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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
19/69

蝶サイコーな罠が待ち受けていたのです。

 一つ目の間を抜けると、暫く細長い通路が続いた。細長い、とは言っても先ほどの間と比べれば、だ。しかし、古代遺跡というよりは、何らかの都市ではないかと思わせるほどの荘厳さがあった。まるで、帝都を思わせるような。

「しかし、何もないな。今のところは」

 そう、今のところ何もない。モンスターが出てくるでもなく、何か宝物を守る罠があるわけでもなく。

「そう言っていると、だいたい次の場所で変なのが出てきたりするんですよ」

「セリーナさん、そういうの、確かフラグって言うんですよ。たぶん、セリーナさんがそんな事を言うので、次の間では何か起こりますよ」

 ええ? 次の間で何か待ち受けているのだったら、ここで私が何か言っても言わなくても、何かが起こるだろう? フラグなんて関係ないじゃないか。……フラグってなんだろう?

「にゃあう」

 頭の上にいるクリスは眠たそうな声をあげ、鳴いた。

 呑気だなあ。


 次の間に到達した。

 一言で言えば、異質だった。先ほどの間と同じ構成。ところどころにある窪みに先ほどの間と同じように宝物が置かれている。

 しかし、おかしい。何かがおかしい。違和感が付きまとう。

「少年、アリス、気付いている?」

 この違和感、感じ取れるレベルにあるのは、おそらくアキヒコ少年とアリスの二人だけだろう。残りの冒険者達では感じ取れるレベルではない。それ程微小なモノであると言っていいだろう。

「ええ、何かよくない感じがします。まるで、人を吸い寄せるような。ここは早く抜けた方がいいと思います」

 アリスが即答してくれた。やはり、私の人を見る目に狂いはなかったようだ。彼女の強さを目の当たりにしたわけではないが、ダーレス卿が安心して送りだしたのはアキヒコ少年や蜥蜴丸、ゲーサンがいたからだけではない。おそらく、帝都騎士団の若手の連中にもひけをとらないのではないだろうか? 剣の腕だけなら。ふふ、剣の腕以外なら私も負けないがね。

 しかし、アキヒコ少年は無言だ。どうしたのだろうか。

 振り返った私の視界に入ってきたのは、宝物を激写しているアキヒコ少年の姿だった。

「少年?」

「セリーナさん、ここは早く出ちまいましょう。何か、嫌な予感がします。俺は、さっさと撮影を終わらせます。なんだろう、嫌な感覚というか、微妙に心地いいというか。欲望を剥き出しにしたい自分がいます」

 そういう事か。さっきから感じていた違和感……己の欲望を増大させる香りみたいなモノがこの空間には充満しているのだろう。

「皆、この空間はきっと罠だ。いいか、壁の宝物には手を出すな!!」

 私は大急ぎで冒険者達に声をかけた。しかし、遅かったようだ。

 血走った目をした冒険者の一人が、周りが止めるのを聞かずに、宝物の一つに手を出した。

 例の黒と黄金で縁どられた、蝶カッコイイ蝶仮面だ。畜生、私がかぶってみたかったのに!!

 おっと、私の欲望ももしかしたら刺激されているのかもしれないな。コレは流石にマズイ。このまま欲望を垂れ流したら、アキヒコ少年からどうにかして、「お姉さんが教えてア・ゲ・ル♡」と、「私、甲冑脱いだら凄いんです」を奪いとってしまうかもしれん。他人のアイテムボックスの中身なんてどうやったら奪えるんだろう? アイテムボックスの中に入れているとは限らんがな。

 私が止めるのを忘れてバカなことを考えている間に、例の冒険者は蝶仮面をかぶった。全然似合わないな。私としては、アキヒコ少年にかぶってもらいたかった。アリスには似合わないだろう。もちろん、私がかぶる場合は、誰にも見られない場所で、こっそりとだ。失う可能性があるモノが結構あるからな、私の場合。

 きっと、例の冒険者はアレをかぶって「どうだ、似合うだろう!?」とか言ってふざけたかっただけなのだろう。そこまでたいしたことのない欲望を刺激するだけのモノしか充満されていなかったのだろう、この空間は。冒険者連中なんて女に飢えているのも多いからな。この場で襲いかかってこないだけましだろう。襲いかかってきたら、問答無用で殺していたかもしれん。

