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セリーナ・ロックハートの大冒険  作者: 折れた羽根 しおれた花
第一章 夏の終わりに~end of summer〜
13/69

頭痛が痛いのです。

 あまりの頭痛に目を覚ました。……ここは、何処だろうか? 何故私はこんな見覚えのない場所で眠りについたのだろうか?

 しかし、本当に痛い。これが、頭痛が痛いというやつだろうか? 知ってる? 頭痛が痛いっていうのは、表現を重複させる事で痛さが物凄いって事を示しているんだよ?

 そんな事はどうでもいい。トイレに行きたい。物凄く吐き気がする。うん、トイレに行こう。

 横向きで寝ていた体を起こそうとしたが、私の右腕は重みを感じて動かす事が出来なかった。何故だろうかと痛む頭で考えるが、もちろん何も考えつかない。かけられていた毛布をどかしてみる。しかし、毛布をかけていても、汗一つかいていない事を考えると、私の魔法は発動していたらしい。これからは冷暖房魔法とでも名付けようかな?

 どかした毛布の下から現れたのは綺麗な金髪。アイリーン? いや、違う。アイリーンはまだ十歳だ。身長も私よりかなり低い。今ここに居る金髪は私より少し身長が低いくらいだろう。と、なると誰だろう? それ以前にここは何処だろう?

 少しずつ昨日の事を思い出そうとするが、なかなか思い出せない。ああ、そう言えば昨日はダーレス卿の屋敷にやって来て、泊めてもらえる事になったな。で、夕食後に女性陣だけで軽くお酒を飲んだんだったな。もちろん、飲んだのはエミリアさんと私だけだがね。

 ふむ、という事は、ここはおそらく、私に与えられた客室だろう。見覚えがあるからな。それで、今私の右腕を枕がわりにして可愛い寝息を立てているのがアリスだろう。クリスは近くにはいないようだ。

 念のため自分の服装を確かめてみる。騎士服のままだ。そう言えば夕食も騎士服のままとっていたな、確か。という事は昨日お風呂にも入らなかったのだろうか? ムム、少し恥ずかしいではないか!! なんという事だ。

 アリスの服装も確かめてみる。うん、何という事だ。何一つ乱れた感じがない。昨夜の私はいったい何をしていたのだろう。こんな幸せな空間で。ああ、昨夜の私をぶん殴ってやりたい。

 しかし、これは言い換えるならばチャンスだろう。きっと、神様がプレゼントしてくれたに違いない。素晴らしいじゃないか、神様!! 無神論者の私でも、神様を信奉したくなる瞬間が、ここにはある。どの神様を信奉しようか。よく聞く神様の名前は貧乏神と疫病神だ。信奉するのはやめておこう。

「うん、据え膳くわぬは女の恥とかいう言葉を何処かで聞いた事がある。そんな気がする。違う気もするが、気にしない。そして、今私の目の前には無防備に寝ているアリスがいる。ここは、いただかねばなるまい。そう、たぶん性的な意味で」

 よく分からない思考を纏めて、私は右腕をアリスの頭の下から右腕を引き抜いた。ここは、とびかからなければなるまい。上級者になるととびかかる間にどうにかして衣服を脱ぐ事が出来るらしい。私はまだその域にまでは達していないのが残念だ。と言うより、絶対に出来ないだろう。

「では、いただきます!!」

 さあ、天国へ旅立とう!!

 アリスに覆いかぶさったと思った瞬間、顎先に衝撃を感じて私の意識は闇に包まれた。




「危なかった……」

 貞操の危機とやらを感じた。昨夜、かなり酔いまくったセリーナさんを客室に運んでベッドに寝かせようとしたら全然離してくれなくて、結局セリーナさんと同じベッドに寝たのがいけなかったのだろうか?

