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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
17/69

どんな種類を欲しがるかで、好みのタイプが分かるかもしれないのです。

 アリスを抱き枕にして眠っていたので、昨夜の怒りはだいぶ消えた。だって、興味があったんだ。しかし、スケベ本一冊に十万G以上の大金をはたけるワケがない。私は、騎士であって勝負師ギャンブラーではない。勝ち目の薄い勝負などしないのだよ。表紙も見る事が出来なかったからな。

 そして、皆で朝食をとり、キャンプ地の火を消す。

 次にここに戻ってくるのは、古代遺跡の調査が完了した後、だ。そうなるといいが。

 一応今日の夕方にはダーレス卿とエミリアさんが様子を見に来てくれることになっている。その時、いい報告が出来るといいな。

 何故か責任者状態になっている私が先頭に立つことになった。メンドクサイな。

「では、行こう、皆。浪漫あふれる古代遺跡へ!!」

 後ろでは、冒険者諸君の「おー!!」という叫びが聞こえる。案外皆、ノリがいい。ここら辺は三番隊のメンバーとたいして変わりがないかもしれないな。


 古代遺跡へは十数分で着いた。キャンプ地からここまでは、徒歩だ。馬を使う必要すらなかった。

 ああ、ようやく古代遺跡に辿り着いた。ここまで、まるで牛歩の歩みだった気がする。

 流石にここからは気合を入れざるを得ないな。

 私はゴム製の髪留めを取り出し、銀髪を乱雑に縛り、いわゆるポニーテールと言う髪型にした。

 皆を振り返り、遺跡に入る前にちょっとした挨拶をする事にした。

「あー、諸君。これから古代遺跡の調査へと向かいます。ここで、念の為もう一度言っておく。古代遺跡には今まで見た事もないモンスターがいるかもしれない。危険な罠が待ち受けているかもしれない。命の保証などしてやれない。引き返すなら今だ。もちろん、諸君らが引き返したところで、何のペナルティーもない。命が惜しいのは当然だ。それでも、古代遺跡の調査に私と共にあたってくれる者だけ残ってもらいたい」

 皆を見渡す。まあ、あんまりいい面構えの人間はいないな。冒険者ばっかりだから、当然か。

 誰一人、この場を動こうとはしない。古代遺跡の調査とは、中で何か危険がある可能性はあるが、何の危険もない可能性もある。ここですごすごと引き返したら、結局大金を手に入れられない。古代遺跡の中で命を落として大金を手に入れられない可能性もあるがね。

「誰一人去らない、か。わかった。諸君らの命、預けてもらうなどとは言わん。自分の命は自分で守れ。それが、冒険者だ。私の命も君たちには預けん。何度も言うが、自分の身は自分で守れ。余裕があったら仲間も守れ!!」

 それだけ言って私は身を翻し、古代遺跡の入口に向かう。フッ、決まったな。アリスが私に惚れてくれたかもしれんな。

「あの銀髪の姉ちゃん、凄いな」

「ああ、なんか言っている事は凄いんだけど、頭の上で猫が欠伸していたぜ」

「何で気付かねえのかな?」

 後ろで冒険者どもがそんな事を語っていた。おそるおそる頭の上に手を伸ばしてみた。そこには、クリスが丸まって寝ていた。何で重さを感じない……?

 恥ずかしさのあまり、顔が赤くなっていくのが分かる。何で、誰も教えてくれなかったのだろう?

「アキはさっきから、何をしているの?」

「セリーナさんのうなじをガン見してる。なんだろう、年上のお姉さんの色香みたいなモノを凄く感じる。めっちゃ興奮する……って、何を言わせるのさ、アリスは!?」

 それだけ語っておいて何を言っているんだ、アキヒコ少年よ? しかし、色香を感じるのか。悪い気はしないでもない。

「クカカカ、貴様が実際単なるエロガッパなのは周知の事実よ。貴様が“スペースリザー堂オンラインショッピング”でスケベ本を大金はたいて買ったのは分かっておるぞ。どのスケベ本を買ったのかね? ワガハイにこっそり教えてくれないか?」

「ふん、バカめ。誰が教えるものかよ。教えたらバカにされるだろうが!!」

「バカだな、貴様は。ワガハイが管理しているあのサイトをワガハイがチェック出来ないとでも思っているのかね?」

「何……だと……?」

「貴様が買ったのは、そう、確か『や・ら・な・い・か?』だったな」

「何、少年、君はあの『や・ら・な・い・か?』を買ったのか?」

 驚いて口をはさんだ私は悪くないだろう。

「買ってないですよ。俺はそんなの買ってない!!」

「隠さなくてもいいだろう!?」

「違いますよ!! 俺が買ったのは『お姉さんが教えてア・ゲ・ル♡』と、『私、甲冑脱いだら凄いんです』の二冊ですよ」

 勢いでしゃべってしまったのだろう。ハッとして口をつぐむアキヒコ少年。だが、もう遅い。

「年上のお姉さん系と女騎士系だと!?」

 何故、その二冊なんだ?  