 だが、彼は「似合うだろう?」などという事は出来なかった。彼の口から出たのは、苦悶の叫び声だけだった。

 まるで、何かに噛みつかれたかのような、そんな声だった。

 いや、違う。噛みつかれているのではない。蝶仮面の裏側から伸びた管が冒険者の頭部に突き刺さっていた、何本も。

 大急ぎで蝶仮面を冒険者の頭から左腕で剥ぎ取った。うげ、管から血液が垂れ流しだ。それは、地面に吸い込まれ、何処かへと流れていく――。

 冒険者の顔を見ると、まるで血の気がない。健康であったと思われた顔が蒼白くなっていた。そう、血の気がないのではなく、血を抜き取られたかのような――。

 左腕に激痛が走った。何だ? 左腕に顔を向けると、例の蝶仮面の管が私の左腕に突き刺さっていた。

 チィッ、こいつ、顔にかぶらなくても攻撃は出来るのか?

 血を吸われるのを感じる、と同時に何かが体内に侵入してくる感覚。

 そして、異様な唸り声を聞いて、先程まで冒険者が悶えていた場所に顔を向ければ、異様な色の顔をしながら、私の方へと腕を伸ばしてきた。まるで、私を同じ場所に連れて行こうとするかの如く。

 右腕一本で何とか日本刀を抜刀し、光属性魔法を纏わせ、冒険者に突き刺した。

 蒼白い炎を纏わせながら、燃え尽きていく。光属性魔法で蒼白く燃え尽きるなど、既に人間ではなくなっていた、か。亡者と呼ばれる類の存在か?

 日本刀を亡者と化した冒険者に突き刺したまま、左腕に管を突き刺していた蝶仮面を剥ぎ取り、地面に叩き付けた。

 私から抜き取った血液が地面に吸い込まれていく。

「ケーケッケ、バカめ、ワタシを剥ぎ取ったところで、貴様にもう毒素はうちこんである。貴様ももうじき先ほどの男同様、人間ではなくなるのよ!!」

 蝶仮面はいったい何処から声を出しているのだろうな? まあ、そんな事はどうでもいいか。古代遺跡なんだから、不思議がいっぱいある方が浪漫があるというものだろう。

「毒素、だと?」

「人を亡者に変える毒よ!! 血液に乗ってもうじき全身を巡るだろうよ。打ちこんだ毒素は少量だからすぐには効かないだろうがなあ。貴様も亡者の仲間入りよ……って、ナニィ!?」

 蝶仮面が驚きだした。もしかしたら、蝶驚いているのかもしれないな。

 私の左腕から血液が大量に飛び出してきたのだ。いや、飛び出させたのは私だがな。

「バカな、貴様ワタシの毒素ごと血液を排出しただと!?」

 おいおい、その程度で驚いてどうするのだ? 毒素が打ちこまれたのなら、排出すればいいだけの話だろう? だいたい、私が何度古代遺跡の調査やらに派遣されていると思っているのだ?

「お前らの同類は結構知っているのでね。対策はしてあるのだよ」

 そう、冒険者に管を突き刺している間に既に体内に光属性魔法を巡らせていたのだ。毒素とやらが打ちこまれても、その場で止めていたのだ。つまり、血液に乗って全身を巡ってはいない。私が亡者になるおそれなど、どこにもない。

「ケーケッケ、だが、先程の男と貴様の血液、既に“王”の元に運ばれている。“王”の眠りは深い。だが、目覚めるには十分な“質”の血液が集まった。先ほどの薄汚い男の血液だけなら“王”は目覚めないだろうが、銀髪、貴様の血液は上質だ。“王”を目覚めさせるには十分だろうよ」

“王”だと?

