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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
20/69

新世界の扉を開くのは、いつになるでしょう?

 さて、これからどうするかな。“王”が目覚めようとしている最奥へ向かわなければなるまい。だが、その前に――。

「少年、先程撮っていた動画とやらを消せ」

「嫌です。セリーナさんの勇姿は俺の宝物です。消すなんてもったいない」

 た、宝物だと……? そ、そこまで言ってくれると悪い気はしないな。

「ならば、少年が持っている『お姉さんが教えてア・ゲ・ル♡』と『私、甲冑脱いだら凄いんです』を渡せ。それなら許してやろう」

「そっちも渡しませんよ。あれも俺の宝物です」

 おいおい、私の勇姿とスケベ本は同レベルなのか、君にとっては? もっと見たくなってきたじゃないか、スケベ本!!

「バカな事言っていないで、これからどうするかを話し合いませんか?」

 私たちがくだらない事を言い合っている時にため息交じりにアリスが口をはさんできた。

 そうだな、確かにここで揉めててもしょうがないか。なあに、古代遺跡調査が終わったら暫く休暇をとっていいのだ。つまり、アキヒコ少年からスケベ本を借りるチャンスはいくらでもある。動画は、どうしよう? カッコよかったら残してもいいかな……?

「フム、では、どうしようか? 全員で先に進むか、それともいったん全員で引き返すか」

 とりあえず考えられるのはこの二つだな。

 “王”とやらがこの先待ち受けているというのなら、はっきり言って戦力に数えられない冒険者達を連れて行っても、役には立たないだろう。

「いったん、俺が冒険者の皆さんを連れて戻りましょうか? オーガストさんたちに早めにこっちまで来てもらうように伝言を頼めますし」

「アリスと少年も戻っていいぞ。“王”とやらが目覚めるなら、厳しい戦いが待ち受けているかもしれない。冒険者として活躍しているからと言っても、十五歳で世界をどうこうなんて戦いに参加するなんてどうかしているぞ」

 そうだ、十代半ばくらいで世界を救うなんて戦いに強制参加なんてとんでもない。アレ、私も十代じゃないか。ああ、十代後半ならいいかな?

「ダメですね、セリーナさんが無茶しないか見張り役も必要です」

「あ、それに関しては同意見」

 アリスに続いてアキヒコ少年にも言われてしまった。私はそんなに無茶しそうな人間に見られているんだろうか?

「セリーナさん、一人だったら絶対にあの蝶仮面かぶっていましたよね?」

「俺もそう思うなあ。止める人間がいなければ暴走しそう」

 ハハハ、バカな、そ、そんな事、あるわけないだろう? おかしい、考える事が震えてしまう。言い当てられた、と無意識のうちに思ってしまったのか?

 くそう、一人でこの先に行く事は禁じられてしまった。私はタダ、二人を危険な目に遭わせたくなかっただけなのに……。


 結局は冒険者の皆さんにはいったん先に戻ってもらう事になった。

 アキヒコ少年についていってもらい、ダーレス卿たちへの連絡を頼む。ダーレス卿とエミリアさんが参加してくれればかなりの戦力になる事は間違いないのだが。

 アキヒコ少年が冒険者達を連れて古代遺跡を抜け、また戻ってくるまで、私たちは先ほどの通路で休憩をする事にした。

 傷も回復魔法で治しはしたけど、思ったより血液を毒素と一緒に排出したようだ。少しふらつくな。

 という言い訳を使い、アリスの膝枕を今日も堪能させてもらった。

 クリスがようやく私の頭から降り、今度は私のお腹の上に移った。そして、私の左腕をちょろちょろと舐めだした。おお、傷のあるあたりからなんか清廉な気の流れが入り込んできた気がする。体のだるさも少しとれた気がするな。やはり、クリスは普通の猫ではないな。可愛いから多少違おうがなんでもないがね。

「ああ、いいなあ、こう、陽の当たる場所でアリスの膝枕で寝て、お腹の上にクリスがいたら最高にいい気分だろうな」

 本心からそう思うよ。

「なんで敵地にいるというのに、セリーナさんはこんなにふざけているんでしょうね?」

 ふざけてなんていないのに。

「今のところ、この通路に私達に敵意を持つ存在はいないからなあ。それに、たいしたことのない敵ならアリス一人で十分だし。どんな場所でも気を張り詰めていたら、最奥まで持たないよ」

 ここには今、アキヒコ少年や冒険者達もいないからな。まったりしたって罰は当たらないだろうよ。

「だいたい、知り合ったばかりなのに、私やアキを信用し過ぎじゃないですか?」

「信用し過ぎ? そう言われれば確かに」

 うーん、何でだろうねえ?

