2話
ああ、新鮮な空気だ。異世界に来たのか。意識が戻ってからそう考えた。
それにしても、お腹に柔らかいモノが当たってるなあ。
「……うーん」
麻衣も気が付いたみたいだし、俺も起きますか。上半身を起こそうとすると麻衣の顔が下半身の方へ行って俺の精神状況によろしくないので手で押さえて、最終的には俺が麻衣を膝枕する形になる。
「おはよう、麻衣」
「春樹、何してるのよっ!」その言葉と同時に俺の身体に電気が流れる。
「どちらかというと麻衣が俺のお腹に寝ていたからじゃないか」と俺はぼやく。
「そ、それは……。それより村とかを探した方がいいんじゃない?」
「ああ、そうだな」たしかに集落を探して衣食住を確保しないと何も始まらないからな。
殺気が俺と麻衣に中てられているが、麻衣は気付いていない。矢が数本俺たちに向けられて放たれた。
「麻衣、伏せろっ!」俺は後ろを振り返り、咄嗟に初級防御魔法を発動させる。
矢は俺の初級防御魔法に当たって燃えてなくなった。――矢を放った少年は驚愕の表情に染まった。
「大丈夫か、麻衣」
「私は春樹が守ってくれたから大丈夫だよ。春樹はケガしてない?」
「俺の心配より自分の心配をしなさい」と言ってデコピンをくらわす。
「痛いよっ」麻衣はいつも俺のことになると自分より俺を優先してくる。
それよりだ。俺達に矢を放った人はいまだに放心状態にあるのか固まっている。俺はその少年と話をするべく歩き出した。
「ひい。すみませんっ 命だけは!」声が裏返っている。
「なんで、そんなに怖がっているのかは分からないが。近くの集落まで案内してくれ」
「はひい。王族様の頼みならどんどん頼んでください!」
「最初に言っておくが、俺達は王族ではない」異世界から来たなんて言うと、頭がおかしい人に認定されると思い言わなかった。
「いえ。王族で無かったとしてもあんな事をしてしまって……」
「俺は気にしてないから。気にしないでくれていい」
「そうですか」
「もう少し、砕けた口調でいいぜ。ええと――」
「わかった。俺はジュンだ。ジュンって呼んでくれ!」
「俺は師走 春樹。春樹の方が名前だから、よろしくなジュン」そういって俺はジュンと握手を交わす。
「こっちこそよろしくな、春樹!」
「天地 麻衣よ。――ジュン。さっき春樹にケガさせようとしてたわよね?」麻衣から魔力が溢れ出す。
「麻衣、俺は気にしてないから」俺は麻衣を宥めるが効果がない。ならば……!
「俺は麻衣に人を傷つけて欲しくないんだ」と言って俺は麻衣を抱きしめる。
「ちょっと、春樹っ? 恥ずかしいからやめてよ」
収まったしそろそろいいかな。
「ジュン。案内よろしく頼む」
「ああ、わかった。俺の住んでいる村に案内するぜ」
どれぐらいの時間歩いたのだろうか。太陽が沈み月が顔を出してから辺りの魔力の濃さが変わった。
この世界は月が魔力と関係しているのだろうか。
「いつになったら着くんだ?」
「このまま行けば明日の昼ぐらいには着くぜ?」明日の昼か。――麻衣を見ると、明らかに疲れが溜まっていた。
「少し休んでいいか?」
「ああ、いいぜ。まぁ着くのが遅くなるだけだからな」
俺は非常時のために個人空間に入れていおいた荷物の中からレジャーシートを取り出して敷く。
「麻衣が肉体強化を使っていないなんて珍しいな。なんかあったのか?」
「しばらくは魔法を使わないって決めたの」
「そうか。それにしても大丈夫か? 疲れてるんなら魔法使うけど……」
「大丈夫よ。――それに決めたんだから。魔法に頼った生活はやめるって」
そうか、と短く答えて俺は空を見上げる。
地球で見たような星座はどこを見ても見当たらない。更に見たことも無い色をしている星もあった。
「春樹、俺に魔法を教えてくれ」
「とりあえず着いてからでいいか? 俺も一眠りしておきたいからさ」
「ああ! 教えてくれるならいいぜっ!」少年のような笑顔だった。
監視魔法を飛ばしておくか。俺たちに害を与えるものが接近した時に俺の右腕に静電気ぐらいの電気が走るのだ。――これが結構痛いんだぜ。
さていったん寝ますか。