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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
24/69

セリーナさんの秘密を少しだけ聞いてしまいました。

 もうすぐ、陽が沈む。これからは、死者の、彼らの時間になるだろう。

 アキたちが“死者の都”ブリュージュに再度挑んでからもう、一時間は経つだろう。

 でも、あの三人だから、今はもう最初の意気込みは何処へ行ったのか、たぶんふざけまくっているだろう。蜥蜴丸が率先してふざけて、アキもたぶん、最初は真面目に頑張ろうとするけど、気が付けば蜥蜴丸のペースに巻き込まれているだろう。

 セリーナさんの寝顔を見下ろしながら、絶対に間違えてはいないだろうな、そんな確信を私は抱いていた。

 それにしても、セリーナさんの寝顔は可愛い。私より二、三歳は上の筈なんだけど。流れるような銀髪が目にかかりそうだったので、少しかきあげてみた。馬車の中では悪戯心が働いて、アキに以前教えてもらった“肉”という字を額に書いてしまったけれど、流石に今書くわけにはいかない。

規則正しく上下する胸を見て、スタイルが抜群だという事を改めて認識する。羨ましい。私もあと二、三年したらここまで成長するかな? 成長すればいいな。

 そして、一番不思議なのが、クリスだ。蜥蜴丸が宇宙ナノマシン“スグナオール”をぶち込んだ時は物凄く心配そうにセリーナさんを見ていた。だが、今はセリーナさんの傷も癒えたので心配はしていないのだろう。セリーナさんのお腹の上で丸くなって寝息を立てていた。幸せそうだ。

 クリスが私たちの家族の一員となったのは、アキがこの世界にやってから数か月後だ。アキにくっついて我が家にやって来てから、アキが何度出会った場所に戻してきても彼にくっついて我が家へと戻って来たため、父さんと母さんが家で飼う事を許したんだっけ。でも、一番早く懐かれた母さんですら数日間かかっている。レティなんて、我が家で働きだしてから一か月間近く懐かれるのに時間がかかっている。ちなみに、父さんが懐かれたのは半年後だ。男には簡単に懐かないらしい。アキだけが特別だ。蜥蜴丸とゲーサンに懐いているかは不明だ。

 それなのに、セリーナさんは出会った初日に懐かれている。おかしい、どう考えてもおかしい。

 クリスを見つめて懐かしい想いと疑念にひたっている時だった。

 空間が歪んだ。まるで、ノスフェラトゥが異界から亡者たちを召喚した時のように。

 ただ、嫌な感じはしない。今まで眠っていたクリスが、弾かれたように顔をあげた。

「にゃ、にゃ」

 嬉しそうに声をあげる。これだけクリスが嬉しそうな声をあげる相手は――。

「お、アリスではないか。久しぶりじゃな。クリス、元気にしておったか?」

 声をかけられたと同時に声をかけた相手に飛びついたクリス。相手の顔に頬をこすりつけている。限界じゃないかと思わせるくらい目が細まっている。

 歪んた空間は元に戻っていた。

 白いゴシックロリータ(とか言うらしい)ファッションに身を包んだ、軽いウェーブのかかった金髪を靡かせたリリスと名乗る少女がそこに居た。


「ほう、つまりそのノスフェラトゥなる死者の“王”を名乗る男が目覚めた、と。そして今ブリュージュの最奥にアキヒコと蜥蜴丸、ゲーサンが向かったと。そういう事じゃな?」

 この見た目は私と同じくらいの年だが、多少年寄りくさい喋り方をする少女こそ、アキヒコをこの世界に送り込んだ張本人だ。まあ、そのおかげで私はアキと出会えたのだけれど。

「うん、ねえリリス、アキたちに助太刀をお願いできないかな?」

 リリスは私の意見を聞く気があるのかないのか分からない。クリスに頬を擦り付けられ、迷惑ながらも嬉しそうだ。クリスにとっては、彼女が母親同然なのだから仕方ないだろうけど。

「いやじゃ」

「いやじゃって……」

「面倒くさいし、何より必要ない」

 必要ない?

