古代遺跡に罠はつきものです。
「さて、どうするかな?」
目の前には分かれ道。どちらを進むか、それとも、全員を二手に分けて二つとも進むか。
「どちらがいいと思う?」
「二つに分かれて二つとも進んでみるしかねえだろ? 受けた任務は古代遺跡の調査だろう? ならば、隅から隅まで調査をしなければならないだろう」
ジンの意見ももっともだな。
「だが、どちらかを全員で進んで帰りにもう一つのルートを辿ってみるという方法は、どうだ?」
「この先の道も全員が同時に通れる広さが確保されているかどうかも分からんぞ? 分かれ道がこの先ないとも言いきれん。そこでさらに人数を分けないといけないかもしれんぞ。ここは素直に分けておこうや」
そうだな。
「メンバーの振り分けをどうするか、だな」
ジンが頭を悩ませている。確かにそれが問題だ。全員を見渡してみる。はっきり言って集まった冒険者達は、そこまで腕の立つ連中ではない。見た限りは、だがな。一番ランクが高いやつでもCランクどまりだろう。
「片方のリーダーはジン、お前がやってくれないか?」
「俺が?」
「名の売れた冒険者だろう、ジン? それに、お前は信頼出来るからな」
はっきり言ってしまえば、他の連中を私は信用していない。実力も、人柄もな。まあ、人柄はほとんど触れあっていないのだから信用できるわけなどないのだが。
「まあ、お前がそう言うなら、引き受けてやるがな。他のメンバーはどうする?」
「私が少年とアリスを貰おう。ジンには蜥蜴丸とゲーサンだ」
「マジか、そのメンバー」
「マジだ」
当たり前だろう? ゲーサンは実力は信用できるが、いったい何を考えているか分からんからな。ついでに言えば何を言っているのかも分からん。蜥蜴丸はどうしようもない。あいつのペースにはまったら大変だ。まあ、残りの冒険者は適当に振り分けよう。誰をどちらのチームに入れてもどうという事もない。
「おいおい、ワガハイの意見を聞いてくれんかね?」
それまで私たちの会話を黙って聞いていた蜥蜴丸が口をはさんできた。何の用だろう?
「別にチーム分けに不満があるわけではないのだがね、これはあまりに不公平だろう?」
「何が不公平なんだ?」
「いいか、ワガハイ別に戦力差が問題だと言っているわけではないぞ、これだけははっきりさせておこうじゃないか」
「わかった、だから何が言いたいんだ?」
「いいか、このままのチーム分けでは絶対的に不足しているモノがある。それは……」
それは、何だ? もったいぶるなよ、気になるだろうが。
「それは、美少女分よ。つまり、ワガハイが要求するのは、ゲーサンとアリスのトレード。もしくは、変態片眼鏡と、銀髪のトレード。クカカカ、どちらかの案で手を打とうではないか」
「断る」
即答。当たり前だろう? 誰が美少女分の少ない方を選択するモノかよ。ククク、当たり前だろう? アリスを貴様らみたいなむさくるしい連中の所に一人だけ入れるわけにはいかないだろうが。そんな事をしてみろ、現在進行形で私が不幸になるだけだし、後々ダーレス卿に何を言われるか分からんだろうが。
「では、どちらのルートに進むかコイツで決めよう」
冒険者達の班分けが終わった後、私は人差し指に乗せたコインを親指で弾きあげた。
表が出るか、裏が出るか。
「こちらのルートは正解だったかもしれないな」
私の班は分かれ道で右側を進むことになった。一つ目の間は、まるで宝物庫の様だった。
黄金で彩られた蝶を象った仮面。金の延べ棒。遙か古代に使われたであろう金貨。その他色々。
それらが、壁の窪みに整然と置かれている。ヤバイな、コレは。手を出そうとする連中がいてもおかしくない。実際、何人かの冒険者達は目の色が変わりつつある。暴動が起こったらどうするか。まあ、その時には全員叩きのめそう。アキヒコ少年とアリスが敵にまわらない限り、どうにでも出来るからな。……念の為、体全体に強化魔法をかけておこう。転ばぬ先の杖とかいうやつだ。
私は紙を取り出し、そこにどこに何があるのか、書き付けていく事にした。
えーと、右側の最初の窪みには、黄金と黒色の宝石(名前は何だろう? 宝石の勉強もしておいた方がいいかな、女の子だもの)で縁どられた蝶を象った仮面。
何故かな? 何か、凄く心惹かれるモノがある。ああ、もしかしたらこれをかぶったら蝶人になれるかもしれない。しかし、これをかぶるのはちょっと、乙女としてどうかな? なんだ、アキヒコ少年にかぶせてみればいいじゃないか。きっと、蝶サイコーに似合うだろうな。愛をこめて名前を呼びたくなるかもしれない。ふふふ、夢が広がるな!!