 しかし、無意識だとは思うけれど、この暑苦しい夜でも、セリーナさんの周りだけ涼しかった。お互い寝巻に着替えない状態でも全然寝苦しくない。これは、いいかもしれない。セリーナさんを抱き枕にして、今日は寝よう。

 セリーナさんの右腕を伸ばさせて、彼女の腕枕で今日は寝よう。うん、お休み。

 それにしても、セリーナさんスタイルいいなあ。私も、後二、三年すればあのくらいになれるだろうか? むむ、色々柔らかい。ちょっとした嫉妬心を抱え込みながら、私も睡眠欲に逆らわず、眠りについた。


 そして、朝になった。セリーナさんの目が覚めたのだろう。上にかけておいた毛布がとられたようだ。そこで私も目が覚めた。

 セリーナさんは暫く私を見つめていたが、次第に鼻息が荒くなっていった。ついには私を性的な意味でいただかねばならないなどと呟きだした。きっと、本人は頭の中でそう考えているつもりなのだろうが、しっかりと口に出ていた。

「では、いただきます!!」

 そんな言葉と同時に覆いかぶさってきた。恐怖心を抱いた私がセリーナさんの顎にショートアッパーをぶち込んだのは悪くない筈だ。

 ショートアッパー一発で意識を飛ばしてくれて助かった。

「どうしようかな……?」

 セリーナさんを寝かせておいて部屋を出るのは少し、気がひける。ちょうどそこに、レティが客室に入ってきた。なので、レティと一緒にセリーナさんを浴室まで運んでいく事にした。寝かせっぱなしではマズイだろう。今日の昼過ぎには古代遺跡の調査に行く為に冒険者達を屋敷の庭に集める事になっている。立会人がこれではマズイ。

 浴室まで誰にも見つからずに連れてくる事に成功した私たちは、ほぼ水風呂状態になっていた浴槽にセリーナさんを放り込んだ。完全な冷水状態になっていない所に放り込んだのは、私なりの優しさだろう。

 私はレティを連れてそっと、浴室を出た。

「冷たい!!」

 そんな叫び声が浴室の中から聞こえてきたのは、ちょうど私たちが浴室の扉を閉めた瞬間だった。念の為、浴室の前に立っておこう。他の人たちが入ってこないように。




 おかしい、先程まで私は天国へ行こうとしていた筈だ。なのに、何故だろう? 何故ほぼ水風呂にガタガタ震えて入っていないといけないのだろう? だいぶ、眠気が消えたのはいいのだけれど、寒気が増えた。頭痛はまだ消えない。顎先も何故か痛い。

 しかも、ご丁寧に騎士服のまま水風呂だ。衣服が水分を吸収して、重い。

 嫌になってくるな。仕方ない。私は魔力を放出し、水風呂状態の浴槽の中を少しずつ温めた。ちょうどいい温度くらいになったところで、魔力放出をやめる。うん、こんな魔法の使い方している魔道士はまずいないだろう。

「ああ、いい湯だなあ」

 なんか、鼻歌を歌いたくなってくる。軽く口笛を吹きながら。

 浴室内を見回してみたら、一通りの洗面道具は揃っているようだ。足りないモノはアイテムボックスの中からとりだせばいいだろう。

 仕方ないので騎士服はもう、浴槽内で脱ぎ捨てた。下着も全部脱ごう。アイテムボックスの中にとりあえず放り込んでおけばいい。しかし、いったい誰だろうな? 私を騎士服のまま放り込んだのは? アキヒコ少年だったら殴っておこう。違っても殴ろう。

 暫くお風呂を堪能した私は、アイテムボックスの中から色々取り出し、体をしっかりと洗い、脱衣所に誰もいない事を確認してから、脱衣所で本当に瞬間的に髪を乾かし、アイテムボックスの中に入れていた予備の騎士服に着替えて、浴室を後にしたのだった。

 先ほどまで誰か浴室の前にいたのだが、私が脱衣所に上がった瞬間、脱兎の如くそこから逃げていった。誰だったのだろう?