「我輩が探ったところ、はっきり言って我輩が出張らなければならぬほどの強さを持ち合わせておらぬ。アキヒコと蜥蜴丸、ゲーサンが揃っているのなら三人で事足りるじゃろう。だいたい、今日は少し様子を見に来ただけじゃからな。アキヒコの調子はどうかな? 魔力が暴走したりとか、そういう事はないかのう?」

「なさそうだけど……、有ったとしても、たぶん蜥蜴丸が何とかしているよ」

 それよりも、ノスフェラトゥ、そんなに強くないのかな? まあ、目の前に座ってクリスに懐かれて少し辟易しているこの少女は、世界を滅ぼしかねないと言われたアキをして足元にも及ばないと言わしめた存在だ。彼女から見れば大抵の存在が雑魚扱いなのだからしょうがないだろう。

「そうか、ならば良い。今日はアキヒコに会わずに帰るとしよう。クリスも調整はもう終わらせておいた。暫くは何事も起こらないだろう。普通に猫として飼ってくれればよい」

 クリスの見た目は完全なる猫だけれど、実際はリリスの造りだした魔法生命体だ。こうして、時々調整に来てくれる。そうしないと、たまに調子が悪くなるらしい。

「そのノストラダムスだったかなんだか知らないが、そんな奴より興味をひく者が今我輩の前にいる。この銀髪だ」

 ノストラダムスって、蜥蜴丸とおんなじボケをかましているよ。教えてあげた方がいいかな? セリーナさんは蜥蜴丸がそう言った時、ソレが蜥蜴丸のボケとは理解できなかったみたいだけど。

「セリーナさん?」

 セリーナさんがリリスの興味をひく程の存在?

「ふむ、セリーナというのか。しかし、この魂……、もしや……?」

 リリスが迷っている。何だろう?

「我輩と近しい存在とよく似た魂を内包しているようにも感じる。もっとも、確証はないがな」

「リリスと近しい存在?」

「うむ、我輩とよく似た魂を無理やり人間という魂で包んでいるような、そんな感じじゃ。ちなみに、強さで言えばおそらく我輩と同格じゃな。アキヒコですら太刀打ちできんじゃろう。いつの日か、この銀髪の魂が破られたら、我輩と近しい魂がこやつの肉体を乗っ取るかもしれん。何とかしてやりたいが、かなりの状態で魂同士が融合しているようにも見える。簡単に手を出すわけにもいかん。簡単に手を出した結果、この銀髪の魂もしくは意識が消滅してしまうかもしれん」

 セリーナさんの魂が、意識が消滅する?

「そうそう、クリスが懐いているという話じゃったな。この女に封じられている魂は、おそらくじゃが我輩の家族と言っても差し支えない存在。故に我輩の魂を分け与えて造ったクリスが懐くのも仕方がない。だから、我輩も限界まで手を出さぬ」

 そう言って、クリスをセリーナさんのお腹の上に置いた。

「まあ、とりあえずエミリア達に挨拶をしてから帰るとしよう。お主はここで、アリスと一緒にこの女を守るんじゃぞ?」

 「にゃっ」と鳴いたクリスを確認してから、リリスは立ち上がり、父さんたちのいる方へと歩いていった。クリスは十分甘えたと判断したのか、セリーナさんのお腹の上でまた寝息を立て始めた。

 セリーナさんがリリスと近しい存在をその魂に内包している? いったいどういう事だろうか?

 そう言えば、呼吸をするように魔法を扱っているのは、そのせい……? 

 そして、魂が消滅、もしくは意識が消えるのなら、セリーナさんという存在はその時、どうなるのだろう……?


 その後、リリスは母さんと父さんに軽く挨拶をした後、また遊びに来ると一言残してからさっさと帰って行ったらしい。見たいアニメがあるトカ何トカ言っていたようだ。

 色々な謎だけを残して、リリスは突風のように去って行った。


 いったい、この女性ひとは、セリーナさんは何者なんだろう?