さあ、アキヒコ少年、これをかぶってくれ!! そう、私のためにな!!
私は、熱意とか色々こめて後ろを振り返った。
だが、そこには何かよく分からない物体を顔のあたりまであげて、よく分からない動作をしているアキヒコ少年と、アキヒコ少年を呆れながら見ていたアリスがいた。
「何をしている、少年?」
熱意が少し消えた私はある程度冷静になってアキヒコ少年に問いかけた。
「カメラに撮っているんですよ。これなら、いちいち何処に何があったか紙に書く必要はありませんからね。いや、科学の力って便利ですよねえ」
ほう、科学ねえ。
「嘘ばっかり言って。さっきからセリーナさんの後ろ姿ばっかり撮っているじゃない。ほとんど盗撮よ、それ」
「ハハハ、僕がそんな事するわけないじゃないか。僕は職務に忠実にだな……」
「見せてみろ」
「はい……」
なんでも、デジタルカメラとかいうやつで、撮った写真をその場で確認できるらしい。凄いな、科学。
どれどれ……、十数枚に渡って私の後ろ姿。何枚かはうなじをアップにしている。案外色っぽいのかな、私は。だが、許せんな。
「少年、画像を全消去」
「ええ、嫌ですよ、せっかく綺麗に撮れたのに」
「少年、アリスもこうやって撮影したのかい? 本人の承認なしに」
「アハハ、アリスの写真を本人の承認なしに撮っていたら、いくら俺でもオーガストさんに消されますよ」
どうやら、アキヒコ少年は画像を消そうという気はないらしい。私はデジタルカメラを放り投げ、日本刀の一振りで消し飛ばしてやった。文字通り、消滅させてやった。
「ああっ!? 俺の宝物が!?」
「どうしても私を撮りたいのなら、『お姉さんが教えてア・ゲ・ル♡』と、『私、甲冑脱いだら凄いんです』を貸すんだな。それなら、撮らせてあげよう。そうだな、一枚百五十Gでどうだ?」
「結構高いですよ。それに、なんでカメラ破壊してから言うんですか!?」
「どうせ、蜥蜴丸から後いくつかデジタルカメラとかいうのを渡されているんだろう? さあ、それでしっかりと部屋の状態を撮影するんだ」
私の考えは当たっていたらしい。
うなだれながらも了承の意を示すアキヒコ少年。しかし、スケベ本は貸してくれなかった。どうしたら、貸してくれるんだろう?
はあ、まったく、ちゃんと私の意思を確認するのなら、写真くらい撮らせてやってもいいのにな。うん、後でアリスを撮影しまくろう。萌えてきた!!
