5話
遅くなりすみません
戻った俺はすぐに綾瀬が来ていないか念のため調べたが、その痕跡は無かった。
まあ、あいつは真面目な娘だからな。――真面目すぎるのもどうかと思うけど。
「ただいま、麻衣」
「春樹おかえりっ! 遅かったね」
麻衣の着ている服はここの国の、いや民族の衣装だろうか?
「ああ、気になったものがあってな」と言いながら俺は麻衣の頭を撫でる。
「うん」
急にそわそわしだす麻衣。ああ、そういう事か。
「似合ってるぞ。その服」
「春樹君にそう言って貰えてよかったわね」
「ユリさん、ありがとうございます!」
「ふふ、いいのよ。私もあなたのような女の子が欲しかったわ」
脳裏に先ほどの綾瀬とのやり取りが思い浮かぶ。
「春樹、どうしたの? また考え事?」
麻衣の声で俺は現実世界に引き戻された。
「そんなところだ」
「考え事もいいけど、私の事も考えてくれるとうれしいな」
その言動で麻衣の事を構っていなかったことに気付いた。
「――麻衣の事はいつも考えているさ。誰よりもな」
言ってしまってから俺は自分の失敗に気付いてしまった。
「春樹と麻衣はアツアツだなっ!」
麻衣は顔を真っ赤にさせて両手でもじもじしている。
「それで、ジュン。お前はいつからそこに居たんだ?」
「えっ、麻衣に挨拶をしたあたりからいたけど? もしかして俺影薄いのっ!?」
「少し、からかいたかったんだよ」
ジュンのおかげで話を逸らすことが出来そうだ。
「この! 春樹」
ジュンは怒っているのか顔の血相を変えて俺に近づいてくる。妙に圧迫感を感じるのは気のせいだろうか。
そして魔力が拳に集まるのを感じる。
「おら!!」掛け声と共にジュンは拳を鳩尾に向かって振りかざした。
一瞬受けてもいいかな、と思うがそれを即座に否定する。――それに痛い目に遭うのはもう充分だ。
右腕を強化してその軌道を逸らした。ジュンは驚愕の表情に包まれるが俺は気にしない。
「春樹ダメだよ? ジュンを虐めちゃ」
「ジュン、気にするなよ?」
俺はジュンのもとに行って肩に手を置いた。
「いやいいんだ。これも実力の差っていうやつだし」
ジュンの攻撃は真っ直ぐすぎるんだよ、と言うかどうか迷ったが結局は言わなかった。
「そういえばあなた達と似たような人がそこの家に住んでるんだよ」とどこから現れたのかアキラさんは少し離れた家を指さす。
「俺たちみたいな人……」俺の脳裏であいつの顔が浮かんだ。