「少年やアリスを信用するのに理由はいらないよ。まあ、強いてあげるなら私に対する敵意を感じられないから、かな? 後は、そうだな……、君たちからは優しい雰囲気を感じるからかな」

 私が人の雰囲気みたいなのを感じるようになったのは、いつ頃からかな? 団長に会う前? 団長に会った後? アレ、団長に初めて会ったのはいつだ? 昔の事を思い出そうとすると靄がかかっているように感じる事が結構あるな。まあ、今は何の関係もないか。

「優しい雰囲気、ですか?」

「そう、優しい雰囲気。なんて言うかな、アキヒコ少年はちょっと違うけど、アリスはお日様ポカポカ、そんな感じ」

 アリスは暖かい太陽、そんな感じかな? アキヒコ少年はどちらかと言えば月かな? 私は、何だろう?

 傷口を舐めていたクリスもあきたようで、優しい寝息を立て始めた。私もなんだか眠くなってきたな。この、優しい雰囲気は私をダメにもしてくれるし、強くもしてくれる、なんだかそんな気がする。

「ゴメン、アリス、少し寝る。お休み」

 ああ、少しの間眠らせてもらおう。この優しい雰囲気の中で。

「ふふ、お休みなさい」


 一時間、二時間? それくらいは眠っただろうか?

 近付いてくる足音に私は目を開いた。私を膝枕しながらアリスも少しウトウトしたのだろう、頭が上下に揺れている。

 アリスの膝枕に別れを告げて、私は体を起こした。

「おはよう、アリス。そろそろ少年が戻って来るよ」

「ああ、おはようございます……? 私も少し眠ってしまっていたみたいですね」

 私たちは優しく微笑みあった。うん。アリスはいい笑顔だねえ。お持ち帰りしたい。アリスは何故少し頬を赤くしているのだろう?

 数分後、アキヒコ少年が戻ってきた。

「すみません、遅くなりました!!」

 しかし、息をきらしながら戻ってきたアキヒコ少年が見たのは大きく伸びをしている私と、私の頭の上で眠っているクリス、そしてまだ頬を少し赤くしているアリスであった。

「なんだろう、この雰囲気……、二人の間に何があったの? もしかして、これが噂に聞く百合……?」

 百合とは、何だ? そして、何故慌てるのだ、アリスよ?

「ち、違うよ、そんなんじゃないから!!」

 慌てて百合なるモノじゃないと否定するアリス。だから、百合って何だよ。

「さあ、先に行きますよ!!」

 何故かアリスが先頭に立って歩き出した。

 何でだろう?

 首を傾げる私をよそに、一人で先に行くのは危険だよ、と言いながらアリスに追いつくアキヒコ少年。アレ、私、置いてきぼり?


 流石に二人に先を歩かせるわけにはいかないので、例の蝶仮面がいた宝物庫モドキは、私が先頭きって走り抜けた。

 もしかしたら例の蝶仮面以外は自分の意思で動けないのかもしれない。もしくは誰かが手にとらなければ分からないのかもしれないな。どちらにしろ、専門家を派遣してもらわなければならないだろう。

 宝物庫モドキを駆け抜けている間感じた違和感は薄くなっていた。一番強烈に変な空気を放っていたのがあの蝶仮面だったのだろう。私ですらかぶりたくなったのだから、当然と言えば当然なのかもしれないな。

「しかし、あの蝶仮面、少年にかぶってもらいたかったな。蝶サイコーに似合っていたかもしれないのに、蝶人になれたかもしれないのに」

「嫌ですよ、あんなのかぶるの。大事な何かを失いそうじゃないですか」

 おかしいな、アレをカッコイイと感じたのは私だけなのだろうか? いいや、アリスは私の味方の筈だ。

「アリスはアレをかぶってみようとは思わなかったの?」

「あんなのかぶりたいと思うの、変態しかいませんよ」

「私が変態だと言いたいのかッ!?」

 あっ。




 気まずい雰囲気のまま宝物庫モドキの間を抜けた。

 しばらく走り続けると、へたり込んでいたジンたちを見つけた。

「よお、遅かったな。……冒険者達がいないな。もしかして、凄く強いモンスターが出てお前ら以外は全滅したのか?」

 ジンがとてもそうは思っていない口調で語りかけてきた。

「お前たちは、もしかしてモンスターたちと戦っていたのか?」

「おお、凄い数のモンスターが出てきたな。きっと、蜥蜴丸の血におびき寄せられたんだろうよ」

 蜥蜴丸を見てみた。それは彼の血なのか、返り血なのかは分からないが、血塗れのままだ。何故拭き取らない?

 そしてゲーサンよ、何故お前一人だけへたり込まずにシャドーボクシングをしているのだ?

