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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
25/69

扉の向こうに待っているのは、なんでしょう?

 目を覚ました時、もうそこまで、夜が来ていた。太陽はほぼ沈みかけていた。これからは、死者の時間だ。

 左腕を確認すると、しっかりと繋がっていた。動かしてみたが、ちぎれて飛んでいくなどという事はなさそうだった。

 アリスの柔らかな膝枕に別れを告げて、起き上がる。何事も無ければ、まだまだ満喫したのに!! 残念で仕方ない。お腹の上で丸くなっていたクリスを抱きかかえてみたが、この程度の重さでは左腕は何ともならないようだ。参考にはならないな。

 どうやら連れてこられたキャンプ地からは動かされてはいないようだ。アキヒコ少年と蜥蜴丸、ゲーサンの姿は見当たらない。気配を探知してみると、近くにジンやダーレス卿、エミリアさんの気配は感じられる。

「私はどれくらい眠っていたんだ?」

「三時間くらいでしょうか? 夏だから、陽が落ちるのが遅いんですよ」

 今まで黙っていたアリスが声をかけてくれた。

「少年たちは?」

「もう一度、ブリュージュに向かいましたよ。ノスフェラトゥを倒す為に」

 やはり、か。アキヒコ少年は強い。ゲーサンもだ。蜥蜴丸は全然わからん。彼らであれば、ノスフェラトゥなど恐れるに足らないだろう。

 だが、私としてもここで彼らの帰りを待つだけ、というわけにはいかない。私は国と民を守る騎士なのだから。騎士である私が、ただ守られるだけの、帰りを待つだけの存在になるわけにはいかない。

「ならば、私もブリュージュの最奥に向かう。ここで彼らの帰りを待っているだけ、というのは性に合わないからね」

 振り向いてアリスに向き直る。何で下を向いているの? 泣きそうな表情カオで。

「そう言うだろうな、と思っていました。でも、行かせるわけにはいきませんよ」

 何で、今にも泣きそうな声でそんな事を言うの?

「だいたい、セリーナさん今、戦えるんですか?」

 心外だなあ。戦えるよ。戦えるから死地に向かうんじゃないか。

「戦えるよ」

「じゃあ、構えてください。セリーナさんを試します」

 アリスの闘気に驚いたのか、私の腕の中にいたクリスが肩の上に登って来た。近くに置いてあった日本刀を腰に差し、抜刀しようとする。だが、右腕が動かない。左腕も、震えている。何に? 目の前に立つアリスに、だ。アリスの闘気に私が動けないでいる、それどころか恐怖を感じているのだ。て、天使に恐怖を感じるだと……?

「な、何で……?」

「おそらく、蜥蜴丸が注入した“スグナオール”の副作用ですよ。傷を治したりする代わりに、精神的にダメージを負う事があるらしいです。セリーナさんの場合はそれが恐怖心という形で現れたのでしょうね」

「“スグナオール”の副作用? そんなの聞いていないぞ!!」

 き、聞いてはいない筈だ。教えてもらわなかったよね、そんな事?

「インフォームド・コンセントの概念なんて、蜥蜴丸に求めても無駄ですよ」

 インフォームド・コンセントって、何だろう? 知らないのがばれると恥ずかしい気がするので、聞かないでおこう。私の記憶があやふやなのか、ただ単にこの世界では聞かない言葉なのか、分からない。後で、蜥蜴丸からもらったタブレットPCで検索をかけよう。

「恐怖心、か。それが私の体を支配している、そう言いたいんだね、アリスは」

「ええ、力のバランスが悪そうな今なら私相手でもひるむかもしれないと思い、挑発してみたんですが……。どうやら、試してみて正解だったようです。私を相手にしただけで恐怖心に負けるなんて、ブリュージュに向かったところで足手纏いにしかなりませんよ」

 私が足手纏いだと……? 

 戦う事に恐怖しているのか、それともアリスに恐怖しているのかどちらだろう?

 近くを通りがかった冒険者がいたので、ちょっと闘気を出してもらう。

「ぬおおおおお!!」

 何か目の前でオッサンが叫んでいるようにしか見えない。便意でもこらえているのかな? とりあえず、何ともない。これ以上続けてもらうと、ぶん殴るどころでは済まなくなりそうだったので、礼を言って、持ち場に戻ってもらった。

「どうやら、誰にでも恐怖を感じる、というワケではなさそうだ。ある程度の強さを持った相手以外には恐怖を感じないという事だろう。だから、大丈夫だ。足手纏いになどならないよ」

「なんで、そんなにブリュージュに向かいたがるんですか!? アキたちに任せておけばいいんですよ!!」

 どうして、そんなに頑なに私を行かせたがらないのだろう?

