリス。彼女の力の一端を見た事のある僕からすれば、目の前に立つ“王”は、所詮カス。例えが悪いけれど、大国に吸収された小国の一地方領主(しかも、辺境)くらいにしか感じられない。いや、小国の一地方の小役人くらいか?

 はっきり言って、セリーナさんが本気で戦えば、彼女が勝つだろう。左腕を斬りおとされたのだって、冒険者が邪魔をしただけなのだから。

「蜥蜴丸、どのくらいで十分だと思う?」

 ゲームセットを片付け終わり、近付いてきた蜥蜴丸に問いかける。もちろん、ノスフェラトゥから視線は外さない。冒険者としては当然だね。

「第三段階で十分じゃないかね? 保険をかける意味で、第四段階まで行ってもよいぞ」

 第四段階? そこまで必要かな?

「この空間には現在、お前の第六段階までは何事もなく耐えられるよう、結界を張っておる。故に、気にせず力を解放するがよい」

 そうか、なら気にする必要はないな。

 少し離れた所でアリスの膝枕で眠るセリーナさんを見た。もちろん、ノスフェラトゥが動けないよう、闘気をぶつけておく。相変わらず可愛い寝顔だなあ。ほっぺをぷにぷにしたい。……おっと、これ以上変な事を考えるのはやめよう。しかし、アリスの膝枕……、羨ましい。

 まあいいか。とりあえず言える事は、そう長い間、セリーナさんをこんな所に寝かせておくわけにはいかない、って事だけだ。

「キモイ……、骨まで震えるね」

 おかしな寝言が聞こえてきた。その寝言に、僕も骨まで震えそうだった。

「ニンゲン風情が……、王を目の前にしてずいぶんと余裕だな?」

 ノスフェラトゥ、君は実に残念だ。目の前に立つ僕との実力差が分からないのかい?

「亡者どもを貴様らにぶつけても、たいして意味のない事は分かった。故に、感謝しろ。王である私自らが貴様らを蹂躙してやろうではないか」

 何か知らんが、語りだしたよ。じゃあ、僕はこのチャンスを活かそうじゃないか。

 イメージする。丹田に気を集め、己にかけられた何重もの鍵を一つずつ開けていく。慎重に、しかし素早く。時間はそう長くかけられない。鍵に繋がれた鎖が弾け飛んでいく。一つ。

孺子こぞう、貴様、いったい何をやっている?」

 二つ。答えてやる必要など、何処にもない。

孺子こぞう、貴様いったい何者だ!?」

 三つ。世界を滅ぼしかねないとまで言われた、人造魔道士だ。

「チィッ、死ねぇ!!」

 四つ。貴様程度の腕では、僕は殺せないよ。

 振り下ろされた魔剣を日本刀で受け止める。

 セリーナさんとお揃いの武器だ。もっとも、さっきまでゲーサンが使っていた武器とも日本刀というくくりでは同じだけれど。……何だろう、この幸せ感がすべて吹き飛ぶ感覚は。

 僕の解放された魔力が空間に行き渡る。クリスが僕の魔力を感知し、起き上がった。セリーナさんのお腹の上で「にゃあ」と鳴いた。そして、クリスを中心に数メートルの半径に新たなる結界が張り巡らされた。これで、セリーナさんとアリスは大丈夫だ。その結界内に慌てて蜥蜴丸が入り込んだ。空間自体に結界は張られていても、蜥蜴丸には結界が張られていないのだから、当然だ。

 ゲーサンは、僕の解放された魔力など、そよ風くらいにしか感じていないのだろう。動じる様子など見せず、トロピカルジュースを口に運んでいる。デッキチェアーの近くに、グラスがいくつも転がっている。何杯飲んだの? 僕にもくれよ。

 光属性魔法が日本刀を包み込む。やがて、それはノスフェラトゥの持つ魔剣へと伝わっていく。

 それを恐れたノスフェラトゥは、僕から大急ぎで距離をとる。

孺子こぞう、貴様も我が花嫁と同じように魔法を使えるというのか……?」

「俺の姫様を、花嫁扱いするなよ、殺すぞ」

 死者の“王”ならば、こいつ自身も死者、か。ならば、殺す事は不可能……? もう、死んでいるのだから。

「殺すのは不可能か。ならば、滅ぼしてやろう」

孺子こぞう、あの銀髪の女ならまだしも、貴様如きがこの私を殺そうというのか!?」

「セリーナさんの手を煩わせるまでもない。でも、まあ、お前にもチャンスをやろう」

 僕は懐から十G硬貨をとりだした。それを、左手の人差し指と親指に置く。

「合図だ。こいつが地面に落ちたら勝負開始と行こう」

 僕は、ノスフェラトゥが了解するのを待ち、親指で弾き飛ばした。

 高く、高く舞い上がる十G硬貨。地面に落ちるまで、十秒以上かかるだろう。

 だが、予想に反して、否、予想通りにノスフェラトゥは動いた。なんと卑怯者であろうか、それで“王”を名乗ろうとは、片腹痛いね。

 奴は右腕に握った魔剣を僕の左首筋に振り下ろしてきた。その魔剣が僕の首筋に触れようとするよりも早く、僕の日本刀が奴の心臓を貫いた。ところで、死者の心臓は、心臓たり得るのだろうか?