 まあいい、髪は完全に乾いたわけではないけれど、とりあえず客室に戻ろう。まだ頭痛は消えないけれど、呼ばれでもしなければ朝食をとる必要もないだろう。

 もう一眠りしようかな。


 客室に戻ってもう一眠りしよう、と考えベッドに倒れこんだ瞬間、部屋がノックされた。

 二回だ。

「入っているよ」

 ノック二回を乙女の部屋にするとは、なんて奴だ。

「失礼します。セリーナさん、大丈夫ですか?」

 私が「入っている」と答えた意味が分かっていないようだ。

 頭を下げながら部屋へと入ってきたアキヒコ少年だったが、私の姿を見て顔を赤くしていた。何故だろう? ああ、ベッドに寝転がったままだったな。

 だが、そんな事はどうでもいい。不機嫌なまま起き上がった私は、起き上がってからアキヒコ少年の頭を小突いた。

「な、何するんですか?」

「マナーはどうした?」

「はい?」

「女性の部屋に対してノック二回とは失礼じゃないか!! 私を何だと思っているのだ、君は?」

「へ? いや、その、あの、えーと、き、綺麗な女性だな、大人の女性だなって……」

 何をドモっているんだ? だいたい、私の期待している答えはそうじゃない、そうじゃないんだ。もう一度小突いてやる。結構いい音がした。

「何をするんですか!?」

 少し涙目になるアキヒコ少年も可愛いモノだ。だが、許してあげない。

「女性の部屋に対してノック二回とは失礼だろう。何故ノックを二回しかしなかったのだ? ちゃんと私はそれに対して入っているよと、君のボケに対してノッテ答えてやったというのに、たいしてリアクションもせず、入室の許可を求める事無く入って来るとは、失礼ではないか!!」

 そう、ノックするなら最低三回だ。二回のノックはトイレノックと言われるモノだ。

 その事にようやく気付いたのだろう。頭を下げるアキヒコ少年。ボケじゃないんだけどなあ、などと呟いているが、知った事ではない。

「やり直し」

「はい」

 私にノックのやり直しを命じられて、すごすごと退出するアキヒコ少年。

 部屋を出ていった後に、再度ノックしてきた。二回。

 案外根性があるのかもしれないな。違う方向にその根性を発揮して欲しいと願うのは、私の我儘だろうか? 仕方ないな、付き合ってやるか。

「入っているよ」

「じゃあ、出直してきます」

 何で、コントをしないといけないのだろう。これから団長に呼ばれた時にノックをわざと二回するのはやめておこうかな。こんなに疲れるのか。

 今度はノック三回。

「どうぞ」

「失礼します」

 頭を下げながら入室してくるアキヒコ少年。

「もうすぐ少し遅めの朝食です。セリーナさんはどうします?」

「朝食、か。うん、頂こうかな」

 だいぶ頭痛もおさまってきたし、いいかもしれないな。やはり、人様の屋敷に世話になっているのだ。特別な用件でもない限り、やはりその家のルールに従うべきだろう。郷に入れば郷に従え、という言葉もあるからな。

「ああ、あと、昼食後には冒険者達を集めて簡単な出発式みたいなモノをするそうです。そこで、古代遺跡調査の立会人であるセリーナさんにも挨拶をして欲しいと、オーガストさんが言っていました」

「何……だと……?」

 冗談だよね……?

「きっと、セリーナ君なら、物凄くカッコイイ挨拶をしてくれるだろう、期待しているよ、との事です。俺も期待してますよ、セリーナさんの挨拶」

「嘘だと言ってよ、少年」

「嘘じゃないですよ」

 嫌だ、おうちに帰りたい。

 朝食の間、私は挨拶の事だけ考えていた。どうすんべか?

 結局、私を浴室に放り込んだのは誰なのか、調べるのはやめた。そんな事はどうでもよくなっていたのだ。

 ああ、本当に憂鬱だ。


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