「だって、私は騎士だからな」

「答えになっていませんよ!!」

 だから、何でこんなに泣きそうな表情カオをしているんだろう?

「まあ、聞いてよアリス。私は、騎士だよ。国と民を守る義務があるんだ。そして、アキヒコ少年はこの国の民だ。だから、彼もまた守るべき存在なんだ」

 蜥蜴丸とゲーサンは、どうでもいいよね? だって、守る必要性を感じないんだもの。

「ただ、帰りを待つだけなんて、そんなのお姫様にでもやらせればいいんだ。戦える状態なのに、十五歳の少年に任せて安全なところでガタガタ震えている? そんなのは、私のプライドが許さない。守られるだけなんて、私が私を許せそうにない。私でいられなくなってしまう」

 何か驚いたような表情になるアリス。やっぱりおかしい。私が眠っている間に何かあったのだろうか?

「でも、足手纏いになってしまいますよ?」

「雑魚相手なら戦えるさ。それに、危なくなったら、少年たちが守ってくれるだろう。なんてったって、わ、私の、き、騎士なのだからな」

 凄く恥ずかしい。こんなにドモルとは。

「止めても、無駄ですか?」

「もちろん」

 この程度で行くのをやめる、なんて言うくらいだったら、最初からここで皆の帰りを待っているよ。

「だいたい、道中だって恐れるモノは何もない、そうだろう?」

「なんでそんなに自信満々なんですか?」

「だって、アリスがついて来てくれるのだから。私の背中、アリスに預けるよ」

 なんで、顔を赤くして俯くのだろう?

「卑怯ですよ、その笑顔は」

「……額に“肉”って、また書いたの? だから、さっきから泣きそうな表情カオしていたの? ずっと、笑いをこらえていたの?」

 なんて事だ。今まで真剣にアリスの問いかけに答えたりしてきたのに、ずっとコメディーを演じてきたのか、私は?

「そんなわけないでしょう!! 分かりました、行きますよ、一緒に」

 なんだ、額に“肉”って書かれていたわけじゃないんだ。良かった。

「じゃあ、行こう、相棒!!」

 つい嬉しくなって“相棒”なんて呼びかけてしまった。ジン以外にこの言葉を使った相手は、いたかな?

 左手でアリスの右手をつかんで歩き出す。

 後ろで、溜息一つ。

「分かりました。止めても無駄なようですね。ここで無理やり止めたりして一生セリーナさんに恨まれたりしたらたまりません。一緒に行きましょう。“死者の都”ブリュージュへ」

 アリスは本当にいいだなあ。色々終わったら友達になってくれないか頼んでみよう。なんだか、アリスとなら生涯の友になれそうな、そんな気がする。


「行くのか、やっぱり?」

 ブリュージュの入り口近くまで来た時、ジンに声をかけられた。

「ああ」

 私が目覚めたらブリュージュに向かうだろう、そう考えていたジン相手なら、この返答だけで十分だ。

「アリス、ついていくのかい?」

「セリーナさんを一人で行かせるわけにはいかないから。行ってきます、父さん」

 ダーレス卿とエミリアさんとアリスが少し離れた所で会話をしている。アリスを無傷で帰します、そう言おうと近付いた。

「セリーナ、無事に戻ってきなさい。クリスもよ、いいわね?」

 エミリアさんに先に無事を祈られてしまった。私の左肩の上でクリスが鳴いた。無事に戻って来るよ、そう言っているように聞こえた。

「はい、何かあった場合はアリスだけでも無事に帰してみせます」

「貴女も、二人とも無事に帰ってきなさい。アキヒコは男の子だから多少怪我していても構わないから。蜥蜴丸とゲーサンは、まあ、自力でどうにかするでしょう」

 エミリアさんにも蜥蜴丸とゲーサンは別格に扱われているようだ。

「はは、分かりました」

「万全の状態ではないんだ、無理だけはするなよ」

 ダーレス卿エミリアさんも私が万全の状態ではないのは見抜いているようだ。仕方がないか。

「はい」

「では、行ってきなさい。そうだな、何を見ても驚かないように」

 かける言葉を間違えていないだろうか?

