表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クシム外伝ー本編では語れなかった真実ー  作者: 勇氣
第一章神殺し編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/24

第二十話月は嘘を照らす

森林の中にある月神教跡地の地下聖堂。


そこにあったのは、祈りの場ではなかった。


巨大な石碑。

刻まれた無数の名前。


「歴代の“神剣の使い手”よ」


女――セレネは言う。


「全員、晩年に暴走している」


クシムの指が止まる。


石碑の最後に、空白があった。


「そこが、あなたの場所になるはずだった」


アルリムが低く問う。


「神剣は兵器ってことか」


「いいえ」


セレネは首を振る。


「もっと性質が悪い」


石碑の奥。

封印の魔法陣。


中心にあるのは――刃ではない。


黒い心臓。


脈打っている。


「“戦争の化身”」


空気が重くなる。


「神剣は封印具。そして選別装置。

適合者を育て、摩耗させ、最後に依代にする」


クシムの喉が鳴る。


「俺は、器だったと」


「ええ」


静かすぎる肯定。


「あなたが月神教徒を斬るたび、封印は弱まった。

あなたは正義をしていた。だが、正義が餌だった」


アルリムが拳を握る。


「じゃあ王国は?」


セレネの目が曇る。


「王国は知っている」


沈黙。


「戦争が続くほど、王国は安定する。

外敵がいる限り、民は疑わない」


クシムの奥で何かが崩れる。


守っていたはずの国が、

自分を飼っていた。


その瞬間。


地下が揺れる。


黒い心臓が、大きく脈打つ。


——見つけた。


声が、直接脳に響く。


剣は折れたはずなのに。


セレネが叫ぶ。


「封印が反応してる!」


クシムの胸が焼けるように痛む。


黒い糸が、彼の影から伸びる。


「依代は、一度選ばれたら消えない」


セレネが絶望する。


「あなたはもう、鍵なの」


:堕ちる星


王都襲撃は、三日後だった。


夜空が裂けた。


そこから降りたのは、黒い刃の嵐。


中心に立つのは、クシム。


瞳は深紅。


アルリムが城壁の上で叫ぶ。


「兄さん!」


クシムは見下ろす。


感情がない。


「敵を排除する」


声が二重に響く。


ウルク王国軍が突撃する。


だが近づけない。


空間そのものが刃になる。


人が裂ける。


悲鳴。


炎。


セレネが歯を食いしばる。


「完全同期……!」


黒い心臓が空に浮かぶ。


それがクシムの背後で回転する。


——戦争は均衡だ。


——均衡には破壊が必要だ。


アルリムが飛び出す。


「戻れ!!」


クシムの視線が合う。


一瞬だけ。


本当に一瞬だけ、揺れた。


だが。


「排除対象を確認」


アルリムが吹き飛ぶ。


城壁が崩れる。


王都が燃える。


クシムはもう、敵側だった。


:月なき夜の剣(アルリム主人公化)


三週間後。


世界は変わった。


ウルク王国は戒厳令。


月神教残党は地下へ。


クシムは“災厄”と呼ばれた。


アルリムは立つ。


兄を止めるために。


セレネが問う。


「殺せる?」


アルリムは震えながら答える。


「殺さない」


「じゃあどうするの」


長い沈黙。


「奪う」


「何を」


アルリムの目が燃える。


「依代を」


作戦は狂気だった。


黒い心臓を、兄から切り離す。


その代償は。


「俺が器になる」


セレネが凍る。


「正気?」


「兄さんが背負ったなら、俺も背負う」


月が雲に隠れる。


決戦の夜が来る。


:戦争の化身


荒野。


空に浮かぶ黒い心臓。


その下に立つクシム。


「来たか」


声はもう、人間の響きが薄い。


アルリムが剣を構える。


「兄さんを返してもらう」


戦いは一瞬だった。


力の差は圧倒的。


アルリムは斬られ、膝をつく。


クシムが近づく。


刃を振り下ろす。


その瞬間。


アルリムは笑った。


「掴んだ」


胸に埋め込んだ術式が起動する。


黒い糸が逆流する。


クシムの瞳が見開かれる。


「やめろ……!」


黒い心臓が引き裂かれる。


絶叫。


空間が崩壊する。


そして静寂。


立っていたのは、クシムだった。


だが。


背後に、黒翼のような刃が浮かぶ。


目は人間のまま。


しかし、影は巨大。


アルリムは倒れている。


「成功……したのか」


クシムは自分の胸を見る。


黒い心臓はない。


だが力は残っている。


完全な化身ではない。


完全な人間でもない。


半端な存在。


セレネが呟く。


「封印は終わった。でも戦争は消えない」


クシムは空を見上げる。


「なら俺が引き受ける」


アルリムが薄く笑う。


「やっと……自分で選んだな」


クシムは歩き出す。


英雄ではない。


災厄でもない。


戦争を知りすぎた男として。


彼は“均衡”を壊す側に立つ。


どちらの陣営にも属さず。


戦争が起きる前に、芽を摘む。


それが正義かどうかは分からない。


だが。


もう神の声は聞こえない。


聞く必要もない。


彼は選び続ける。


人間として。


そして世界は恐れる。


“戦争の化身を斬った男”を。


だが本当は違う。


彼は斬っていない。


取り込んだのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