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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
14/69

挨拶ははずすとイタイものです。

 少し遅めの朝食をとる為に、食堂の席に着いた。ああ、頭が痛い。二日酔いと、挨拶を考えなければならないという苦痛で。

「おはよう、セリーナ。昨夜は良く眠れたかしら?」

「おはようございます、エミリアさん。昨夜は……、アレ? 何も思い出せない。天国から地獄へ一直線だった気がします」

 その時、給仕をしているアキヒコ少年が私の前に皿を置いた。暖かそうな、美味しそうなスープが入っていた。しかし、そんな事はどうでもよかった。

 とりあえず、アキヒコ少年の頭をはたいておいた。

「何するんですか!?」

「五月蝿いぞ、頭に響く。だいたい、君だろう、私を水風呂に放り込んだのは? 凄く寒かったんだからな!!」

 二日酔いの私に叫ばせるなんて、なんてヒドイ奴だ。

「アキヒコ、貴方女の子を水風呂に放り込んだの? 流石にそれは失礼よ。セリーナに謝りなさい」

 優しく諭すエミリアさん。うん、ああいう落ち着いた女性になりたいな、いつの日にか。

「な、何で俺が謝らないといけないんですか? 俺がセリーナさんを水風呂に放り込むわけないでしょう? 今日初めてセリーナさんに会ったのはさっき部屋に行った時ですよ。お風呂上がりのセリーナさんにドキドキしたんですから!!」

 ほう、先ほど顔が赤かったのはそうだったのか。どうでもいいが、叫ばないでくれないか?

「だいたい、俺がセリーナさんを水風呂に放り込んだのなら、そのまま置いて逃げたりしませんよ!!」

「ほう?」

「俺がセリーナさんを水風呂に放り込んだのならもちろん……って、何を言わせようとしているんですか!! とにかく、俺じゃないですからね!!」

 顔を赤くして食堂を飛び出していったアキヒコ少年。いったい、私を風呂に放り込んだ後は何をするつもりだったのだろうな? 少し、気になるぞ。

 しかし、彼が私を水風呂に放り込んだ犯人ではない、と。では、誰だ?

 私はテーブルについた人間を睨みつけた。クリスが犯人、否、犯猫ではないのはよく分かっている。まあ、クリスが私を水風呂に放り込んでいても何とも思わんがね。

 寝ている私を浴室まで運んだのだ。結構な力作業の筈だ。

 ダーレス卿……、まず、彼はそんな事しないだろう。何となくだが、そう思う。

 エミリアさん……、私を水風呂に放り込んだのなら、最後まで面倒をみてくれるだろう。優しい女性ひとだからな。

 ジン……こいつがそんな事をするとは思えない。たぶん、アリスかレティ、もしくはエミリアさんを呼ぶだろう。それか、面白がってアキヒコ少年を呼ぶかだな。

 アリス……、目を背けやがった。こいつだ。ふふふ、逃がさんよ。

 レティ……、目を背けなかったところは凄いと褒めてやるべきか。だが、汗をかいているぞ。私にはわかる。なるほど、この二人か。

「アリスちゃん、レティ、後で話をしようか、たっぷりとね」

 この時の私の笑顔は物凄くイイ笑顔だったに違いない。

「「ごめんなさい!!」」

 二人そろって頭を下げてきた。

「だが許さん」

 ふふふ、どうしてくれようか。

「ハハハ、後でしっかり話し合ってくれ。まずは、朝食にしようか」

 戻ってきたアキヒコ少年を加えて朝食になった。顔が真っ赤だぞ、少年。


「あの、離してもらえないでしょうか?」

「ダメ、罰なんだから」

 朝食終了後、昼過ぎまで特にする事がなかった私は今、メイド服の少女を膝の上に抱きかかえながら、挨拶の内容を考えていた。

 しかし、黒髪黒瞳のメイドか。いいな、凄くイイ。私専属のメイドにしたいくらいだ。給料を三倍出すって言ったら来てくれないかな? 今給料をいくら貰っているのか知らないけれどね。

「ふふ、どうだ、私の専属メイドになるつもりはないかい?」

「先ほどから何度も断っているじゃないですか」

 おかしいな、そう何度も同じ話をしているつもりはないのだが……、どうやらまだ二日酔いが抜けきっていないらしい。

「だいたい、何で私を水風呂に放り込んだんだ? 起こしてくれればちゃんとお風呂に入ったのに。こうして、私に抱き締められる必要もなかったんだぞ?」

「アリスお嬢様が困っておられましたので」

 くうう、クール系のメイドもいいね。欲しい、本当に欲しいよ。

「ふうん。でも、ダメだぞ? 主人がおかしな方向に進みそうになったら止めるのも使用人の務めだよ」

「セリーナさんが今、現在進行形でおかしな方向に進んでおられるようなので、それを止めるのが仕事でもありますね」

 一本取られちゃったかな?