「そうね、慣れる事が必要よ」

 なんに慣れる必要があるのだろうか?

「じゃあ、行ってきます」

 うーん、何だかしっくりこないのだけれど。




「いいんですか、行かせても?」

 ジンがダーレス夫妻に声をかけた。彼はセリーナがブリュージュに向かうと言うのなら付き合うつもりでいた。が、もし彼女が行くと言えば、アリスがついていくだろう。君がついていく必要はない、そうダーレス夫妻に言われたのだ。確かに、アリスの強さは彼も認めてはいたが。

「なに、問題はないよ」

「そうねえ」

 大丈夫かな、この二人は? この二人、特にダーレス卿は凄腕冒険者に数えられるジンですら強さの底は見抜けないでいるが。

「途中までは三人が掃除をしっかり済ませているだろうからね」

「心配しても、無駄なのよねえ」

「セリーナ君も知るだろう。彼らは一人だけでも十分に非常識な存在だ。三人そろえばなんとやら、だ」

「変なショック受けなければいいんだけれどねえ」

 ジンはツッコミは入れない事にした。確かに、ジンから見てもあの三人は非常識な存在であるからだ。




 ブリュージュに再度入って、走り出す。

最初の宝物庫までやって来た。私はここで一つの決断をする事にした。

 宝物庫の中の宝物は何一つ手を付けられていない。私の記憶の中にある通りだ。もっとも、完全とは言い難いので後でアキヒコ少年に写真を見せてもらわないといけないかもしれないが。

 だが、一つだけ例外があった。

 そう、蝶仮面である。

 アイテムボックスの中から蝶仮面を取り出し、本来それが安置されていた窪みに蝶仮面を置こうとする。

 しかし、いいのか、手放して? ここで手放してしまえば二度とコレを手にする事はないかもしれない。

 そう、私が蝶人になる事は出来なくなるかもしれない。

 どうせ、誰も見ていない。ならば、そう、ここで蝶人になればいいのではないか?

 彼(?)が、語りかけてくる。

「YOU、MEをかぶっちゃいなよ。新世界の扉をMEと一緒に開こうじゃないか!!」

 そうだな。新世界の扉を開くのは今だ。さあ、かぶるぞ!!

 あと数センチ、蝶仮面が私の顔まで数センチにまで迫った時だった。蝶仮面にかかる私の鼻息が反射してくる。鼻息荒い、という表現がぴったりくる感じだ。

「何やっているんですか!! さっさと置く!!」

 孤独な空間にいた筈の私の手から、蝶仮面は抜き取られた。

 そして、乱暴に窪みに置かれた。なんか、「バキッ」みたいな、そんな音が聞こえた。悲鳴が聞こえた気がした。「痛いよ、痛いよ」、彼(?)が、そう私に訴える。

「はあ、私がついてきて正解でしたね、まさかこんな所で時間をかける事になるとは思いませんでしたよ」

 アリスがいたのか!? 危ない瞬間を見られるところだった。もう、十分危なかったかもしれないが。

「さあ、さっさと行きますよ!!」

 私はアリスに手をひかれながら、後ろ髪をひかれる思いで宝物庫を後にした。

 だが、いい。これでいい。

 私はもう二度と蝶人になりたい欲求に苛まれる事はないだろう。

 さよなら、蝶仮面。冥福を祈っているよ。




「MEは諦めないよ。いつか、YOUを蝶人にしてみせるYO!!」

 そんな声が聞こえた気がした。私以外には聞こえなかったようだ。空耳である事を願おう。




 最奥、扉の前までやって来た。結構時間がかかったな。戻ってくるアキヒコ少年たちとは出会わなかった。まだ、この奥にいるのだろうか?

 分厚い扉のせいか、中の音は聞こえてこない。

「セリーナさん、中で何が行われていても、驚いちゃダメですからね」

「おいおい、私を脅す気か?」

「あの三人には、私たちの常識は通用しませんよ。いいですね?」

 大抵の事には驚かない自信があるよ、私は。

 左肩の上でクリスが鳴いた。私も驚かないよ、そう言っているように感じた。

「では、行きましょう」

 二人で扉に手をかける。

 扉の向こう、待っていたのは――。


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