3話
予定より遅くなってしまいました、すみません。
右腕に電気が走った。
「ちっ」俺は舌打ちをしながら上半身を素早く起こして周囲を見わたす。
「春樹も気付いたのか」見るとジュンは武装していた。
「まあな。ジュンよりも遅かったが」この魔法は改良の余地ありか。
「やばいぜ、春樹。あれは、ここらへんを纏めてるボスだぜ」
よく見てみると虎を大きくしたような感じのモンスターがこちらに近づいていた。
「そうか。ここらへんを焼け野原にしても問題ないか?」
他の人だったならば小規模、中規模魔法で済んだだろう。しかし俺は天変地異に対抗すべくつくられたいわば兵器のようなものだ。
「ようは、野原にするかボスを倒すかどちらかを選べって事だろっ! そんなの決まってんだろ。――ボスを倒す」
「水晶。時間が進むことのない空間、そして砕けると共に分解される」
言葉としてはなっていないだろうがこれが俺なりの詠唱だ。詠唱はただ魔法のイメージを固めてるにしかすぎない。
自転車の補助輪のようなものだ。必ずしも必要ではないが脳の活動が低い時に俺は使っている。イメージするのに脳活動が低ければ何も出来ないからな。
魔法を完成させるためにはイメージの他に魔力が必要だ。それがなければどんなにイメージしても完成しない。
そんなことをしているうちに、ボスが水晶になり始めていた。――この魔法を実戦で使ったのはこれが初めてだったが、威力が高すぎる。
「すげえ、あんな魔法を見たのは初めてだぜ!」
この世界にある魔法と俺の使っている魔法体系が違うのか。そうじゃないにしてもなるべく魔法を使わない事にしよう。
ふと俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「怪我とかしていない!?」
「そんなに触るなって。大丈夫だよ、どこも怪我なんかしてないって。な、麻衣?」
「そ、そう。それなら良いんだけど……」もしかして俺の魔力に反応して起きたのか?
「起こしてしまってごめんな」
「ううん、気にしないで。それに私何もしていないから」
それにしても、あのモンスターから生気が感じられなかった。――何者かに操られているような、とそこで俺の思考が止まった。
「……操られている?」
「春樹、どうした?」
ジュンと麻衣は俺の雰囲気の変化に気づいたのか神妙な表情を浮かべた。
「――いや、気にするな」
まだ、言うべき事ではない。少なくても今はな。
「しばらくの間は大丈夫と思うがボスの仇を討ちに来ると思うんだが」
「そうね。ジュン、案内してちょうだい」
「わかったぜ」
東であろう空が明るくなってきた。夜が明けようとしているのだ。
俺は眩しくてつい目を閉じてしまった。
「なっ!」ジュンは驚愕したような表情と共に声を。
「は、春樹……」麻衣の声が震えていた。
「どうしたんだ――」言葉を続けようとしたがやめた。
太陽の脇の方に黒い物体があった。
「あのじじいっ! 俺たちを飛ばさせておいて挙句の果てにはこの世界でも俺たちを消すつもりなのか……っ!」
「この世界でも? 春樹どういうこと、なんだよ? 説明してくれよ……」
「――俺は、俺たちはこの世界の人間じゃないんだ。別の世界から来たんだ」
これが今の状況での最善策だと思った。
ジュンが別の世界ってどういうことだ、と聞いてきた。
「じじ、俺の祖父の陰謀によって俺と麻衣は転位魔法に巻き込まれてこの世界にやってきたんだ」
「なんかよく解らんが、転移魔法って凄いんだなっ!」ジュン。君っていう奴はなんて扱いやすいんだ。
「信じてくれたのか?」俺は思っている事を素直に言った。
「ああ、お前らが嘘をついている様には見えなかったからな!」純粋な笑みを俺たちに向かって浮かべた。
「ねえ、春樹見てみて! あそこに家があるよっ!」
麻衣は家を見つけたからかはじゃいでいた。そんな姿を見て俺はドキッとした。
「ああ、そうだな」
「あそこが俺の住んでいる村だ、あそこまで誰が一番に着くかやってみようぜ?」と言ってジュンは走った。
「ちょっと、待ちなさいよっ!」
さて、俺も歩きますか。