「にゃっ」

 レティの膝の上で丸まっているクリスもレティの意見に賛成のようだ。やれやれ。

 私は、レティを抱きかかえながら昼過ぎまでまったりしていた。ああ、癒されるなあ。レティが困った表情をしていたけれど、気にしない。ああ、アリスに与える罰ゲームは何にしようかなあ?



 昼過ぎになった。

 屋敷の庭は数多くの冒険者達で溢れていた。だいたい、三十人くらいか。結構集まったみたいだな。

 見慣れた顔……、蜥蜴丸とゲーサンもいた。彼らも参加するのか。彼らが参加するのなら、危険度は減るな。もっとも、違う意味で危険度が増しそうだ。何だろう、先頭きって罠にはまりそうな気がする。「罠など打ち破ればいいだけの事よ」トカ言いながら。

 いい予感というのは、だいたい当たらないのだ。悪い予感というのはだいたい当たる。何でだろうね?

「冒険者の諸君、よく集まってくれた。皆には今回見つかった古代遺跡の調査に当たってもらう事とする。報酬は、一日八千G。もっとも、これは最低限のラインだ。今日の分は申し訳ないが、半日分の四千Gだ。この報酬は最初の募集時に設定した通りだ。古代遺跡の中には今まで見た事がないモンスターがいるかもしれない。恐ろしい罠が張り巡らされているかもしれない。もちろん、命の保証はない。今、やっぱりやめたいという者は申し出てくれ。四千Gをこの場で払おう。それ以外の報酬はなしだし、今回この仕事を断ったとしても、諸君らには何のペナルティーもなしだ」

 誰も動かない。どうやら、この時点での離脱者はいないようだ。当然か。

「それでは、今回私の娘と使用人も同行させてもらう。彼らが同行するにあたって、諸君らが彼らを守る義務もなければ、必要もない。彼らが身に降りかかる危険を払えないというのならば、それまでの事だ。二人とも、挨拶を」

 挨拶をしていたダーレス卿の横にアリスとアキヒコ少年が並ぶ。レティの参加はなしだ。まあ、彼女はまだ魔道士としての訓練を受けていないというのだから、当然か。

「アリス・ダーレスです。皆様と同行させていただきますが、皆様の手を煩わせる事なきよう、頑張ります。よろしくお願いします」

 そう言って深々と頭を下げるアリス。か~わいい。私は肩の上に乗っているクリスの感触を感じながら、そんな事を考えていた。

 しかし、全員が納得しているわけではない。それは当然というものだろう。

「ケッ、こんな小娘ちんちくりんのお守りなんかしねえといけねえのかよ!!」

「俺たち、この銀髪の姉ちゃんくらいスタイルのいいお姉ちゃんだったら、頑張るんだけどねえ!!」

「ヒャハハハ!!」

 二人の冒険者がアリスを嘲笑う。そして、アリスを嘲笑わなかった冒険者達が恐ろしい目で彼らを見ていた。すぐさま彼らの傍から離れる。それは、私がアクロイド副組長をボコボコにする時の帝都騎士団三番隊のメンバーがとる行動によく似ていた。そして、帝都騎士団三番隊のメンバーにひけをとらないスピードであった。

 何が起こったのか分からないというような二人の冒険者。彼らの腹には、彼らが持っていた筈の武器(直刀、だろうか)が突き刺さっていた。もちろん、突き刺したのはダーレス卿であった。

「先ほど何を言ったのかな? 悪いね、近頃年のせいか、耳が遠くなってね。もう一度、聞かせて、くれないか、な?」

 言葉をくぎる度に、深く突き刺し、引いて、回して、もう一度突き刺し、などと言う具合に武器を動かしている。なんと器用な人なんだろう?