 まあ、何だろうと付き合い方を変えるつもりはないけれど。





 ジンさんやオーガストさんに見送られた後、僕たちは再度“死者の都”ブリュージュへとやって来た。

 さっさと終わらせて帰らないと、セリーナさんが心配するだろう。だから、早く最奥へと向かおう。そして、玉座にふんぞりかえっているだろうノストラダムスをぶちのめそう。全てはセリーナさんの為に。

「全速力で最奥に向かうよ。いいね、蜥蜴丸、ゲーサン」

「げっげげ」

 どうやら、ゲーサンは賛成してくれているようだ。長い付き合いだから、多少は彼の考えている事が分かる。もし違っていたとしても、今回は賛成してくれていると思う事にしよう。

 だけど、蜥蜴丸は違った。彼はこんな時でも通常運転だ。

「いやいや、そんな熱血漢みたいな真似、ワガハイがすると思うのかね?」

「え?」

「げげ?」

 おかしい、熱血漢だと? 違うぞ、僕が目指しているのはクール系。夢を熱く語るなんて、恥ずかしいじゃない。そう、僕を突き動かすのは恋心……、自分で考えておいて何だけど、超恥ずかしい。

「いやいや、それでも出来るだけ早く終わらせなければならないでしょ? そうしないとセリーナさんが起き上がるまでに終わらせる事出来ないじゃん」

 うん、熱血漢じゃなくても、それくらいは考えるよ。セリーナさんが起きるまでに終わらせて、彼女の寝顔を眺めていたい。それくらいのご褒美、あってもいいんじゃない?

「だいたいアキヒコよ、銀髪がいつ起き上がると思っているのだね?」

「え? そりゃ、後二、三時間したらじゃない?」

 そんくらいのもんじゃないかな?

「貴様、バカだな。もう何年の付き合いだと思っているのだ? ワガハイが“スグナオール”ぶち込んだやつを何人見てきたのだ?」

 何人かな? 三桁は行っていないと思うのだけれど。アレ、もしかして、結構見てきたのかな?

「その中で、二、三時間で目が覚めた奴などいたかね?」

 そう言えば、いなかった気がするな。目覚めるのが一番早かったやつでも半日はかかった気がするな。

「つまり、貴様の言う銀髪が起き上がるまでに決着ケリをつけるとするのなら、だ。半日は余裕がある。何も慌てる必要など何処にもないというものよ」

 そう言われれば、確かに。半日はあるのか。

 いやいや、ダメだダメだ。こうして、蜥蜴丸のペースに乗せられてはいけない。

「だいたいアキヒコ、貴様早く終わらせたいのは銀髪に褒められたいからではないのかね? どうせ、頭なでなでされたいトカ、あの胸に顔をうずめたいトカそんな下心満載で頑張ろうとしているのであろう?」

 確かにあの柔らかそうな胸に顔をうずめる事が出来たのなら、きっと幸せだろうな……って、何を考えているんだ、僕は?

「お、俺がそんな事考えるわけないだろう!!」

 バレバレな気もするけど、否定しないわけにはいかない。

「ならば、急ぐ必要もあるまい?」

「そ、そうだな、急ぐ必要などないな!!」

 アレ? 言いくるめられている?

「いやいや、蜥蜴丸に言いくるめられたりしないぞ? 早く行くぞ!!」

 何とかきりぬけた。蜥蜴丸が舌打ちしているけれど、聞こえないふりをしよう。


 そして、まず宝物庫に辿り着いた。

 ここには、何もない。だから、さっさと走り抜けよう。

 宝物庫の扉を開けた僕たちの視界に飛び込んできたのは、大量の亡者の群れだった。

「えええ!?」

「フム、ワガハイらの再侵入に気付いて、もしくは再侵入に備えてノストラダムスが大量に召喚したのかもしれんな。時間稼ぎの為に」

 マジかい?

 とりあえず、目の前に来た亡者を光属性魔法を纏わせた日本刀で斬ってみる。セリーナさんがやっていたのを見て、真似てみたのだ。

 お、素材と魔石をドロップしたぞ。例え異界から召喚された存在であっても、この世界の法則に従わなければならないのだろう。

「稼ぐか、素材と魔石」

「そうだな、時間は大量にあるのだから」

 この時、僕の脳裏の大半を占めていたのは、セリーナさんへの下心ではなく、金銭欲だった。大量に集めて、換金しよう。蜥蜴丸のネットワークを使えば、素材がこの近辺に大量に集中することで価値が下がるなんて事もそうはないだろう。

 僕は、蜥蜴丸に言いくるめられたことに気付かなかった。

「クカカカ、ノストラダムスなど、恐れるに足らず」

 それ、ボケじゃなかったんだね。




「実に操りやすい」

 亡者を相手にしている時、そんな声が後ろの蜥蜴丸の口から発せられた気がした。

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