「クカカカ、しかし銀髪、貴様何故そのスケベ本のタイトルを知っているのかね? 貴様、昨夜スケベ本を買おうとしたな? だが、まだあのサイトで購入したのはここにいるエロガッパと帝都騎士団三番隊副組長のみ。どうやら、値段の高さに手を出さなかったようだな」

 しまった、罠だったか。クッ、なんとかして話題を変更せねば。ど、どうする!?

 そんな時、アリスから助け舟が入った。

「いくら使ったの、アキ?」

「ギルドカードに残しておいた二十万G。一冊当たり十万G」

 凄く使っているじゃないか。後で貸してもらおうか、スケベ本。ふふ、浪漫がスケベ本の中にはある。しかし、アキヒコ少年が好きなのは、年上のお姉さんで女騎士、か。誰かいい女性ひとを紹介してあげようかな? この間帝都で知り合ったフローラさんなんてどうだろうか? ああ、あの女性ひとは年上のお姉さんではあるが、騎士ではないな。しかも、彼女を紹介するのはアクロイド副組長に悪いかな? 

「貴様、本当にそれだけか? 他のは買っていないのか? 例えば、『や・ら・な・い・か?』」

「五月蝿い!! 俺のギルドカードに入れていた個人資産がほとんどなくなったんだぞ!! セリーナさんに会った日に買ってしまったんだ!! いくら良かったからといっても、二十万Gの価値はなかった。二冊で二十万Gは誰がどう考えてもボッタクリだろうが!! 『や・ら・な・い・か?』なんて、誰が買うかよ!! 俺はそっちの道には絶対に目覚めないからな!!」

 私に会った日に買った? 何でだろう? 気になるじゃないか。そして、アキヒコ少年は「衆道」の意味を理解しているとみた。後で、意味を聞いてみようかな? いや待て、年頃の女の子が興味を出していいシロモノじゃないかもしれないな。うむ、アキヒコ少年が買ったスケベ本だけ貸してもらおう。

「バカだな、貴様は。アレはあくまで洒落よ。本当に買うやつがいるとは思わなかったから、あんな価格設定にしてあるのよ。オンラインショッピングが軌道に乗ったら、あちらの方も適正価格にするつもりよ」

「何で早く言わないんだ!!」

「だいたい、アレ十八歳未満は閲覧も購入も禁止にしていた筈だぞ? 何故購入できた? フム、システムの不備か。だが、返金は不可能だぞ、アキヒコよ」

「畜生!!」

「ねえ、アキ、何でお姉さん系と女騎士系を買ったの? 幼馴染系は?」

「お、幼馴染系は俺が確認した時にはなかったんだ!!」

 後ろでしどろもどろになっているな、アキヒコ少年よ。しかし、昨日私が確認した時は確かに売っていたぞ? 

 仕方ないな、助けてやろうではないか。そう、全ては私がスケベ本を見る為。

「少年」

 いきなり振り返った私に驚いたアキヒコ少年。私が差し出した右手を不思議そうに見ている。

「な、何ですか?」

「出したまえ、そのスケベ本とやらを。私が預かってやろう。十八歳未満禁止と言うならば、君は持っていてはいけないだろう。だから、私が預かってやる、もちろん、二冊ともな」

 そう、純粋に私はアキヒコ少年を気遣っているのだよ。

「セリーナさん、鼻息荒いですよ」

「ついでに言っておくと、クリスが頭の上で寝ていますよ」

 アキヒコ少年に続いてアリスにも注意をされた。

「何入口の前でコントしているんだ、バカどもめ。オラ、さっさと行くぞ」

 ジンにため息交じりでたしなめられた。私は悪くないぞ!! 私はアキヒコ少年を思って言ってやってるんだぞ。私は悪くない!!

 に、睨むなよ。分かったよ。行けばいいんだろ、行けば。おかしい、私は悪い事をしていないのに……。

 仕方ない。頭を切り替えて古代遺跡に入るとするか。

 くそう、スケベ本を目にする事が出来たかもしれないのに、ジンめ……。





「獣人系のスケベ本はあるのか、蜥蜴丸?」

「まだ、そっち系は入荷していない。しばし待て」

 後ろから、そんな声が聞こえてきた。ジン、貴様も平常運転だな。そして、いったい何処から入荷してくるのだろうな?