「ひいい、イテェ、イテェよ」

「助けて、母ちゃん!!」

「おいおい、私の質問に答えたまえよ。さっき、なんて言ったのかな? もう一度言ってくれないか?」

 鬼であった。

「ひいい、イテェ、イテェよ」

「助けて、母ちゃん!!」

「私の質問の意味が分からないのかね? 私が聞きたいのは、君たちの悲鳴じゃないんだよ?」

 笑顔で質問をするダーレス卿。だが、冒険者達も言うわけにはいかない。彼の聞きたい答えを言えば、殺されるのが分かっているからだ。……それ以前に、何で死んでいないんだろう? アレ、死んでいてもおかしくないよね。私は回復魔法をかけていないんだが、ああ、私の肩の上から魔力の流れを感じる。クリスが回復魔法をかけているのか。凄い猫だな、クリスは。やっぱり欲しいぞ。

「ふむ、まあいいか。君たちは今回の古代遺跡調査の参加資格はない。帰りたまえ。四千Gは与えてやろう。蜥蜴丸、やれ」

「クカカカ、自分の妻と娘をバカにする者は汚物も同然というような貴様のその態度、ワガハイは好感すら抱いておるよ。あと、実験材料の提供、いつも感謝しておるよ。科学の進歩に犠牲はつきものだからねえ」

「ふん、妻や娘をバカにするのなら、皇帝すら殺す。それだけの事だ」

 カッコイイな。ああもキッパリ言いきれるとは。

 蜥蜴丸は武器を腹から生やした冒険者達を仰向けにしてから武器を抜き取った。そして、何故かその後腹ばいにする。おい、どんな意味があるんだ?

「では、それ、ブスッとな」

 何処かからとりだした巨大な注射器。その中には緑色の毒々しい液体が詰まっていた。そして、それを何故か冒険者の尻に突き刺した。

「「アッーーーーッ!!」」

 よく分からない叫び声をあげる冒険者達。私の肩の上で眠るクリス。興味はないと言わんばかりだ。

 そして、傷口がふさがっていく。凄いな。

「アレ、何だか知っているか、ジン?」

「確か、宇宙ナノマシン“スグナオール”」

「何だ、いったい?」

「俺もよく分からんが、死んでいない限りアレをブッ刺してやれば、人間は命を失わずにすむらしい。代わりに大切な何かを失うとか言っていたな」

 命が助かる代わりに、何か大切なモノを失う、か。アレのお世話になる事は避けたいな。

 ゲーサンが何処かから出してきたリアカーに宇宙ナノマシン“スグナオール”をぶち込まれた二人の冒険者を乗せて、何処かへと向かって行った。あんな扱われ方はしたくないな。

「このレムリア辺境領で領主の家族をバカにするとは、しょせんよそ者よ」

「あれだけ注意してやったのにな」

 どうやら、レムリア辺境領ではよく見られる光景らしい。残りの冒険者達も動じる様子は見られない。

「あれさえなければ、素晴らしい領主なんだがなあ」

「領民の意見も聞いてくれるし、税も重くない。公共設備も整っているしな」

 領主の評判は上々のようだ。一部を除いて。


「さて、では、気を取り直して今回古代遺跡調査の立会人として来てくれた方に挨拶をしてもらおう」

 ダーレス卿に促され、全員の前に並ぶ。左肩の上にはクリスが丸まって寝ているが、気にしない。

「えー、帝都騎士団三番隊組長のセリーナ・ロックハートです。今回、古代遺跡調査の立会人として同行させていただく事になりました」

 ザワザワしている、何でだろう? クリスが肩の上で寝ているからかな?

 ここは、帝都騎士団三番隊のノリで行こうか? 

「みんな、元気ですかー!?」

「お、おー」

 声が小さいな。

「腹から声を出せ!! みんな、元気ですかー!?」

「おー!!」

 おお、声を出せるじゃないか!! 何か、嬉しくなってきたな。

「古代遺跡に行きたいかー!?」

「おー!!」

 ふむ、挨拶はこんな感じでいいだろう。

 二日酔いがいけないんだ。まだ、酔いが抜けきっていないんだ。私は悪くない。二日酔いが悪いんだよ。











「あの、俺の挨拶は?」

「貴様、出番があると思っているのか? 貴様は脇役。光り輝くのはワガハイよ」



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