 蒼白き炎がノスフェラトゥの全身を包んでいく。

孺子こぞう……ッ!!」

「バカだな、硬貨コインが落ちるまで、お前がじっと待っているなど、俺が考えているわけないだろう? さようならノスフェラトゥ、君は“王”を名乗るには、役不足だったよ」

 役者不足が正しかったかな? まあいいさ。死にゆくモノへ、祈りを捧げよう。ああ、もう死んでいるんだったな。滅びゆく“王”へ、黙祷を。

 僕は日本刀をノスフェラトゥの体から抜き取った。その時、ようやく十G硬貨が地面に落ちた。

 それを合図に、僕はノスフェラトゥに背を向けて、歩き出す。振り返ることなく。

孺子こぞう、待て、殺してやるッ!!」

 しぶといな。

 ノスフェラトゥは、最後の命を燃やすかのように、魔剣を振り上げた。だけど、僕が日本刀を突き刺しただけだと思うのは、大間違いだ。

 日本刀を、鞘に納刀する。それと同時に、心臓部分に埋め込んだ“爆弾”が爆発する。セリーナさんが蝶仮面に使った技を真似たのだ。

 膨れ上がり、遂には爆発するノスフェラトゥ。彼の持つ魔剣は、僕に振り下ろされる事はなかった。そして、魔剣さえも蒼白き炎の中へ消えていった。


 ふー、と息を吐いた。解放された魔力を再封印する。いつまでも開放しているわけにはいかないからな。

 アリスたちの元へと近付いた。

「帰ろうか、地上に。僕たちの世界に」

「言葉遣い、戻っているよ」

 あ、本当だ。でも、いいか。無理して背伸びをする必要なんか、もうないんだから。

「素材や魔石の回収、どうする?」

「ワガハイとゲーサンでしておこう。先に戻っておれよ」

 蜥蜴丸の厚意に甘えておこう。

 僕は、アリスからセリーナさんを受け取り、背負って歩き出す。

「結構軽い……な」

 こんな華奢な体で頑張っているんだなあ。今の僕ではまだ、彼女を支えるなんて豪語は出来ないけれど。いつの日にか、いつの日にか自信を持ってセリーナさんを守ってみせると言えるように、自分を高めていこう。

 アリスの腕の中では、クリスが心配そうにセリーナさんを見つめていた。

 アリスは特に何も言う事なく、僕と並んで歩き出した。

 さあ、地上へ戻ろう。満天の星空がきっと、僕らを待っている。






 二匹の二足歩行をする蜥蜴が素材と魔石を回収してから数分後であった。

 棺だけは残っていた。豪華な棺であった。否、豪華な筈の棺であった。

 二匹の蜥蜴は棺の装飾に使われていた宝石をとれるだけとって、満足そうに頷いて玉座の間を出ていった。


 魂だけになっても、生き延びた存在があった。

 ノスフェラトゥだ。この棺に逃げ込めば、生き延びる事が出来る。少なくとも、傷を癒し、己のいた世界へ戻る事が出来るだろう。この世界を手中におさめる事を諦めるとしても。

 何とか先ほどの姿を取り戻した。とは言っても、姿を取り戻しただけで、魔力自体は一パーセント程度しか残っていない。今なら雑魚冒険者であろうと、彼を倒す事は出来るだろう。

「逃げるのか?」

 無惨な姿となったノスフェラトゥが、愕然として振り返る。

 彼の背後に立っていたのは――。

「きさま、か」

 己が花嫁に、と望んだ銀髪の少女だった。だが、違う。姿は同じではあるが、あの少女ではない。

「きさまも、いきのびていたとは、な」

 彼と同じく、異界の住人だった。彼とはまた違う世界から何故かこの世界にやって来た存在だった。

「違う世界から来た存在として、助言をしておこう。その棺には逃げ込まない方がいい。生きたいのなら、だがな」

 生きたい? そうだ、私は生き延びてみせる。いつの日か、またこの世界にきて、この世界を手にする為に。

「忠告はしたぞ。あの子が目覚める。私がこの場にいられるのももう少しのようだ。念の為言っておくが、貴様は強くない。私が貴様を封じる事が精一杯だったのは、宿敵との戦いの最中にこの世界に来てしまい、強さを取り戻す前だったからだ。貴様が“王”を名乗ったのは、間違いだったな」

 ノスフェラトゥの背後にあった、強烈な存在感が消えた。

 バカな、あの戦女神が私を封じるだけにとどめておいたのは、力を取り戻す前だったからだと、そう言いたいのか? バカな。だが、どうでもいい。

 今は、生き延びる事が必要だ。力を取り戻さなければ……!!