アキヒコ少年が撮影しまくっている間に、他の冒険者どもが宝物に手を出そうとしないかを確認する。冒険者たちは流石に私が監視しているのに宝物を強奪しようとは考えないようだ。ふふ、デジタルカメラとやらを消し飛ばしたのが幸いだったな。
「どうせなら、全員の集合写真を撮っておきましょうよ」
何処かからとりだした三脚なるモノに、デジタルカメラを設置して、全員を並ばせる。私とアリスを真ん中に立たせる意味は何だろう? しかも、人一人分間を開けて。
「はい、撮りますよ。あと十秒後ね。それまでじっとしていてください」
そう言って、アキヒコ少年が私とアリスとの間に走りこんできた。成程、こういう意図があったか。
そして、十秒後、カシャッという音と共に、光が放たれた。
その後、デジタルカメラを確認すると、そこには私達全員が写っていた。まあ、当然か。しかし、みんなポカンとした顔していやがるな。まあ、デジタルカメラとか写真とか初めて見た連中ばかりだからな。仕方ないだろう。
私はというと、少し恥ずかしそうにしているな。アリスはちゃんと笑っている。ムム、慣れの差か? 今度はもっと、いい写真写りをしたいものだ。
そんなチャンスがあるかな?
写真撮影なんて和やかなイベント(?)を終了させた後、全員で次の間に向かった。
最後に念の為、部屋から無くなったモノがないか確認する。視線はまず、入り口付近にある蝶仮面に注がれた。あの蝶仮面に異様に心を惹かれるのだが、何故だろうな? 金の延べ棒とか、古代の通貨とかの方が心惹かれそうなものだが……。
まあいい、考えてもしょうがないだろう。私は異様な気持ちを抱えたまま、次の間へと足を踏み入れるのだった。
「こんな中途半端な高さに糸が張られているのは何だと思う?」
「バカだな、変態片眼鏡よ。これは、どう見ても罠に決まっているだろう?」
「バカはお前だよ、蜥蜴丸。この脛のあたりの高さに張られている意味を聞いているに決まっているだろうが」
これが罠だというのは、バカでもわかる。
だいたい、見ろ。通路の両方に交互に開いている穴を。ちょうど、腰のあたりの高さだ。
穴の大きさはまちまちだ。だが、誰がどう見ても、そこから何かが飛び出して来るに決まっているだろう?
問題は、この高さに張られている糸だ。これを切ってしまった場合、どうなるのだろう?
「これは、ブービー・トラップとかいうやつよ」
「本当か?」
「まあ、実際のところはこんな名称だったかは分からん。つまり、コレはこの高さにわざと糸を張っておいて、これに触れずに通り抜けさせる事を意図しておる。本命はその先、ちょうど足をおろしたあたりに目立たぬよう張られている筈よ。そう、きっと、目立たない糸がな」
俺は蜥蜴丸の助言を聞くことにした。
色つきの液体をアイテムボックスの中からとりだし、周りに飛ばしてみる。こういう事も考えて、結構色んな種類のモノをアイテムボックスの中には入れておいてある。
おお、確かに目立たない色の糸がちょうど、糸を越えて足を踏み下ろしたあたりに張られていた。
「さて、どうするかね?」
この糸二つだけを触れずに乗り越えたとしても、先に罠が待ち受けていない可能性はほぼゼロだろう。
「げげ、げっげげ」
痺れを切らしたのだろうか、ゲーサンが何処かからとりだした大剣を糸二つに向けて振り下ろした。
「おおい、何やってるんだ、ゲーサン!?」
その場にいた全員が叫んだ。
ガコン!!
俺たちの後方から何か変な音が響いた。
全員でおそるおそる後ろを振り返る。通路いっぱいを塞ぐかのような大岩が俺たちに向かって転がりだしてきた。
「うおおおお、走れぇ!!」
俺の号令と共に、全員が走り出した。
通路の横から、少し大きめのボールやら矢などが飛び出してきた。
何とか青竜刀で斬り落としながら、走りぬける。
「ゲーサン、何で罠だってわかって糸を斬りやがる!!」
「げげ、げっげ、げげげ、げげっげ」
「古代遺跡に糸が張られていたら、斬りおとす。それが俺のクオリティ。そう申しております、ゲーサンは」
変なクオリティを保つんじゃねえ。
ああ、二つに班分けするんじゃなかった。お先真っ暗じゃねえ?
とりあえず、俺たちは最初のこの巨大な部屋を全速力で走り抜ける事にしたのだった。