「この古代遺跡、“王”が眠る場所だと言うのか?」

 “王”とは、何モノだろう? まあ、何も分からないけれど、適当に話を合わせてみようじゃないか。

「古代遺跡だと? 何も知らずに入ってきたと言うのか? ケーケッケ、バカめ。ここはな、“死者の都”ブリュージュよ。深い眠りについた“王”が目覚めを待つ死者の支配する都よ。ワタシはここを訪れる無知な連中から血を抜き取り“王”へと送るのが仕事よ」

 “王”ねえ。

「“王”とやらは眠りから目覚めたら何をするつもりだ?」

「“王”が目指すは世界を己の支配下に治める事に決まっているだろうが!!」

 当然みたいに言うなよ。今時世界征服なんて悪の組織でもなかなか言わんぞ? 実際、いくつかの変な組織を潰した私が言うのだから間違いないぞ?

「ケーケッケ、まあいい。ワタシは貴様らが“王”の元に来るのを“王”の傍で待つとしよう。ヒャーハッハ!!」

 そう言い残して“王”の元へと向かおうとする蝶仮面。だが、それを逃す程私は甘くない。

 右手の親指と人差し指を鳴らす。いわば、フィンガー・スナップ。

 それが打ち鳴らされた瞬間、蝶仮面が震えだした。

「ナ、ナニカがワタシの中で蠢いている……!! ぎ、銀髪貴様、何をした……!?」

「お前の同類は知っている、と言っただろう。対策をしてある、ともな。お前が管を抜いたと同時にお前の管に光属性魔法を忍ばせておいたのだよ、私の任意のタイミングで発動するように、な」

「ヌォオオオオ、ワタシが死ぬ、だと……? このような場所で!?」

「死者の都、なんだろう? ならば、眠るにはちょうどいい場所じゃないか」

 なんという皮肉だろう? 皮肉、かな?

「死にたくない死にたくないシニタクナイシニタクナイ……!!」

「お休み、良い夢を」

 死者が見る夢とは、何だろう?

 私が振り向いたと同時に、後ろで蒼白き炎に包まれ爆発する蝶仮面。きっと、彼(?)にとって蝶最高な死に様だっただろう。

「何をやっている、少年?」

 振り向いた私を出迎えたのは、今までのデジタルカメラとやらとは違った物体を構えていたアキヒコ少年だった。

「セリーナさんの勇姿を撮影していました。今度は動画です!!」

 何で、嬉しそうにしているんだろう? 頭が痛くなってきた。大丈夫か、この少年は? 将来が不安だなあ。

 溜息をつく私と、何故かそれを嬉しそうに撮影するアキヒコ少年を、盛大な溜息をつきながらアリスが見つめていた。

 私の頭の上ではクリスが呑気そうに欠伸をしていた。

 やれやれだな。私は左腕に回復魔法をかけながら、アキヒコ少年にどのようなお仕置きをしようか、考える事にした。




「おいおい、もしかして俺たちって物凄い不幸の星の元に生まれちゃったんじゃない?」

 大岩に追いかけられ、更に横から飛び出してくる様々な罠を何とかかいくぐって、先程の空間を抜け出した。全員何とか命があったのは僥倖かもしれない。何故か蜥蜴丸だけが血塗れだった。何故だろうな? 俺が盾にしたからだろうか? 

「貴様、変態片眼鏡(モノクル)。ワガハイの不幸を僅か一行で終わらせようとは、いい度胸をしているな」

 一行? 何の事だ?

何とか息を整え、少し休憩をした後、暫く歩き続ける。もはや、人工物も見えなくなった。

 そして、次に開けた空間に着いた。

 そこに居たのは、大量のモンスター。何故、これだけ大量のモンスターがここに居るんだ? 蜥蜴丸がここに居るからか? こいつは不幸を呼び寄せる存在だからな、たぶん。

「おいおい、変態片眼鏡(モノクル)。貴様、もしかしてモンスターを大量に呼び寄せる何かを持っているのではないかね? ワガハイはこういう奴らには好かれない性質だからねえ」

 血塗れのまま答えるなよ。怖いだろうが。本当はこいつの血の臭いにひかれてきたんじゃないだろうな?

 やれやれだ。切り抜けるしかねえだろ。

「おいテメエら、モンスターの素材と魔石は取り放題だ。活躍したらしただけ報酬はアップだぞ!! 気合入れていけ!!」

 さあ、戦いの舞台だ。暴れまくるぞ!!


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