 棺にようやく辿り着いたノスフェラトゥの目に飛び込んできたのは、見た事もない物体だった。

 なんだ、コレは……?

 赤い数字が、四桁書かれている。そして、それは刻一刻と減っていく。

 0010、0009、0008、0007……。

 身の毛もよだつ恐怖感、というのはこの事だろうか?

 ノスフェラトゥは何とか逃げ出そうとしたが、彼にそれだけの力は残っていなかった。

 無情にも、カウントダウンは進む。

 そして、全てがゼロになる。

 純粋な爆発と、それに混じった聖属性魔法が、空間全てを支配した。

 ノスフェラトゥは、己が魂ごと、存在ごと消滅するのを感じた。






「クカカカ、科学と魔法の融合、それはワガハイの生涯の研究課題なり」

 死者の都の何処かで、茶色の細身の蜥蜴が呟いた。

 笑顔であった。そして、それはとても邪悪な笑みであった。






 自分の体が揺れているのを感じる。

 目が覚めた。なんだろう、先程まで自分の体に、魂にぽっかり穴が開いていたように感じていたけれど、今はまった、完全な形を取り戻したかのような、そんな感じがする。

 目が覚めてから、意識がしっかり覚醒するまでに十数秒かかった。

 どうやら、アキヒコ少年に背負われているようだ。

「しょ、少年、降ろせ!! 自分で歩ける!!」

 恥ずかしさのあまり、叫んでしまった。

 う、叫んだだけでもフラフラする。

「あ、セリーナさん、目が覚めたんですね。ダメです。降ろせませんよ。今のセリーナさん、どう見てもフラフラじゃないですか」

 言われれば、確かに。まともに歩けないかもしれないな。

「ここは、何処だ? 月が見えないな」

「何言っているんですか? まだ、ブリュージュですよ。月が見える筈ないじゃないですか」

 横からアリスに声をかけられた。腕の中にはクリスがいる。今は寝ていないようで、私の方をじっと見ている。可愛いなあ。

「アレ? ノスフェラトゥは?」

「倒しましたよ、僕が」

 倒した? アキヒコ少年が? しかし、そんな事はどうでもいい。アキヒコ少年がそう言うなら、正しいのだろう。気になる事は、そんな事じゃない。

「“僕”? “俺”は、どうした?」

「似合わないって言ったのはセリーナさんじゃないですか。僕も、背伸びはやめる事にします。まあ、まだ十五ですから」

「“俺”でいいのに……」

「何です?」

 小声だったから聞こえなかったのだろうか。

「なあ、少年、いや、アキヒコ」

「何です?」

「私を守る騎士になる、そう言ってくれたな?」

「え、ええ。言いましたよ」

「今でも、そう思っているか?」

「もちろん。セリーナさんってなんだか危なっかしいから」

 危なっかしいって思われているのか? 仕方ないのかな。

「よし、言質はとったからな。来年、ミスカトニック騎士養成校を受験しろ。それで、名実共に騎士になってもらうからな。卒業後は、帝都騎士団だ」

「ええッ!?」

「ちょ、ちょっとセリーナさん、私たちは冒険者に……」

「何言っているんだ。アリスも一緒だぞ。もちろん、レティも誘ってやる。推薦状はもちろん私が書いてやるからな」

 ダーレス卿やエミリアさんに承認してもらうのが一番難しいかもしれんが、なあに、何とかしてみせる。

「いや、僕がなりたいのはセリーナさんの騎士であって国の騎士というワケでは……」

「なんだ、お姉さんに嘘をつくのか?」

 少しからかおうかな?

 今まで以上に少し力を込めて抱きつく。ついでに息を耳に吹きかけてやろう。

「わ、やめてください。恥ずかしいですよ。分かりました。ミスカトニック騎士養成校、受けます。だから、耳に息吹きかけないで」

 オチタな。

「だ、ダメです。認めませんよ!!」

 アリスが反対しているようだけど、私はみんな手に入れてみせる。特にアキヒコ、君をな。




 ああ、これが恋、なのかな?

 相手は年下の少年、か。でも、悪くない。

 夏の終わりに、私は“八番目の虹の色”を見つける事が出来たのかもしれない。


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