 アキヒコ少年がアイテムボックスの中からスポーツドリンクをとりだして冒険者達に配り始めた。私も貰う。お、案外美味いな。

「お前らの方はどうだったんだ?」

 ジンに聞かれるままに私たちのルートで起こった出来事をかいつまんで説明する。

「なるほど、そこに変な蝶仮面がいて、血を吸い取られた、と」

「ああ、殺してやったがな」

「おいおい銀髪、貴様が亡者になってワガハイらに襲いかからないという保証はあるのかね?」

「毒素は全部排出したよ、問題ない。それより、血を拭けよ蜥蜴丸。臭い」

「ワガハイを臭いと申すかッ!? それは、爬虫類的な臭さ? それとも両生類的な臭さ?」

 知るか。 蜥蜴って爬虫類? それとも両生類? 鳥類ではあるまい。

 私が返答をしなかったのが不満なのかは分からないが、とりあえず少し離れた場所で体を拭き始めた。

「で、その蝶仮面が言うには、この古代遺跡は“死者の都”ブリュージュと呼ばれる場所だ、と」

「ああ」

「聞いた事もないな。少年たちは聞いた事あるか?」

 アキヒコ少年もアリスもそろって首を横に振った。

「フム、ティンダロス帝国が建国されてから数百年は経つ。少なくともティンダロス帝国が建国されるより前だろうな。ここにブリュージュなる都があったのは。天井をずっと、人工物が覆っている事を考えると、その上に山が出来たと考えるのが妥当か。もしかしたら、数千年前の都なのかもしれないな」

 ジンの考えが妥当だろうな。

「“死者の都”に眠る“王”ねえ。嫌な予感しかしないな」

 まったくだ。

「ところで、銀髪、例の蝶仮面持ってきてないのか? ここで、かぶってみせてくれ」

 先ほどまで体を拭いていた蜥蜴丸がようやく拭き終わったのか、会話に参加してきた。

「殺したと言ったろう? 単なる宝物の方は宝物庫に置いてきたまんまだ」

「あ、持ってきちゃいました」

 そう言いながらアイテムボックスの中から蝶仮面をとりだすアキヒコ少年。なんで持ってきちゃったんだよ!!

「大丈夫、生命反応はありません。手に持ったくらいでは管が刺さったりもしませんよ」

 微笑みながら私に蝶仮面を手渡すアキヒコ少年。その眼は期待に満ちていた。かぶれ、その蝶仮面をかぶってみせろよ、アキヒコ少年の視線はそう私に語りかけていた。

「少年、かぶりたいと言っていたのは君だったな。かぶってみせてくれ」

 私は何とか欲望を抑え込み、アキヒコ少年に手渡そうとする。

「かぶりたいって言ったのセリーナさんじゃないですか」

「アリスだったね。かぶりたいって言ったの」

「私はそんな事一言も言っていませんよ」

「言っていたのはジンだったな」

「俺はその場にいなかっただろうが」

 ヤバイ、ヤバイぞ。万事休すだ。こ、この場でかぶるしかないのか!? 社会的地位とか色々失うぞ!?

 そんな時、古代遺跡全体を揺るがすような音が響き渡った。

 それは、その場にいた人間、否、生命体を不愉快にさせる異質な音だった。私の頭の上で丸くなっていたクリスがどこか一点を見つめて唸り声をあげた。爪が痛いよ、クリス。ただ、我関せずと言わんばかりにゲーサンは一心不乱にシャドーボクシングをしていた。

「これは、“王”が目覚めた、か?」

「もしくは目覚めようとしている、か?」

 私はジンと顔を合わせた。どうやら、ここでのんびりしている暇はなさそうだ。

「冒険者達、どうする? 帰ってもらうか?」

「そんな暇はなさそうだ。“王”が眠るのなら、“王”に付随する連中も目覚める可能性がある」

 何か、凄い軍隊みたいなものがあったら怖いな。

「なら、最奥を目指すか?」

「そうするしかないだろうな。“王”を陽の当たる場所に出すわけにはいかないだろう」

 そして、冒険者達を含めた全員で“死者の都”ブリュージュを目指す事になった。

 “王”を討ちとる為に。









 “王”が目覚めた、もしくは目覚めようとしているのは、僥倖だった。

 何故ならあのタイミングで何も起こらなければ、私が皆の前で蝶仮面をかぶらないといけなくなったからだ。助かったよ、本当に。

 皆が最奥を目指して歩き出したが、私は少しの間その場にとどまり、蝶仮面を見つめてしまう。

 彼(?)が私に呼びかけてくる。さあ、ワタシをかぶるんだ。共に新世界の扉を開こうじゃないか!!

 私は深淵アビスから呼びかけられる声に抗い、かぶりたいという欲望を何とか抑え込み、皆の後を追う。もちろん、蝶仮面はアイテムボックスの中に入れて。

 部屋で一人きりの時にかぶろう。誰にも見られない時に。




 その時、新世界の扉は開かれるかもしれない。


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