 古代遺跡の中に足を踏み入れた。先頭を歩いていた私が足を止めたのが悪かったのだろうか? すぐ後ろを歩いていたアキヒコ少年にぶつかられてしまった。コラ、臭いをかぐな。恥ずかしいではないか。

「どうして止まったんですか、セリーナさん? アキにぶつかってしまったじゃないですか!!」

「ゴメン」

 さらに後ろでアキヒコ少年にぶつかったアリスに怒られてしまった。一応謝ってはおくが、私は悪くない筈だ。

 足を踏み入れた古代遺跡は、山の登山道から少し離れた場所にその入り口を覗かせていた。崖崩れが起こった時に発見されたらしいという報告は受けていた。

 しかし、古代遺跡としては何だろう、随分と新しい空気を感じる。今まで籠っていた感じがしない。

 石? 岩? そのようなどう考えても自然物ではない何かが壁を形成している。

 そして、そこかしこにかけられているランプ。私たちが足を踏み入れた瞬間、ランプに火が灯ったのだ。

「まさか、この古代遺跡は生きているのか? 私たちが足を踏み入れたのを感知して、ランプに火が灯った……?」

 おいおい、それは不味いぞ。人工的に作られたのが分かる古代遺跡で、足を踏み入れた瞬間にランプが灯るだなんて、罠が待ち受けているに違いない。

 しかし、私たち以外の気配はまだ感じられない。まだ足を踏み入れたばかりだからかもしれないがな。

「セリーナさん、そんなに最初っから気を張り詰めていたらヤバいですよ。気楽に行きましょう」

 おい、何を言っているんだ、このエロガッパめ。

「先に行こうじゃないですか。ここはまだ危険じゃないですよ」

 何で、アリスまで? おかしいの、私がここで危険じゃないかって思うのがおかしいの?

「クカカカ、銀髪。ここには危険はない。あるとしたらこの先よ」

 蜥蜴丸、お前もか。

「こいつらがそう言うなら、そうなんだろ。疑ってたら、先が思いやられるぞ」

 ジン、私は蜥蜴丸とは付き合いが短いんだ。簡単に信用しきるわけにはいかないんだよ。冒険者を何人も預かってるんだからな。出来れば全員生かして帰してやりたいんだよ。

「げげ、げっげげ、げ、げげっげ」

 何を言っているんだ、ゲーサンは?

「この臆病者め。こんな所でビビっているのなら、おうちに帰ってママにミルク作ってもらってそれを飲んで枕を涙で濡らして寝ていろ。そう申しております、ゲーサンが」

「げげ!?」

 ゲーサンの言葉を翻訳した蜥蜴丸のセリフは意味が違うようだ。ゲーサンは必死になって首を横に振っている。よかった、あんなつぶらな瞳をしたゲーサンが、あれ程腹黒いセリフを考えているとは到底思えない。思いたくない。だいたい、元のセリフが短すぎるじゃないか!!

「いやいや、待て待て。何の説明も受けていないのに、ここは絶対に安心ですなんて言えるわけないだろう? 説明を要求する」

「アレ? セリーナさんには言わなかったですっけ? この古代遺跡、発見者は俺たちです」

「少年たち?」

 つまり、レムリア騎士団ナイツという冒険者グループが発見した、と。

「そうです。で、ここら辺は全部俺たちが掃除しました」

 掃除、ねえ。

「クカカカ、そう、つまりここら辺にかかっているランプはワガハイらがセッティングしておいたもの。後々古代遺跡調査に来る連中たちの為にな。ありがたく思えよ? 明かりがあるのとないのとでは全然違うからなあ」

 まあ、確かに明かりがあるのとないのとでは違う。安心感があるからな。

「ちなみにあのランプ、開発したのワガハイだからな。入ってきた者たちを感知して、火が灯るようになっておる。常時つきっぱなしではないから、寿命も長い。アレもまた、魔法と科学の融合よ。素晴らしいであろう?」

 確かに素晴らしいな。今度古代遺跡調査に携わる事があったら貸してもらおう。

「しかし、遺跡を発見したのが君たちなのは構わないが、何故既に入ってランプかけたりしているんだ? こういうのを発見したら、領主に報告し、騎士団なりで調査に入るのがルールだろう?」

 レムリアに騎士団がないからこそ、私が派遣されたのだが。

「本当は、ワガハイが全部隅から隅まで調査するはずだったのだ!! 古代遺跡という浪漫がここにはあったのに!! エロガッパどもが邪魔したのだよ!!」

「いや、ルールは守らないと。でも、誰が派遣されてきてもいいように、この辺りは結構定期的に掃除をしていましたからね」

 だからこそ、私が派遣された時ものんびり向かって構わないと言われたのか。

「トレジャーハンティングに行くぞって、叫ぶ蜥蜴丸をなだめすかすのが、大変でした……」

 遠い目をするなよ、アキヒコ少年。

 仕方ない。このまま行くか。

 冒険者達は何も言わない。きっと、蜥蜴丸に関わるのは最低限の範囲にしようと考えているのだろうな。それは、正解だろう。




 数分ほど歩いた私たちの前に、分かれ道が姿を現した。

 さて、どうするか。

 全員で一つずつ潰していくか、それとも二手に分かれるか。どっちを選んでもカオスな展開になる気がするんだよなあ。


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